2020年10月24日0時0分0秒付で「コロナ渦でも地方移住は進まない?」という記事を掲載しました。コロナ渦がなくとも地方移住は難しいと言われていましたし、実際に失敗例の記事をいくつも見つけることができます。
これは、別に首都圏から他地方への移住に限られない話であろうと思います。場所にもよりますが、閉鎖的な地域に移住して掟に従わなければならず、神経をすり減らし、ついには病気になったり家庭崩壊に至ったりするということもあるようです。川崎市の某地区ですら講中があるくらいですから、他地区から移住した者には意味がわからない慣習に戸惑うのも当たり前です。
さて、今回は前掲記事の続きのようなものです。今日(2021年1月5日)の朝日新聞朝刊25面14版に「(ニュースQ3)東京の転出超過続くけど…地方には?」という記事が掲載されていますので、これを題材として記していきます。
コロナ渦のためか、東京都からの人口流出が続いており、2020年12月1日における東京都の人口は37000人ほどの減少となっています。転出超過ということで、5か月連続であるそうです。かつて、2012年にも転出超過があったのですが、それ以来ということになります。
しかし、転出先を見ると、神奈川県が最も多くて22.5%、次いで埼玉県が18.4%、千葉県が13.5%です。この3県だけで50%を超えます。あとは大阪府が4.8%、愛知県が3.4%、北海道が2.9%、福岡県が2.8%、茨城県が2.7%、静岡県が2.4%、その他の府県が26.2%となっています。少ないとはいえ茨城県および静岡県は東京に近いと言えます。JR東日本の東京近郊区間を見ると、茨城県は水郡線の常陸大子〜下野宮を除く全県内区間が入っていますし、常磐線やつくばエクスプレスのおかげで同県南部は東京への通勤圏内となっています(1駅だけある東北本線も忘れてはいけません)。静岡県も東海道本線の熱海駅と伊東線が入っています。一方、神奈川県内も走る御殿場線は入っていませんが、これは同線がJR東海の路線であるからです。熱海市や伊東市も東京への通勤圏内と言えるでしょう(時間はかかりますが)。三島、沼津、御殿場となると厳しいかもしれませんが、東京から遠く離れているとも言えないような場所です。
上記記事には江東区から鎌倉市に移住した人の例が載っています。テレワークの普及(と言えるかどうかは微妙なところでしょうが)により、引っ越したということでしょう。たしかに、家賃は安くなりますし、部屋の広さも東京よりは広いでしょう。それでも、首都圏を離れる気はないということです。
「そうだろうな」と思えるところもあります。公共交通、医療機関などを考えれば、首都圏を離れるつもりがないという気持ちはわかるのです。
まずは仕事や学校の関係です。転居すると言っても仕事を辞めたり変えたりしないほうが多いでしょう。勿論、テレワークと言っても全ての業種で導入できる訳がありません。
また、首都圏、中京地区、京阪神地区といった大都市圏を除けば、鉄道網やバス路線網は貧弱で、自動車を運転できない人は生活できません。政令指定都市でも公共交通機関の利便性が低い所があります。運転できる人でも、いつまでもできるとは言えませんし、体調が悪い時などはどうしようもなくなるでしょう。
さらに、地方によっては医療機関が極端に少ない場所もあります。COVID-19で医療が逼迫する危機的状況にありますが、東京でそうであれば、他所はなおさらということになりかねません。インターネットの記事を見ると、報じ方や取り上げ方にもよるのでしょうが、むしろ首都圏以外の地方のほうがクラスターが多く発生しているのではないかと思われるほどです。
上記記事には「首都圏全体の人口はむしろ増えている。地方分散が始まったと言える状況にはない」という、明治大学名誉教授の市川宏雄氏のコメントが掲載されています。
また、不動産関係者のコメントで、東京都からの転出が多くなった理由の何割かはその通りであろうというものがあります。SUUMOの編集長である池本洋一氏は、都心の家賃などが高すぎることを指摘しています。緊急事態宣言時などで学校が休校となっていた頃に騒音トラブルが例年の何倍にも増えたそうで、それならば都心から離れた地域に住めばよいということです。
それでは、法人のほうはどうかと言えば、やはり首都圏以外の需要がないということのようで、首都圏内での拠点移転ということでしょう。渋谷などで空きテナントなどが増えているそうですが、敢えて他の地方に移す意味が薄いということです。考えてみれば当たり前のことで、商売の基盤、地盤がないような場所へいきなり移ってうまくいく訳がありません。家賃が高すぎる所から少しでも安い所へ移ればよいだけです。
人口動態を見るには、まだ期間が短いとも言えるかもしれません。様子をじっくりと観察していくしかないでしょう。