今四編目に突入したところだかが、もはや私の上半期ベストに推していいのではないか、というほどの傑作短編集だ。
一編一編の面白さはもちろんだし、それは読めばほぼ必ず(SF好きなら)分かると思う。
すごいのはこの作者、伴名練が、SF的描写を私たち自身の生きる「環境世界」として描き切っていてしかもその中に、よりよく生きる私たち自身の生を泳がせていくその筆致だ。
SFなんだから現実世界と異なる設定があって!その中で生きる人間を描くのは当たり前だろう、と言われてしまうだろう。
それを承知で反論するなら、その反論は事実の指摘に過ぎない、言っておこう。
ここにあるのは生きられてしまっている私たち自身の経験が賭けられている、その「価値」がSFとして描かれているのだと。それは決してどんな新奇な設定があるのか!というだけの話ではない。
ハードSFにはかつてそういうモノがあった。また他方、設定は空想的だが人間的葛藤の描写はスゴい、という作品も多くある。
そうじゃなくてね。
(腰巻き惹句にもそれに近いコトバが書かれてあるが)SFへの愛が全編に満ち溢れているのだ。
ああ!そう言ってしまうとマニア的な道具立てへのフェティッシュな「愛」を想像されてしまうなあ。
SFはそれ自体が「経験」であり得るのだ、と、この短編集を読むと納得できる。
未読の方は直ちに本屋さんへ。