尖閣諸島に対する、中国からの突然の領有権の主張というやり口により、中国市場に巨額の資本を投下し続けることの危うさを感じた経営陣は多かったのではないか。
2005年当時の小泉首相の靖国参拝から端を発した反日暴動の段階でも、アジアでの拠点としてしての軸足を、既に中国からベトナム、タイ、インド、バングラデシュなどに分散し始めた企業も幾つかはあったのだが、多くの企業群はその巨大で、有望な市場を手放すことを躊躇ったようだ。
しかし、今回の事件をきっかけにして、各企業の対中投資戦略は大きな転換を迫られることになったと思う。
それは、中国にとって、追い付きかけていた技術立国への道に急ブレーキが架かることになる。おそらく、その可能性を中国要人達は想像できなかったものと思われる。それが、まさに奢れる中国政府の姿勢の現れである。
一夜にして、豹変する国家への不信感は、企業の海外投資戦略にとっては最も恐れるファクターであることは誰でも知っている常識である。今回の事件が、日本企業のみならず欧米各国の有力企業の投資戦略にも大きな影響を与えたことは間違いない。
先端技術の移転、長期でなければ回収できない大規模投資、そして再投資と、これらについて今後は急速に縮小することが確実であると言えよう。つまり、食い逃げ型の短期回収型投資は引き続き増大したとしても、腰を据えて現地に再投資が出来る優良な投資対象国としての適格性は、もはやこの事件で完全に喪失したからである。
事実上の投資不適格国家というレッテルを貼られた中国は、これで単なる草刈り場市場としてしか見られない状況が、少なくとも今後10年に渡って続く可能性があるのである。