「境界に生きた心子」

境界性パーソナリティ障害の彼女と過ごした千変万化の日々を綴った、ノンフィクションのラブストーリー[星和書店・刊]

膵臓、大切に抱えて…… 「生死命(いのち)の処方箋」 (40)

2010年10月11日 19時20分40秒 | 「生死命(いのち)の処方箋」
 
(前の記事からの続き)

○東央大病院・ 緒方の研究室

  腕組みをして 考え込んでいる緒方。

  心配そうな美和子と世良。

美和子 「緒方先生、 どうしたら …… ?」

緒方「(進退極まる) …… 止むを得ない …

 …!」

 
○同・ 多佳子の病室

  美和子と緒方が、 平島と両親に話してい

  る。

多佳子 「透析?  また透析なんかするんです

 か !?」

美和子 「多佳子ちゃん、 落ち着いて聞いてね。

 植えた膵臓がね、 少し悪くなってるの。

 このまま放っておくと 膵臓が化膿して……

 (言葉に詰まる)」

多佳子・ 両親「…… (不安)」

緒方「膵臓を取り出さないと、 命まで危なく

 なってしまうんだ」

多佳子 「え !? ……」

美和子 「ここまで頑張って来たんだから、

 後戻りはできないでしょう? (気持ちを寄り

 添わせ)」

緒方「明日、 摘出手術をするよ。 そのために

 透析をして、 体をきれいにしておかないと

 ね」

多佳子 「(呆然として) …… そんな …… また、

 元の生活に戻っちゃうんですか …… ?」

美和子 「そんなことは ……」

多佳子 「…… そんなの …… いやです …… そん

 なくらいなら、 死んだほうがまし …… (涙

 が滲む)」

多佳子 「多佳子ちゃん …… !?」

多佳子 「(泣きながら) …… 膵臓取っちゃっ

 たら、 この病気、 目が見えなくなって 死ん

 じゃうんでしょう …… ?  どうせ死ぬなら

 あたし、 この膵臓、 大切に抱えたまま死に

 たい……」

美和子 「そんなこと言わないで !  先生たち

 が きっと何とかしてあげるから !」

多佳子 「…… あたし、 ジュンくんと約束した

 んです …… 脳死の人から もらった臓器、

 大切にするって ……」
 
緒方「それよりも、 多佳子ちゃんが生きるこ

 とが大切だよ。 死んでしまったら ドナーの

 人も浮かばれないだろう ?」

多佳子 「(しゃくり上げながら) …… あたし、

 もう満足です …… あたしのために 皆いろん

 なことしてくれて …… このまま死なせてく

 ださい …… ! (嗚咽) あたしが死んでも、

 次の移植の 踏み台になれれば …… あたしも、

 役に立つことができる …… それだけでもう

 充分です …… !!」

美和子 「多佳子ちゃん …… !! (目頭が熱くな

 る)」

  多佳子、 ベッドから降りて 病室を飛び出

  していく。

美和子 「どこへ行くの !?」
 
(次の記事に続く)
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

淳一と多佳子の 悪化 …… 「生死命(いのち)の処方箋」 (39)

2010年10月10日 19時48分37秒 | 「生死命(いのち)の処方箋」
 
(前の記事からの続き)

○東央大病院・ 消化器外科・ 廊下
 

○同・ 処置室

  美和子が 淳一に交換輸血をしている。

  枕元にで世良、 車椅子に乗った多佳子が

  心配そうに見守っている。

世良 「ビリルビンが 上がってしまったのか…

 …」

美和子 「一過性のものかもしれないし、 心配

 しないで」

淳一 「やっと 来るべきものが 来たって感じだ

 ね」

美和子 「当面は、 週一回 交換輸血をして、

 あと ジュンの部屋の蛍光灯を もっと強いもの

 に取り替える」

淳一 「取り替えるなら インバーターにして

 よ」

多佳子 「…… 肝臓も、 取り替えられたら …

 …」

美和子 「絶対 ジュンを死なせたりしないか

 ら」

淳一 「気ィ遣わなくてもいいよ」

多佳子 「そんなこと言わないで!  ジュンく

 ん、 一緒に頑張ろう! (淳一の腕を強く掴

 む)」

  淳一の腕に刺した 針がずれる。

淳一 「いててて !  針が …… !」

多佳子 「あ、 ごめん …… !」

美和子 「大丈夫 ?」

淳一 「いてーな!  死んだらどーすんだ !?」
 

○同・ 外景
 

○同・ 多佳子の病室の窓

  多佳子がベッドで 寝ているのが見える。
  

○同・ 多佳子の病室の中

  咳き込んでいる多佳子。
  

○同・検査室

  美和子が持ってきたサンプルを、 喜多川

  が顕微鏡にセットしている。

世良 「多佳子ちゃんが 肺炎を起こしたんだっ

 て?」

美和子 「免疫抑制剤の影響で 抵抗力が弱くな

 ってるから」

喜多川「でも 移植による拒絶反応を抑えるた

 めには、 免疫抑制剤をやめることはできない

 し」

美和子 「そこが移植のジレンマ ……」

  顕微鏡を覗く 喜多川の顔色が変わる。

世良 「どうですか ?」

喜多川「まずいですね、 膵臓に膿が混ざってる。

 肺炎の菌が 膵臓に巣食ってしまってま

 す」

美和子 「ちょっと見せて ! (顕微鏡を覗く)

 」

喜多川「膵臓が化膿して 腹膜炎を起こしたら

 ……」

世良 「どうなるんです ?」

美和子 「…… 命にも関わるわ ……」

(次の記事に続く)
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

淳一、 意識障害 ……「生死命(いのち)の処方箋」 (38)

2010年10月08日 21時54分52秒 | 「生死命(いのち)の処方箋」
 
(前の記事からの続き)

○図書館

  机に本を積み上げて 勉強している世良。

  大きな溜め息をつく。

世良 『知れば知るほど 分からなくなるな、

 脳死というやつは……』

  大きく伸びをする。

  しばし考え込む世良。
  

○佐伯家・ 食卓

  美和子、 テーブルに食事を並べている。

美和子 「ジュン、 ごはんよ、 おいで」

  淳一が来る。

  顔色がよくない。

  淳一、 何もない所でつまずく。

  美和子、 それを見て取る。

  何事もなかったように 席に着く淳一。

淳一 「……… (食欲がない)」

美和子 「ジュン、 具合が悪いの……? (心配

 そうに)」

淳一 「え……?  何でもないよ…… (無理に

 笑う)」

美和子 「さっき つまずいたけど……」

淳一 「……まぁ、 青春の蹉跌だよ……」

美和子 「淳一、 まさか ……?」

淳一 「………」

美和子 「ジュン、 こっち向いて」

淳一 「何 ?」

美和子 「(人指し指を 淳一の前に出し)

 フィンガー・ トゥ・ フィンガー」

淳一 「いいよ、 ETごっこは」

美和子 「(真剣に) やって!」

淳一 「(しぶしぶと) ……へい」

  淳一、 美和子の指先に 自分の人指し指を

  合わせようとする。

  が、 指と指が すれ違ってしまう。

淳一 「!! …… (動揺を隠す)」

美和子 「! …… (息を呑む)」

淳一 「(笑ってごまかす) ジョークジョー

 ク」

美和子 「ジュン、 もう一度!」

淳一 「………」

  淳一、 再度試みる。

  …… が、 できない。

淳一 「ち、 ちょっと、 目が疲れてるだけだよ

 ……」

  淳一、 席を立って 部屋へ戻ろうとする。

美和子 「ジュン」

  淳一、 バランスを崩して テーブルクロス

  をつかみ、 食器が音を立てて落ちる。

美和子 「ジュン …… !?」

  淳一の手が 小さな痙攣を起こす。

美和子 「(淳一の手を押さえ) ジュン ……

 !!」

淳一 「…… !! (愕然)」
 
(次の記事に続く)
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“役に立つ命” と “役に立たない命” …… 「生死命(いのち)の処方箋」 (37)

2010年10月07日 21時39分03秒 | 「生死命(いのち)の処方箋」
 
(前の記事からの続き)
 
○新宿西口・ 高層ビル郡(夜)
  

○高層ホテル

  最上階のスナック。

  窓際の席に 美和子と世良。

  世良、 煙草を取り出す。

  世良の煙草に 火をつける美和子。

世良 「ありがとう ……」

美和子 「……」

世良 「…… 移植の陰には、 あのご主人の姿が

 あるんだな ……」

美和子 「…… 止むを得ない ……。 亡くなって

 しまった 人のことより、 これから生きていく

 人のことを考えるのが、 医者の役割よ…

 …」

世良 「考えてみれば、 俺たち、 事故に遭った

 木下さんを 救うために、 病院に運んだんだ

 よな。 それが 何だか逆に ……」

  都会を見下ろす 大きなガラス窓。

  外を眺める 美和子と世良。

  美和子、 ガラスに息を吹きかけ、 白く曇

  らせる。

美和子 「 (ガラスに指で 「0」 を書く)

 …… 脳死で 死んでしまった命 …… (右隣に
 
 もうひとつ 「0」 を書く) 移植しなければ 

 死んでしまう命 …… ( 「0」 と 「0」 の間に

 「+」 を書きながら) 移植をすると ……

 (一番右に 「=」 と書き) ふたつの死から

 …… (さらに右に 「1」 を書く) ひとつの

 生が生まれる……」

  窓に 「0+0=1」 という 式ができる。

世良 「……」

美和子 「複数の臓器を 複数の患者さんに 移植

 をすれば、 さらに1を 2にも3にもでき

 る」

世良 「……」

美和子 「…… (世良の表情を伺う)」

  世良、 美和子の書いた式を ゆっくりと消

  す。

世良 「 “人の役に立つ” ということは、 この

 社会では 誰も否定できない 価値観になって

 る ……」

美和子 「ええ ……」

世良 「移植には、  “役に立つ命” と “役に立

 たない命” という 発想が伴うよね ……。

 でも、  “役に立たない命” は 価値がないんだ

 ろうか?」

美和子 「……」

世良 「命に  “質の上下” が あるんだろうか …

 …?」

美和子 「…… (小声で) ずるい……」

世良 「え? ……」

美和子 「そんなふうに言われたら、 誰も何も

 答えられなくなっちゃう ……」

世良 「……」

(次の記事に続く)
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ドナー遺族の悔悟 …… 「生死命(いのち)の処方箋」 (36)

2010年10月06日 19時50分16秒 | 「生死命(いのち)の処方箋」
(前の記事からの続き)
 
○木下宅

  幸枝の遺影。

  美和子と世良が 幸枝に焼香している。

  後ろに控えている 直哉。

  幸枝の霊前には、 臓器提供者に対する

  厚生省大臣からの感謝状と、 腎臓移植普及

  協会から贈られた 記念品が供えられてい

  る。

  美和子、 緒方から預かった香典を 差し出

  す。

  頭を下げる直哉。

直哉「………」

美和子 「奥様のお陰で、 移植を受けた方々は

 大変お元気になっておられます。 ご好意が

 身にしみます」

直哉「…… (辛さをこらえて) 幸枝は、人様

 のお役に立てたんだからと、 自分に言い聞

 かせています ……。 これで良かったんだ

 …… 今も幸枝は、 誰かの体の中で 生きつづけ

 てるんだと ……」

美和子 「お気持ち、 お察しいたします……」

直哉「…… (顔を伏せ、 ぶるぶると震えてく

 る)」

世良 「どうなさいました ?」

直哉「(押し殺すように) …… 手術するとき

 は、 納得したはずだったのに …… !!」

美和子 「木下さん ……?」

直哉「幸枝は …… 幸枝は、 まだ生きてた

 …… !  それなのに …… !!」

世良 「どうしたんですか …… !?」

直哉「あんたたちなんかに、 私の気持ちが …

 … !  こんなものでごまかそうと …… !!

 (香典を美和子に突き返す)」

美和子 「あ …… !?」

世良 「木下さん、 落ち着いてください !」

直哉「こんなもんが 何になるってんだ …… !!

 (感謝状、 記念品を 床に叩きつける)

 こんなもの …… !!」

世良 「木下さん! (押さえようとする)」

直哉「(遺影にすがりつき) 幸枝、 幸枝~

 ~ !!  あああ~~ …… !! (号泣)」

  愕然とする美和子、 世良。

(次の記事に続く)
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

内部事情 …… 「生死命(いのち)の処方箋」 (35)

2010年10月05日 21時32分43秒 | 「生死命(いのち)の処方箋」
 
(前の記事からの続き)
 
○佐伯家・ 淳一の部屋の前

  美和子がやって来て、 中に声をかけよう

  とする、 が、 やめる。

  そっと腰を降ろして、 両膝を抱える美和

  子。

淳一の声 「姉キ ……?」

美和子 「…… よく分かったね」

淳一の声 「…… 話、 いい?」

美和子 「うん」

淳一の声 「ICUの川添先生に、 変なこと

 聞いたんだけど……」

美和子 「何?」

淳一の声 「今度の移植の成功で 緒方先生も喜

 んでるだろうって」

 〔 以下、 部屋の外と中、 カットバックで 〕

淳一 「東央大みたいに私立病院だと、 医者

 の稼ぎ高が そのまま地位に響くから、 教授

 の座を狙ってる 緒方先生としては、 手術の

 成功は ……」

美和子 「ちょっと待って !  あんた、 そんな

 こと 信用してるの?」

淳一 「いや ……」

美和子 「ジュン、 移植の費用はね、 医療費と

 して 請求できないの。 緒方先生は私財を

 それに当ててらっしゃるのよ。 先生は 患者さん

 を救いたいっていう 純粋な熱意で……

 !」

淳一 「分かってるよ!  オレだって川添先生

 に 言い返してやったさ!」

美和子 「…… (気持ちを落ち着けて) 川添先

 生もひどい人ね。 ジュンにそんなこと 吹き

 込むなんて ……」
 
(次の記事に続く)
  
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

得る喜びと失う悲しみ …… 「生死命(いのち)の処方箋」 (34)

2010年10月04日 18時29分20秒 | 「生死命(いのち)の処方箋」
 
(前の記事からの続き)
 
○東央大病院・ 噴水の広場

  淳一が、 車椅子に乗った 多佳子を押して

  くる。

  二人、 周りの景色を眺める。

淳一 「回復が早くてよかった」

  多佳子、 景色に目を奪われている。

多佳子 「(目を疑うように) ジュンくん ……

 移植って、 目までよくなるのかな?」

淳一 「え ?」

多佳子 「木が、 あんなにくっきりと …… 

 葉っぱが 一枚一枚光ってる」

淳一 「……」

  噴水の水や 辺りを見回す。

多佳子 「水も、 建物も、 なんか光の粉を まぶ

 したみたい …… キラキラして」

淳一 「いつもと同じ景色だよ」

多佳子 「信じらんない ……」

淳一 「変わったのは、 タカちゃんの心のほう

 だよ」

多佳子 「…… (目が潤む)」

淳一 「感謝しなきゃね」

多佳子 「うん、 あたし、 大切にするね、 この

 膵臓と腎臓 …… 死ぬまで ……(涙)」

  淳一、 車椅子を押して 芝生の所へ行く。

  多佳子の手を取って、 車椅子から降ろす。

  二人、 並んで座る。

多佳子 「あたし、 いつか こういう日が来るの

 待ってた気がする ……。 どんなきれいなもの

 見たって、 一人じゃ つまんない。 だけど、

 誰かと一緒に感じれば 嬉しさが何倍にも…

 …」

淳一 「…… (何かを考えている)」

多佳子 「ねえ、 ジュンくん?」

淳一 「…… オレ、 こういう時が来るの、 恐れ

 てたのかもしれない ……」

多佳子 「え ……?」

淳一 「一度誰かと 気持ちを共有してしまった

 ら、 それを失ったときには 何倍も……」

多佳子 「どういうこと?」

淳一 「オレ、 あとに何も残さないようにって、

 ずっと思ってたのかもしれない……」

多佳子 「ジュンくん ……?」

  淳一、 ニカッと笑って 立ち上がる。

  車椅子のシートに 頭を乗せて逆立ちし、

  手で車を回しながら 進んでいく。

淳一 「ヨッ …… どっこい !  ハッ !」

多佳子 「……」
 
(次の記事に続く)
  
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

死は成就 …… 「生死命(いのち)の処方箋」 (33)

2010年10月03日 21時06分28秒 | 「生死命(いのち)の処方箋」
 
(前の記事からの続き)
 
○佐伯家・ キッチン

  炊事をしている美和子

淳一の声 「姉キ、 できたよ。 来て」

  美和子、 手を止めて 庭のほうへ行く。

  
○同・ 庭 (夕暮れ)

  家の中から 美和子が出てくる。

淳一 「(美和子に振り向き) ポチの墓地 ……

 なんちゃって …… (淋しい笑い)」

  板で作った ポチの墓。

  美和子、 淳一の隣に 一緒にしゃがむ。

  墓碑銘 「死は 訪れるものではなく、 成就

  するもの」

  墓に手を合わせる二人。

美和子 「ポチの命が、 多佳子ちゃんに 移って

 いったのかもしれないね ……」

淳一 「ポチ、 よく最後まで生きたな ……」

美和子 「 『死は 訪れるものではなく、 成就す

 るもの』 ……」

淳一 「オレも もうじき行くからな ……。 姉キ、

 その時は、 よく生きたって 誉めてくれよ

 な」

美和子 「…… あたしは、 多佳子ちゃんを誉め

 てあげたい。 よく頑張ったわ」

淳一 「……」

美和子 「見たでしょう?  多佳子ちゃんの涙。

 ジュンにもきっと またチャンスが来るよ」

淳一 「……」

美和子 「ジュン …… (淳一の肩に手を回す)

 」

  墓碑銘。

淳一 「…… じゃ、 いきますか」

美和子 「ん ?」

淳一 「ポチの一生が 完成したことを祝って.

 お手を拝借!  イヨーーーオッ !」

  三三七拍子をする淳一。

  複雑な思いで 淳一を見る美和子。
 
(次の記事に続く)
  
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

多佳子の回復 …… 「生死命(いのち)の処方箋」 (32)

2010年10月02日 20時42分32秒 | 「生死命(いのち)の処方箋」

(前の記事からの続き)
 
○街景(昼)

  電車が走る。
  

○東央大病院・ 外景
  

○同・ 多佳子の病室

  手術後の多佳子の様子を 美和子が診てい

  る。

  淳一と世良が入ってくる。

淳一 「多佳子ちゃん、 元気になった?」

多佳子 「ええ …… (笑む)」

  淳一、 後ろ手に隠していた 小さな花束を

  差し出し、 多佳子に渡す。

淳一 「お見舞いでございます」

多佳子 「やだ、 嬉しーい!」

世良 「経過はどう?」

美和子 「順調。 多佳子ちゃん、 もうすぐ

 お小水も出るわ。 自分で おしっこができるの

 よ」

多佳子 「いや、 先生 (含羞)」

淳一 「オレ、 手伝おうか?」

多佳子 「もーオ! (淳一を叩く)」

淳一 「おっと (多佳子の手を取る) ……

 あれ?  多佳子ちゃん、 この手 …… ?」

多佳子 「なぁに …… ?」

淳一 「あの、 手術の前には 何だかカサカサし

 てたのが ……」

多佳子 「(微笑) あたし、 汗、 かいたの …

 …」

世良 「汗 ?」

美和子 「腎不全の人は、 発汗作用がないの

 よ」

多佳子 「いつも 体中がかゆくて しょうがなか

 ったの。 それが こんなにしっとりとして…

 …」

淳一 「(多佳子の腕をなでる) ほんとだ…

 …」

  微笑む多佳子。

淳一 「なんて!  またドサクサにまぎれて

 (笑)」

多佳子 「エッチ …… (笑む)」

淳一 「よかったね、 多佳子ちゃん……」

多佳子 「うん …… (涙)」

淳一 「よかった ……」

美和子・世良 「…… (二人を見守る)」
 

○夕日
 
(次の記事に続く)
  
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

緒方の離れ業 …… 「生死命(いのち)の処方箋」 (31)

2010年10月01日 20時18分11秒 | 「生死命(いのち)の処方箋」
 
(前の記事からの続き)

○東央大病院・ ICU

  川添、 犬飼たちが 木下に懸命の措置をす

  る。

  臓器を新鮮に保つための 冷却灌流もして

  いる。

犬飼「川添くん、 心臓マッサージを!」

川添「はい !」

  川添、 木下に馬乗りになって 心マをする。

  
○同・ 多佳子のオペルーム

  緒方、 美和子たちが手洗いをしている。

  マネージャー (連絡役の医師) が 走って

  くる。

マネージャー 「緒方先生!  たった今 ドナー

 の心臓が止まりました …… !」

緒方 「! ……」

美和子 「先生…… !!」

マネージャー「膵臓はどうします !?」

緒方 「まだ可能性はある。 オペは 予定通り行なう。

 直ちに摘出を!」

マネージャー 「はい! (走っていく)」

緒方 「こちらも オペにはいる。 麻酔の用意

 !」

美和子 「はい …… !」

 
○佐伯宅・ 淳一の部屋

  光の中の淳一。

 
○東央大病院・ オペルーム

  酸素マスクを付けて 眠っている多佳子。

  緒方、 真剣な表情で 執刀している。

  山岡と小池が 助手を務める。

  緊張して見つめる 美和子。

緒方 「ドレーン」

ナース「はい」

  
○晴海

  バイクで走る淳一。

  風を切る。

  
○東央大病院・ オペルーム

  緒方たちが深刻に 手術部位を見つめてい

  る。

山岡 「緒方先生、 この状態で 脾臓を剥離すると

 膵臓を傷つけてしまいます」

緒方 「しかし このままにしておくと、 脾臓の

 リンパ球が 拒絶反応を起こす可能性があ

 る」

小池 「でも もし膵液が漏れて 腸液と交ざった

 ら、 大変な腹膜炎を起こします」

山岡 「とにかく 縫合部を腹膜の中に置くのは

 危険です」

美和子 「どうしたら ……?」

緒方 「ドナーから 膵臓を摘出するとき、 十二

 指腸を少し付けておいた。 あれを小さなパッチ

 にして 小腸に縫い付ける」

美和子 「腹膜に窓を開けて、縫合部を腹膜の

 外に出すわけですか」

山岡 「なるほど!」

小池 「最初から 考えてらしたんですか?」

緒方 「…… (自若)」

山岡 「分かりました。 それでいきましょう

 !」

緒方 「メス!」
 

○海・ 夕日

  バイクを止めて 夕焼けを見つめる淳一。

淳一 「………」

  波光。

  陽が沈んでいく。

(次の記事に続く)
  
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする