ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

JR東日本が輸送密度を公表

2023年07月08日 12時45分00秒 | 社会・経済

 昨日(2023年7月7日)の20時27分付で、読売新聞社のサイトに「JR東日本が『輸送密度』公表、路線の3割が『存廃検討』レベルの厳しい実態」という記事(https://www.yomiuri.co.jp/economy/20230707-OYT1T50203/)掲載されていました。インターネットの記事であるためなのか、あまり詳しい記事とは言えず、「政府が存廃検討の目安とする1000人未満の路線は全体の3割弱の30路線55区間だった。ローカル線の厳しい利用実態が改めて示された」と書かれていても、どこがそうなのか、よくわかりません。久留里線の久留里駅から上総亀山駅までの区間は明示されていましたが、これまでに何度も取り上げられているところであり、新味はありません。

 そこで、JR東日本のサイトを参照してみます。「路線別ご利用状況」(https://www.jreast.co.jp/rosen_avr/)というページがあり、そこから「路線別ご利用状況(1987~2022年度(5年毎))」というPDFファイル(https://www.jreast.co.jp/rosen_avr/pdf/rosen_all.pdf)などに移ることができます。

 2020年度および2021年度はCOVID-19のために鉄道各社の輸送人員が極端なまでに減少しており、2022年度は多少回復の兆しが見られたという程度であると言える状況です。これは私の体感的な印象でもありますが、JR東日本で最も平均通過人員が多い山手線(正式の区間である品川駅から新宿駅を経由しての田端駅までの区間)の2017年度の平均通過人員は112万4463人、2022年度の平均通過人員は87万2143人となっており、同社による別の資料(グラフ)を参照すると2020年度における落ち込みが激しいのです。また、意外なことですが、JR東日本発足年度である1987年度を100とした指数で見ると、2020年度でも100を超えている路線があります。京葉線(この路線のみ1990年度を100とする)、武蔵野線、横浜線、南武線、埼京線(但し、正式には赤羽線および東北本線の一部)、東北本線、相模線、川越線です。一方、東北地方の在来線は、やはり1987年度の平均通過人員の指数を100とした場合の変化を見ると同年度から一貫して低下している、または1992年度にピークを迎えてから低下しているという傾向が見受けられます。いずれにしても慎重な検討が必要であると考えられますが、とりあえず、JR東日本が公表したデータを見ておくこととします。

 まず、上記読売新聞記事で「全体のほぼ半分に相当する、44路線99区間はすでに、国鉄時代に廃線してバスに転換する基準とされた輸送密度4000人未満となっている」と書かれているので、2022年度で平均通過人員が4000人未満となっている路線・区間をあげていきます。比較のために、かっこ書きで2017年度の平均通過人員もあげておきましょう。路線名の前に付した数字は「路線別ご利用状況(1987~2022年度(5年毎))」に従ったものであり、路線別での平均通過人員の順となっています。

 9.中央本線 全体〔神田〜代々木および新宿〜塩尻(みどり湖経由、辰野経由):124,981(159,548)

        岡谷〜辰野:2,512(2,952)

        辰野〜塩尻:433(592)

 12.東北本線 全体〔東京〜盛岡(王子および仙台経由、尾久経由)、赤羽〜大宮(武蔵浦和経由)など〕:69,654(83,778)

        黒磯〜新白河:3,402(2,410)

        小牛田〜一ノ関:2,571(2,187)

 13.青梅線  全体(立川〜奥多摩):52,972(63,266)

        青梅〜奥多摩:3,420(3,979)

 14.常磐線  全体〔日暮里〜岩沼(土浦経由)など〕:52,808(71,631。2017年度には一部区間で運転見合わせが続いたので参考値)

        いわき〜原ノ町:1,592(2017年度には一部区間で運転見合わせが続いたので数値が示されていない)

         原ノ町〜岩沼:3,690(3,499)

 17.外房線  全体(千葉〜安房鴨川):28,606(34,947)

        勝浦〜安房鴨川:1,295(1,703)

 21.内房線  全体〔蘇我〜安房鴨川(木更津経由)〕:17,307(20,335)

        君津〜館山:3,090(3,988)

         館山〜安房鴨川:1,327(1,871)

 24.成田線  全体(佐倉〜松岸、成田〜我孫子、成田〜成田空港):11,221(14,867)

         佐原〜松岸:2,617(3,165)

 27.両毛線  全体(小山〜新前橋):9,592(11,272)  

                        足利〜桐生:3,858(4,677)

 28.仙山線  全体(仙台〜羽前千歳):7,641(9,036)

         愛子〜羽前千歳:2,796(3,553)

 29.信越本線  全体(高崎〜横川、篠ノ井〜長野、直江津〜新潟など):7,528(9,266)

          直江津〜犀潟:2,924(4,155)

          犀潟〜長岡:2,632(3,596)

          高崎〜横川:3,682(4,429)

 30.八高線  全体(八王子〜倉賀野):7,485(9,021)

         高麗川〜倉賀野:2,389(3,103)

 33.越後線  全体(柏崎〜新潟):4,905(6,097)

         柏崎〜吉田:639(806)

 35.上越線  全体〔高崎〜宮内(水上経由)、越後湯沢〜ガーラ湯沢〕:4,754(5,365)

         渋川〜水上:3,359(3,685)

         水上〜越後湯沢:976(727)

         越後湯沢〜六日町:2,249(2,840)

         六日町〜宮内:3,189(3,552)

         越後湯沢〜ガーラ湯沢:751(810)

 36.日光線  全体(宇都宮〜日光):4,543(5,787)

         鹿沼〜日光:3,304(4,298)

 37.奥羽本線  全体〔福島〜青森(秋田経由)など〕:3,645(5,012)

          新庄〜湯沢:262(438)

          湯沢〜大曲:1,448(1,841)

          追分〜東能代:2,285(3,100)

          東能代〜大館:1,056(1,595)

          大館〜弘前:790(1,171)

 38.左沢線  全体(北山形〜左沢):2,946(3,358)

         寒河江〜左沢:791(901)  

 39.大糸線  全体(松本〜南小谷):2,625(3,185)

                              信濃大町〜白馬:666(840)

          白馬〜南小谷:188(279)

 40.弥彦線  全体(弥彦〜東三条):1,959(2,363)

         弥彦〜吉田:442(504)

 41.吾妻線  全体(渋川〜大前):1,932(2,376)

        長野原草津口〜大前:263(379)

 42.羽越本線  全体(新津〜秋田):1,592(2,211)

          新津〜新発田:1,221(1,413)

          村上〜鶴岡:1,171(1,803)

          鶴岡〜酒田:1,527(2,195)

          酒田〜羽後本荘:723(1,033)

          羽後本荘〜秋田:1,907(2,428)

 43.男鹿線  追分〜男鹿:1,438(1,951)

 44.水郡線  全体(水戸〜安積永盛、上菅谷〜常陸太田):1,334(1,697)

         常陸大宮〜常陸大子:720(1,001)

         常陸大子〜磐城塙:143(236)

         磐城塙〜安積永盛:811(1,043)

 45.磐越西線  全体(郡山〜新津):1,293(1,803。2022年度の数値は参考値)

          郡山〜会津若松:2,283(3,114)

          会津若松〜喜多方:1,491(2,082)

          喜多方〜野沢:357(624。2022年度の数値は参考値)

          野沢〜津川:70(163)

          津川〜五泉:394(652)

 46.烏山線  宝積寺〜烏山:1,120(1,459)

 47.鹿島線  香取〜鹿島サッカースタジアム:1,085(1,157)

 48.磐越東線  全体(いわき〜郡山):1,077(1,431)

          いわき〜小野新町:203(320)

          小野新町〜郡山:1,847(2,410)

 49.石巻線  小牛田〜女川:958(1,213)

 50.小海線  全体(小淵沢〜小諸):930(1,213)

         小淵沢〜小海:359(517)

         小海〜中込:983(1,342)

 51.久留里線  全体(木更津〜上総亀山):770(1,147)

         木更津〜久留里:1,074(1,591)

         久留里〜上総亀山:54(103)

 52.陸羽東線  全体(小牛田〜新庄):687(925)

          古川〜鳴子温泉:708(1,073)

          鳴子温泉〜最上:44(104)

          最上〜新庄:254(394)

 53.八戸線  全体(八戸〜久慈):647(907)

         八戸〜鮫:2,167(2,707)

         鮫〜久慈:309(507)

 54.釜石線  全体(花巻〜釜石):573(785)

         花巻〜遠野:739(945)

         遠野〜釜石:399(619)

 55.大船渡線  一ノ関〜気仙沼:572(836)

 56.飯山線  全体(豊野〜越後川口):488(607)

         豊野〜飯山:1,445(1,777)

         飯山〜戸狩野沢温泉:410(541)

         戸狩野沢温泉〜津南:76(124)

         津南〜越後川口:355(421)

 57.五能線  全体〔東能代〜川部(五所川原経由)〕:407(659。2022年度の数値は参考値)

         東能代〜能代:681(1,103)

         能代〜深浦:160(350。2022年度の数値は参考値)

         深浦〜五所川原:354(604。2022年度の数値は参考値)

         五所川原〜川部:1,230(1,637)

 58.大湊線  野辺地〜大湊:392(572)

 59.津軽線  全体(青森〜三厩):325(463。2022年度の数値は参考値)

         青森〜中小国:516(740。2022年度の数値は参考値)

         中小国〜三厩:80(106。2022年度の数値は参考値)

 60.花輪線  全体(好摩〜大館):294(383。2022年度の数値は参考値)

         好摩〜荒屋新町:346(441)

         荒屋新町〜鹿角花輪:55(89)

         鹿角花輪〜大館:448(579。2022年度の数値は参考値)

 61.只見線  全体(会津若松〜小出):257(290)

         会津若松〜会津坂下:944(1,191)

         会津坂下〜会津川口:182(190)

         会津川口〜只見:107(113)

         只見〜小出:107(113)

 62.北上線  全体(北上〜横手):250(297)

         北上〜ほっとゆだ:368(424)

         ほっとゆだ〜横手:90(126)

 63.米坂線  全体(米沢〜坂町):246(384。2022年度の数値は参考値)

         米沢〜今泉:573(856)

         今泉〜小国:161(270。2022年度の数値は参考値)

         小国〜坂町:105(175。2022年度の数値は参考値)

 64.気仙沼線  前谷地〜柳津:200(245)←BRT利用客も合わせて計上

 65.陸羽西線  新庄〜余目:148(401)

 66.山田線  全体(盛岡〜宮古):79(195)

         盛岡〜上米内:217(375)

         上米内〜宮古:64(124)

 BRTの区間も示しておきましょう。

 1.気仙沼線  前谷地〜気仙沼:185(264)

 2.大船渡線  気仙沼〜盛:183(254)

 勿論、各路線に特有の事情があります。例えば、上越線の越後湯沢〜ガーラ湯沢は実質的に上越新幹線の支線として扱える区間なので、スキー場の経営状態如何でしょう。常磐線の場合は福島第一原子力発電所事故の影響も考えなければなりません。また、津軽線の青森〜中小国は、1987年度に10,813、1992年度に8,947でしたが、2012年度に4,779、2017年度に740と急激な落ち込みを見せています。これは、2016年に北海道新幹線が開業したことによるものです。

 しかし、羽越本線が典型的ですが、人口の減少やモータリゼイションの進展(深化)による平均通過人員の低下は長期的傾向にあり、路線の存続の意味が問われかねない事態となっています。貨物輸送が行われている路線であれば、直ちに廃止が議論されることにはならないでしょう。しかし、赤字で示した区間については、只見線のように上下分離を行って復旧したところは別としても、地元の強力な支援なり、存続のためのよほどの強力な理由がない限り、存続は難しいでしょう。観光の需要云々と言われますが、観光はあくまでも観光であり、路線の存在意義を高めるものではないことは、COVID-19の拡大で明らかになりました。いかに地元の通勤通学のために利用されるかが重要であり、通勤通学の需要が高ければ、COVID-19のような重大事が起こって乗客数が激減しても、回復は早いものです。

 それにしても、本線を名乗る路線の長期低落傾向には驚かされます。1980年代に国鉄改革の一環として幹線、地方交通線の区分けが行われましたが、2020年代の現在、見直しは必要でしょう。幹線から地方交通線に降格すべき路線は多いでしょう。幹線と地方交通線とでは運賃体系も異なりますから、見直しは収益の改善に役立つ可能性もあります。もっとも、平均輸送人員が低いのであれば、運賃体系が変わったとしても焼け石に水でしょう。

 久留里線のみならず、平均輸送人員が100未満となっている路線については、もう存続の意味が問われる状態となっています。赤字の鉄道路線が存続することがSDGsへの取り組みと矛盾する形になっていることは、ここに記しておいてもよいでしょう。そして、少なからぬ地域の住民は、もう何十年も前に、鉄道路線を見捨てているのです。このような地域あるいは市町村から鉄道の存続が叫ばれることには、むしろ怒りの気分が湧き上がります。そのような市町村に対しては、我々国民が「ふざけやがって!」という声をかけるべきでしょう。


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