ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

北陸鉄道石川線の命運は その2

2023年08月30日 13時45分00秒 | 社会・経済

 「北陸鉄道石川線の命運は その1」において、石川線のBRT化について記しました。今回は、石川線を鉄道路線として残すというもう一つの選択肢について記しておきます。但し、「その1」において記したように、現在のままでは常に存廃問題が伴い続けることとなります。

 そのことは協議会も認識しており、鉄道路線として残すという選択肢を採るには「抜本的な改革案」を実現し、石川線の姿を変えることが必要であるというのが、石川県や沿線自治体の理想あるいは意識なのでしょう。最大の問題は費用の捻出ですが、国、石川県、沿線自治体、北陸鉄道のそれぞれの立場はいかなるものでしょうか。

 北陸放送のサイトに掲載されている「日常の足はどうなる? 北陸鉄道石川線 存廃のゆくえは…」という記事(https://newsdig.tbs.co.jp/articles/mro/689561?display=1)には「抜本的な改革案」として「北陸本線に直接繋げる」および「野町駅から香林坊へ延伸させる」の二つが紹介されています。記事の表現からすれば、どちらを選んでも「利便性が高まることで利用者は現状の1日およそ3000人からおよそ4000人に増える予測もでています」とのことですが、甘い予測ではないのでしょうか。また、選択肢によって予測の内容も異なるはずですので、少々粗いという印象を受けます。

 まず、「北陸本線に直接繋げる」という案は、西金沢駅(北陸本線)・新西金沢駅(石川線)の接続を行った上で、石川線の車両を北陸本線に乗り入れさせ、金沢駅まで走らせるというものです。金沢駅には北陸新幹線の全列車が停車しますし、北陸鉄道浅野川線との乗り換えも可能となります(北鉄金沢駅という地下駅です)。場合によってはさらに浅野川線にも直通運転を行うことができるかもしれません。いずれにしても、金沢駅まで運転されるのであれば、利便性が高まることは否定できません。

 しかし、この案を実現するには、いくつかの課題を解決しなければなりません。

 第一に、北陸本線と石川線は、軌間(2本のレールの幅)が1067mmで共通しているものの、電圧が異なります。北陸本線は交流20000Vで60Hz、石川線は直流600Vです。北陸鉄道の側で交直流電車を製造するというのは非現実的ですし、JR西日本から譲渡を受けられるかどうかもわかりません。おそらく、JR西日本のほうでは石川線への直通運転を行う意思はないでしょうし、そもそも2024年3月に予定されている北陸新幹線の金沢駅・敦賀駅間の開業によって北陸本線の大聖寺駅から金沢駅までの区間はIRいしかわ鉄道に移管されることとなっており、IRいしかわ鉄道が石川線への直通運転を行う意向があるという話を聞いたことがありません。あるいは、IRいしかわ鉄道と石川線との直通運転についてはこれから検討されるべき事項であるのかもしれません。

 電圧の違いを克服するには、金沢駅から西金沢駅・新西金沢駅まで、北陸本線とは別に単線を敷いて延長させるという手も考えられますが、実際のところは無理でしょう。そうすると、交直流電車か気動車かということになります。IRいしかわ鉄道は、JR西日本から譲渡された521系という交直流電車を保有しており、気動車は保有していません。これに対し、北陸鉄道は交直流電車も気動車も保有していません。つまり、どちらを導入するとしても、北陸鉄道の側に何億円という費用が生じます。石川県や沿線自治体は補助を行うつもりなのでしょうか。

 第二に、直通運転を行うとする場合の車両使用料の負担です。これは上記北陸放送記事に書かれていない問題なのですが、無視はできません。IRいしかわ鉄道と石川線との相互直通運転が行われるならば、相互乗り入れ区間の設定やダイヤ作成によって、車両使用料を相殺することが可能です(首都圏などでよく行われている相互直通運転は車両使用料の相殺が前提となっています)。これに対し、石川線の車両がIRいしかわ鉄道の西金沢駅から金沢駅まで乗り入れるだけである、つまり片乗り入れであるならば、IRいしかわ鉄道の側のみに車両使用料の負担が生じます(例として京都市営地下鉄東西線があります。同線の車両は京阪京津線に乗り入れませんが、京阪京津線の車両は東西線の御陵駅から太秦天神川駅までの区間に乗り入れるので、京都市交通局の側に車両使用料が生じます)。IRいしかわ鉄道が片乗り入れを受け入れるのかどうかが問われることでしょう。なお、IRいしかわ鉄道に北陸鉄道が出資しているかどうかは不明ですが、少なくとも大株主でないことは確かです。

 (ちなみに、片乗り入れの場合、北陸鉄道の運転士がそのまま西金沢駅から金沢駅までの区間にも乗務するというのが最も現実的ではないかと思われます。)

 第三に、上記北陸放送記事において「新幹線橋脚間の線路敷設」があげられています。具体的なことがよくわからないのですが、北陸本線の西金沢駅と石川線の新西金沢駅との間に北陸新幹線の高架橋があり、その橋脚の間に石川線と北陸本線とを結びつける線路を敷設する必要があるということでしょう。おそらく単線でということになりますが、敷設場所、費用負担の問題ということになるはずです。

 第四に、上記北陸放送記事において「JR側のダイヤ受け入れ余地の有無」があげられています。ただ、この問題は、北陸新幹線の延伸開業を考慮すると、JR側ではなく、IRいしかわ鉄道の側と考えるべきです。現在のJR西日本北陸本線には特急「サンダーバード」や「しらさぎ」が走っていますが、これらはIRいしかわ鉄道(およびハピラインふくい)への移管によって運行区間が大阪駅・敦賀駅または名古屋駅・敦賀駅に短縮されるものと考えられます(現に、北陸新幹線の長野駅から金沢駅までの区間が開業したことにより、「サンダーバード」や「しらさぎ」の運行区間が短縮され、富山駅までは走らなくなりました)。そうなれば、IRいしかわ鉄道は普通列車主体のローカル輸送線になり、ダイヤ受入の余地は広がるものと考えられます(あとは貨物輸送との調整でしょう)。金沢駅の時刻表を見ると、平日の朝7時台には普通列車の本数が5本と多くなっていますが、8時台には3本、9時台および10時台には1本、11時台以降は2本か3本(18時台のみ4本)となっています。朝ラッシュ時が最も調整に難航するところでしょうが、それ以外の時間帯であればJR西日本北陸本線時代よりも調整が容易になると考えるのは楽観的に過ぎるでしょうか。

 第五に、これは上記北陸放送記事に書かれていないのですが、北陸本線への乗り入れが実現した場合に、石川線の野町駅から新西金沢駅までの区間をどうするのかという問題があります。この区間を完全に切り捨てるということも考えられますが、野町駅にはバスターミナルも併設されており、香林坊、片町などに向かうには野町駅のほうが近いので(にし茶屋街も野町にあります)、野町駅および西泉駅を存続させるという手もあります。第四の課題との関連もあって、野町駅から新西金沢駅までの区間は存続させることが想定されているのかもしれません。

 ここまで、「北陸本線に直接繋げる」という案について述べてきました。ようやく、もう一つの「野町駅から香林坊へ延伸させる」という案について記していきます。

 何時のことか覚えていませんが、たしか、浅野川線の北鉄金沢駅から石川線の野町駅までの鉄道路線を建設するという構想があったはずです。北鉄金沢駅が地下化された理由も、この構想に関係があったのかもしれません。具体的なルートはわかりませんが、香林坊などに地下駅を設置するというものではなかったでしょうか。実現していれば、石川線の利便性はかなり高くなったはずですが、やはり会社の収益、地方自治体の財政状況などによって構想のままで終わったものであろうと考えられます。

 「野町駅から香林坊へ延伸させる」という案は、北陸新幹線などとの接続がなされないままであるという点において中途半端ではありますが、中心街活性化策との関係があるのかもしれません。金沢駅まで新線を建設するよりも現実的ではあります。ただ、石川県や沿線自治体などで構成する協議会において示された案を見ると、少なくとも野町駅から香林坊駅(勝手に仮称を付けます)まではLRTとすることが前提になっているようです。

 上記北陸放送記事においては「野町〜香林坊間延伸の主な課題」として、「犀川大橋の単線敷設による運行本数制限」、「一般車両への影響」、「低床車両導入に伴うホームの改修など」があげられています。3番目の課題は明らかにLRTを想定したものです。現在の石川線には元東急7000系(東横線、田園都市線などで運用されていた)および元京王3000系(井の頭線で運用されていた)が在籍していますから、将来的にはこれらを全て廃車し、LRTに置き換えることが考えられているのでしょうか。そうなると、福井鉄道福武線、富山ライトレール(JR西日本富山港線をLRT化した)と同様の路線になるということなのかもしれません。ただ、そうなると、野町駅から鶴来駅までの各駅もLRT用としてホームを改修することになるはずですが、これもかなりの費用がかかります。

 LRT化が想定されていると考えられるのは、1番目の課題として「犀川大橋の単線敷設による運行本数制限」があげられているところからもうかがわれます。仮に現在の石川線をそのまま延伸させるのであれば、敢えて「単線敷設」や「運行本数制限」を記す必要がないからです。鉄道車両を道路の上に走らせることも不可能ではないですが、橋梁の耐荷重性を考えるならば道路とは別に鉄道専用の橋梁を作ればよく、運行本数の制限などを設ける必要もないからです。LRT化して犀川大橋の道路の上に単線で線路を敷設することが想定されているのでしょう。ただ、そうなると、犀川大橋を含めて道路の拡幅が必要になるのではないでしょうか。

 2番目の課題としてあげられている「一般車両への影響」の意味はよくわかりません。自動車のことなのか電車のことなのかもわかりませんし、上記北陸放送記事にも何ら説明は書かれていません。

 以上は「抜本的な改革案」でした。これらは長期的な取り組みを必要としますが、今後の地域公共交通の維持などのためには、真剣な検討を行うことが求められるでしょう。

 それでは、さしあたりの改善策は何でしょうか。

 上記北陸記事には「まず利便性を高めることができることは増便や石川線とバスの乗継割引を行うことです」と書かれていますが、増便したところで利用客が増えるとは限りませんから、鉄道とバスの乗り継ぎ割引のほうが現実的です。乗り継ぎ割引にも様々な方法がありますが、容易であるのは定期券およびICカード(Suica、PASMOなど)の利用です。

 北陸鉄道はICaというICカードを発行しており、少なくとも金沢市内で運行されている路線バスで使用することができます。一方、北陸鉄道のサイトによると「鉄道は、鶴来駅・野町駅(以上、石川線) 内灘駅・北鉄金沢駅(以上、浅野川線)においてICa定期のみご利用可能です。鶴来駅・野町駅、内灘駅・北鉄金沢駅以外で降車する場合は、係員に提示ください」とのことです。定期券でなければ、鉄道でICカードは使えない訳です。無人駅に簡易改札機を設けるための費用の問題などがあると思われるのですが、乗り継ぎ割引を定期券利用以外で適用したりするには、ICカードの利用を可能にする必要があるでしょう。ICaで北陸鉄道のバスを利用するとエコポイントが貯まる、複数回乗車割引が適用される、などのサービスを受けられるようです。こうしたサービスを石川線および浅野川線でも受けられるようにすることが、改善の一つではないでしょうか。

 ここまであれこれと書いて参りましたが、石川線がどのようになるのか、注目していこうと考えています。


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