2017年12月12日(火)、つまり今日の19時から、青葉台のフィリアホールで、ドイツの正統派ピアニスト、ゲルハルト・オピッツさんのピアノ・リサイタルが行われました。
私は先行予約でチケットを買ったのですが、席は2階席の一番後ろの列でした。ほぼ満席です。
プログラムは次の通り、全てベートーヴェンのピアノ・ソナタです。
前半 第8番ハ短調作品13「悲愴」/第14番嬰ハ短調作品27-2「月光」
後半 第17番ニ短調作品31-2「テンペスト」/第23番ヘ短調作品57「熱情」
いずれも素晴らしい演奏でしたが、同時に、いかにも正統派と評されることはあるなと思いました。それは、前半の2曲に顕著でした。
「悲愴」の第2楽章はポップスにもなったほど、しかも何度歌詞付きになったのかというほどに有名な曲です。それだけに過剰な表現になりやすく、演歌か何かではないのですがタメかコブシかというようなものが込められたりされます。クラシックでもそのような演奏を耳にすることがあります。しかし、今日のオピッツさんの演奏では、そのような過剰な表現はなされていません。「これなのだろう」と思いました。「過ぎたるは及ばざるがごとし」という諺は、音楽にも当てはまるようです。
ちなみに、「悲愴」と訳されるpathétiqueですが、うちにある『プログレッシブ仏和辞典』を参照すると「心に迫る;悲壮な」という訳語が書かれています。チャイコフスキーの交響曲第6番ロ短調も「悲愴」で、こちらはチャイコフスキー自身が付けたそうです。ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第8番のほうはと言えば、この曲の初版譜には既にpathétiqueという言葉が登場していたそうです。ベートーヴェン自身が付けたのかどうかはわかりませんが、後に付けられた通称ではないという訳です(似たような例が交響曲第3番と第6番です)。
「月光」も非常に有名な曲で、とくに第一楽章は、ともすれば感情過多、あるいは大げさな表現になりがちなのですが、オピッツさんの今日の演奏ではそうなっていません。だからといってサラリと弾き流すだけにはなっていないのです。
後半の2曲は、前半の2曲ほどには有名でないのですが、勿論、ベートーヴェンのピアノ・ソナタとしては有名で、数多くのLPやCDが世に出されています。
「テンペスト」は、これがニ短調の曲なのかと思うような序奏から始まりますが、かなり起伏の激しい曲です。この曲の第3楽章は時々テレビなどでも使われます。「悲愴」にも言えることですが、第1楽章・第3楽章と、その間に挟まれた第2楽章との対比が見事です。
「熱情」は、第1楽章に交響曲第5番第1楽章の動機(最初の4音)と同じリズムが何度か登場することでも有名です。私自身は第2楽章が好きで、このまま続いて欲しいと思ったりもするのですが(今日はとくにそう思いました。見事にはまったということでしょう)、アタッカで第3楽章に続き、ガラリと変わってしまいます。今日の演奏では、最初は「熱情」にしては少し温度が低いかなと思ったのですが、第3楽章で通称に相応しい雰囲気となりました。
盛大な拍手の後にアンコール曲として演奏されたのは、ブラームスでした。オピッツさんがJohannes Brahmsとだけ言い、弾き始めたのです。イ長調で、私の好きな曲ですが、曲名を思い出せませんでした。後になって、「六つの小品」作品118の第2曲、間奏曲イ長調とわかりました。機会があったら、オピッツさんの演奏でブラームスのソナタなどを聴いてみたいものです。
今回、このコンサートに行こうと思ったのは、1994年、私が大学院生であった時、NHK教育テレビでオピッツさんがベートーヴェンのソナタの演奏、およびレッスンを行うという番組が放送され、その番組を私が最初から最後まで見ていたことを思い出したからです。レッスンで扱われたのは「悲愴」です。また、9月10日に行われた近藤嘉宏さんのコンサートでも、オピッツさんの名前が出されていました(近藤さんの師匠がオピッツさんである、という関係です)。
今日は、本当に行ってよかったと感じました。足らないこともなく、過ぎることもない。それが正統派と言われる所以なのでしょう。
★★★★★★★★★★
ここ数年、クラシックのコンサートに行くことが多くなりました。とくにフィリアホールへ行くことが多いのですが、それは、うちから田園都市線一本で行けるというだけでなく、私が行くコンサートで外れがほとんどないからです。
今年は、このブログでは書いていませんがNHKホールでのNHK交響楽団定期公演に2回行きました。2月18日(土)は、シベリウスのヴァイオリン協奏曲とショスタコーヴィチの交響曲第10番、6月30日(金)はシューマンの歌劇「ゲノヴェーヴァ」序曲、シューマンのチェロ協奏曲、シューベルトの交響曲第8番(Die große C-Dur)です。正直なところ、2月18日のヴァイオリン協奏曲と、6月30日のバッハの無伴奏チェロ組曲第1番第1曲(チェロ協奏曲と交響曲第8番との間に演奏された)は今ひとつであったように思われます。バッハの無伴奏チェロ組曲第1番第1曲に至っては、最初はテンポが速過ぎ、途中で失速したかのような演奏でした。
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