60歳からの眼差し

人生の最終章へ、見る物聞くもの、今何を感じるのか綴って見ようと思う。

ビジネスマナー

2012年06月22日 09時38分28秒 | Weblog
 先日親会社でこんなことがあった。
お昼過ぎ、お客様が1人来社される。営業担当者は早速4階の応接室に案内し、社長も同席して応対することになった。お客様が席に着いたところで営業は内線電話をかけ、お茶を出してくれるように依頼する。しかしあいにく女性社員2人は席を外していて、電話を受けたのが入社1年半の事務職の新人男子であった。営業は彼に、「女性社員が戻ったら、お茶を持ってくるように云ってほしい」と伝言する。しばらくして、彼は遅くなるのはまずいと思い、自らお茶を運ぶことにした。2階の給湯室でお茶を3つ入れ、お盆に乗せて4階まで運ぶ。親しい仕入先にお茶を出すことはあっても、お客様にお茶を出すことは初めてだった彼は、自社の営業の前からお茶を置いていった。あわてた営業が、「お客様が先だろう!」と注意する。そこであわてて置き直した。しかしさらに悪いことに、お茶は湯のみに注いであるだけで、茶托も持ってきていなかった。
 そのことで事後女性社員を中心に新人に非難が集中する。「家庭で何も教えられていないのか」、「少なくてもビジネスマンを目指すなら、最低のマナーは勉強しておくべきだろう」、「恥をかいたのなら、本でも買ってすぐにでも勉強するべきなのに、彼には何の反省もない」、「その状況を見ていた社長は事後に注意もしない。それで良いのか」、そんな非難である。

 ビジネスマナー、これは社会で仕事をする上で心得ておかなければいけないマナーである。電話の応対、接客時のマナー、席次など知っておかなければ恥をかくことは意外と多いものである。例えばお客さんとタクシーに乗るとき、運転席の後ろの右側が一等席、次に左側、そして助手席、もう一人乗る場合は後部座席の真ん中の順である。しかし自家用車の場合は助手席が最上席になるようである。身だしなみに始まって、名刺の受け取り方、置き方、しまい方、敬語の使い方、エレベーターの乗り方まで、それは洋食のナイフとホークの使い方のように、厳格にすれば我々の言動のほとんどにマナーは付いてくるようである。

 さて、その新人は先輩社員から激しい叱責を受けるほどの大失敗だったのだろうかと思ってみる。彼は地方に育って地方の大学を出て半年後に東京に出てきた。特に何をやりたいという希望があったわけでもなく、就職難民として、とりあえず東京に出てきて中小企業に職を決めたわけである。彼の性格から営業向きでないから、必然的に事務職に回される。彼が営業職であれば先輩に付いて回り、曲がりなりにも接客のマナーを学ぶことになるだろう。しかし男性事務ということから、誰も接客マナーを教えることはしなかった。では、お客様には茶托を使うもの、出すときは上位順に配るものというということを、彼はどこで学んでいればよかったのだろうか?
 それを今の一般的な家庭のしつけでは期待できそうにない。学校にはそんなカリキュラムはないであろうし、中小企業は研修してまでマナーを教える余裕はない(中途採用の多い中小企業は最低限のマナーは持ち合わせているという前提で採用する)。だからこれは起こるべきして起こった事象のようにも思うのである。

 私も彼と同じように地方からのぽっと出である。マナーなど何も身についてはいなかった。就職したのが小売業だから、まずはじめに、「いらっしゃいませ」「ありがとうございます」の接客の仕方を教わる。そして店に出て即実践である。後は経験の中から接客を学んでいった。マニュアルだけでは通用しないことを知り、お客様とため口で喋ることも接客の技術だと学ぶことになる。それから3年半で本部に上がり、今度は仕入れの仕事になる。商談、会社訪問、会議、宴席等、相手企業との取引の最前線での業務である。大手企業の営業と相対するとき、自分が自社の看板を背負っているのだと自覚するようになり、おのずと自分の言動に意識が働いてくる。特に相手企業のトップと自社の上司や役員との会食などには神経を使う。日時の調整から場所と交通手段の案内、会場での席次の扱い、話し合いの筆記から翌日のお礼の電話まで、その対応には胃がきりきりと痛むほど神経を使ったものであった。

 お茶のお手前ではないが、どの世界にもそれぞれのマナーがある。それをはじめから心得ているのは難しいから、基本的には経験の中から自らが身に着けようと心がける必要があるのだろう。そしてその動機付けは、「恥を掻きたくない」ということではないだろうか。「あいつはマナーも知らない」、「常識が無い」、そう言われることほどビジネスマンにとってマイナスなことはない。それとマナーの良し悪しは、その人の人格や仕事の力量を計るバロメーターの役割をすることにもなる。だから、マナーというものは、そっと人に聞くか、本を買って密かに読んで身に着けておくか、そんな心構えが必要なのであろう。

 今回の新人クンは25歳である。今よく言われている「ゆとり世代」である。「ゆとり教育」で学んできた子供達の特徴は、「言われたことしかやらない」、「マニュアル型人間」、「打たれ弱く、すぐめげる」、などの特徴があるようである。だからなのか、彼はものを頼んでも、頼んだ事しかやらないし、その先を見ていない。自分からは動き出さないし、仕事で疑問に感じたことを聞いてくれといっても、「大丈夫です」というだけで、どこまで理解が深まっているのか分からない、と同僚は言う。もし彼の性格がそうだとすれば、お茶だし事件も「むべなるかな」である。彼にしてみれば、教えてもらっていないことが出来ないことは当たり前、それで恥を掻いたとは思わない。だから自分から本を買って勉強しようとも思わない。という理屈になるのだろう。さて彼はこれから先、この会社で、この職種でやっていけるのだろうか、と心配になる。そしてこういう世代が多くなるとき、企業は彼らにどういう教育をしていくのかが、大きな課題になるようにも思ってしまう。

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