英の放電日記

将棋、スポーツ、テレビ等、日々感じること。発信というより放電に近い戯言。

2019王位戦挑戦者決定戦 羽生九段ー木村九段 その4「辛抱の遁走」

2019-06-26 21:46:16 | 将棋
「その1」「その2」「その3」の続きです。


 第10図は▲8二飛に△6二桂と合駒をした局面。
 △6二桂では△4一玉の方が良く(詳しくは「その3」)、△6二桂としたため互角近い形勢に戻った。
 と言っても、素人目には先手玉は絶体絶命。いや、棋譜中継解説でも
先手玉は△5八銀成からの詰めろが掛かっており、現局面で
(1)▲3六歩は△2五桂がいかにもぴったり
(2)▲4六歩だと△4九飛の好手があって、先手玉が詰む
(3)▲2七銀には△5九飛が妙手だ

と、受けが難しそう。

 次の一手は▲6九金。この手に4分を消費して羽生九段は1分将棋となった。
 5八に利きを足して詰めろを防いだ手だが、それでも利きの数は2対2で、5八に先に駒を打たれると勢力負けになってしまうので、受けの機能は弱い。(ただし、△5八飛は▲3九玉△7八飛成▲2七玉△6九龍▲2八玉で後手難局。手順に金2枚得られるが、先手玉が片銀冠で2八に逃げ込み、後手の駒が攻め駒が重複している)

 ▲6九金△7八銀不成▲3九金△6九銀不成▲3八玉△6八飛▲2七玉(第11図)と進む。
 10図から11図の取り引きは先手の大損のように思える。
・▲6九金………詰みを回避しただけの手。数手後に取られる運命にあり、取られる位置としては6九よりも移動前の7九の方が良い
・△7八銀不成…9四の角道を通しながら金を取る。6九の金取りにもなっている
・▲3九金………玉の3八→2七への逃走路を開いただけ。同じ逃走路を作るのなら▲2七銀と上がって3九→2八の方が玉型も良いし、3八に逃げても玉の安全度はあまり高くならない。しかし、▲2七銀は△4九金(飛)の1手詰が待っている
・△6九銀不成…おいしく金を食べる。その銀が5八に利くという益もある
・▲3八玉………ようやく1歩目の逃走。しかも、まだ危険地帯。
・△6八飛………王手で飛車を打てる(手番が回ってくるプラスと玉を逃がすマイナスがある)
・▲2七玉………ようやく、やや安全圏に。しかし、△6六飛成と攻防に成り返らて、もう1手▲1八玉と逃げなければならない。

 先手の指し手には利が少なく、後手は角道を通しながら金を2枚得し、龍も出来る美味しい展開。
 とても、互角に近い形勢が保てるとは思えないが、不思議なことにまだ勝負将棋だった。
 これは、《玉がかなり安全になった》という先手の利が思いのほか大きいということなのだろう。(後手のマイナスとしては、攻め駒の銀2枚がやや置き去りになってしまったこと)


 さて、ここで「その3」で先送りした「第10図の△6二桂では△4一玉の方が良かった」理由を述べよう(偉そうな口ぶりだが完全には分かっていません)

 第10図の△6二桂ではなく△4一玉と玉をかわしたとして、本譜の順……つまり、▲6九金△7八銀不成▲3九金△6九銀不成▲3八玉△6八飛▲2七玉(変化図4-1)と進むと、
 変化図4-1で△4九角成と捨てる手があり先手玉が詰んでしまう。△4九角成▲同金と先手の金銀の連結を切るのが巧妙な事前工作で、以下△1五桂▲1八玉△2七金▲同馬△同桂成▲同玉に△2六銀(変化図4-2)が前工作を生かした巧手となる。

 以下▲同玉△2八飛成▲2七歩△4四角▲1六玉△2五銀▲1五玉△1四歩▲2四玉△2三銀(変化図4-3)までの詰み(最終手は△2三金や△1三銀でも可)

 変化図4-1の△4九角成に▲3八桂と抵抗しても、△3八同馬▲同金に①△1五桂▲3六玉△2五金▲4六玉△6六飛成でも、②△2六金▲同玉△2五金▲2七玉△1五桂▲1八玉△2六桂でも詰む。
 戻って、△4一玉と合駒せずに玉をかわした手に対し、素直に本譜の順を踏襲せずに一旦、▲6三馬△4一玉▲5三馬△3一玉▲5三馬と馬の利きを2六に利かすのは、今度は2七の馬の利きがなくなるので、やはり詰んでしまう。
 その他、▲6九金△7八銀不成▲3九金△6九銀不成▲3八玉△6八飛▲2七玉ではなく、▲2七銀や▲3六歩とする手も、馬の位置などのちょっとした違いで成立するかもしれないが、たぶん不成立(大丈夫だよね)

 というわけで、到底100%の断言はできないが、「第10図の△6二桂では△4一玉の方が良かった」理由は、「上記の馬捨てからの即詰みがあるから」とさせていただく。

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