それでもそれを愛と呼べるのだろうか…。
古い表現だがまるで万力で締め付けられるような気がした。
背中から突然羽交い締めにあったのだ。頭の中ではジャック・ポットのようにつぎつぎにそんな冗談をしそうな友の顔が回転した。そのジャック。・ポットはついに止まって特定の像を結ぶことがなかった。わたしはふりほどこうともがいたがどうにもならない。相手の顔を覗こうとしたが見えない。時刻はそろそろ午前三時過ぎである。クラブのエンターテイナーの仕事が午前二時に終わって楽器類を片づけて店を出たのが二時半頃。ハーバー・フリーウェイからサンタモニカ・フリーウェイに乗り換える頃、おかしいなと感じた。後ろについていた車が離れない。不気味なものを感じた。スピードをあげていつものランプ(降り口)に達した。フリーウェイを降りるとさっきの車は随いてこなかった。安心して家の前に停車した。後ろの座席に置いたギターを取りだそうとした、そのときだった。だれかが突然わたしを後ろから羽交い締めしたのである。フリーウエイを降りてからも随けられていたのだ。こうなれば必死で戦うしかない。友だちの可能性を捨ててむちゃくちゃに暴れた。やっと相手の腕がゆるんだ。そのすきに回転して向き直る。対峙すると相手は見知らぬ白人であることがわかった。その頃、世間では連続強姦魔事件が取りざたされていて後ろからわたしの長髪を見て女性と勘違いして襲ってきたのかと思った。白人はおまえはキムじゃないのか、とわけのわからないことを口走りながら逃げて行った。キムという韓国人の友とまちがえて冗談をしてみたらしかった。翌日、隣のアパートの黒人女性に、二階から見ていたけれどよく助かったわね、うちの子供にもカンフーを教えてくれ、と頼まれた。わたしはカンフーは知らない、と断ったものだった。残念ながらその頃の天使の町、ロサンジェルスでは毎日、強姦や殺人事件が当たり前のように起こっていたのだ。
fumio
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