ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

第19回 行政上の義務履行確保:行政上の強制執行

2021年01月20日 00時33分20秒 | 行政法講義ノート〔第7版〕

 1.行政上の強制執行

 行政上の強制執行とは、行政法上の義務を負う者がその義務を履行しない場合に、行政主体が自らその義務の履行を図る制度をいう。強制執行制度により、行政主体は、義務者に義務を履行させ、または義務があったのと同一の状態を実現することになる。

 行政主体とは、行政活動の担い手である法人のことである(京都大学系の行政法学者は行政体という表現を用いる)。具体的には、①国、②地方公共団体(地方自治法第2条第1項)、③公共組合、④特殊法人、⑤独立行政法人、⑥その他(認可法人、指定法人)を指す。行政主体における行政機関の一つが行政庁である(従って、行政庁自体は法人ではない)。

 民事法においては自力救済禁止の原則が適用されるが(例外は民法第720条)、行政法の場合は、行政権を行使して、迅速に必要な状態を実現しうるために、そして国民大衆の福利を実現するために、このような例外的権限を認めた。

 強制執行は、行政罰と異なる。強制執行は、義務違反状態を除去し、将来に向かって義務内容の実現を図るものである。これに対し、行政罰は、過去の義務違反を処罰するものである。

 

 2.歴史的変遷

 以下、とくに近年生じている問題を理解するためにも、ここで歴史的な制度の変遷を簡単に概観しておくこととしよう。

 大日本帝国憲法時代には、行政執行法という一般法が存在していた。この法律は、あらゆる場合に対応して様々な強制執行の手段を規定していた。これは、大日本帝国憲法の天皇主権主義とも関係することであり、行政権優位という国法体系の特徴の一端が行政執行法に表されていたのである。

 行政執行法第5条は、強制執行を3種類に分けている。ここで規定を紹介しておく(漢字は現代の字体に改めた)。

 同条第1項:「当該行政官庁ハ法令又ハ法令ニ基ツキテ為ス処分ニ依リ命シタル行為又ハ不行為ヲ強制スル為左ノ処分ヲ為スコトヲ得

  一 自ラ義務者ノ為スヘキ行為ヲ為シ又ハ第三者ヲシテ之ヲ為サシメ其ノ費用ヲ義務者ヨリ徴収スルコト

  二 強制スヘキ行為ニシテ他人ノ為スコト能ハサルモノナルトキ又ハ不行為ヲ強制スヘキトキハ命令ノ規定ニ依リ二十五円以下ノ過料ニ処スルコト」

 同条第2項:「前項ノ処分ハ予メ戒告スルニ非サレハ之ヲ為スコトヲ得ス但シ急迫ノ事情アル場合ニ於テ第一号ノ処分ヲ為スハ此ノ限ニ在ラス」

 同条第3項:「行政官庁ハ第一項ノ処分ニ依リ行為又ハ不行為ヲ強制スルコト能ハスト認ムルトキ又ハ急迫ノ事情アル場合ニ非サレハ直接強制ヲ為スコトヲ得ス」

 第1項第1号であげられているのが代執行であり(第2項も参照のこと)、同第2号であげられているのが執行罰である(これについても、第2項も参照のこと)。そして、第3項であげられているのが直接強制であり、これは最終手段として位置づけられていた。いずれも、具体的にいかなるものであるのかについては後述するが、ここで注意しておかなければならないのは、行政行為としての命令が法律に定められている場合には、そのまま、強制執行をすることが認められていた、すなわち、行政行為の執行力が当然に認められていたことである。命令について法律に明文の根拠を置きさえすれば、強制執行について別に法律の根拠を置く必要はなかったのである。この点は、日本国憲法下の法体系と異なる。

 行政行為の執行力については「第13回 行政行為論その3:行政行為の効力」を参照し、確認しておいていただきたい。なお、行政執行法は、宇賀克也=交告尚史=山本隆司編『行政判例百選Ⅱ』〔第7版〕(2017年、有斐閣)535頁、我妻栄編集代表『旧法令集』(1968年、有斐閣)63頁などに掲載されている。

 日本国憲法の制定に伴い、行政執行法は廃止された。大日本帝国憲法時代においては、行政執行法などによって広い範囲にわたって強制執行が多用されており、重大な人権侵害を引き起こした事例も少なくなかった。法律による行政の原理の観点からしても不徹底であったと言いうる。

 そのため、強制執行の手段を制限することとなり、まずは行政代執行法を一応の一般法とし、金銭債権については国税徴収法を一般法的に扱うこととした。本来、国税徴収法は、文字通り、国税徴収に関する法律であるため、一般法そのものとは言えないが、他の多くの法律などにおいて「例による」とされているため、一般法的な扱いとなっている。

 そして、個別の法律に強制執行の規定を置くことで対応することとした。従って、日本国憲法の下においては、強制執行について当然に法律の根拠が必要であるということになる。

 また、命令(行政行為)の法律の根拠と、強制執行の法律の根拠とは異なる。すなわち、行政行為の執行力が文字通りに妥当している訳ではない。

 なお、行政代執行法は執行罰と直接強制について規定をおいていないため、執行罰と直接強制については一般法が存在しない。しかし、同第1条は「行政上の義務の履行確保に関しては、別に法律で定めるものを除いては、この法律の定めるところによる」と定めており、代執行が「行政上の義務の履行確保」のための手段の一つであることから、執行罰と直接強制も「行政上の義務の履行確保」のための手段であり、同条において念頭に置かれていると考えてよい。

 

 3.行政上の強制執行と条例

 行政代執行法第1条は「行政上の義務の履行確保」のための手段は「別に法律で定めるものを除いては、この法律の定めるところによる」と定める。従って、行政上の強制執行については法律の根拠が必要であることは明らかである。それでは、条例を根拠として強制執行をなしうるのであろうか。

 代執行に関する一般的規定である同第2条は「法律(法律の委任に基く命令、規則及び条例を含む。以下同じ。)」と規定しているので、「法律の委任に基く」条例に代執行の法的根拠を設けることが可能であることは明らかである。逆に、「法律の委任」を受けず、条例が独自に代執行の可能な義務を作り出すことはできない。第4回 法律による行政の原理で取り上げた最二小判平成3年3月8日民集45巻3号164頁(Ⅰ―101)も参照されたい。

 もっとも、同条にいう「委任」の意味については議論がある。具体的には、地方自治法第14条を「法律の委任」によって条例が代執行の可能な義務を作り出すことの根拠とすることができるか、という問題である。現在では肯定説が一般的になりつつあるが、地方自治法第14条第1項が「普通地方公共団体は、法令に違反しない限りにおいて第2条第2項の事務に関し、条例を制定することができる」、同第2項が「普通地方公共団体は、義務を課し、又は権利を制限するには、法令に特別の定めがある場合を除くほか、条例によらなければならない」と定め、個別的・具体的な委任規定となっていないので、疑問も残る。即時強制については法律の委任がなくとも条例によって創設することが可能であると理解されていることとの均衡を考えた見解であると考えればよいであろう。

 一方、執行罰および直接強制については、前述のように行政代執行法第1条にいう「行政上の義務の履行確保」のための手段であり、同法には他に規定が存在しない。従って、条例に執行罰および直接強制の法的根拠を設けることは許されない。同第2条と異なり、同第1条にいう「法律」には「法律の委任に基く命令、規則及び条例」が含められていないからである。同じ「法律」という文言であっても第1条と第2条とでは意味が異なることに注意をしなければならない。

 

 4.代執行

 行政執行法時代においても、代執行は行政上の強制執行の中心的手段であったと言えるが、行政代執行法は代執行のみを規定しており、後に説明する執行罰および直接強制が個別法でもほとんど規定されていないことから、強制執行で唯一に近い手段となっている。もっとも、行政実務においては代執行が利用される頻度もかなり少ない。

 代執行とはいかなるものであるのか。ここでは、行政代執行法第2条に定められた要件を概観することによって説明をしていく。

 第一に、法律により直接成立する義務、または行政庁により命じられた行為(=行政行為によって命じられた行為)の義務が存在しなければならない。ここで、行政庁により命じられた行為は、有効なものであることが必要である(行政行為の公定力と執行力が結び付けられることになる)。

 第二に、代替的作為義務、すなわち、他人が本人に代わって履行しうる作為義務でなければならない。代執行は、行政庁自らが、または第三者がこの代替的作為義務の内容を実現し、本来の義務者から費用を徴収する手段である、とされる。作為義務であっても、他人が本人に代わってなすことのできない義務は非代替的作為義務であるから、代執行を行うことはできない。

 大阪高決昭和40年10月5日行裁例集16巻10号1756頁は、市庁舎内の組合事務所の明け渡し・立ち退きの義務に付随する組合事務所存置物件の搬出について、この搬出が独立した義務内容でなく、法律が直接命じ、または法律に基づく行政行為により命じられた義務でないことを理由として、代執行の対象にならないとしている。組合事務所存置物件の搬出そのものは代替的作為義務であるが、明け渡しおよび立ち退きの義務は非代替的作為義務であることからして、この判決は妥当であろう。

 第三に「他の手段によつてその履行を確保することが困難で」なければならない。もっとも、「他の手段」とは何かが明白とは言い切れず、問題を残している。

 第四に「その不履行を放置することが著しく公益に反すると認められ」なければならない。義務の不履行が直ちに代執行の要件を充たす訳ではないのである。

 以上の要件が揃った上で、代執行の権限の行使については効果裁量が認められる。

 次に、行政代執行法第3条以下に定められる代執行の手続を概観しておく。

 まず、戒告(第3条第1項)がなされる。これは、代替的作為義務の履行期限を定めた上で、その期限までに履行がなされない場合に代執行をなす旨の予告であり、文書でなされなければならない。この戒告によって代替的作為義務が履行されなければ、代執行令書による通知がなされる(同第2項)。代執行令書には、代執行の時期、執行責任者、費用の概算が示されることとなっている。戒告および代執行令書の手続をとることができない場合については、同第3項に定めがある。

 戒告および代執行令書による通知は、いずれも事実行為にすぎないが、手続上で重要であり、要件を認定するものでもあるため、取消訴訟の対象となると理解されている。但し、代執行が終了すると、戒告や代執行令書による通知についての取消訴訟の訴えの利益は消滅してしまうので、その場合にはこれらについての取消訴訟を提起することはできず、国家賠償請求訴訟によって適法性を争うこととなる。また、代替的作為義務を課する行為→代執行手続中の行為という形で違法性の承継は認められない。 

 代執行にあたる執行責任者については、第4条による義務が課される。身分証明のための証票を携帯する義務と、要求が出た場合の呈示義務である。

 代執行は、行政庁自らが、または第三者がこの代替的作為義務の内容を実現し、本来の義務者から費用を徴収する手段である。費用を徴収することが公平の理念に合致するからであるが、その徴収方法については第5条の規定がある。また、第6条第1項は、費用納付がなされない場合の強制徴収を定めている(「国税滞納処分の例によ」ることとなっている)。

 なお、代執行自体には義務者の身体に対する強制力がないが、物理的排除(義務者による抵抗などの排除)については、代執行への随伴機能として一定の実力行使を認める見解がある。また、警察官職務執行法が適用されることもありうる。

 ●最一小決平成14年9月30日刑集56巻7号395頁(Ⅰ—102)

 事案:新宿駅西口周辺では、かねてから段ボールによる簡易な小屋などにおいて起居し生活する者(路上生活者)が多く(およそ200名に達したともいう)、苦情も多く寄せられていた。東京都は、平成7年12月8日、同駅から東京都庁方面に伸びる東京都道新宿副都心4号線の地下通路に水平エスカレーター(動く歩道)を設置し、同地下通路の利用の正常化を図る旨を公表した。同年12月15日、同月25日および平成8年1月13日に、東京都は路上生活者に対して段ボールの撤去および清掃などを内容とする周知文書の配布などを行おうとしたが、路上生活者および支援者からの妨害を受けた。また、同月24日、東京都は道路環境整備工事を実施しようとしたが、路上生活者および支援者はバリケードを構築するなどして工事現場への東京都職員の侵入を阻止した。そのため、東京都の要請を受けて警察官などが出動し、座り込みを続けるとともに卵や花火などを投げつけ、消化剤を噴射するなどした路上生活者および支援者を現場から排除していったが、当日の工事開始は午前6時30分から8時20分頃にずれこみ、工事に伴う交通規制は翌日の19時頃まで続いた。

 X1およびX2は上記の路上生活者および支援者のうちの2名であり、威力業務妨害罪(刑法第234条)にあたるとして起訴されたが、一審判決(東京地判平成9年3月6日判時1599号41頁)はX1およびX2を無罪とした。検察官が控訴し、控訴審判決(東京高判平成10年11月27日高刑集51巻3号485頁)はX1を懲役1年6か月、執行猶予5年、X2を懲役1年6か月、執行猶予3年とした。X1およびX2は上告したが、最高裁判所第一小法廷は上告を棄却した。

 判旨:①「本件において妨害の対象となった職務は、動く歩道を設置するため、本件通路上に起居する路上生活者に対して自主的に退去するよう説得し、これらの者が自主的に退去した後、本件通路上に残された段ボール小屋等を撤去することなどを内容とする環境整備工事であって、強制力を行使する権力的公務ではないから、刑法234条にいう『業務』に当たる」(最一小決昭和62年3月12日刑集41巻2号140頁、最二小決平成12年2月17日刑集54巻2号38頁を参照)。

 ②「本件工事は、公共目的に基づくものであるのに対し、本件通路上に起居していた路上生活者は、これを不法に占拠していた者であって、これらの者が段ボール小屋の撤去によって被る財産的不利益はごくわずかであり、居住上の不利益についても、行政的に一応の対策が立てられていた上、事前の周知活動により、路上生活者が本件工事の着手によって不意打ちを受けることがないよう配慮されていたということができる。しかも、東京都が道路法32条1項又は43条2号に違反する物件であるとして、段ボール小屋を撤去するため、同法71条1項に基づき除却命令を発した上、行政代執行の手続を採る場合には、除却命令及び代執行の戒告等の相手方や目的物の特定等の点で困難を来し、実効性が期し難かったものと認められる。そうすると、道路管理者である東京都が本件工事により段ボール小屋を撤去したことは、やむを得ない事情に基づくものであって、業務妨害罪としての要保護性を失わせるような法的瑕疵があったとは認められない」。

 

 5.執行罰

 執行罰は、民事執行法第172条第1項において定められている執行方法と同じ性質のものであり、一定額の過料を課すことを通告して間接的に義務の履行を促し、それでも義務の履行がない場合に過料を強制的に徴収する、というものである(繰り返すことも可能である)。

 行政執行法第5条第1項第2号は、執行罰の対象を非代替的作為義務または不作為義務(の不履行)としていた。しかし、これは必ずしも論理的な制度設計によるものではないと思われる。代替的作為義務についても執行罰は可能であると考えてよいであろう。

  櫻井敬子・橋本博之『行政法』〔第6版〕(2019年、弘文堂)174頁も「代替的作為義務についても執行罰によることは可能である」と述べ、執行罰がいかなる性質の義務に対しても実行可能であることを示している。

 現在の行政代執行法は、執行罰に関する規定を置かず、前述のように、同第1条にいう「法律」には条例を含まないと解されるから、個別の法律に根拠規定が存在しなければ、執行罰を行いえない。従って、条例に執行罰の根拠を置くことは許されない。なお、現在、執行罰の根拠規定は砂防法第36条のみであるが、そこに定められる過料が500円と低額であるため、効果は薄いとされる〈砂防法第36条にのみ執行罰が規定されているのは、整備漏れのためであるとも言われる〉

 ただ、最近、行政法学において、執行罰の復権を主張する見解が出されている。私も、過料の額次第では有効な手段たりうると考えている。とくに、市町村レヴェルにおいては義務の性質の如何を問わずに執行罰を活用しうるであろう。法律の改正などによって条例に執行罰の根拠規定を置きうるようにすべきではないだろうか。

 なお、 執行罰は「罰」という文字が使用されているが、処罰ではない。このため、行政罰と併科することも可能である。

 

 6.直接強制

 直接強制は、義務者が義務(内容を問わない)を履行しない場合に、直接、義務者の身体または財産に実力を加え、義務の履行があったのと同じ状態を実現するものである。権力的な事実行為である点において即時強制と共通しており、適用しうる場面についても直接強制と即時強制にはも共通するところが少なくないが、義務の履行を前提とするのが直接強制であり、そうでないのが即時強制である、と一応は区別することができる。

 直接強制を認める個別法の規定は少ないが、例として、学校施設の確保に関する政令第21条、成田国際空港の安全確保に関する緊急措置法第3条第8項がある。なお、前述のように、行政代執行法第1条の解釈から、直接強制の根拠を条例(など)に置くことは許されない。現在、個別法の規定の例として、学校施設の確保に関する政令第21条、成田国際空港の安全確保に関する緊急措置法第3条第8項がある。

 

 7.強制徴収

 強制徴収は、義務者が租税などの金銭債務を履行しない場合に、義務者の財産に実力を加えることをいう。直接強制の一種または変種であるといってよい。具体的には差押などが該当する。

 強制徴収は行政代執行法でなく、国税徴収法およびに国税通則法により定められるものである。また、他の法律により、租税債権以外の国または地方公共団体の金銭債権で、特別の徴収手続を必要とするものについて、国税徴収法に定められる滞納処分の例によって徴収することとされる。

 強制徴収が認められるのは、租税債権(かつては公法上の金銭債権とされていた)などの特別なもので、おおよその基準は、大量に発生し、迅速かつ効率的に債権を満足させる必要があるというものである。このようなものに該当しなければ、民事執行法に定められる強制執行手続によることとなる。

 国税の納税請求は、国税通則法第36条による「納税の通知」から始まる。これを行わなければ、具体的な納税義務が発生しないということになる(但し、申告納税方式の場合は同第35条による)。「納税の通知」は、税務署長が、賦課課税方式による国税の他、源泉徴収による国税、自動車重量税および登録免許税で法定納期限までに納付されなかったものについて、納付すべき税額、納期限および納付場所を記載した納税告知書を送達することによって行う。

 納税者が国税を納期限(同第35条および同第36条)までに完納しない場合には、税務署長が督促状を発して納付を督促する(同第37条)。督促状発布の日から起算して10日を経過した日までに国税が完納されない場合など、国税徴収法に定められる場合には、徴収職員〈税務署長その他国税の徴収に従事する職員をいう(国税徴収法第2条第11号)〉が滞納処分を行い、滞納者の財産を差し押さえる(国税通則法第40条、国税徴収法第47条)。差し押さえた滞納者の財産は、原則として公売の方法(国税徴収法第94条以下)、例外として随意契約(同第109条)により売却され、金銭に換えられる(換価。同第89条以下)。こうして得られた金銭は、租税その他の債権に配分される。この配分を配当といい、国税徴収法第128条以下に定められるところによる。配当の順位は滞納処分費→国税→地方税→公課など、となっている。残余金は滞納者に返還する。地方税については、例えば地方税法第66条第6項、また、その他の行政上の公課・費用については、行政代執行法第6条第1項、土地収用法第128条第5項などを参照されたい。

 

 ▲第7版における履歴:2021年1月20日掲載。

 ▲第6版における履歴:2015年10月20日掲載(「第19回 行政上の義務履行確保、行政罰、即時強制」として)

                                    2017年10月26日修正。

            2017年12月20日修正。

            2018年7月23日修正。

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第18回 行政調査

2021年01月19日 23時01分30秒 | 行政法講義ノート〔第7版〕

 1.行政調査とは何か

 行政調査とは、簡単に言えば行政活動の一環としての調査のことであるが、厳密に定義がなされている訳ではない。行政調査を広く捉えるならば、 国勢調査などの統計調査も含まれるが、行政法学や租税法学でとくに問題となるのが、税務調査など、特定の具体的処分の前提となる(あるいは関連する)ものである。調査には質問・立入・検査などの態様があり、任意調査(事実行為)、実効性が刑罰によって担保されるもの、物理的実力行使が認められるものなどがある。

 かつて、行政調査は即時強制の箇所において扱われていた。しかし、最近は、租税法学の影響もあり、行政調査を独立した項目として扱うのが一般的である。行政調査の中には、後に触れるように、「直接、私人の身体または財産に実力を加え、これによって行政上の目的を実現すること」という即時強制の定義に沿うものもあるが、沿わないものもあるので、即時強制とは異なる制度として扱うのが妥当であろう。なお、現在は行政調査を情報の収集・管理の一環として理解することも多い。

 

 2.行政調査の種類

 既に述べたように、行政調査について厳密な定義がなされていないこともあって、行政調査と位置づけられるものは多い。ここで、宇賀克也『行政法概説I行政法総論』〔第5版〕(2020年、有斐閣)162頁を参照しつつ、一応の分類を試みる。

 ①純粋な任意調査

 法的拘束力を欠き、相手方が調査に応ずるか否かを任意に決めることができるものである。事実行為に留まり、相手方には何らの協力義務もないため、行政作用法上の根拠を必要としない。

 ②相手方について調査に応ずる義務が法定されているが、その義務を強制する仕組みがないもの(警察官職務執行法第6条第2項など)

 ③相手方が調査を拒否した場合には給付が拒否されるというもの(生活保護法第28条など)

 ④相手方が調査に応じない場合、または応じたとしても十分な資料を提示しない場合には、相手方自身に不利益な事実があったとみなされるというもの

 ⑤間接的強制調査(準強制調査)

 相手方が調査を拒否した場合には罰則(刑罰など)が適用されることにより、間接的に調査の受諾を強制するものである。言い換えれば、質問検査権の行使の相手方は、質問に答えるか否か、検査に応ずるか否かについて、一応の自由を有するが、検査の拒否、妨害または忌避に対しては刑罰が科される。実効性が罰則によって担保されることにより、行政調査の妨害が防止されるのである。

 注意しなければならない点は三つある。第一に、あくまでも間接的に調査の受諾を強制するものであるから、相手方の抵抗(質問への無回答、資料の提示・提出の拒否など)を排除して調査を継続し、臨検、捜索、押収などをなしうるものではない。

 第二に、間接的強制調査の権限を犯罪捜査のために行うことは許されない。

 第三に、実効性を罰則により担保するという性格を有するため、行政作用法上の根拠を必要とする。

 ⑥実力行使が認められる強制調査

 物理的な実力行使が認められる、すなわち、相手方の抵抗を排除して行いうる調査である。純粋な強制調査と表現してもよい。当然のことながら、行政作用法上の根拠を必要とする。

 この種の行政調査を定める規定として有名であったのは国税犯則取締法第2条であった。同条は、「収税官吏」が裁判官の許可(状)を得て臨検や捜索、または差押えを行うことを定めていた〈最大判昭和47年11月22日刑集26巻9号554頁を参照。この場合は、行政事件訴訟法により、差押えの処分に対する取消訴訟を提起しなければならないことになる〉。これは、実質的に刑事訴訟法による手続と同質のものであることを意味するが、「証拠の収集と判定について特別の知識と経験を必要とすること」、および「犯則事件の発生件数がきわめて多く、その処理を検察官の負担にまかせることが実際問題として困難なこと」から、収税官吏により行われるものとされていた〈金子宏『租税法』〔第二十版〕(2015年、弘文堂)1001頁〉。国税犯則取締法は、所得税法等の一部を改正する等の法律(平成29年3月31日法律第4号)第10条および同附則第1条第5号ヘにより、2018(平成30)年4月1日に廃止されたが、この時の改正により国税通則法に第11章(第131条以下)が追加され、純粋な強制調査は同章の規定に基づいて行われることとなった。

 

 3.任意調査の範囲

 ●最三小判昭和53年6月20日刑集32巻4号670頁(Ⅰ―106)

 事案:本件の被告人は、東京都内で手製爆弾を警察官らに対して投げつけて傷害を負わせた他、鳥取県某市内のA銀行B支店で金銭を強奪し、逃走した。被告人は岡山県に逃走したため、同県のC警察署は緊急配備体制を敷いたところ、被告人が乗用車でD交差点付近を走行していたので、C警察署は検問を行い、被告人に対して免許証の提示を求め、職務質問を行った。被告人がボーリングバッグとアタッシュケースを持参していたため、警察官らは開披を求めたが被告人が拒否したため、被告人にC警察署への同行を求めた。警察官が被告人の同意を得ずにボーリングバッグとアタッシュケースを開けたところ、A銀行B支店の帯封がなされた札束などが見つかり、被告人は緊急逮捕された。

 一審判決(東京地判昭和50年1月23日判時772号34頁)は被告人に対して懲役17年の判決を言い渡した。被告人が控訴したが、控訴審判決(東京高判昭和52年6月30日判時866号180頁)は控訴を棄却した。最高裁判所第三小法廷も被告人の上告を棄却した。

 判旨:「警職法は、その2条1項において同項所定の者を停止させて質問することができると規定するのみで、所持品の検査については明文の規定を設けていないが、所持品の検査は、口頭による質問と密接に関連し、かつ、職務質問の効果をあげるうえで必要性、有効性の認められる行為であるから、同条項による職務質問に附随してこれを行うことができる場合があると解するのが、相当である。所持品検査は、任意手段である職務質問の附随行為として許容されるのであるから、所持人の承諾を得て、その限度においてこれを行うのが原則であることはいうまでもない。しかしながら、職務質問ないし所持品検査は、犯罪の予防、鎮圧等を目的とする行政警察上の作用であつて、流動する各般の警察事象に対応して迅速適正にこれを処理すべき行政警察の責務にかんがみるときは、所持人の承諾のない限り所持品検査は一切許容されないと解するのは相当でなく、捜索に至らない程度の行為は、強制にわたらない限り、所持品検査においても許容される場合があると解すべきである。もつとも、所持品検査には種々の態様のものがあるので、その許容限度を一般的に定めることは困難であるが、所持品について捜索及び押収を受けることのない権利は憲法35条の保障するところであり、捜索に至らない程度の行為であつてもこれを受ける者の権利を害するものであるから、状況のいかんを問わず常にかかる行為が許容されるものと解すべきでないことはもちろんであつて、かかる行為は、限定的な場合において、所持品検査の必要性、緊急性、これによつて害される個人の法益と保護されるべき公共の利益との権衡などを考慮し、具体的状況のもとで相当と認められる限度においてのみ、許容されるものと解すべきである」。本件の場合は、被告人が「警察官の職務質問に対し黙秘したうえ再三にわたる所持品の開披要求を拒否するなどの不審な挙動をとり続けたため、右両名の容疑を確める緊急の必要上されたものであつて、所持品検査の緊急性、必要性が強かつた反面、所持品検査の態様は携行中の所持品であるバツグの施錠されていないチヤツクを開披し内部を一べつしたにすぎないものであるから、これによる法益の侵害はさほど大きいものではなく、上述の経過に照らせば相当と認めうる行為である」。

 ●最一小判昭和53年9月7日刑集32巻6号1672頁

 事案:警察官が、覚醒剤中毒者と疑わしき人物Xに対して職務質問を行い、所持品の提示を求めた。Xは目薬などをポケットから出したが、警察官は他に疑わしきものがあるとして提示を求めた。Xは拒んだが、警察官はポケットに手を入れ、注射針と粉末入りのちり紙の包みを出した。この粉末を検査したところ、覚醒剤であることが判明し、Xを覚醒剤不法所持の現行犯として逮捕した。この事件において、Xは覚せい剤取締法違反の他に有印公文書偽造、同行使、道路交通法違反に問われており、裁判では、警察官がXの承諾を得ないままポケットを捜索して差し押さえた物の証拠能力が争われた。一審判決(大阪地判昭和50年10月3日刑集32巻6号1760頁)および控訴審判決(大阪高判昭和51年4月27日刑集32巻6号1765頁)は証拠能力を否定してXを無罪としたが、最高裁判所第一小法廷は、次のように述べて本件を大阪地方裁判所に差し戻した。

 判旨:「警職法2条1項に基づく職務質問に附随して行う所持品検査は、任意手段として許容されるものであるから、所持人の承諾を得てその限度でこれを行うのが原則であるが、職務質問ないし所持品検査の目的、性格及びその作用等にかんがみると、所持人の承諾のない限り所持品検査は一切許容されないと解するのは相当でなく、捜索に至らない程度の行為は、強制にわたらない限り、たとえ所持人の承諾がなくても、所持品検査の必要性、緊急性、これによつて侵害される個人の法益と保護されるべき公共の利益との権衡などを考慮し、具体的状況のもとで相当と認められる限度において許容される場合があると解すべきである」(前掲最二小判昭和53年6月20日を参照)。本件の場合はXに対する所持品検査の必要性および緊急性は是認しうるが、許容限度を逸脱したものと解すべきであり、「右逮捕に伴い行われた本件証拠物の差押手続は違法といわざるをえない」。但し、職務質問の要件は存在し、かつ所持品検査の必要性および緊急性は認められており、許容限度を僅かに超えていたのであって、「令状主義に関する諸規定を潜脱しようとの意図があつたものではなく、また、他に右所持品検査に際し強制等のされた事跡も認められないので、本件証拠物の押収手続の違法は必ずしも重大であるとはいいえないのであり、これを被告人の罪証に供することが、違法な捜査の抑制の見地に立つてみても相当でないとは認めがたいから、本件証拠物の証拠能力はこれを肯定すべきである」。

 ●最三小決昭和55年9月22日刑集34巻5号272頁(Ⅰ―107)

 「第4回:法律による行政の原理において扱った。自動車の一斉検問の法的根拠を警察法第2条第1項と解する。

 

 4.行政調査の要件や手続の問題

 (1)行政手続法には、行政調査に関する一般的規定は存在しない(行政手続法第3条第1項第14号を参照すること)。

 (2)任意的手段による限りであっても、所掌事務と関係のない調査は許されない。この点において、一部の省庁で行われている、情報公開法に基づく開示請求に際しての法定事項以外の請求者の属性調査・情報収集は所掌事務の範囲を超えており、 情報公開法の趣旨に反するため、違法ではないかと考えられる。

 (3)間接的強制調査

 このような場合、調査手続の問題もあるし、憲法第31条、第35条、第38条に違反するかも問題となる。税務調査についての事案が参考となるので、ここで取り上げておこう。

 ●最大判昭和47年11月22日刑集26巻9号554頁(川崎民商事件、Ⅰ―103)

 事案:当時の川崎税務署長は、川崎民主商工会員の被告Yの所得税確定申告に過少申告の疑いを抱いた。そこでYの帳簿書類などを検査しようとしたが、Yはこれを拒んだ。そのため、Yは所得税法に規定される検査拒否罪で起訴された。一審判決(横浜地判昭和41年3月25日金判346号11頁)、控訴審判決(東京高判昭和43年8月23日金判346号6頁)のいずれもYを有罪としたので、Yは上告したが、最高裁判所大法廷は、次のように述べて上告を棄却した。

 判旨:「憲法35条1項の規定は、本来、主として刑事責任追及の手続における強制について、それが司法権による事前の抑制の下におかれるべきことを保障した趣旨であるが、当該手続が刑事責任追及を目的とするものでないとの理由のみで、その手続における一切の強制が当然に右規定による保障の枠外にあると判断することは相当ではない」。しかし、税務調査が「あらかじめ裁判官の発する令状によることをその一般的要件としないからといつて、これを憲法35条の法意に反するものとすることはでき」ない。また、税務調査は、専ら「所得税の公平確実な賦課徴収を目的とする手続であつて、刑事責任の追及を目的とする手続ではなく、また、そのための資料の取得収集に直接結びつく作用を一般的に有するものでもな」く、公益上の必要性と合理性が認められる。さらに、「憲法38条1項の法意が、何人も自己の刑事上の責任を問われるおそれのある事項について供述を強要されないことを保障したものであると解すべき」であり、「右規定による保障は、純然たる刑事手続においてばかりではなく、それ以外の手続においても、実質上、刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結びつく作用を一般的に有する手続には、ひとしく及ぶものと解するのを相当とする」が、税務調査は「憲法38条1項にいう『自己に不利益な供述』を強要するものとすることはでき」ない。

 ●最三小決昭和48年7月10日刑集27巻7号1205頁(荒川民商事件、Ⅰ―104)

 事案:荒川税務署は、荒川民主商工会員の被告Yの所得税確定申告に過少申告の疑いがあるとして調査官を派遣した。しかし、Yは息子とともに、調査官に対して調査には応じられないとして調査官を追い返したため、所得税法に規定される不答弁罪および検査拒否罪にあたるとして起訴された。一審判決(東京地判昭和44年6月25日判時565号46頁)はYを無罪としたが、控訴審判決(東京高判昭和45年10月29日判時611号22頁)は有罪としたため、Yが上告したが、最高裁判所第三小法廷は、決定で次のように述べて上告を棄却した。

 判旨:所得税法第234条第1項は「客観的な必要性があると判断される場合に」職権調査の一つとして質問や検査を行う権限を認めたものであり、「質問検査の範囲、程度、時期、場所等実定法上特段の定めのない実施の細目については、右にいう質問検査の必要があり、かつ、これと相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまるかぎり、権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられているものと解すべく、また、暦年終了前または確定申告期間経過前といえども質問検査が法律上許されないものではなく、実施の日時場所の事前通知、調査の理由および必要性の個別的、具体的な告知のごときも、質問検査を行なううえの法律上一律の要件とされているものではない」。

 ●最三小判昭和59年3月27日刑集38巻5号2037頁

 憲法第38条第1項が供述拒否権(黙秘権)の告知を義務づけるものではないと理解した上で、国税犯則取締法に供述拒否権(黙秘権)に関する規定がなく、収税官吏が質問の際にあらかじめ供述拒否権(黙秘権)の告知をしなかったからといって、憲法第38条第1項に違反するものではない、と述べている。同趣旨の判決は他にも存在する。なお、現在、国税通則法には「納税義務者に対する調査の事前通知等」を定める規定として第74条の9が置かれている。同第74条の10もあわせて参照されたい。

 なお、行政調査という主題から離れるが、行政手続と憲法第31条との関係についての重要な判決として、次のものを紹介しておく。

 ●最大判平成4年7月1日民集46巻5号437頁(成田新法事件。Ⅰ―116)

 事案:新東京国際空港の安全確保に関する緊急措置法(いわゆる成田新法。現在は成田国際空港の安全確保に関する緊急措置法)の第3条第1項に定められた工作物使用禁止命令の合憲性が問われたものである。この規定には、命令の相手方に対する告知、弁解、防御の機会を与えるという趣旨が盛り込まれていない。Y(運輸大臣)は、毎年、Xに対し、空港の規制区域内所在のX所有の小屋につき、暴力主義的破壊活動者の集合や活動などへの供用を禁止する処分を繰り返した。Xは処分の取消および国家賠償を求めて出訴したが、一審判決(千葉地判昭和59年2月3日訟月30巻7号1208頁)は、取消請求については却下し、国家賠償については棄却した。控訴審判決(東京高判昭和60年10月23日民集46巻5号483頁)は、一審判決の一部を変更したものの、やはりXの請求を一部却下し、一部棄却した。最高裁判所大法廷も、Xの請求を一部却下し、一部棄却した。

 判旨:「憲法31条の定める法定手続の保障は、直接には刑事手続に関するものであるが、行政手続については、それが刑事手続ではないとの理由のみで、そのすべてが当然に同条による保障の枠外にあると判断することは相当ではない」が、「同条による保障が及ぶと解すべき場合であっても、一般に、行政手続は、刑事手続とその性質においておのずから差異があり、また、行政目的に応じて多種多様であるから、行政処分の相手方に事前の告知、弁解、防御の機会を与えるかどうかは、行政処分により制限を受ける権利利益の内容、性質、制限の程度、行政処分により達成しようとする公益の内容、程度、緊急性等を総合較量して決定されるべきものであって、常に必ずそのような機会を与えることを必要とするものではないと解するのが相当である」。

 (4)質問検査権の行使(間接的強制調査)と犯則調査(実力行使を伴う強制調査)との関係

 国税通則法第74条の8は、質問検査権を犯罪捜査のために利用してはならないという趣旨の規定である。すなわち、当初から犯罪を捜査するために税務調査を行ってはならないのである。しかし、質問検査権を行使して税務調査を進めるうちに、何らかの犯罪容疑を裏付ける事実が発見されることもありうる。このような場合、行政調査によって得られた資料を犯則調査に利用することが可能であるのかが問題となる。

 このような行政調査(税務調査)について、犯罪捜査のために行うことは許されないという前提があるからには、仮に行政調査(検査の拒否、妨害または忌避に対する罰則を伴う)によって得られた資料を犯則調査に利用できるとすれば、憲法第38条第1項の趣旨に反することになるため、税務調査で得られた供述を犯則調査に利用し、さらに刑事裁判で証拠とするのは許されない、という考え方もある川出敏裕「税法上の質問検査権限と犯則事件の証拠」ジュリスト1291号200頁、およびそこに掲げられた諸文献を参照しかし、判例は異なる態度をとる。

 ●最二小決平成16年1月20日刑集58巻1号26頁(Ⅰ―105)

 事案:X1社、X2社の統括管理者は、X2社の代表取締役にしてX1社の実質的経営者であるX3と共謀し、両社の売り上げを一部除外した上で架空の経費を計上するなどの方法によって所得を秘匿し、平成元年から平成4年までの事業年度にわたり、合計で2億9000万円ほどの法人税を免れた、として起訴された。

 問題となったのは、この起訴に至る経緯である。高松国税局調査査察部は、X1社およびX2社に対して内偵立件の決議を行い、この両社と取引関係にある者の課税実績に関する情報を収集していた。X3は税理士と相談し、その税理士が今治税務署に行き、修正申告の可否などについて相談を行った。同じ日に、今治税務署副所長と統括国税調査官が協議を行い、2名の税務署職員を調査に赴かせた。彼らは税理士の立会いの下、X1社およびX2社の事務所において調査を行い、質問などを行うとともに帳簿を預かり、預金残高に関するメモや集計票の写しを受け取り、今治税務署に戻った。統括国税調査官は、査察による調査が必要であると判断し、高松国税局調査査察部の統括主査に対して過少申告などを報告した。高松国税局調査査察部は、査察立件決議を行い、高松簡易裁判所に、X1社およびX2社の事務所などを臨検場所とする臨検・捜索・差押許可状の発布を請求した。高松簡易裁判所が許可状を発布し、その翌日に高松国税局調査査察部は証拠品を押収した。

 この事件においては、最初に税務調査が行われ、そこで得られた資料を基にして国税犯則調査が行われていたことになる。そのため、税務調査が国税犯則調査の手段として利用されたとして、法人税法第156条・第163条、憲法第31条・第35条・第38条に違反するという主張が、弁護人からなされた。しかし、一審判決(松山地判平成13年11月22日判タ1121号264頁)は弁護人の主張を退け、X1社、X2社およびX3の全員を有罪とした。控訴審判決(高松高判平成15年3月13日判時1845号149頁)は全員の控訴を棄却し、最高裁判所第二小法廷も全員の上告を棄却した。

 判旨:「法人税法(平成13年法律第129号による改正前のもの)156条によると、同法153条ないし155条に規定する質問又は検査の権限は、犯罪の証拠資料を取得収集し、保全するためなど、犯則事件の調査あるいは捜査のための手段として行使することは許されないと解するのが相当である。しかしながら、上記質問又は検査の権限の行使に当たって、取得収集される証拠資料が後に犯則事件の証拠として利用されることが想定できたとしても、そのことによって直ちに、上記質問又は検査の権限が犯則事件の調査あるいは捜査のための手段として行使されたことにはならない」。

 しかし、このように理解した場合、手続面での人権保障の意味がどうなるのかという疑問が生じよう。

 また、この決定では、税務調査の結果として得られた資料を犯則調査の資料として利用することがどこまで許されるのか、明確に述べられていない。当初から犯則調査のために税務調査をするのでなく、税務調査の結果として犯則調査に至るのは許されるということなのであろうか。しかし、これでは行政調査と犯則調査とを厳格に分離しなくともよい、という結論に至らないであろうか。

 ●最一小判昭和63年3月31日訟月34巻10号2074頁

 事案:不動産販売業のX社は青色申告の承認を受けていたが、Y税務署長はX社の売上原価の伸び率が高く、借入金および未払いの発生が多額であったことなどから税務調査を行った。他方、X社には売上原価について架空の原価を計上した疑いがあり、東京国税局査察部は査察官をX社に派遣し、臨検、捜索、差押えなどを行い、質問調査なども行った。その後、Y税務署長は前記査察調査に基づく課税資料を入手し、税務調査を行った。その結果、Y税務署長はX社への青色申告承認を取消す処分を行い、税額更正処分および重加算税賦課決定処分も行った。X社はこれらの処分の取消を求めて出訴したが、一審判決(東京地判昭和61年11月10日税資154号458頁)は請求を棄却し、控訴審判決(東京高判昭和62年4月30日税資158号499頁)もX社の控訴を棄却した。最高裁判所第一小法廷もX社の上告を棄却した。

 判旨:「収税官吏が犯則嫌疑者に対し国税犯則取締法に基づく調査を行つた場合に、課税庁が右調査により収集された資料を右の者に対する課税処分及び青色申告承認の取消処分を行うために利用することは許されるものと解するのが相当であ」る。

 

 ▲第7版における履歴:2021年1月19日掲載。

 ▲第6版における履歴:2015年9月22日掲載(「第22回 行政指導」として)。

            2015年10月20日、第20回に変更。

                                2017年10月11日補訂。

            2017年10月26日修正。

                                    2017年12月20日修正。

              2018年7月23日修正。

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「改革」が続く日本は「改革」疲れか

2021年01月17日 22時00分00秒 | 国際・政治

 今回の話は政治と経済の両方に関わります。

 2日遅れで取り上げますが、朝日新聞2021年1月5日付朝刊10面13版に「経済気象台 四半世紀超の改革の果てに」という記事が掲載されていました。

 この記事は、「日本経済の低成長が続く。企業活力の低下や産業の低下が疑われる」という文章で始まりつつ、何故に日本が低迷を続けるのかを考えようとするものです。

 この記事を書かれたRさんは、1980年代の後半、通商摩擦に起源を見ているようです。これ自体は新しい指摘ではないのですが、重要かもしれません。米英を発端とする新自由主義に我が国も乗っかり、「企業統治改革」や「規制緩和」が盛んに言われ出したのです。

 それから25年ほどとなります。R氏は菅内閣総理大臣の所信表明を取り上げています。「縦割り行政、前例主義、既得権益の打破」です。25年程も続いている訳ですが、R氏は「企業統治改革やROE(自己資本利益率)重視の経営改革などが、果たして企業を活性化させイノベーションを促進したのだろうか」と問いかけ、刈谷剛彦氏の著書を引用(または参照)しつつ、自ら否定します。「新自由主義的な改革に賛同する経営者も学者も官僚も、実は自らの組織を根底から見直す覚悟はなく、表層をなぞったにすぎないのかもしれない。自らの組織はさておいて、他の組織の改革を訴える二重基準も広く見られる」と。

 思い当たる節もあるでしょう。COVID-19の感染が拡大して、最近では特によく目に付くようになりました。

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そもそも質疑応答になっていない 問題外の外になってしまっている

2021年01月16日 01時00分00秒 | 国際・政治

 緊急事態宣言の延長の可能性について菅義偉内閣総理大臣が「仮定の質問には答えられない」と発言したことに疑問の声が出されていました。それは当然のことです。「何が何でも1か月で解除する」という意向を示すのはよいとして、事態の打開が見られないことを想定していることを示すことが必要でしょう。

 もっとわからなかったのが、1月13日の記者会見です。

 今回は「そもそも」という言葉が多くなることをお許しいただきたいのですが、ここ何年かの記者会見については「そもそも記者会見になっていない」という指摘が多くなされています。最初から質問者および質問数が限定され、追加質問は許されないというのでは、記者会見をやる意味がないでしょう。

 13日、政府対策本部で緊急事態宣言の対象地域の拡大について、福岡県と静岡県が言い間違えられた(取り違えられた?)とも報じられています。その場で訂正するならともあれ、会議の後で訂正されるというのは問題でしょう。同じ「岡」が使われているといっても福岡県と静岡県とは位置が離れすぎていますし、人口も社会的状況も異なります。地理の苦手な人が福岡県と福島県を取り違えたり、山形県と山口県とを混同したりするようなレヴェルですが、他愛もない会話ではなく、法律に基づく緊急事態宣言という措置なのですから、

 さらに、私が「コミュニケーションも何も取れないのではないか?」と疑ったのは、記者会見でした。医療体制の強化のための法整備について記者が質問したのに対し、内閣総理大臣は国民皆保険制度の再検証・見直しの必要性を口にしました。国民皆保険制度を壊すつもりかという疑念が飛び交うのは当然として、それ以前の話として、そもそも質問に対する回答(解答)ができていないのです。医療体制の強化ということは、医師、看護師、医療機器、病院、救急体制などの問題ということであり、保険制度のあり方とは直接の関係がありません。全く別の事柄です。仮に応答の内容が保健所の体制に関するものであれば、まだ救われました。

 2021年1月13日23時9分付で朝日新聞社のサイトに掲載された「迷走の菅首相 言い間違え、真意不明…尾身氏らフォロー」という記事(https://digital.asahi.com/articles/ASP1F7HCJP1FUTFK01Y.html)でも「発言の真意は不明だが、国民皆保険を見直す考えを示したとも受け取れる発言だった」と控え目に書かれていましたが、そもそも真意不明以前のことです。これは、私が通っていた神奈川県立多摩高等学校で使われていた「問題外の外」という言葉が当てはまります。問題外のさらに外ということです。1月15日付の朝日新聞朝刊4面14版に掲載された「国民皆保険『制度は守る』 加藤氏、会見で説明 首相の『改正』発言で」という記事によれば、見出しの通り、加藤勝信内閣官房長官が内閣総理大臣の発言を打ち消したということです。それはそうでしょう。国民皆保険制度が守られなければ、医療サーヴィスに関する極端なまでの格差が生じますし、死亡率が高まるなどして平均寿命も短くなり、ついには国力も失われるでしょう。それだけでなく、COVID-19で危機にさらされているのは医療体制なのですから。

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高津駅(DT09)にて東急8500系8635Fを撮影する

2021年01月15日 00時00分00秒 | 写真

 

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不気味な話

2021年01月14日 00時00分00秒 | 国際・政治

 「やはり」とお思いの方も多いことでしょう。1月13日、緊急事態宣言の適用地域が拡大しました。

 新たに対象となったのは、栃木県、岐阜県、愛知県、京都府、大阪府、兵庫県および福岡県です。また、独自に緊急事態宣言を発出した県もあります。

 この緊急事態宣言は2月7日までとされています。しかし、この期間が経過すれば解除されると考えないほうがよいでしょう。昨年4月の緊急事態宣言を思い出してください。最終的に解除されたのは5月25日でした。その時とは感染者数も重症患者数も違います。もう、東京オリンピックは中止でしょう。

 さて、1月13日の19時58分付で朝日新聞社が「緊急事態、解除急ぐと4月に再宣言の恐れ 西浦教授計算」として報じていました(https://digital.asahi.com/articles/ASP1F6FM4P1FULBJ015.html)。見出しの通り、京都大学の西浦博教授がシミュレーションをまとめ、これを厚生労働省の会合に提出したということです。

 新型インフルエンザ等対策特別措置法および同法施行令には明確な基準が定められていませんが、緊急事態宣言の解除には一定の基準があるようで、今回はステージ3の段階で解除することを想定しているようです。ステージ4が最も深刻な状況ですから、ステージ3で解除というのは甘いという気がします。上記記事によると、東京での新規感染者が1日平均で約500人以上であればステージ4、約300人以上であればステージ3です。

 このシミュレーションでは、実効再生産数という基準が使われています。「感染者1人が感染させる人数」のことで「1未満であれば感染が収まっていく」のです。東京での12月下旬の実効再生産数は平均でおよそ1.1であったそうです。緊急事態宣言が発出されたために実効再生産数が0.88まで下がるならば、2月24日には1日平均で新規感染者が500人未満になるといいます(勿論、様々な前提がある訳です)。しかし、ここで気を緩めてしまうと実効再生産数が1.1に戻り、4月14日には今回の緊急事態宣言が出された時と同じ程度まで新規感染者が増えるというのです。

 また、かなり希望的な観測ではないかと思うのですが、実効再生産数が0.72になるならば、2月25日までに1日平均で新規感染者が100人未満にまで下がるそうです。ここで緊急事態宣言を解除し、実効再生産数が1.1に戻って再度の緊急事態宣言が必要となるのは7月中旬になる、ということです。

 記事では明言されていませんが(いや、明言も推測もされるべきではないでしょう)、少なくとも一部の専門家(厚生労働省に関係する)は緊急事態宣言の延長を想定しているであろうとうかがえます。別に専門家でなくとも、緊急事態宣言が2月7日をもって解除されることはないとお考えの方も多いのではないでしょうか。

 大学教員である私の立場からすれば、2021年度に入って対面授業を原則とするという方針(?)は時期尚早ではないかと思われます(余程急速に効果を現す対策が採られるのであれば話は別ですが)。

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東急9020系9023F

2021年01月13日 07時30分00秒 | 写真

 再度の緊急事態宣言が発出されましたが、人通りはどうなのでしょうか。昨年(2020年)の緊急事態宣言が発出されるまではよく行っていた青葉台東急スクエア(ブックファーストやフィリアホールがあるため)や二子玉川ライズは、営業時間を短縮しています。

 こういう時にどうかとは思いますが、主に東急大井町線、出入庫などの関係で東急田園都市線も走る東急9020系9023Fの写真を掲載しておきます。

 大井町線B各停(田園都市線の二子新地駅および高津駅に停車する各駅停車で、車内の自動放送では「田園都市線経由」と案内されます)溝の口行きです。

 9020系は「2000系改め9020系」において紹介したように、元々は田園都市線・半蔵門線の輸送力増強用として1992年に登場した2000系で、10両編成3本、つまり30両が製造されました。但し、2003Fのみは1993年に東横線で8両編成として登場し、同年中に10両編成化されて田園都市線に移ってきました。

 しかし、2000系は東武伊勢崎線・日光線に乗り入れることができず、田園都市線・半蔵門線においても運用が減りました。或る意味では不運な形式です。2020系が登場し、増備されることになると、8500系や8590系よりも先に田園都市線・半蔵門線の運用から外されることとなります。2018年のことで、最初に外されたのが2003Fでした。そして、5両編成化されて大井町線用となりました。田園都市線・半蔵門線時代には急行や準急としても運用されていましたが、大井町線に移ったことにより、各駅停車専用となりました。

 2019年、2000系は9020系に改められます。これにより、2003Fは9020系に改められました。番号だけでなく、VVVF制御の方式、パンタグラフの位置、クーラーキセの形なども変わりました。私は2000系のあの音が好きでしたが、変わってしまい、残念です。

 外見は、かつての東横線の主力、今は大井町線の主力である9000系と非常によく似ています。正面だけならほぼ同じといってもよいでしょう。ただ、屋根のクーラーキセの配置が9000系とは大きく異なるので、そこで区別することができます。

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新型コロナウイルス感染症検査の円滑かつ迅速な実施の促進に関する法律案

2021年01月12日 01時48分00秒 | 国際・政治

 そろそろ第204国会が召集される頃です。COVID-19に関連して2020年度補正予算第3号(いわゆる第三次補正予算)も提出されるでしょう。

 さて、仕事の関係で何かと参照することが多い衆議院のサイトを見ていると、議員提出法律案には実に多くのCOVID-19関係法律案が提出されていることがわかります。ネットなどで国会議員を減らせなどと書いている人、話している人は、衆議院でも参議院でもよいのですがサイトを見て、議員提出法律案などを読んだりしているのでしょうか。

 今回取り上げるのは、2020年の通常国会である第201回国会における衆議院議員提出法律案第3号、新型コロナウイルス感染症検査の円滑かつ迅速な実施の促進に関する法律案です。第203回国会においても閉会中審査の扱いとされています。題名は長いのですが、条文数は少なく、本則は第1条から第10条までです。

 第1条は目的規定で、COVID-19が「全国的かつ急速なまん延を防止することが喫緊の課題となっていることに鑑み」て「新型コロナウイルス感染症検査」(PCR検査のことでしょう)の「実施体制の整備に必要な措置等を定めることにより、新型コロナウイルス感染症検査の円滑かつ迅速な実施を促進し、もって国民の生命及び健康を保護することを目的とする」となっています。

 第2条は「医師の届出」という見出しの下、第1項において医師に対し、PCR検査の結果が得られたら直ちに都道府県知事(保健所設置市または特別区の場合は市町または区長。以下、都道府県知事に代表させることとします。)に届け出ることを義務付けるとともに、第2項において都道府県知事に対し、厚生労働大臣への報告義務を課しています。

 第3条は「検査の実施件数及びその結果の公表」という見出しの下、厚生労働大臣に対し、第2条第2項による報告の他、感染症法第12条第2項などの規程による報告に基づいて「新型コロナウイルス感染症検査の実施件数及びその結果を集計し、その結果をインターネットの利用その他適切な方法により、速やかに公表しなければならない」と義務付けています。

 第4条は「検査の実施体制及び実施状況に関する調査」という見出しの下、PCR検査の実施体制や実施状況についての必要な調査を義務付けています。

 第5条は、国がPCR検査の実施体制や実施状況について「速やかに」検証を行うことを義務付けています。

 第6条は「検査の実施体制の整備」に関するもので、国、都道府県、保健所設置市および特別区に対し、行政検査(感染症法第15条第4項などに基づく検査のこと)の「実施体制の整備」や「医療機関、民間事業者等に対する支援その他の必要な措置を講ずるものとする」としています。

 第7条は国に対し、PCR検査の能力向上につながる「研究開発の促進及びその成果の普及に必要な施策を講ずるものとする」というものです。

 この法律案において、或る意味で最も重要な規定であると思われるのが第8条で、「検査の迅速な実施」という見出しの下、「都道府県知事は、医師が新型コロナウイルス感染症にかかっていると疑うに足りる正当な理由のある者を診察し新型コロナウイルス感染症検査が必要と判断した場合において、当該医師から、新型コロナウイルス感染症について感染症法第7条第1項の政令により準用することとされた感染症法第15条第4項の検査の実施を求められたときは、当該医師の意見を尊重し、迅速に実施するよう努めるものとする」としています。

 第9条は財政上の措置などを国に義務付ける規定であり、第10条は都道府県、保健所設置市または特別区が第2条に従って行う事務を法定受託事務とする規定です。

 第204回国会においても審議されるかどうかはわかりません。しかし、ここまで感染が拡大しているのですから、審議は必要でしょう。修正を加えてもよいのですし、内容がよくないというのであれば否決すればよいだけです。

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どう考えても

2021年01月07日 18時10分00秒 | 国際・政治

 今日(2020年1月7日)、東京都における新規感染者が2447人も確認されました。年末年始、人出が多かったようなので、或る意味で当然のことかもしれません。

 東京でこれなら全国で多いだろうと思っていたら、案の定、7000人を超えたという速報が入ってきました。これだけ感染者が多ければ、重症となられる方も多くなるはずです。

 再度の緊急事態宣言は1月8日に出されることになります。その対象地域として、東京都、神奈川県、千葉県および埼玉県が想定されていましたが、大阪府も要請したということです。場合によっては京都府および兵庫県も入る可能性があります。

 緊急事態宣言が出されたところでいかほどの効果があるのか、疑問がない訳ではありません。4月の時点と現在とでは感染者数などが違うからです。何処まで押さえ込めれば成功なのか、聞いてみたいものです。

 こうなると、どう考えても今年中に東京オリンピックを開催することなど無理でしょう。2020年の段階で中止にしておけばよかったのですが、延期を選んだために、費用ばかりが膨らんできます。仮に今年開催するならば、選手は皆防護服、マスクなどを着けるのでしょうか。これでは競技どころでないでしょう。感染の機会が増えてしまうことは確実です。今中止を選んだとしても、費用はどうしようもありません。結局、経済的には損失ばかりが残るという結果になるでしょう。しかし、生命、健康に代えて経済というほどのものでしょうか。

 そもそも、当初はコンパクトなオリンピックと言われていたのに、コンパクトどころか規模から費用からが大きくなる一方です。仮に2020年に行われたとしても、閉会後に経済は冷え込んだでしょう。1964年の東京オリンピックの後に証券不況がありましたし、1998年の長野冬季オリンピックの後には長野県の財政状況が悪化しました。2016年のリオデジャネイロオリンピックの後にブラジルが深刻な不況に見舞われたことも忘れてはなりません。今の日本には、1964年の時ほどの体力はありません。それに、開催国の気象などが無視され、某地域のプロスポーツの開催状況に左右されるような大会を開かざるをえないというのは、むしろ日本は「馬鹿にするな!!」と札束か何かを相手の頬に叩きつけるべき話です。それができないのですから、とても先進国とは言えません。

 緊急事態宣言がどの程度続けられるのかはわかりません。しかし、1か月であったとしても相当な打撃となります。うちの近所でも、飲食店ではないのですが長期休業を決めた店舗がありました。

 この1月、対策の具体的な中身などを誤れば、どうしようもない状況に追い込まれます。

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交通政策基本法と国土強靱化基本法の双方を改正する法律

2021年01月06日 08時00分00秒 | 法律学

 2021年に入って早々、COVID-19の勢いが止まりません。有名人が次々に感染していますし、公営競技では再び無観客で開催する所も出ています。大相撲初場所はどうなのでしょう。私の仕事に関係することを記せば、入試などはどうなるのか、というところです。

 そのような状況ですが、昨年12月5日に閉会した第203回国会で、気になる法律が成立していました。衆議院議員提出法律案(提出者は衆議院国土交通委員会委員長)第5号、令和2年12月9日法律第73号の「交通政策基本法及び強くしなやかな国民生活の実現を図るための防災・減災等に資する国土強靱化基本法の一部を改正する法律」です。このブログでも交通基本法案、交通政策基本法を取り上げていますし、大東法学26巻2号(2017年)において「交通政策基本法の制定過程と『交通権』〜交通法研究序説〜」という論文を公表した私としては、非常に気になります。しかも、ただ交通政策基本法のみを改正するのではなく、国土強靱化基本法も併せて改正しているのです。

 まずは法律の条文を紹介しましょう。なお、数字は算用数字に改めています。また、改正法は慣れないと非常に読みにくいので、一部、文字の色を変えています。

 

 (交通政策基本法の一部改正)

第1条 交通政策基本法(平成25年法律第92号)の一部を次のように改正する。

  第3条第1項中「進展」の下に「、人口の減少」を加え、「及び地域経済の活性化」を「並びに地域経済の活性化、地域社会の維持及び発展」に改め、同条第2項中「当たっては」の下に「、国土強靱化の観点を踏まえ」を、「こと」の下に「等を通じて、我が国の社会経済活動の持続可能性を確保すること」を加える。

  第16条中「国は」の下に「、少子高齢化の進展、人口の減少その他の社会経済情勢の変化に伴い、国民の交通に対する需要が多様化し、又は減少する状況においても」を加える。

  第17条の次に次の一条を加える。

  (公共交通機関に係る旅客施設等の安全及び衛生の確保)

 第17条の2 国は、国民が安全にかつ安心して公共交通機関を利用することができるようにするため、公共交通機関に係る旅客施設及びサービスに関する安全及び衛生の確保の支援その他必要な施策を講ずるものとする。

  第18条中「前2条」を「前3条」に改める。

  第20条中「活性化」の下に「、地域社会の維持及び発展」を、「形成」の下に「(基幹的な高速交通網の形成を含む。)、輸送サービスの提供の確保」を加える。

  第21条中「強化」の下に「、人材の確保(これに必要な労働条件の改善を含む。)の支援」を加える。

  第22条中「国は」の下に「、国土強靱化の観点から、我が国の社会経済活動の持続可能性を確保することの重要性に鑑み」を加える。

 (強くしなやかな国民生活の実現を図るための防災・減災等に資する国土強靱化基本法の一部改正)

第2条 強くしなやかな国民生活の実現を図るための防災・減災等に資する国土強靱化基本法(平成25年法律第95号)の一部を次のように改正する。

  前文のうち第2項中「おそれがある」の下に「。また、近年、地震、台風、局地的な豪雨等による大規模自然災害等が各地で頻発している」を加える。

  第8条第2号中「国家」を「行政、情報通信、交通その他の国家」に改め、同条第4号中「より」の下に「、地域の活力の向上が図られ」を加える。

   附 則

 この法律は、公布の日から施行する。

 

 国会に提出される法律案には、必ず提案理由が付されています。この法律については、次のとおりです。

 「交通に関する施策の一層の推進を図る観点から、交通の機能の確保及び向上を図るに当たっては、人口の減少に対応しつつ地域社会の維持及び発展に寄与するものとなるようにすべきこと並びに国土強靱化の観点を踏まえ我が国の社会経済活動の持続可能性を確保することが重要であることを規定する等の必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。」

 議員立法であるだけに、参考資料がどれだけ手に入るかわからないのですが、何らかの形で論じたいと思っています。

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