英の放電日記

将棋、スポーツ、テレビ等、日々感じること。発信というより放電に近い戯言。

第48期女流名人戦 第4局 里見女流名人-伊藤女流三段 (2022年2月24日)

2022-03-01 22:29:26 | 将棋
 第48期女流名人戦第4局 里見女流名人-伊藤女流三段(2022年2月24日)は、挑戦者の伊藤沙恵女流三段が制し、3勝1敗で女流名人を獲得した。
 里見、西山のツートップが強力で、9度目のタイトル挑戦で悲願の初タイトルとなってしまったが、伊藤女流の実力を考えると、遅い春だったように思う。年齢は違うが木村一基九段を連想する(7度目の挑戦で初タイトル)。加藤桃子女流三段の清麗奪取に続いてのタイトル奪取。



 第1図は第2局と同一局面。第2局では▲3八金だったが本局は▲2八飛。5筋の位取り中飛車を振り戻して2手損になってしまうが、後の5六の銀と3七の桂の形は、▲4五歩の仕掛けを見ている。その仕掛けの後押しとして4筋に飛車を転回させるというのが第2局の修正案なのだろう。
 となると、2八の飛車の位置と5八の位置は飛車を転回するのなら同等。
 もちろん、2八の飛車を→5八→2八→4八と動かすのは、効率が悪い。しかし、第二局のように金を3八へ上がらず。5八に寄せることができる(▲3八金としてから5八に寄せようとすると2手損となる)。金のスムーズ動きで、飛車の効率の悪さをカバーできていると考えることができる。


 先手の▲4五歩の仕掛けの機先を制するように、伊藤女流三段は△3五歩~△1五歩と仕掛けたが、解説の浦野八段は驚きを感じていたようだ(やや無理なのではと)。
 無理気味の仕掛けだと思われるが、実際は難しく、私レベルならすぐ先手が悪くなってしまいそうだ。
 里見女流名人は、後手の2筋突破を許す間に、▲4五歩から▲4八飛と4筋で動き、▲4四歩と取り込み△同角▲同飛△同銀と飛車角交換を果たした。△2七歩成の瞬間に▲2五歩と先手で後手の飛車を押さえる手が利き、先手の意が通ったように見えるが、後手もと金で桂を取る手があるので、難しそうである。
 △4四同銀に▲4一角と打ったのが第3図。

 この▲4一角では▲3四角も有力。実際、里見女流名人も迷ったという。さらに、▲5四歩と角筋を通して4四の銀取りを5三への成り込みを狙う手をどのタイミングで入れるかも悩ましい。
 ともかく、▲4一角を選択し、対して伊藤女流三段は△1三飛と逃げたが、「控室の検討では、☖4三飛の当て返しを本命視していた」(中継の解説より)と。
 △4三飛は▲3二角成でダメなのでは?と思ったが、私なりに考えるてみると……▲3二角成に△4二歩とするのが合理的なのではないかと。

 △4三飛は、飛車を端の僻地に避難させるより、中央で働かせたいという手だ。4四の銀に紐をつけ、あわよくば成り込みを果たしたい。
 しかし、△4二歩は飛角交換は厭わないというという意向は納得できるが、飛車取りを受けるだけの後手を引く手なので面白くないように思われる。だが、角を取る△4三同歩が手順に4四の銀に紐をつけるという仕組みで、なるほどの手だ。

 △1三飛に対し、里見女流名人は▲2四歩。
 浦野八段は「☗2四歩は、次に☗2三歩成☖1四飛☗1五歩で飛車の捕獲を狙っています。現局面から☖4三飛は歩突きを許したぶん損なので、☖1二飛として二段目で飛車を活用するのでしょうか」と解説しており、伊藤さんも☖1二飛と指した。しかし、△1二飛と引いたことによる弱点が後手陣に生じてしまった(それについては後述)ここでも△4三飛の方が良かった。
 △1二飛に里見女流名人は▲5四歩と角での銀取りに歩を突き、銀取りを受ける△4九飛と飛車を打った第4図。ここが分岐点だった。

「ここで▲6三角成と角を切り、△同銀に▲4五歩(変化図1)と打てば、先手優勢だった(銀が逃げると▲5三歩成がある)」とアユム氏が仰っていました。

 この順があるので、△1二飛と飛車の利きを5三から外してはいけなかったのだ。

 因みに、里見女流名人は
『里見の最初の読みは、代えて☗6三角成☖同銀☗5三歩成☖同銀に(1)☗4五桂や、(2)☗2三歩成☖7二飛☗4五桂だった。だが、(1)☗4五桂は☖6二銀と引かれる感触が悪く、(2)の順も☖7二飛と手順に固められる変化に自信を持てず、予定を変更したという。だが、このふたつの順を深く読み進めるべきだったと反省する。特に(2)の☗4五桂以下、☖6二銀☗1一角成☖3七とには☗6六馬がぴったりの馬引きだった。
「本譜はひどかったです」』
と局後話していたそうです(中継解説より)

 ▲2三歩成△6二飛の交換は▲6三角成に△同飛と取る手が生じ、かなりの損。里見女流名人の言葉通り「本譜はひどかったです」。


 さて、▲2三歩成で局勢を損ねてしまった里見女流名人だが、かといって、里見女流名人に対して勝ちまで持っていくのはなかなか大変だと思っていた。しかし、その後の伊藤女流三段の指し手は素晴らしかった。

 第4図以降、里見女流名人は3七の桂を逃げたり、▲3二角成から後手の桂香をを拾い、チャンスを窺ったが、第5図の△2二歩が当然の手筋とは言え、好手だった。

 ▲2二同馬と取ると△同飛と働いていない飛車と頼りの馬を交換されてしまう。かといって▲2二同とでは馬もと金も働かない(歩を取らなくても馬が働かない)。
 時が戻るが、桂香を拾わず2三のと金を3三~4三と働かせた方が良かったようだ。悪手となった▲2三不成を生かしたい。(でも、AI将棋では《前の手を活かす》という思考は必要ないので、AI君の嘲笑を受けるかもしれない)

 △2二歩以下、里見女流名人は端攻めに活路を見出そうとするが、伊藤女流三段は冷静かつ強気に受ける。

 図の△8四歩は▲同角と取られ、△8三銀には▲6二角成と手順に飛角交換をされてしまうが、恐れず踏み込んだ一着(実戦もそう進み、その後再度△8四歩と打ち桂を取り切った)。


 決め手となった角打ち。角ではなく△5三金打と飛車取りに打ちたくなるが▲4四馬△5三金▲6二馬△同金と進み、ここで▲7一銀や▲9三銀が相当うるさい(正確に指せば後手の勝ち)。また、▲4四馬に△同龍も▲同龍△同金に▲9三銀が強烈な銀打ちがある。

 伊藤女流三段の指した△5三角は▲4四馬なら△同龍▲同飛成に△同角が詰めろになる。詰めろでなければ▲9三銀が打てるのだが。(ここら辺りの変化は、アユム氏の解説を参考にしています。

 以後も強く正確に受けを続け、快勝。

 伊藤新女流名人、おめでとうございます!
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする