図書館で見つけた小野寺史宜さんの「まち」という小説は、冒頭シーンが尾瀬の山小屋へ荷物を運ぶ歩荷(ボッカ)さんの話だったので、そこに惹かれて読んでみる気になった。
この本の主人公江藤俊一は、尾瀬の麓、片品村で生まれ育った若者、両親は彼が小学校3年生の時に火事で命を落とし、その後は尾瀬の山小屋へ荷物運ぶ歩荷(ボッカ)として働く祖父の手で育てられる。
高校を卒業した俊一は、「僕も歩荷をやろうかな」と祖父に打ち明ける。しかし祖父は「駄目だ。この仕事に未来は無い」、そして「俊一は東京に出ろ。東京に出て、他所の世界を知れ。知って人と交われ」と諭される。
祖父の言葉に東京へ送り出された俊一は、江戸川区荒川河川敷傍のアパートに部屋を借り、コンビニ店や引っ越しのアルバイトなどで生計を立て生きて行く。
187センチの巨漢で力持ち、でも心優しく善良な俊一は、誰からも好かれる好青年だ。職場で理不尽な理由で解雇になった友を救い、アパートでは暴力を振るう元夫から母子家庭の親子を救う。
「現実の世界にこんなナイスガイ居るわけないだろ」とツッコミたくもあるが、これは小説の中でのお話です。ドラマチックな物語ではないけれど、純朴で他者を思いやる俊一の誠実な生き様に、読み終えて心温まる気持ちになりました。
作者の小野寺史宜さんは2019年に本屋大賞第2位を受賞した人ですが、こんなほのぼのとした小説を書くんですね。彼の他の作品も読んでみたくなりました。