ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

行政法1A・行政法1B(大東文化大学)、行政法1(国学院大学)で扱った判決(7)

2017年12月22日 00時00分00秒 | 法律学

 今回は行政契約に関する判例です。

 

 ●最一小判平成18年10月26日判時1953号122頁

 事案:有限会社Xは、平成10年度まで徳島県の旧木屋平(こやだいら)村〔現在は美馬(みま)市の一部〕が発注する公共工事の指名競争入札に参加していたが、平成11年度から平成16年度まで、旧木屋平村長から公共工事への入札参加者として指名されず、入札に参加することができなかった。この指名回避が違法であるとして、Xは国家賠償請求訴訟を提起した。徳島地判平成16年5月11日判自280号17頁はXの請求を一部認容したが、高松高判平成17年8月5日判自280号12頁はXの請求を全面的に退けたため、Xが上告を行った。最高裁判所第一小法廷は、以下のように述べて一部を高松高等裁判所に差戻し、一部を棄却した。

 判旨:地方自治法第234条を受けて同法施行令第167条は「指名競争入札については、契約の性質又は目的が一般競争入札に適しない場合などに限り、これによることができるものと」定めており、「普通地方公共団体の締結する契約については、その経費が住民の税金で賄われること等にかんがみ、機会均等の理念に最も適合して公正であり、かつ、価格の有利性を確保し得るという観点から、一般競争入札の方法によるべきことを原則とし、それ以外の方法を例外的なものとして位置付けているものと解することができる。また、公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律は、公共工事の入札等について、入札の過程の透明性が確保されること、入札に参加しようとする者の間の公正な競争が促進されること等によりその適正化が図られなければならないとし(3条)、前記のとおり、指名競争入札の参加者の資格についての公表や参加者を指名する場合の基準を定めたときの基準の公表を義務付けている。以上のとおり、地方自治法等の法令は、普通地方公共団体が締結する公共工事等の契約に関する入札につき、機会均等、公正性、透明性、経済性(価格の有利性)を確保することを図ろうとしているものということができる」。一方、「木屋平村においては、従前から、公共工事の指名競争入札につき、村内業者では対応できない工事についてのみ村外業者を指名し、それ以外は村内業者のみを指名するという運用が行われて」おり、「確かに、地方公共団体が、指名競争入札に参加させようとする者を指名するに当たり、〔1〕工事現場等への距離が近く現場に関する知識等を有していることから契約の確実な履行が期待できることや、〔2〕地元の経済の活性化にも寄与することなどを考慮し、地元企業を優先する指名を行うことについては、その合理性を肯定することができるものの、〔1〕又は〔2〕の観点からは村内業者と同様の条件を満たす村外業者もあり得るのであり、価格の有利性確保(競争性の低下防止)の観点を考慮すれば、考慮すべき他の諸事情にかかわらず、およそ村内業者では対応できない工事以外の工事は村内業者のみを指名するという運用について、常に合理性があり裁量権の範囲内であるということはできない」。同村では「平成13年度までは、本件資格審査要綱、本件指名基準及び本件運用基準は制定されておらず、本件指名停止等要綱を除いて、指名に関する基準は明定されていなかった。さらに、平成14年4月以降施行された上記の本件資格審査要綱等をみても、本件資格審査要綱において村内業者と村外業者とが定義上区別されているものの、その外に上記のような村内業者で対応できる工事の指名競争入札では村内業者のみを指名するという実際の運用基準は定められておらず、しかも、村内業者とは、木屋平村の区域内に主たる営業所を有する業者をいうとされているにとどまり、主たる営業所あるいは村内業者の要件をどのように判定するのかに関する客観的で具体的な基準も明らかにされていなかった。このような状況の下における木屋平村の上記のような運用は、村内業者で対応できる工事はすべて指名競争入札とした上で、村内業者か否かの判断を適当に行うなどの方法を採ることにより、し意的運用が可能となるものであって、公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律の定める公表義務に反し、同法及び地方自治法の趣旨にも反するものといわざるを得ない」。このため、Xについて「上記のような法令の趣旨に反する運用基準の下で、主たる営業所が村内にないなどの事情から形式的に村外業者に当たると判断し、そのことのみを理由として、他の条件いかんにかかわらず、およそ一切の工事につき平成12年度以降全く上告人を指名せず指名競争入札に参加させない措置を採ったとすれば、それは、考慮すべき事項を十分考慮することなく、一つの考慮要素にとどまる村外業者であることのみを重視している点において、極めて不合理であり、社会通念上著しく妥当性を欠くものといわざるを得ず、そのような措置に裁量権の逸脱又は濫用があったとまではいえないと判断することはできない」。

 

 ●最二小判昭和62年3月20日民集41巻2号189頁

 事案:長崎県福江市(現在は五島市)内にあったごみ焼却炉が故障し放置されていたことから、同市は新たにごみ焼却炉を建設することとなった。しかし、実際に企画、立案などにあたった同市の保健衛生課は、設計能力の問題、他の自治体でもほとんど随意契約を採っていたことなどから、競争入札を採るのは適切でないと考え、四社を指名業者とした上でそのうちの一社と随意契約を締結しようとした。四社による技術説明会、見積書の提出を経て、福江市長の職務代理者であったY(被告、被控訴人、上告人)は、四社のうちのA社と契約をすることとし、昭和47年1月30日に随意契約の形でA社と建設請負契約を締結した。建設工事は同年10月20日に竣功し、福江市がA社に対して工事代金を支払った。これに対し、同市の住民X(原告、控訴人、被上告人)がこの随意契約による市の支出を違法とし、住民訴訟を提起した。長崎地判昭和55年6月30日行集31巻6号1361頁はXの請求を棄却したが、福岡高判昭和57年3月4日判時1054号79頁はYの契約締結行為を違法と判断した。Yが上告。

 判旨:最高裁判所第二小法廷は、次のように述べて福岡高等裁判所判決を破棄し、事件を同裁判所に差し戻した。

 (1)地方自治法第234条第1項は「普通地方公共団体の締結する契約については、機会均等の理念に最も適合して公正であり、かつ、価格の有利性を確保し得るという観点から、一般競争入札の方法によるべきことを原則とし、それ以外の方法を例外的なものとして位置づけているものと解することができる。そして、そのような例外的な方法の一つである随意契約によるときは、手続が簡略で経費の負担が少なくてすみ、しかも、契約の目的、内容に照らしそれに相応する資力、信用、技術、経験等を有する相手方を選定できるという長所がある反面、契約の相手方が固定化し、契約の締結が情実に左右されるなど公正を妨げる事態を生じるおそれがあるという短所も指摘され得ることから、令一六七条の二第一項は前記法の趣旨を受けて同項に掲げる一定の場合に限定して随意契約の方法による契約の締結を許容することとしたものと解することができる」。

 (2)地方自治法施行令第172条の2第1項にいう「その性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」は、「不動産の買入れ又は借入れに関する契約のように当該契約の目的物の性質から契約の相手方がおのずから特定の者に限定されてしまう場合や契約の締結を秘密にすることが当該契約の目的を達成する上で必要とされる場合など当該契約の性質又は目的に照らして競争入札の方法による契約の締結が不可能又は著しく困難というべき場合がこれに該当することは疑いがないが、必ずしもこのような場合に限定されるものではなく、競争入札の方法によること自体が不可能又は著しく困難とはいえないが、不特定多数の者の参加を求め競争原理に基づいて契約の相手方を決定することが必ずしも適当ではなく、当該契約自体では多少とも価格の有利性を犠牲にする結果になるとしても、普通地方公共団体において当該契約の目的、内容に照らしそれに相応する資力、信用、技術、経験等を有する相手方を選定しその者との間で契約の締結をするという方法をとるのが当該契約の性質に照らし又はその目的を究極的に達成する上でより妥当であり、ひいては当該普通地方公共団体の利益の増進につながると合理的に判断される場合も同項一号に掲げる場合に該当するものと解すべきである。そして、右のような場合に該当するか否かは、契約の公正及び価格の有利性を図ることを目的として普通地方公共団体の契約締結の方法に制限を加えている前記法及び令の趣旨を勘案し、個々具体的な契約ごとに、当該契約の種類、内容、性質、目的等諸般の事情を考慮して当該普通地方公共団体の契約担当者の合理的な裁量判断により決定されるべきものと解するのが相当である」。

 

 ●最三小判昭和62年5月19日民集41巻4号687頁

 事案:大阪府泉南郡東鳥取町(一審係属中に阪南町となる。現在は阪南市の一部)にあったA共有地は、近畿圏の保全区域の整備に関する法律第9条にいう近郊緑地保全区域であり、かつ森林法第25条による保安林の指定がされている区域にあった。しかし、東鳥取町は小学校増改築のための財源を確保する必要に迫られており、A共有地を300万円で売却することとした。最終的に、A共有地についてはYらに売却することとなり、東鳥取町長はYらとの間で、随意契約により、A共有地の売買契約を締結した。これについて、同町の住民らが、本件売却価格が不当に低く、地方自治法第238条の3に違反すると主張し、Yらに対して所有権移転登記の抹消登記手続および未履行の所有権移転登記手続の差止を求めた。一審大阪地判昭和55年6月18日行集31巻6号1334頁は原告の請求を一部認容し、これを大阪高判昭和56年5月20日行集32巻5号818頁も支持したため、阪南町長が上告した。最高裁判所第三小法廷は、大阪高等裁判所判決を破棄し、住民らの請求を棄却した。

 判旨:地方自治法第234条第2項が「指名競争入札、随意契約又はせり売りは、政令で定める場合に該当するときに限り、これによることができる」と規定することを受けて同法施行令第167条の2第1項が随意契約による場合を列挙していることから、「右列挙された事由のいずれにも該当しないのに随意契約の方法により締結された契約は違法というべきことが明らかである。しかしながら、このように随意契約の制限に関する法令に違反して締結された契約の私法上の効力については別途考察する必要があり、かかる違法な契約であっても私法上当然に無効になるものではなく、随意契約によることができる場合として前記令の規定の掲げる事由のいずれにも当たらないことが何人の目にも明らかである場合や契約の相手方において随意契約の方法による当該契約の締結が許されないことを知り又は知り得べかりし場合のように当該契約の効力を無効としなければ随意契約の締結に制限を加える前記法及び令の規定の趣旨を没却する結果となる特段の事情が認められる場合に限り、私法上無効になるものと解するのが相当である」。

 

 ●最三小判平成16年7月13日民集58巻5号1368頁

 事案:名古屋市は、平成元年に世界デザイン博覧会を開催した。同市は財団法人世界デザイン協会を設立しており、その会長には名古屋市長が、副会長には市助役が、監事には市収入役が就任した。この博覧会は、当初の予想よりも入場者数が下回り、赤字が予想されたので、博覧会で使用された諸施設や諸物件の売却のための契約が、市と同協会との間で結ばれた。その際、議会の議決を回避するために50の契約に分割されている。これに対し、名古屋市の住民が契約の不当性を主張して、市長、市助役、市収入役、同協会を被告として住民訴訟を提起した。一審判決(名古屋地判平成8年12月25日判時1612号40頁)は、各契約(一部を除く)が民法第108条の類推適用によって無効であると判断し、損害賠償請求、不当利得返還請求を認めた。二審判決(名古屋高判平成11年12月27日判自200号32頁)は、契約については名古屋市議会の議決が行われたことで追認があったとした上で、契約の一部に裁量権の逸脱・濫用があったと認め、同協会の残余財産を限度とする損害賠償責任を認めた。

 判旨:最高裁判所第三小法廷は、次のように述べて名古屋高等裁判所判決の一部を破棄自判、一部を破棄差戻し、一部について上告を棄却し、住民の請求を棄却した。

 (1)「普通地方公共団体の長が当該普通地方公共団体を代表して行う契約締結行為であっても、長が相手方を代表又は代理することにより、私人間における双方代理行為等による契約と同様に、当該普通地方公共団体の利益が害されるおそれがある場合がある。そうすると、普通地方公共団体の長が当該普通地方公共団体を代表して行う契約の締結には、民法108条が類推適用されると解するのが相当である。そして、普通地方公共団体の長が当該普通地方公共団体を代表するとともに相手方を代理ないし代表して契約を締結した場合であっても同法116条が類推適用され、議会が長による上記双方代理行為を追認したときには、同条の類推適用により、議会の意思に沿って本人である普通地方公共団体に法律効果が帰属するものと解するのが相当である」。

 (2)「(事実認定などによれば)デザイン博は市の事業として行われたのであって、市は、第1審被告協会の設立に際し、第1審被告協会(注:財団法人世界デザイン協会)に市の基本的な計画の下でデザイン博の具体的な準備及び開催運営を行うことをゆだねたものと解することも可能であり、両者の間には実質的にみて準委任的な関係が存したものと解する余地がある。そうであるとすれば、市が、第1審被告協会に対し、同協会がデザイン博の準備及び開催運営のために支出した費用のうち、市が同協会にゆだねた範囲の事務を処理するために必要なものであって基本財産と入場料収入等だけでは賄いきれないものを補てんすることは、不合理ではなく、市にその法的義務が存するものと解する余地も否定することができない。そして、上記の点は、本件各契約の締結に裁量権の逸脱、濫用があったか否かを判断する上で、重要な考慮要素となるというべきである。そうすると、デザイン博の準備及び開催運営に関する市と第1審被告協会との関係の実質、第1審被告協会が行ったデザイン博の準備及び開催運営の内容並びにこれに関して支出された費用の内訳を検討しなければ、本件各契約の締結について裁量権の逸脱、濫用があったかどうかを判断することはできないものというべきである」。

 

 ●最一小判平成11年1月21日民集53巻1号13頁

 事案:福岡県糟屋郡志免(しめ)町は、福岡市に隣接しており、人口が急増していたが、地形の関係などにより、水道の水源を新たに確保することが難しいという状況にあった。このため、志免町は給水規則を改正し、一定の戸数を超える共同住宅などについては給水を拒否するというような規定を置いた。不動産会社のXは同町内にマンションの建設を計画し、420戸分の給水契約を申し込んだが、志免町はこの契約の締結を拒否した。そこで、Xは、この給水拒否が水道法第15条第1項にいう「正当の理由」に該当しないとして出訴した。福岡地判平成4年2月13日判時1438号118頁はXの主張を一部認めたが、福岡高判平成7年7月19日高民集48巻2号183頁は志免町の敗訴部分を取り消したので、Xが上告した。最高裁判所第一小法廷は、Xの上告を棄却した。

 判旨:水道「法一五条一項にいう『正当の理由』とは、水道事業者の正常な企業努力にもかかわらず給水契約の締結を拒まざるを得ない理由を指すものと解されるが、具体的にいかなる事由がこれに当たるかについては、同項の趣旨、目的のほか、法全体の趣旨、目的や関連する規定に照らして合理的に解釈するのが相当である」。水道法は「市町村を始めとする地方公共団体に対し、水の適正かつ合理的な使用に関し必要な施策を講じなければならず(法二条一項)、当該地域の自然的社会的諸条件に応じて、水道の計画的整備に関する施策を策定、実施するとともに、水道事業を経営するに当たっては、その適正かつ能率的な運営に努めなければならないとの責務を課し(法二条の二第一項)、他方、国民に対しては、市町村等の右施策に協力するとともに、自らも、水の適正かつ合理的な使用に努めなければならないとの責務を課している(法二条二項)」から「市町村は、水道事業を経営するに当たり、当該地域の自然的社会的諸条件に応じて、可能な限り水道水の需要を賄うことができるように、中長期的視点に立って適正かつ合理的な水の供給に関する計画を立て、これを実施しなければならず、当該供給計画によって対応することができる限り、給水契約の申込みに対して応ずべき義務があり、みだりにこれを拒否することは許されないものというべきである。しかしながら、他方、水が限られた資源であることを考慮すれば、市町村が正常な企業努力を尽くしてもなお水の供給に一定の限界があり得ることも否定することはできないのであって、給水義務は絶対的なものということはできず、給水契約の申込みが右のような適正かつ合理的な供給計画によっては対応することができないものである場合には、法一五条一項にいう『正当の理由』があるものとして、これを拒むことが許されると解すべきである」。従って、「水の供給量が既にひっ迫しているにもかかわらず、自然的条件においては取水源が貧困で現在の取水量を増加させることが困難である一方で、社会的条件としては著しい給水人口の増加が見込まれるため、近い将来において需要量が給水量を上回り水不足が生ずることが確実に予見されるという地域にあっては、水道事業者である市町村としては、そのような事態を招かないよう適正かつ合理的な施策を講じなければならず、その方策としては、困難な自然的条件を克服して給水量をできる限り増やすことが第一に執られるべきであるが、それによってもなお深刻な水不足が避けられない場合には、専ら水の需給の均衡を保つという観点から水道水の需要の著しい増加を抑制するための施策を執ることも、やむを得ない措置として許されるものというべきである。そうすると、右のような状況の下における需要の抑制施策の一つとして、新たな給水申込みのうち、需要量が特に大きく、現に居住している住民の生活用水を得るためではなく住宅を供給する事業を営む者が住宅分譲目的でしたものについて、給水契約の締結を拒むことにより、急激な需要の増加を抑制することには、法一五条一項にいう「正当の理由」があるということができるものと解される」。

 

 ●最二小判平成21年7月10日判時2058号53頁(Ⅰ−98)

 事案:産業廃棄物処理業者Y(被告・控訴人・被上告人)は、平成元年、福岡県知事に対し、宗像(むなかた)郡福間町の領域において廃棄物処理施設(本件処理施設)を設置する旨を届け出て、その施設の使用を開始した(平成3年に法律が改正され、産業廃棄物処理施設の設置については都道府県知事の許可を必要とすることとされた。本件では改正法附則により、Yが県知事の許可を受けたものとみなされた。)。福間町とYは、平成7年7月26日に本件処理施設に関する公害防止協定を締結した。その内容は、施設の規模を定め、使用期限を平成15年12月31日までとし(但し、それ以前に一定の埋め立て容量に達した場合にはその期日まで)、第12条においてYが上記期限を超えて産業廃棄物の処分を行ってはならない旨が定められていた。同年、Yは県知事に対して本件処理施設の規模を拡張する旨の変更許可申請を行い、10月に変更許可を受けた。Yは平成10年1月にも変更許可申請を行い、同年3月に変更許可を受けている。これらの変更許可による処理施設の拡張によって公害防止協定で定められた規模を上回ることとなり、平成10年9月に両者は改めて公害防止協定を締結したが、使用期限については変更されなかった。平成15年12月31日を過ぎても、Yは本件処理施設を使用していたので、福間町が期限の経過を理由としてYの本件処分施設使用の差止を求める訴訟を提起した(なお、一審の段階で福間町は津屋崎町と合併し、福津市となったので、同市が本件の原告の地位を承継した)。福岡地判平成18年5月31日判自304号45頁は福津市の請求を認容したが、福岡高判平成19年3月22日判自35頁が福津市の請求を棄却したので、同市が上告した。最高裁判所第二小法廷は、次のように述べて福岡高等裁判所判決を破棄し、同裁判所に差し戻した。

 判旨:産業廃棄物処理法第1条、第14条、第15条などの規定は「知事が、処分業者としての適格性や処理施設の要件適合性を判断し、産業廃棄物の処分事業が廃棄物処理法の目的に沿うものとなるように適切に規制できるようにするために設けられたものであり、上記の知事の許可が、処分業者に対し、許可が効力を有する限り事業や処理施設の使用を継続すべき義務を課すものではないことは明らかである。そして、同法には、処分業者にそのような義務を課す条文は存せず、かえって、処分業者による事業の全部又は一部の廃止、処理施設の廃止については、知事に対する届出で足りる旨規定されているのであるから(14条の3において準用する7条の2第3項、15条の2第3項において準用する9条3項)、処分業者が、公害防止協定において、協定の相手方に対し、その事業や処理施設を将来廃止する旨を約束することは、処分業者自身の自由な判断で行えることであり、その結果、許可が効力を有する期間内に事業や処理施設が廃止されることがあったとしても、同法に何ら抵触するものではない」。従って、本件の公害防止協定第12条が「知事の許可の本質的な部分にかかわるものではな」く、福岡県産業廃棄物処理施設の設置に係る紛争の予防及び調整に関する条例第15条が「予定する協定の基本的な性格及び目的から逸脱するものでもない」から、公害防止協定第12条の「法的拘束力を否定することはできない」。


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