松平伊豆の守信綱は少し羞恥を覚えた。
自分は一応幕府内では知恵伊豆と称えられて智者のふりをしているが実際はハジマーシュが「Would you like to come over hear」とエゲレス語で要請したから出現したらしい天空のスクリーン上のどでかい蛇のような恐ろしい姿をした怪獣ポセイドーンのいうことがわかっていない。その海龍王ポセイドーンは「Hear I am、これでもわたしは存在していないのか」と割れるような声で問うが応えるべき幕府の責任者として意味がわからないので応えることができない。異国の言葉なら会話ができるらしい。幕府の上層部にありのままに報告すると龍などいるわけがないであろうとただ笑うだけだった。
しかし一揆側の参謀南蛮絵師山田右衛門作は旗に「LOVVAD・SEIAOSẨCTISSIM・ SACRAMENTO 」とポルトガル語らしき異国の言葉を描いているし四郎も「わたくしは「Jesus de Nazaré, Rei dos Judeus」と異国の言葉でなにか話したが自分には意味不明だった。それが「ユダヤ人の王ナザレのイエス」と宣言したのだということを教えてくれたのは側近だった。「LOVVAD・SEIAOSẨCTISSIM・ SACRAMENTO 」の意味が(最も貴き贄を讃え崇める)と教えてくれたのは仲良くなった領民のひとりだった。
18歳のわが子甲斐守輝綱やその友の若者たちも先進的知識を持って見かけも海外の華やかな匂いに憧れて一揆側の肩をもつので知恵伊豆もなんとかしないとこのまま幕府も沈んでしまいそうな不安に駆られた。言葉も学び異国の文化を取り入れて海外の事情を知らねば世界から置き去りにされる、と思案した。
ところが幕府の中枢部では南蛮打ち払いから鎖国へと突き進む計画が進んでいった。それは知恵伊豆とはまったく逆の日本を遅れさせてしまう計画だった。
fumio
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