ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

西武秩父線などが廃止される? 地域の交通網はズタズタにされる?

2013年03月20日 13時48分43秒 | 社会・経済

 3月16日に開始された東急東横線と東京メトロ副都心線との相互乗り入れにより、首都圏の交通網は再び大きく塗り替えられました。とくに、副都心線を介してであるとは言え、西武池袋線・西武有楽町線と東急東横線との直通運転には、一種の感慨を覚えます。何と言っても東急対西武という長年の構図があまりに有名であったからです。昨年、練馬高野台駅の近くを車で走った時に、池袋線を東急の車両が走っているのを見て「完全に時代は変わった」と思ったのでした。

 さて、その西武ですが、現在、大手私鉄では唯一の非上場会社となっています(経営統合した阪急と阪神、帝都高速度交通営団から転換した東京メトロは除外しています)。サーベラスが西武HDに敵対的TOBを仕掛ける事態にまで発展したことにより、大変な問題が発生しています。

 まず、朝日新聞朝刊9面14版に掲載されている「西武HD、TOBに反対へ サーベラスの路線廃止案に反発」という記事を参照してみます。サーベラスは、西武HDに対し、西武秩父線、山口線、多摩川線などの廃止を求めています。「など」の具体的な内容はわかりませんので、他の路線の一部区間の廃止が含まれている可能性もありますが、とりあえず、全線廃止が求められている3線に話を絞ることとします。

 驚いたのは多摩川線の廃止が求められていることです。中央本線の武蔵境から府中市内の是政までの路線で、一時期は多摩ニュータウンへの連絡路線として延長も検討されていたほどの路線です。西武の他の路線と連絡しない孤立路線で、たしかに利便性はあまり高くないでしょう。京王線とは交差するものの直接の連絡駅がありませんし(一応は白糸台があげられていますが)、終点の是政の近くにはJR南武線が通っていますが全く連絡していません(南多摩駅まで徒歩連絡ということらしいのですが、あまり現実的なものとも思えません)。しかし、武蔵野市、小金井市、府中市を通り、通勤通学需要も低くはないものと考えられます。今後の大きな発展は望みにくいものの、改善の余地はあるのではないでしょうか。

 次に西武秩父線です(「秩父線」ではなく「西武秩父線」が正式名称です)。正式には吾野~西武秩父の路線ですが、池袋線の運行系統が池袋~飯能と飯能~吾野に分割されていることもあって、西武秩父線の実質的な区間は飯能~西武秩父となっています(西武池袋線の延長路線という経緯があるからです)。貨物輸送が建設目的の一つとなっていて、1969年から1996年までは貨物列車も運行されていました。もう一つの建設目的が沿線の観光開発で、西武秩父線の開業により、初めての有料特急が走ったのでした。

 この路線には話題が多く、そもそも建設に際しては武州鉄道との競合という事件がありました。また、正丸トンネルは、1975年に近鉄大阪線の新青山トンネルが開通するまで私鉄最長のトンネルでした。そして、一時期は、西武グループが熱心に開発を進めていた軽井沢までの延長も検討されたほどです。しかし、最近は完全なローカル線で、乗降客は減少し続けています。池袋からの直通列車は、有料特急を除けば、休日に数本の快速急行があるだけで、あとは飯能~西武秩父の各駅停車しか走っていません。

 乗降客数だけから判断すれば、少なくとも、まさに投資会社にはうってつけの短期的な視野(長期的展望を苦手とする、あるいはそもそも無視するのが投資会社です)に立てば廃止が妥当ということになるかもしれません。過疎化が進んでいることは否めないからです。しかし、秩父地域には大きな打撃になります。この点については、産経新聞社が今日の6時44分付で「【サーベラスVS西武HD】秩父線、廃止対象に 地元に戸惑いと反発」(http://sankei.jp.msn.com/economy/news/130320/biz13032006460014-n1.htm)として報じていますが、地元では東急東横線沿線(など)からの観光客を呼ぼうとする動きを封じられかねないという懸念が生じています。しかも、この地域のバス路線を運行していた国際興業が撤退の方針を固めているとのことで、危機感が募るのも当然のことです。

 秩父市には秩父鉄道秩父本線が通っています(西武秩父線からの直通電車も何本かあります)が、東武伊勢崎線の羽生から熊谷を通り、東武東上線との乗換駅である寄居を通って三峰口に至る路線で、東京方面に直通する形となっていません。かつては東上線からの直通電車も走っていましたが、2001年を最後に運行されていません。現在は東上線の運行経路が小川町で分割されていますので、東京などから秩父方面に乗客を呼び込むには不利な状況が続いています。

 このため、西武秩父線が廃止されると、この地域の観光政策などはズタズタにされるのです。

 気になるのは、既に記した「など」です。前述の通り、西武秩父線は、正式には吾野~西武秩父ですが、実質的には飯能~西武秩父です。つまり、「など」には池袋線の一部区間である飯能~吾野も含められているのではないかと思われるのです。この区間にある武蔵横手駅は、西武線の中で正丸、芦ヶ久保および西吾野(いずれも西武秩父線の駅)に次いで利用客が少ないとのことで、一日の平均乗降客数が500人を割っています。飯能~高麗の利用客数はそこそこ多いようなので、高麗~吾野の少なさが目立つのです。

 さて、最後に山口線をとりあげましょう。JRにも山口線があり、SLの復活運転で有名になりましたが、西武山口線のほうが復活運転は早かったのでした。元々がおとぎ線という遊戯施設扱いの路線でしたが、1952年に普通の鉄道に転換しました。それでも他の路線とは全く性質が異なり、軌間は762ミリメートルの軽便鉄道で、遊園地前~ユネスコ村、西武園ゆうえんちなどの利用客のための遊戯施設的な鉄道であるという性格を維持していました。頸城鉄道や井笠鉄道の蒸気機関車が走ったことも、観光路線にして非通勤通学路線であるという性格を物語っています。

 1984年に一旦廃止(あるいは休止)され、新交通システムに変更され、多摩湖線の終点である西武遊園地前から狭山線の終点である西武球場前までの路線となりました。観光路線としての性格は変わっておらず、西武球場へのアクセス路線の一つという性格も帯びています。

 実際に廃止して、通勤通学などの影響が最も少ないのが山口線でしょう。しかし、この路線を廃止するということは、西武園ゆうえんちなども見直しの対象とすることを意味するのでしょうか。

 今後、さらに具体的な話が出てくる可能性もあります。そうなると、影響はさらに広がることも考えられます。

 (ちなみに、西武HDの話については日本経済新聞の朝刊にも記事が掲載されていますが、上記の朝日や産経に比べてあまり詳しくなく、路線の廃止が地域に及ぼす影響を考えるに際して、全く参考になりません。)


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