ひろば 研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

改めて 法学部の学生は社会思想史か政治思想史を勉強しなさい!

2021年06月18日 23時30分00秒 | 受験・学校

 これまで、このブログに「法学部の1年生は、社会思想史を勉強しなさい!」(2012年10月10日21時40分45秒付)、「レッセ・フェール(laissez-faire)」(2012年11月06日02時11分05秒付)、「法学部の学生は、世界史(とくに社会思想史)を勉強しなさい!」(2015年04月15日00時48分26秒付)、「久しぶりに、或るドイツ語の体系書(教科書)を読んで」(2019年12月30日0時3分30秒付)を書き、法学部の学生が社会思想史を学習する必要性を繰り返し主張してきました。これは私が大東文化大学法学部で、主に2年生のクラス授業を担当してきた経験によります。憲法との関係で言えば政治思想史のほうがよいかもしれません。どちらも学習するのが一番よい訳で、私自身も学生時代から双方の教科書を何冊か買い、読んできました。

 そして今年も記します。

 先日、立憲主義憲法および日本憲法史(大袈裟ですが)について出題したのですが、出来はかなり分かれました。とくに、権力分立主義について「果たしてこの学生は世界史や政治・経済をしっかり勉強してきたのだろうか?」と不安になるような答案が多かったのです。

 権力分立論の淵源については、たしかカール・シュミットが『憲法論』か何かで興味深い議論を行っていますが、一般的にはJ.ロックが『市民政府二論』において最初に唱えたということになっています。彼の主張は立法権と執行権(法律を執行する権限のこと)とを分けるべしというものでした。ロックの著作はフランスに移入され、モンテスキューが『法の精神』において三権分立を主張します。正確ではないかもしれませんが、国家権力を立法権、行政権および司法権に分割すべしというものです。

 ロックとモンテスキューをあげるのが常道ですし、私もこの二人の名を書くことで正解としたのですが、ホッブズ、J.J.ルソー、ヘーゲル、マルクスなどと書かれた答案が少なくなかったのです。ホッブズは社会契約論を唱えた者の一人ではありますが、『リヴァイアサン』を読めばおよそ権力分立論とは無縁であることがわかります。ルソーも権力分立論とは縁遠い存在で、彼はむしろ直接民主制を唱えています。ヘーゲルは社会契約論者と言えませんし、マルクスに至っては共産主義でしょう(マルクス主義ならプロレタリアート独裁ということになります)。

 余談ですが、最近、電子書籍で荒谷大輔『資本主義に出口はあるか』(講談社現代新書)を入手し、読みました。ロックとルソーとを対立軸の双方に置き、近代以降の社会を概観するというもので、権力分立論とは直接関係ないのですが、ロック、ルソーの思想が要領よくまとめられており、参考になります。一読をおすすめします。

 ここで本題に戻りますと、社会契約論の主張者としてまとめられる思想家の違いは、高校の世界史か政治・経済で学ぶはずですし、大学の社会思想史や政治思想史でも当然扱われます。単に歴史的な事件としてではなく、現代に至るまでロックの思想あるいはルソーの思想からの影響が社会、政治、そして経済のシステムに現出しているのです(そのことが書かれているのが、先の余談であげた荒谷氏の著作です)。当然、憲法にも現れます。権力分立論はもとより、人権についても、どの部分がロックからの影響を受けているのか、またルソーからの影響を受けているのか、などと考えてみるのも面白いでしょう。ともあれ、思想史はしっかりと学んでください。

 全く別の話になりますが、気になることをもう一つ記しておきます。日本国憲法の制定に関わることですが、GHQ(連合軍総司令部)で作成された草案はマッカーサー・ノートで示された三原則に基づくものと言われています。ここでどういう訳か日本人の名前が記されている答案がありました。何処でどういう勉強をしてきたのでしょうか?

 もう一つ別の話を。形式と解答すべき問題で「形質」と記された答案がいくつかありました。全く意味が違います。


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