ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

講義内容を公開します 電子取引と消費税

2021年06月12日 00時00分00秒 | 法律学

 私が大東文化大学法学部で担当している「法学特殊講義2A(消費税)」の講義内容の一部を公開します。

 私はMacBook ProおよびMacBook、iPad、iPhone12を使用しており、講義の際には(科目にもよりますが)MacBook(力不足の時があるのでどうしようかと思っています)とiPadを使います(時折、iPhone12も登場します。勿論、鳴らしたりはしません)。これらも立派な講義の対象物です(余談ですが、私は、講義に使えるものはペットボトル飲料でも何でも使います)。

 今回取り上げる内容は、Apple Music(iTune Store)、App Store、Apple TV、Google Playなどに関係します。

 なお、講義の教科書は、私も執筆者の一員である石村耕治編『税金のすべてがわかる現代税法入門塾』〔第10版〕(2020年、清文社)です(以下『現税塾』と記します)。是非とも、この記事を『現税塾』とともにお読みください。該当頁は274頁以下です。

 

 消費税法第2条第1項第8号の3:「電気通信利用役務の提供 資産の譲渡等のうち、電気通信回線を介して行われる著作物(著作権法(昭和45年法律第48号)第2条第1項第1号(定義)に規定する著作物をいう。)の提供(当該著作物の利用の許諾に係る取引を含む。)その他の電気通信回線を介して行われる役務の提供(電話、電信その他の通信設備を用いて他人の通信を媒介する役務の提供を除く。)であつて、他の資産の譲渡等の結果の通知その他の他の資産の譲渡等に付随して行われる役務の提供以外のものをいう。

 

 〔1〕国内取引か国外取引か

 2015(平成27)年度改正まで(実際には2015年9月30日まで)、日本国内の事業者(個人事業者または法人)から、インターネットなどの電気通信回線を通じて直接配信された電子書籍、音楽、広告、クラウドサービスなどについては、消費税(地方消費税を含む。以下同じ)が課されていた。

 これに対し、国外の事業者から直接配信された電子書籍、音楽、広告、クラウドサービスなどについては、消費税が課されていなかった。その理由は、次のとおりである。

 ・こうした配信サービスが消費税法第5条第1項にいう「国内において事業者が行つた資産の譲渡等」にあたらない〈なお、「資産の譲渡等」には「役務の提供」も含む(同第2条第1項第8号)〉

 ・配信サービスが「保税地域から引き取られる外国貨物」(同第2項)にもあたらない〈国外の配信サービスを利用することも輸入取引であるが、税関や保税地域を経由する訳ではないので、把握が困難である(水野忠恒『大系租税法』〔第3版〕(2021年、中央経済社)1087頁)〉

 ・国内取引か輸入取引かを判定するための基準、すなわち内外判定基準(同第4条第3項)が「サービス提供者の事務所等の所在地」であった。

 しかし、これでは課税の公平性に問題が生ずるし、国内の事業者と国外の事業者との競争条件という観点からすれば国内の事業者が不利になることも否めない。

 そこで、2015年度改正において内外判定基準を「サービス提供を受ける者の住所地等〈同第3号においては「当該電気通信利用役務の提供を受ける者の住所若しくは居所(現在まで引き続いて1年以上居住する場所をいう。)又は本店若しくは主たる事務所の所在地」と表現される〉に変更し、国外の事業者から直接配信された電子書籍、音楽、広告、クラウドサービスなどについても消費税を課すこととした(実施は2015年10月1日から)。

 ▲国内取引か輸入取引かの判定の基準を「サービス提供者の事務所等の所在地」とした場合(2015年度改正まで)

 国内事業者→国外事業者:国内取引として課税

 国外事業者→国内事業者:国外取引として不課税

 国内事業者→国外消費者:国内取引として課税

 国外事業者→国内消費者:国外取引として不課税

 国内事業者→国内消費者:国内取引として課税

 ▲▲国内取引か輸入取引かの判定の基準を「サービス提供を受ける者の住所地等」とした場合(現行制度):仕向地主義の導入〈金子宏『租税法』〔第二十三版〕(2019年、弘文堂)795頁。水野・前掲書1087頁も参照〉

 国内事業者→国外事業者:国外取引として不課税

 国外事業者→国内事業者:国内取引として課税

 国内事業者→国外消費者:国外取引として不課税

 国外事業者→国内消費者:国内取引として課税

 国内事業者→国内消費者:国内取引として課税

 ■「電気通信利用役務の提供」に該当するものの例〈熊王征秀『消費税法講義録』(2020年、中央経済社)69頁による(但し、表記などを変更した)。『現税塾』〔第10版〕276頁も参照。〉

 ・電子書籍、音楽、映像、ソフトウェアなどの配信〈ゲームを初めとする様々なアプリケーションが含まれる。〉

 ・クラウド上でソフトウェア、データベースなどを利用させるサービス

 ・クラウド上で顧客の電子データなどの保存場所を提供するサービス

 ・インターネットでの広告の配信、掲載

 ・インターネット上のショッピングサイトやオークションサイトを利用させるサービス

 ・インターネット上でゲームソフトなどを販売するウェブサイトを利用させるサービス

 ・インターネットを経由して行う宿泊予約や飲食店予約のサイト(宿泊業者や飲食店経営事業者から掲載料を徴収する)

 ・インターネットを介して行う英会話教室

 ■■「電気通信利用役務の提供」に該当しないものの例〈熊王・前掲書69頁による。〉

 ・電話回線、インターネット回線など、他者間の情報伝達を媒介するにすぎないもの

 ・ソフトウェアの制作

 ・国外に所在する資産の管理・維持等

 ・国外事業者に依頼する情報の収集・分析等

 ・国外の法律専門家等が行う国外での訴訟遂行等

 ・著作権の譲渡・貸し付け

 

 〔2〕電子取引に対する課税の仕方

 国外事業者が日本国内に向けて行っている「電気通信利用役務の提供」に対し、どのように課税を行うのか? 

 →①事業者間取引〔B2B取引(business to business transaction)〕

  ②事業者・消費者間取引〔B2C取引(business to consumer transaction)〕

 この二種類については、課税の仕方が異なる。

 

 〔3〕事業者間取引

 事業者間取引は、消費税法第2条第1項第8号の4において「事業者向け電気通信利用役務の提供」と称されており、「国外事業者が行う電気通信利用役務の提供のうち、当該電気通信利用役務の提供に係る役務の性質又は当該役務の提供に係る取引条件等から当該役務の提供を受ける者が通常事業者に限られるものをいう」と定義されている。

  事業者間取引の場合はリバースチャージ方式による課税がなされる〈但し、消費税法平成27年附則第42条・第44条により、事業者間取引に係る課税売上割合が95%以上である課税期間または簡易課税制度の適用を受ける課税期間については、当分の間、リバースチャージ方式にかかる消費税はなかったものとして扱われる(従って、消費税の申告をする必要がなくなる)。『現税塾』278頁を参照〉。すなわち、国内事業者が国外事業者から配信サービスなどを受けた場合には、消費税法第2条第1項第8号の2にいう「特定資産の譲渡等 事業者向け電気通信利用役務の提供及び特定役務の提供をいう」に該当することとなり、サービスの購入者である国内事業者が消費税の納税義務を負うこととなる(消費税法第4条第1項」)。国外事業者は納税義務を負わない。

 ∴通常の国内取引の場合はサービスの提供者が納税義務者となるので、逆になる〈そのためにリバースチャージ(reverse charge. 訳せば「戻し税」)と呼ばれる(水野・前掲書1087頁を参照)〉

 例1 国内事業者Aは、国外事業者Bが運営するウェブサイトに自社製品の広告を掲載している。広告料は年間で1,200,000円である)。

 AはBに広告料を支払う。そして、Aはこの広告料に伴う消費税120,000円を所轄の税務署長に申告し、納める。なお、このサービス料に伴う消費税は仕入税額控除の対象とすることができる〈『現税塾』278頁を参照〉

 ▲事業者間取引(「事業者向け電気通信利用役務の提供」)とされるもの

 役務の性質や取引条件から「提供を受ける者が通常事業者に限られるもの」(消費税法第2条第1項第8号の4)に限定されるので、次のようなものが事業者間取引とされる。

 ・インターネットでの広告の配信、掲載

 ・インターネット上でゲームソフトなどを販売するウェブサイトを利用させるサービス

 ・インターネットを経由して行う宿泊予約や飲食店予約のサイト(宿泊業者や飲食店経営事業者から掲載料を徴収する)

 ▲▲事業者間取引とされる場合とされない場合とに分かれうるもの

 次のようなものは、役務の性質や取引条件から「提供を受ける者が通常事業者に限られるもの」とは直ちに言えないので「利用範囲、利用人数、利用方法等について個別に交渉を行い、一般の取引条件とは別に事業者間で固有契約を締結しているような場合」であれば事業者間取引とされる〈熊王・前掲書71頁。水野・前掲書1088頁も参照〉。そうでなければ事業者・消費者間取引とされる。

 ・電子書籍、音楽、映像、ソフトウェアなどの配信

 ・クラウド上でソフトウェアなどを利用させるサービス

 ・クラウド上で顧客の電子データなどの保存場所を提供するサービス

 ・インターネット上のショッピングサイトやオークションサイトを利用させるサービス

 ・インターネットを介して行う英会話教室

 例2 国内事業者Cは、国外事業者Dが提供するクラウドサービスを利用している。使用料は月額で10,000円(年間で120,000円)である。

  ☞このクラウドサービスが事業者向けであることを明示しており、かつ、一般の消費者が利用できない(利用申し込みを制限している)のであれば、CからDに支払われる使用料については事業者間取引として扱われる〔Cが消費税(月額について1,000円、年間について12,000円)〕を所轄の税務署長に申告し、納める。この使用料に関する消費税は仕入税額控除の対象とすることができる。

  ☞☞このクラウドサービスが事業者向けであることを明示しておらず、または、事業者向けであることを明示しているとしても一般の消費者からの申し込みを制限できないものであるならば、事業者間取引でなく、事業者・消費者間取引となる。

  なお、この使用料に関する消費税も仕入税額控除の対象とすることができる。但し、登録国外事業者からのサービスの購入であること、および法定の帳簿書類等の保存が条件となる〈『現税塾』279頁を参照〉

 

 〔4〕事業者・消費者間取引

 事業者・消費者間取引は、事業者間取引以外の取引である。すなわち、消費税法第2条第1項第8号の4の定義に該当しない取引である。

 事業者・消費者間取引の場合も、「サービス提供を受ける者の住所地等」という内外判定基準に従い、サービスの購入者が日本国内に住所もしくは居所または本店もしくは主たる事務所を置いていれば、国内取引として消費税の課税の対象となる。しかし、事業者・消費者間取引は、リバースチャージ方式を採用する事業者間取引と異なり、消費税法の原則通りにサービスの提供者を納税義務者とする。すなわち、配信サービスなどの提供者が国外事業者であっても、その国外事業者が消費税の納税義務を負うこととなる。

 例3 板橋区西台に住む大東文化大学法学部法律学科の学生Eは、最新のゲームアプリを国外事業者Fが運営するゲームアプリ販売サイトで購入し、スマートフォンにダウンロードした。代金は500円である。

 ☞この場合にはF社が消費税の納税義務者となる(消費税法第4条・第5条。同平成27年附則第39条も参照)。F社が日本に事業所等を置いていれば、その事業所等が所在地を管轄する税務署長に消費税(この例の場合は50円)の申告および納付を行うこととなる。F社の事務所等が日本にない場合には、F社は納税管理人を置くこととされる(国税通則法第117条第1項、国税通則法施行令第39条第1項)。

 ▲国外事業者も、日本の消費税について税務署長への申告および納税を行うことが義務付けられる。

 ▲▲「電気通信利用役務の提供」を行う(または行おうとする)国外事業者は、納税地を所轄する税務署長を経由して、国税庁長官の登録を受けることができる(消費税法平成27年附則第39条第1項・第2項。同第3項も参照)。

 ▲▲▲国外事業者の登録は、国外事業者登録簿に氏名・名称など、登録番号、登録年月日を搭載することにより行われる。また、国外事業者登録簿はインターネットなどで公表される(同第4項)。

 ▲▲▲▲国税庁長官は、国外事業者について次の場合のいずれかに該当すると認めるときに、登録を拒否することができる。

 ①「国内において行う電気通信利用役務の提供に係る事務所、事業所その他これらに準ずるもの」が日本国内にない、または「消費税に関する税務代理」の権限を有する「税務代理人」がない場合(同第5項第1号)。

 ②国外事業者が納税管理人を定めていない場合(同第2号)。

 ③国税の滞納があり、しかもその滞納額の徴収が著しく困難である場合(同第3号)。

 ④国外事業者が、同第2項第5号ないし第7号のいずれかに該当して登録を取り消され、その取消の日から1年を経過していない場合(同第5項第4号)。

 ▲▲▲▲▲国税庁長官は、国外事業者について次の場合のいずれかに該当すると認めるときに、登録を取り消すことができる。

 ①登録国外事業者が国外事業者に該当しなくなった場合(同第6項第1号)。

 ②登録に係る消費税に係る事務所等が国内に所在しなくなった場合(同第2号)。

 ③登録国外事業者が消費税法第45条第1項に基づく申告書の提出期限までに、税務代理に関する書類を提出していない場合(同第3号)。

 ④登録国外事業者が納税管理人を定めていない場合(同第4号)。

 ⑤登録国外事業者が消費税について期限内申告書(国税通則法第17条第2項)を提出しておらず、かつ正当な理由がないと認められること(消費税法平成27年附則第39条第6項第5号)。

 ⑥国税の滞納があり、しかもその滞納額の徴収が著しく困難である場合(同第6号)。

 ⑦登録国外事業者が「事実を仮装して記載した請求書等を交付したこと」(同第7号)。


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