英の放電日記

将棋、スポーツ、テレビ等、日々感じること。発信というより放電に近い戯言。

2020A級順位戦 羽生九段-佐藤天九段 その2

2020-09-28 17:51:42 | 将棋
「その1」(7月29日記事)より著しく日が経ってしまったので、復習します。

 角交換腰掛銀戦。間合いの計り合いから、羽生九段が仕掛け、右辺で複雑難解な制圧戦が行われた。その中で、羽生九段が不可解な角の動きを見せ、それに乗じた佐藤天九段が制圧しそうな気配があった。

 しかし、玉が前線で陣頭指揮を執っているのは危険と見た佐藤九段が玉を3二に後退させ譲歩した。…以下、▲4四歩△8八歩▲4六桂△2四金▲7七桂△4二歩と進む。佐藤天九段も△8八歩を利かせたものの、△4二歩と謝るのは相当の屈伏。【復習、終わり】



 第6図の△4二歩と謝ったのは相当な屈伏なのだが、佐藤天九段は、こういう譲歩が時折観られる。ただし、それは単なる後退ではなく、その後の反撃を秘めての戦略的撤退で、本局は2~4筋の攻防中に、△9六桂~△8八歩と先手玉にくさびを打ち込んでいる。4筋の屈伏は、先手玉へのくさびで釣り合いがとれている。両方で頑張るのは、齟齬が生じるという考えなのかもしれない。
 とは言え、そのくさびは急所を外れていて、先手の4四と6四の2枚の歩の方が利いていそう。先手に桂の入手の権利があるのもプラス要素で、先手がよさそう。
 しかし、第6図での先手の指し手が難しい。(微差ということなのだろう)

 第6図で攻めるなら、▲9六香と桂を取り、次に▲3三歩△同銀(△同玉)▲3四歩△2二銀▲3四歩と更に拠点を作っておくか、▲3三歩△同銀(△同玉)に▲3七桂と打って▲2五桂から総攻撃を狙うのが有力。
 ▲9六香に対する後手の指し手も、①△9五歩と香を取りにいって△6六香を狙う、②8九歩成で先手の応手を問う(取れば利かし、取らなければ大きな足掛かり)、③△8九角▲6八玉と拠点を確保しておき6七地点の攻撃を視野に入れる(場合によっては△9八角成~△8七馬)と候補が多い。 

 また、第6図で受けるなら、羽生九段の着手した▲6八玉。後手からのくさびや飛車などの攻め駒から遠ざかる兵法の理に適っている。
 棋譜中継サイトの解説も「前手△4二歩で△4七歩が消え、先手は玉を寄りやすくなっていた。後手から手がないことを見越した戦術眼。終盤をよりよい条件で戦うことができれば勝率も上がる」と評価。

 しかし、△8九歩成と成り捨て▲同飛と僻地に追いやっておき、△3六歩▲同角△3五金(第8図)が巧みなコンビネーション攻撃だった。(▲6八玉によって△8八とが生じているので、△8九歩成に▲同飛と応じざるを得ない)

 第8図での3六の角に対する3五金の圧力は絶大(3五の金が銀ならば▲4五角や▲2五角とできる)で、▲4七角の後退を強いられる。

 更に金取りの△2六角に、角成を防ぎながら金取りをかわす▲3八金。そして、嵩にかかるような△4五金と銀取りに出る。
 完全に攻守逆転。


 《こうなるのなら、先の▲6八玉では▲9六香と桂を取っておくんだったなあ》
 でも▲6八玉も悪い手ではないはず。何が悪かったのだろう?
 考えられる原因としては、△3五金(第8図)に対する▲4七角。

 ここでは▲1八角とこちらに引くのも考えられる。
 一見、△3六歩(変化図1)で角が抑え込まれてしまうようだが、以下▲9六香△9五歩▲2九角△9六歩▲6五桂(変化図2)でどうか?

 変化図2での後手の指し手は、△4五金、△2八角、△4五香、△8五桂、△2六角などいろいろあるが、いずれも互角以上に戦えそうだ。
 気になるのは、変化図1以下の▲9六香に△9五歩とせず、△2六角と打つ手。
 これに対しては▲5八金と△3七歩成のと金づくりを甘受して、▲3九飛(変化図3)と回るのがきわどい巧手。

 △4八とで駄目なようだが、▲同金△同角成には▲3五飛がある。
 よって、図では腰を入れた攻めの△1五歩や△9五歩が考えられるが、▲5四桂打△同歩▲同角と捌いて先手がよさそうだ。どこかで▲2七歩と捌きをつける手も利きそうだ。
 そこで、▲5八金には△3七歩成とせず、△3七角成とする手が考えられる。先手の角を抑え込むのを主眼に置いた手で、4六の桂取りにもなっている。
 桂取りを受ける▲5六金に△2六歩(変化図4)が、相当な圧力。

 これに対しては、▲3八歩(△同馬なら▲2九角とぶつける)として△2八馬と、一旦、先手玉から遠ざけるのが巧手。以下▲4七桂△2五金を利かせ、▲7五歩(変化図5)と7筋に活路を求めてどうか?

 明後日の方向で、それほど厳しさはなさそうだが……
 図以下△2七歩成なら、▲7四歩△1八と▲7三歩成△同金▲6五桂△7四金▲7九飛△7五歩▲6三歩成△同銀▲5三桂成でどうか?(永瀬王座が好きそうな展開…)
 図以下△8四飛と受けに回る手には、▲7四歩△同飛▲7六歩(△同飛なら▲6七金△7四飛▲6五桂)△2七歩成▲7五銀△同飛▲同歩△7六歩▲8二飛△7二銀▲7四歩△1八と▲7三歩成△7七歩成▲同玉△7三銀▲8一飛成△7六歩▲同玉……もう、わけのわからない展開が想定される。(こちらも永瀬王座好みか?)

 変化図1~変化図5は、複雑怪奇なことこの上ないが、実戦で観たい変化だった。

「その3」に続く
コメント
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