1.行政計画の意義
都市計画、国土利用計画、全国総合開発計画など、行政権が、何らかの目標を設定し、その目標を実現するための手段を総合的に提示するものは多い。その計画自体、または計画を定立する行為は、各行政機関の基本的な権限法か、個々の行政法令に規定されることが多い。また、計画の内容は様々であり、名称も「計画」に限られない。
このように多様性を有する行政計画を統一的に理解することには困難を伴うが、共通点と考えられるものを抽出すれば、行政計画とはおおよそ次のようなものであると理解することが可能である。
A.行政計画は、行政立法と並んで行政機関が一種の基準を定める行為である。すなわち、行政計画には規範定立的な要素が認められる。
B.行政計画は、行政を合理的に遂行するために、一定の方向性を示し、調整するために、必要不可欠の手段である。但し、一義的なものではない。
C.行政計画の基本的な性格として、一定の時間(期間)における目標を設定すること、その目標を達成するために様々な政策手段を盛り込むという構造を有することがあげられる。
行政計画は、次に示す側面から或る程度の分類をなすことができる。なお、これはあくまでも例示的なものであり、網羅的でなく、また排他的なものでないことに注意を要する。
時間的な面:長期計画、中期計画、短期計画
対象の面:経済計画、都市計画、財政計画
段階の面:基本計画、実施計画
地域の面:全国計画、地方計画、地域計画
上下の面:上位計画、下位計画
法律の根拠の面:後述
法的拘束力の面:後述
ここで、実定法から災害対策基本法の例を概観しておこう。
・内閣府に設置された中央防災会議(第11条第1項)は、防災基本計画を策定する(第34条。内容については第35条を参照)。
・この防災基本計画に基づいて指定行政機関(第2条第3号)の長が防災業務計画を策定する義務を負う(第36条)。
・「防災業務計画の作成及び実施にあたつては、他の指定行政機関の長が作成する防災業務計画との間に調整を図り、防災業務計画が一体的かつ有機的に作成され、及び実施されるように努めなければならない」(第37条第2項)。
・都道府県防災会議(第14条第1項)は第40条第1項および第14条第2項により、市町村防災会議(第16条第1項)は第42条第1項および第16条第2項により、防災基本計画に基づいて地域防災計画を策定することを義務づけられている。
2.行政計画の法定拘束力と裁量
上記のような分類のうち、行政法学において最も重要なのは法的拘束力の面からのものである。次の三種に大別される。
(1)策定・公告により私人の権利行使に対して制約を加えるもの〈櫻井敬子・橋本博之『行政法』〔第6版〕(2019年、弘文堂)143頁は「拘束的計画」と表現する。〉
その例として、次のものをあげることができる。
・都市計画法第7条による市街化区域および市街化調整区域の設定
・同第8条による用途地域の設定(→建築基準法第6条および第6条の2により、建築物についても規制を受けることとなる)
・同第29条による市街化区域内および市街化調整区域内の開発行為許可制度(市街化調整区域内については同第34条および同第43条により厳しく規制される)
・土地区画整理事業計画
(2)私人の権利行使を制約するものではないが他の行政機関・行政主体を拘束するもの
その例として、高速自動車道路整備法に基づく整理計画をあげることができる。
(3)国全体や地方公共団体などに対する指針を定め、国民に対する要望に留まるもの
その例として、国土開発計画法に基づく全国総合開発計画をあげることができる。
以上のうち、(1)については法律の根拠を必要とする。行政計画自体が何らかの具体的な法的効果を意図しているからである。
これに対し、(2)および(3)は、少なくとも私人に対する法的拘束力がなく、事実行為に留まるため、一応は法律の根拠を必要としないと言いうる。しかし、このように言い切ってよいかという疑問も残る。何故なら、行政計画を立てるということは、その計画に基づいて行政が推進されることにつながる。すなわち、後の個別的行為の前提になる。しかも、策定・公告によって私人の権利行使に対して制約を加えることが予定されていない計画であるとしても、公表により、私人への誘導や勧告などとして現われる事実上の拘束力を有する場合がある。このように考えるならば、紋切り型に「事実行為であるから法律の根拠は不必要である」ということはできないであろう。勿論、一概に「行政計画には法律の根拠を必要とする」とすることにも意味はない。
もっとも、法律において行政計画の目標、行政計画を策定する際に考慮すべき要素などを定めるとしても、計画を策定するという行為の性質上、具体的内容の作成については、策定権者に広範な裁量権(計画裁量)を認めざるをえない。この裁量権をどのように統制するか、例えば、
行政計画の策定過程に国民・住民がどこまで参加できるか、
利害関係人がどこまで参加できるか、
専門知識をどの程度まで導入するか、
という点が、行政手続の一環として重要な課題である。
●最一小判昭和47年10月12日民集26巻8号1410頁(Ⅰ―74)
事案:浄化槽清掃業を営むXは、市長Yに対してH市における汚物処理業の許可申請を行ったが、Yは不許可処分をした。Xは不許可処分の取消しを求めたが、横浜地判昭和40年7月1日行集16巻8号1434頁はXの請求を棄却した。これに対し、東京高判昭和42年11月21日行集18巻12号1434頁は、Yの不許可処分に裁量権の逸脱があったとしてXの請求を認め、不許可処分を取り消した。Yが上告し、最高裁判所第一小法廷は東京高等裁判所判決を破棄し、事件を同高等裁判所に差し戻した。
判旨:旧「清掃法15条1項が、特別清掃地域内においては、その地域の市町村長の許可を受けなければ、汚物の収集、運搬または処分を業として行なつてはならないものと規定したのは、特別清掃地域内において汚物を一定の計画に従つて収集、処分することは市町村の責務であるが(同法6条、地方自治法2条3項7号、同法別表第2の11参照)、これをすべて市町村がみずから処理することは実際上できないため、前記許可を与えた汚物取扱業者をして右市町村の事務を代行させることにより、みずから処理したのと同様の効果を確保しようとしたものであると解せられる。かかる趣旨にかんがみれば、市町村長が前記許可を与えるかどうかは、清掃法の目的と当該市町村の清掃計画とに照らし、市町村がその責務である汚物処理の事務を円滑完全に遂行するのに必要適切であるかどうかという観点から、これを決すべきものであり、その意味において、市町村長の自由裁量に委ねられているものと解するのが相当である」。
●最一小判平成16年1月15日判時1849号30頁
事案:X(原告・被控訴人・被上告人)は、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法)第7条第1項により、Y(松任市長、被告・控訴人・上告人)に対して一般廃棄物収集・運搬業の許可申請を行った。Yは不許可処分を行ったため、Xがその取消を求めた。金沢地判平成12年10月13日判例集未登載はXの請求を認め、名古屋高金沢支判平成14年8月28日判例集未登載はYの控訴を棄却したが、最高裁判所第一小法廷は、Yの上告を認容してXの請求を棄却した。
判旨:「廃棄物処理法は、(中略)一般廃棄物の収集及び運搬は本来市町村が自らの事業として実施すべきものであるとして、市町村は当該市町村の区域内の一般廃棄物処理計画を定めなければならないと定めている。そして、一般廃棄物処理計画には、一般廃棄物の発生量及び処理量の見込み、一般廃棄物の適正な処理及びこれを実施する者に関する基本的事項等を定めるものとされている(廃棄物処理法6条2項1号、4号)。これは、一般廃棄物の発生量及び処理量の見込みに基づいて、これを適正に処理する実施主体を定める趣旨のものと解される。そうすると、既存の許可業者等によって一般廃棄物の適正な収集及び運搬が行われてきており、これを踏まえて一般廃棄物処理計画が作成されているような場合には、市町村長は、これとは別にされた一般廃棄物収集運搬業の許可申請について審査するに当たり、一般廃棄物の適正な収集及び運搬を継続的かつ安定的に実施させるためには、既存の許可業者等のみに引き続きこれを行わせることが相当であるとして、当該申請の内容は一般廃棄物処理計画に適合するものであるとは認められないという判断をすることもできるものというべきである」。
●最一小判平成18年11月2日民集60巻9号3249頁(小田急高架化訴訟、Ⅰ−75)
事案:東京都知事(被上告参加人)は、平成5年2月1日付で、都市計画法第21条第2項・第18条第1項に基づき「東京都市計画都市高速鉄道第9号線」を変更し、小田急小田原線の喜多見駅付近から梅ヶ丘駅付近までの区間を複々線化し、さらに成城学園前付近を堀割式とする以外は高架式とする旨の都市計画を告示した。これに対し、沿線住民らは、周辺地域に与える影響や事業費の面で問題のある複々線化・高架化を採用したことが違法であるとして、この都市計画などを認可した建設省関東地方整備局長を被告として、訴訟を提起した。東京地判平成13年10月3日判時1764号3頁は沿線住民らの請求を認容したが、東京高判平成15年12月18日訟月50巻8号2322頁が原判決を取り消し、請求を棄却した。最高裁判所第一小法廷は、沿線住民らの上告を棄却した。
判旨:「都市計画法は、都市計画について、健康で文化的な都市生活及び機能的な都市活動を確保すべきこと等の基本理念の下で(2条)、都市施設の整備に関する事項で当該都市の健全な発展と秩序ある整備を図るため必要なものを一体的かつ総合的に定めなければならず、当該都市について公害防止計画が定められているときは当該公害防止計画に適合したものでなければならないとし(13条1項柱書き)、都市施設について、土地利用、交通等の現状及び将来の見通しを勘案して、適切な規模で必要な位置に配置することにより、円滑な都市活動を確保し、良好な都市環境を保持するように定めることとしているところ(同項5号)、このような基準に従って都市施設の規模、配置等に関する事項を定めるに当たっては、当該都市施設に関する諸般の事情を総合的に考慮した上で、政策的、技術的な見地から判断することが不可欠であるといわざるを得ない。そうすると、このような判断は、これを決定する行政庁の広範な裁量にゆだねられているというべきであって、裁判所が都市施設に関する都市計画の決定又は変更の内容の適否を審査するに当たっては、当該決定又は変更が裁量権の行使としてされたことを前提として、その基礎とされた重要な事実に誤認があること等により重要な事実の基礎を欠くこととなる場合、又は、事実に対する評価が明らかに合理性を欠くこと、判断の過程において考慮すべき事情を考慮しないこと等によりその内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限り、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法となるとすべきものと解するのが相当である。」
●最二小判平成18年9月4日訟月54巻8号1585頁(林試の森事件)
事案:建設大臣は、旧都市計画法第3条に基づき、「東京都市計画公園第23号目黒公園」(後に「東京都市計画公園第5・5・25号目黒公園」に変更)に関する都市計画の決定(本件都市計画決定)を行い、昭和32年12月21日付で告示した。この公園は林業試験場(農林省の附属機関)の跡地を利用したものであり、都市計画法第4条第5項に定められる都市施設である。本件都市計画決定は、林業試験場の南門の位置に目黒公園の南門を設けるとしており、この南門と区道との接続部分として原告らの所有に係る土地を本件公園の区域に含むとしていた。東京都が原告らの所有地に南門と区道との接続部分を整備することを内容とする認可の申請を行い、建設大臣は認可を行って平成8年12月2日付で告示した。これに対し、原告らがこの認可の取消を求めて出訴した。東京地判平成14年8月27日訟月49巻1号325頁は原告らの請求を認めたが、東京高判平成15年9月11日訟務月報50巻4号1334頁は被告の控訴を容れて原告らの請求を棄却した。最高裁判所第二小法廷は、東京高等裁判所判決を破棄し、事件を同裁判所に差し戻した(なお、差戻の後に訴えが取り下げられている)。
判旨:「都市施設は、その性質上、土地利用、交通等の現状及び将来の見通しを勘案して、適切な規模で必要な位置に配置することにより、円滑な都市活動を確保し、良好な都市環境を保持するように定めなければならないものであるから、都市施設の区域は、当該都市施設が適切な規模で必要な位置に配置されたものとなるような合理性をもって定められるべきものである。この場合において、民有地に代えて公有地を利用することができるときには、そのことも上記の合理性を判断する一つの考慮要素となり得ると解すべきである」。一方、「原審は、南門の位置を変更し、本件民有地ではなく本件国有地を本件公園の用地として利用することにより、林業試験場の樹木に悪影響が生ずるか、悪影響が生ずるとして、これを樹木の植え替えなどによって回避するのは困難であるかなど、樹木の保全のためには南門の位置は現状のとおりとするのが望ましいという建設大臣の判断が合理性を欠くものであるかどうかを判断するに足りる具体的な事実を確定していないのであって、原審の確定した事実のみから、南門の位置を現状のとおりとする必要があることを肯定し、建設大臣がそのような前提の下に本件国有地ではなく本件民有地を本件公園の区域と定めたことについて合理性に欠けるものではないとすることはできないといわざるを得ない」。また、「樹木の保全のためには南門の位置は現状のとおりとするのが望ましいという建設大臣の判断が合理性を欠くものであるということができる場合には、更に、本件民有地及び本件国有地の利用等の現状及び将来の見通しなどを勘案して、本件国有地ではなく本件民有地を本件公園の区域と定めた建設大臣の判断が合理性を欠くものであるということができるかどうかを判断しなければならないのであり、本件国有地ではなく本件民有地を本件公園の区域と定めた建設大臣の判断が合理性を欠くものであるということができるときには、その建設大臣の判断は、他に特段の事情のない限り、社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものとなるのであって、本件都市計画決定は、裁量権の範囲を超え又はその濫用があったものとして違法となる」。
3.行政計画を策定および公表する際の手続
既に述べたように、行政計画は、行政機関が一種の基準を定める行為であり、一定の時間(期間)における目標を設定し、その目標を達成するために様々な政策手段を盛り込むという構造を有する。また、行政機関は自ら策定した行政計画の実現に向けて活動を行う。そして、その結果が行政計画の実現につながるとともに、法的拘束力の有無に関係なく、将来的に国民の生活に影響を与える。お究会(第一次)報告においては、計画策定手続に関する規定を置くことが提案されていたが、結局、規定は置かれなかった。なお、ドイツの連邦行政手続法には計画策定手続に関する規定が存在する(第72条以下)。
もっとも、個別法には手続に関する規定が置かれる場合もある。その代表例が都市計画法である。同法第16条ないし第23条を参照されたい。
4.行政計画と争訟 行政計画の「処分性」の有無
既に述べたように、行政計画は、いかなるものであれ、将来的に何らかの我々の生活に何らかの影響を及ぼしうる。そもそも、そのことが全く想定されない計画は存在しえないであろう。そのため、行政計画を行政不服審査法や行政事件訴訟法によって争うことは可能であるかが問題となる。これについては、法的拘束力の有無を分けて検討する必要がある。
まず、法的拘束力を持たない行政計画(新産業都市建設基本計画など)は、指針的な性格しか持たず、具体的な処分として扱われないから、行政事件訴訟法に基づく取消訴訟で争うことはできない(大分地判昭和54年3月5日行裁例集30巻3号397頁を参照)。
それでは、法的拘束力を有する行政計画は取消訴訟の対象となるのであろうか 。ここで判例の動向を概観する。
例1:土地区画整理事業計画
土地区画整理法第2条第1項は、「土地区画整理事業」を「都市計画区域内の土地について、公共施設の整備改善及び宅地の利用の増進を図るため、この法律で定めるところに従つて行われる土地の区画形質の変更及び公共施設の新設又は変更に関する事業」と定義する。大まかな手続は、事業計画の決定・公告→仮換地の指定→建築物等の移転・除却→工事→換地計画の認可→換地処分→生産金の徴収・交付という流れである。この手続の最初の段階において土地区画整理事業計画の妥当性を争うことができるのかが問題とされる。このような事業計画が決定され、公告されれば、土地の形質変更や建物の新築などについて制約を受けることになるからである(同第76条第1項、第85条および第140条を参照すること)。
①最大判昭和41年2月23日民集20巻2号271頁は、こうした制約が「当該事業計画の円滑な遂行に対する障害を除去するための必要に基づき、法律が特に付与した公告に伴う附随的な効果にとどまるのであって、事業計画の決定ないし公告そのものの効果として発生する権利制限とはいえ」ず、「事業計画自体ではその遂行によって利害関係者の権利にどのような変動を及ぼすかが、必ずしも具体的に確定されているわけではなく、いわば当該土地区画整理事業の青写真たる性質を有するにすぎない」から、取消訴訟の対象にはならない、とした。
従って、私人は、計画に不服を持つ場合であっても、計画そのものではなく、計画に基づく具体的な処分に対して訴訟を提起すべきである、ということになるのであろう。しかし、これに対しては、計画そのものを訴訟の対象にすることこそ、計画に関する各紛争を早期に、かつ根本的に解決する道筋であるとして、批判も強かった。
ようやく、最大判平成20年9月10日民集62巻1号1頁(Ⅱ-152)により、土地区画整理事業計画を取消訴訟により争うことが認められるようになった。事案および判旨を紹介しておく。
事案:Y1(浜松市。被告・被控訴人・被上告人)は、市内を通る遠州鉄道鉄道線(通称西鹿島線。新浜松駅~西鹿島駅)の連続立体交差事業の一環として、同線の上島駅の高架化および同駅周辺の公共施設の整備改善等を図るため、西遠広域都市計画事業上島駅周辺土地区画整理事業(本件土地区画整理事業)を計画した。平成15年11月7日、Y1は土地区画整理法第52条第1項の規定に基づき、Y2(静岡県知事、被告・被控訴人)に対して本件土地区画整理事業の事業計画において定める設計の概要に関して認可を申請した。同月17日、Y2はY1に対して認可を行った。これを受けて、Y1は同月25日に本件土地区画整理事業の決定を行い、公告を行った。これに対し、本件土地区画整理事業の施行地区内に土地を所有するXらは、本件土地区画整理事業が法律に定められる事業目的を欠いているなどと主張し、取消を求めて出訴した。
静岡地判平成17年4月14日民集62巻8号2061頁はXらの請求を却下し、東京高判平成17年9月28日民集62巻8号2087頁も控訴を棄却したが、最高裁判所大法廷は東京高等裁判所判決を破棄し、事件を静岡地方裁判所に差し戻した(以下、「法」は土地区画整理法のこと)。
判旨:市町村が土地区画整理事業を公告すると、「換地処分の公告がある日まで、施行地区内において、土地区画整理事業の施行の障害となるおそれがある土地の形質の変更若しくは建築物その他の工作物の新築、改築若しくは増築を行い、又は政令で定める移動の容易でない物件の設置若しくはたい積を行おうとする者は、都道府県知事の許可を受けなければならず(法76条1項)、これに違反した者がある場合には、都道府県知事は、当該違反者又はその承継者に対し、当該土地の原状回復等を命ずることができ(同条4項)、この命令に違反した者に対しては刑罰が科される(法140条)。このほか、施行地区内の宅地についての所有権以外の権利で登記のないものを有し又は有することとなった者は、書面をもってその権利の種類及び内容を施行者に申告しなければならず(法85条1項)、施行者は、その申告がない限り、これを存しないものとみなして、仮換地の指定や換地処分等をすることができることとされている(同条5項)」。そして、「事業計画が決定されると、当該土地区画整理事業の施行によって施行地区内の宅地所有者等の権利にいかなる影響が及ぶかについて、一定の限度で具体的に予測することが可能にな」り、事業計画が決定されると「特段の事情のない限り、その事業計画に定められたところに従って具体的な事業がそのまま進められ、その後の手続として、施行地区内の宅地について換地処分が当然に行われることになる。前記の建築行為等の制限は、このような事業計画の決定に基づく具体的な事業の施行の障害となるおそれのある事態が生ずることを防ぐために法的強制力を伴って設けられているのであり、しかも、施行地区内の宅地所有者等は、換地処分の公告がある日まで、その制限を継続的に課され続ける」。従って、「施行地区内の宅地所有者等は、事業計画の決定がされることによって、前記のような規制を伴う土地区画整理事業の手続に従って換地処分を受けるべき地位に立たされるものということができ、その意味で、その法的地位に直接的な影響が生ずるものというべきであり、事業計画の決定に伴う法的効果が一般的、抽象的なものにすぎないということはできない」。
また、「換地処分を受けた宅地所有者等やその前に仮換地の指定を受けた宅地所有者等は、当該換地処分等を対象として取消訴訟を提起することができるが、換地処分等がされた段階では、実際上、既に工事等も進ちょくし、換地計画も具体的に定められるなどしており、その時点で事業計画の違法を理由として当該換地処分等を取り消した場合には、事業全体に著しい混乱をもたらすことになりかね」ず、「換地処分等の取消訴訟において、宅地所有者等が事業計画の違法を主張し、その主張が認められたとしても、当該換地処分等を取り消すことは公共の福祉に適合しないとして事情判決(行政事件訴訟法31条1項)がされる可能性が相当程度あるのであり、換地処分等がされた段階でこれを対象として取消訴訟を提起することができるとしても、宅地所有者等の被る権利侵害に対する救済が十分に果たされるとはいい難い。そうすると、事業計画の適否が争われる場合、実効的な権利救済を図るためには、事業計画の決定がされた段階で、これを対象とした取消訴訟の提起を認めることに合理性があるというべきであ」り、「市町村の施行に係る土地区画整理事業の事業計画の決定は、施行地区内の宅地所有者等の法的地位に変動をもたらすものであって、抗告訴訟の対象とするに足りる法的効果を有するものということができ、実効的な権利救済を図るという観点から見ても、これを対象とした抗告訴訟の提起を認めるのが合理的である。したがって、上記事業計画の決定は、行政事件訴訟法3条2項にいう『行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為』に当たる」。
例2.土地区画整理組合の設立認可
最三小判昭和60年12月12日民集39巻8号1821頁は、処分性を認める。従って、設立認可は取消訴訟の対象となる。
例3.市町村営の土地改良事業に係る事業施行認可
最一小判昭和61年2月13日民集40巻1号1頁は、処分性を認める。従って、事業施行認可は取消訴訟の対象となる。
例4.都市再開発法に基づく第二種市街地再開発事業計画の決定
処分性が認められ、取消訴訟の対象となる。
●最一小判平成4年11月26日民集46巻8号2658頁
事案:大阪市は、昭和59年6月11日、都市再開発法第54条第1項に基づき、大阪都市計画事業阿倍野A1地区第二種市街地再開発事業の事業計画を決定し、同日付の同市告示第338号により公示した。これに対し、阿倍野A1地区や同A2地区に土地・建物を所有し、またはこれらを賃借して営業を行っているXらは、この事業を実施することにより、直接的に生活環境、財産、営業等に甚大な影響を受けるとともに、事業計画について住民の同意がなされておらず、手続上の瑕疵があるなどと主張し、事業計画決定の取消を求めて出訴した。大阪地判昭和61年3月26日行集37巻3号499頁はXらの請求を却下したが、大阪高判昭和63年6月24日行集39巻5・6号498頁はXらのうちA1地区内に土地・建物を所有するX1について控訴を認容して事件を大阪地方裁判所に差し戻し、X2らについては訴えを却下した。大阪市は上告したが、最高裁判所第一小法廷は上告を棄却した。
判旨:「都市再開発法51条1項、54条1項は、市町村が、第二種市街地再開発事業を施行しようとするときは、設計の概要について都道府県知事の認可を受けて事業計画(以下「再開発事業計画」という。)を決定し、これを公告しなければならないものとしている。そして、第二種市街地再開発事業については、土地収用法3条各号の一に規定する事業に該当するものとみなして同法の規定を適用するものとし(都市再開発法6条1項、都市計画法69条)、都道府県知事がする設計の概要の認可をもって土地収用法20条の規定による事業の認定に代えるものとするとともに、再開発事業計画の決定の公告をもって同法26条1項の規定による事業の認定の告示とみなすものとしている(都市再開発法6条4項、同法施行令1条の6、都市計画法70条1項)。したがって、再開発事業計画の決定は、その公告の日から、土地収用法上の事業の認定と同一の法律効果を生ずるものであるから(同法26条4項)、市町村は、右決定の公告により、同法に基づく収用権限を取得するとともに、その結果として、施行地区内の土地の所有者等は、特段の事情のない限り、自己の所有地等が収用されるべき地位に立たされることとなる。しかも、この場合、都市再開発法上、施行地区内の宅地の所有者等は、契約又は収用により施行者(市町村)に取得される当該宅地等につき、公告があった日から起算して30日以内に、その対償の払渡しを受けることとするか又はこれに代えて建築施設の部分の譲受け希望の申出をするかの選択を余儀なくされるのである(同法118条の2第1項1号)」。従って、「公告された再開発事業計画の決定は、施行地区内の土地の所有者等の法的地位に直接的な影響を及ぼすものであって、抗告訴訟の対象となる行政処分に当たると解するのが相当である」。
なお、大阪高等裁判所によって訴えを却下されたX2らは上告したが、最一小判平成4年11月26日判例集未登載は上告を棄却した。
例5.都市計画の用途地域の指定によって建築制限などの義務が課される場合
都市計画法に基づく用途地域の指定により、やはり、当該地域内の土地所有者などには建築基準法上の建築制限などの制約(義務)が課され、その範囲内で一定の法状態(権利状態)の変動が生じることとなる。しかし、判例は、用途地域の指定に処分性を認めていない。従って、土地区画整理事業計画と同じように、私人は、計画に不服を持つ場合であっても、計画そのものではなく、計画に基づく具体的な処分に対して訴訟を提起すべきである、ということになるのであろう。
●最一小判昭和57年4月22日民集36巻4号705頁(Ⅱ-153)
事案:岩手県知事(被告)は、昭和48年5月1日、同県告示第591号により、盛岡広域都市計画用途地域のうち、当時の紫波郡都南村(現在は盛岡市の一部)の某地域を工業地域に指定した。これに対し、当該地域内で精神病院を経営するXらは、この指定によって病院等の建築物を建築することができなくなる(現行の都市計画法第9条第11項および建築基準法第48条第11項を参照)などとして、工業地域の指定の無効確認などを求める訴訟を提起した。盛岡地判昭和52年3月10日行集28巻3号194頁はXらの請求を却下し、仙台高判昭和53年2月28日行集29巻2号191頁もXらの控訴を棄却した。最高裁判所第一小法廷もXらの上告を棄却した。
判旨:「都市計画区域内において工業地域を指定する決定は、都市計画法8条1項1号に基づき都市計画決定の一つとしてされるものであり、右決定が告示されて効力を生ずると、当該地域内においては、建築物の用途、容積率、建ぺい率等につき従前と異なる基準が適用され(建築基準法48条7項、52条1項3号、53条1項2号等)、これらの基準に適合しない建築物については、建築確認を受けることができず、ひいてその建築等をすることができないこととなるから(同法6条4項、5項)、右決定が、当該地域内の土地所有者等に建築基準法上新たな制約を課し、その限度で一定の法状態の変動を生ぜしめるものであることは否定できないが、かかる効果は、あたかも新たに右のような制約を課する法令が制定された場合におけると同様の当該地域内の不特定多数の者に対する一般的抽象的なそれにすぎず、このような効果を生ずるということだけから直ちに右地域内の個人に対する具体的な権利侵害を伴う処分があつたものとして、これに対する抗告訴訟を肯定することはできない。」
5.行政計画と争訟 計画担保責任
時間の経過や事情の変化により、行政計画の変更や中止がなされることは当然ありうる。その際に注意しなければならないのは、行政計画の変更や中止によって損害を受けた者に対する損失補償または損害賠償の要否である。行政計画の変更や中止そのものは適法であっても、行政主体が損害賠償や損失補償などを行わずに行政計画を変更または中止するならば、信義誠実の原則(信頼保護の原則)により、不法行為責任が認められる場合がある。
●熊本地玉名支判昭和44年4月30日判時574号60頁
「第4回:法律による行政の原理」において取り上げた。
●最三小判昭和56年1月27日民集35巻1号35頁(Ⅰ-25)
やはり「第4回:法律による行政の原理」において取り上げた。なお、この判決は不法行為責任という構成をとるが、原田尚彦『行政法要論』〔全訂第七版補訂二版〕(2012年、学陽書房)132頁は、この最高裁判所第三小法廷判決の法的構成を疑問として「計画変更は適法であるというのであれば、それによって特別の犠牲を蒙った者には、行政行為の撤回にともなう信頼保護の法理に準じ、損失補償をあたえると構成する方が素直な解釈であろう」と述べる。たしかに、原因行為である行政計画の変更・中止(場合によっては廃止)そのものが適法であるが私人が損害を被った場合に、不法行為責任の問題とするのは、相対的違法という観念を用いるにしても、奇異な感じは否めない。
▲第7版における履歴:2020年7月13日掲載。
▲第6版における履歴:2015年9月22日掲載(「第7回 行政計画」として。以下同じ)。
2017年10月26日修正。
2017年12月20日修正。
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