ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

第46回 行政組織法その4 公物法

2021年10月11日 00時00分00秒 | 行政法講義ノート〔第7版〕

 1.公物法

 端的に言えば、行政の遂行に役立つものとして存在する物を公物という(例.道路、公園、河川)。公務員が行政の人的手段であるならば、公物は行政の物的手段である、ということになる。なお、公物は行政法学上の用語であり、法令用語ではない。

 参考.営造物とは、国または公共団体などの行政主体によって公の目的に供用される人的および物的施設の総合体のことである。例として、国公立学校、病院、図書館などがあげられる。

 (1)公物法とは何か?

 公物に関する統一的な法典は存在しないが、公物法に関する一般理論が行政法学によって構成されてきた(公法と私法との区別を前提とする)。

 ①公物管理法

 公共用物については、道路法、都市公園法、河川法、海岸法など(いずれも公物管理法)が整備されてきた。また、地方公共団体は、地方自治法により、条例で公の施設に関する定めを置くことができる。

 ②公物管理規則

 個別の公物管理法が適用されないものについては、公園管理規則(公園管理法の適用がない公園に関するもの)など、公物管理規則が制定されることがある(その場合には、公物管理権者の支配権に制定の根拠を求めることになる)。なお、地方公共団体の場合は、やはり条例主義が採用されることとなる。

 ●最大判昭和28年12月23日民集7巻13号1561頁(皇居外苑使用不許可事件、Ⅰ―65)

 事案:原告の総評(日本労働組合総合評議会)は、昭和26年11月20日に、翌年5月1日に皇居外苑を使用するために、被告の厚生大臣に許可を申請したが、厚生大臣は翌年3月に不許可処分を行った。総評は国民公園管理規則(厚生省令)の趣旨を誤解するなど違憲・違法の処分であるとして、取消しを求めて出訴した。

 判旨:最高裁判所大法廷は、既に昭和27年5月1日を過ぎてしまったために総評に法律上の利益がないとして上告を棄却した。その上で、「公共福祉用財産」が「公の用に供せられる目的に副い、且つ公共の用に供せられる態様、程度に応じ、その範囲内において」国民が利用しうるとし、「国有財産の管理権は、国有財産法五条により、各省各庁の長に属せしめられて」いるから「公共福祉用財産」の利用の許否は「公の用に供せられる目的に副うものである限り、管理権者の単なる自由裁量に属するものではなく、管理権者は、当該公共福祉用財産の種類に応じ、また、その規模、施設を勘案し、その公共福祉用財産としての使命を十分達成せしめるよう適正にその管理権を行使すべきであ」ると述べる。なお、この判決においては、公園管理規則の法的性質や根拠についてとくに論じられていない。

 ③庁舎管理規則

 庁舎は公用物であり、庁舎管理規則が訓令として定められる。法律の根拠を必要としないというのが通説である(最一小判昭和57年10月7日民集36巻10号2091頁も参照 )。

 ④財産管理法

 国有財産法、地方自治法第238条以下(この他、物品管理法、民法)である。国有財産・公有財産は普通財産である。

 行政財産は、公用財産のことであり、行政法学上の公用物にほぼ対応する(不動産のみ)。

 公共用財産は、行政法学上の公共用物にほぼ対応する(不動産のみ)。

 (2)公物とはいかなる物か?

 ①公物のメルクマール

 a.行政主体が物に対して権原(支配権のこと。但し、所有権に限られない)を有すること。

 b.公の用に供されていること(そうでなければ公物とは呼べない)。

 c.行政主体が公の用に提供していること。

 d.有体物であること。動産か不動産かを問わない。従って、公立図書館の書籍も公物である。また、鉱物や石油などのように消費されるものは公物ではない(なお、河川の流水は公物にあたる)。

 ②公物の種類

 a.公共用物と公用物

 公共用物とは、公衆の用に供されるものである。道路、河川、公園、海岸などが該当する。

 公用物とは、直接的には官公署の用に供されるものである。役所の敷地と建物が該当する。国公立学校も公用物である。

 b.自然公物と人工公物

 c.国有公物、公有公物、私有公物 公物であっても私人の所有権が肯定されることがある。

 d.自有公物と他有公物 所有権の帰属で判断される。

 e.動産公物と不動産公物

 この他、法定外公共用物が存在する。河川法の手続を経ていない河川(普通河川)、道路法の適用を受けない道路(里道)など。なお、皇居外苑や新宿御苑、千鳥ヶ淵戦没者霊園などは、法定外公共用物ではないが、制定法の適用を受けていない。

 ③公物に民事上の強制執行は及びうるか?

 公物についても民事上の強制執行が可能であるとするのが通説であるが、その場合でも公物としての性格は否定されない。

 ④公物について時効取得は認められるのか?

 最二小判昭和51年12月24日民集30巻1号1104頁(Ⅰ―32)は、公物(例.水路)について黙示の公用廃止があった場合には時効取得を認める。通説も同旨と思われる。

 ⑤公物を土地収用法の対象とすることは可能か?

 学説などにおいて議論があり、定説を見ない。

 (3)公物の成立と消滅

 成立:人工公物のみについて、とくに公共用物について問題となる。

 公用開始(供用開始):公物を公の用に供し始めること(公物を成立させること)。

 公用廃止(供用廃止):公用を廃止すること。

 公用開始行為および公用廃止行為は行政行為の一種である、とするのが通説・判例である。公用開始行為の場合には、公物という法的地位が与えられ、私人との関係においても効果が発生するためである。

 (4)公物管理権

 ①法的根拠は何か?

 公所有権説:公法的効果→公権と考える。

 私所有権説:私人の所有権と同様に考える。

 包括的管理権能説:所有権云々ではなく特別な包括的権能であり、公物法によって与えられるとする。

 比較的多数の説は包括的管理権能説か?

 ②公物管理権の主体

 国有財産:国有財産法第5条により、各省各庁の長とされる。

 公有財産:地方自治法第238条の2により、長などの各執行機関が行使する。

 法定外公共用物:原則として市町村が主体となる。

 ③公物管理権の内容

 a.公物の範囲の確定

 b.公物の維持と修繕

 c.公物に対する障害の防止(行為規制のこと)

 d.公物隣接区域に対する規制

 e.他人の土地の立入や一時使用

 f.使用関係の規制

 ④公物管理権の範囲

 ⑤公物管理と公物警察

 公物管理:公物の本来の公用の維持や増進に関する作用。

 公物警察:一般統治権に基づいて国民に命令や強制をなす作用のうち、公物上においてなす作用。

 ⑥公物管理の法的性質

 単なる事実行為:維持保存工事など。

 行政行為としての性質:公用開始行為および公用廃止行為、公物の使用許可

 行政規則としての性質:公物利用規則

 原状回復命令や退去命令など:法律上の根拠が必要である。これらの命令に従わない場合の罰則、直接強制などの実力行使についても同様である。

 (5)公物の使用関係はいかなる関係か?

 ①公共用物の使用関係:行政行為の分類に対応する。

 一般使用(自由使用):これが一応の基本である。道路交通や河川での就航など、何らの意思表示を必要とせず、公物を利用することが公衆に認められていることをいう。但し、法律または公物管理者の定める制限に服したり、公物警察による制限に服したりすることもある。

 許可使用:これは、あらかじめ公物の使用禁止を定めておいた上で、申請に対する許可により、この禁止の解除をなすというものである。これも公物管理作用としてのものと公物警察としての警察許可とに分かれるが、両者が渾然一体となっているようなものもある。

 特許使用(特別使用):これは、公物管理権者から特別な使用権を設定された上で公物を使用することである。自由使用の反対で、特定の者に排他的利用を認める。河川の流水の占用や道路に電柱を建てることなどが例としてあげられる。

 ▲公共用物の使用は、現に公の用に供されていることが前提であるとして、単にその自由を容認しているだけであり、使用の権利まで認めることにならないのか?

 判例:一般公衆としての道路利用者は、道路廃止処分について原告適格を有しない。これに対し、日常生活や業務に著しい支障が生じるという者は、道路廃止処分について原告適格を有する。

 ▲公用廃止は管理権者の完全な裁量に属するものではない。

 ▲一般使用(自由使用)が認められている場合に、私人によりその使用が妨害されているならば、民法上の不法行為の問題となる〔最一小判昭和39年1月16日民集18巻1号1頁(Ⅰ―17)〕。

 ②公用物の使用関係

 本来的な使用:当該建物に関する特定の行政目的のために供されるのであり、管理者はその目的に合致するような管理をなす義務を負う。また、そこに立ち入る者は、管理者の管理権限(これも完全な裁量ではない)に服することになる。

 目的外使用(国有財産法第18条第3項および地方自治法第238条の4を参照):法的性質は行政行為(許可)である(通説・判例。国有財産法および地方自治法も許可制度を定める)。もっとも、地上権の設定などが認められるし、そもそも目的外使用なのかそうでないのかが判別し難いことがある(役所内に職員用の食堂や売店を営業させる場合など)。

 庁舎の管理は、庁舎管理規則で定められるのが通例である。

 ●前掲最一小判昭和57年10月7日

 事案:全逓労組昭和瑞穂支部は、庁舎の掲示板を当時の郵政省庁舎管理規程に基づく一括許可により使用した。郵政省は組合掲示板について一局一箇所の原則を示し、これに基づいて昭和郵便局長は庁舎内の一掲示板を廃止して別の掲示板についてのみ使用を許可することを組合に伝えた。しかし、組合側は同意せず、何度かの話し合いでも了解に達しなかった。そのため、郵便局長は一掲示板を撤去した。組合は原状回復と損害賠償の請求を行った。名古屋地方裁判所および名古屋高等裁判所は組合の請求を棄却し、最高裁判所第一小法廷も、次のように述べて組合の上告を棄却した。

 判旨:本件許可は、国有財産法第18条第3項に規定される行政財産の目的外使用の許可に該当せず、庁舎管理規程によるものである。この規程に定められる許可は「専ら庁舎等における広告物等の掲示等によってする情報、意見等の伝達、表明等の一般的禁止を特定の場合について解除するという意味及び効果を有する処分であ」り、許可を受けた者が掲示板を使用できるとしても、それは許可によって禁止を解除され、行為の自由を回復したにすぎない(公法上または私法上の権利が設定されたりするようなものではない)。「庁舎管理者は、庁舎等の維持管理又は秩序維持上の必要または理由があるときは、右許可を撤回することができる」。


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