英の放電日記

将棋、スポーツ、テレビ等、日々感じること。発信というより放電に近い戯言。

2020 A級順位戦 羽生九段-糸谷八段 その5

2020-09-22 13:50:52 | 将棋
【「2020 A級順位戦 羽生九段-糸谷八段 その4」の続き】


 残り時間9分で第9図を迎えた羽生九段が動かない。………残り3分、ようやく羽生九段の手が動き、8七の銀をつまんだ。▲7八銀!
 龍角両取りだ…………しかし、これは……△7八同角成▲同金△同龍で、角と金銀の二枚替えの駒損。
 先手の持駒が豊富なら、角を手にすることの意義は大きいが、手駒は飛角歩のみと乏しい。持駒が乏しくても、駒の振り替わりの直後に手番を握っているので、王手やそれに近い優先度を持つ飛車打ちで、手順に龍を作りながら敵玉に迫ることができるのなら良いのだが、そこまで厳しい飛車打ちはない。
 ………▲7八銀からの駒の振り替わりは、優位を無にしてしまう疑問の手順だった(悪手と言っていいだろう)。

 正着はやはり▲7二飛


 この手には△8三角が怖いが、

 ▲7二飛と打ったからには取る一手の▲5二飛成に対しては、①△4七角行成と②△4七角引成がある。
 ①の△4七角行成には▲3九玉で大丈夫(▲3九玉に代えて▲4九玉は△5八角成で終わり)。
 ②の△4七角引成には▲4九玉で大丈夫(▲4九玉に代えて▲3九玉は△5九龍▲同銀△3八銀でおしまい)。

 変化図6以下、△5九龍▲同銀△3八銀が危険に見えるが、▲同金△同馬▲5八玉で大丈夫。


 戻って▲7二飛に△4七角成▲同玉△8三角の王手飛車も気になるが、これには▲7四角の絶好の切り返しがある。

 以下、△7二角▲5二角成△4二飛の根性受けには▲同馬△同金▲3四飛で一手一手。

 これらの変化は、通常の羽生九段なら一目。一目とは言わないまでも5分あれば十分だろう。
 しかし、この日5時間50分の熟慮し、残り9分という肉体的にも、精神的にも、残り時間も切迫した状況では、頭がもつれてしまった。……夕食を挟んでの長考は時間もエネルギーも消耗してしまう

 《夕食休憩前の第3図は確かに終盤の方向を決定する重大局面だが、ある程度読んだうえで自分の大局観と照らし合わせて、時間とエネルギーを温存すべきだ》と主張しようと記事を書き始めたが、本局の場合、あまりにも難解過ぎた「その1」参照)。運が悪かった。
 しかし、「その1」「その2」「その3」「その4」と書いてきて、その考えは変わった。
 難解な局面を読み切ろうとする。結論を出して着手したが、その後に誤算があり、修正を余儀なくされた。そこで、最善の手順を絞り出す。………その結果、エネルギーと時間を消耗し、足がもつれ逆転を喫す。。。
 このような状況での積み重ねの熟考が羽生将棋を作ってきたのだ。
 この将棋を見て……夕食を挟んで熟考する羽生九段を見て……これだけのエネルギーがあれば、大丈夫。そして、羽生九段は本当に将棋が好きなんだなあと実感した。


 私の言いたいことを書いてしまったので、本記事シリーズはここで終了してもいいのですが、あと1回続きます。
コメント (3)
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