1987年、私はラテンアメリカでも米国に隣接する某国にある、日本政府とM国それに民間企業が加わった国家プロジェクトによって立ち上げられた大径管製造会社という鉄鋼製品の工場での技術移転現場通訳として赴任したのでした。
大径管とは、原油産出国に敷設されている直径が1メートル以上もあるような原油や石油製品を大量輸送する為のパイプラインに使われる鋼鉄製のパイプの事です。ところで、鋼鉄は常温(5~25℃位)で、湿気が少なく酸化しにくい条件にあれば、固く強いという特性があるのですが、高温(35℃以上)になると急に柔らかくなり、また低温(0℃以下)になると今度は急に脆くなってしまうのです。つまり、飴などと非常によく似た物質特性なのです。おそらく、一般の方々で、鋼鉄がちょっとの温度変化で、脆く変化する事は意外にご存じないと思います。
例えば、サウジアラビアやクウェートなどの砂漠で使われるパイプラインでの温度は、40℃~50℃でありますから、この温度だと通常鋼では柔らかくなって強度が落ちてしまいます。そこで、当初からそれを想定して、高温に強い特殊な厚板(自動車などに使われる薄い材料に対して、鋼管などを作る鉄板の事を総じてこう呼んでいる)を材料段階から設計し、その厚板を使った鋼管を作るのです。一方、ロシアのシベリアになどに敷設されるパイプラインでは、逆に零下20℃~零下30℃になると、鋼鉄は脆く割れたり折れたりし易くなるので、やはり当初から極寒温度を想定して、今度は低温に強い特殊な鋼鉄厚板で鋼管を作るのです。
そして、パイプラインによって輸送されるのは引火性のある原油や石油製品がほとんどですから、パイプの溶接接合面や継ぎ目などの割れ目やヒビあっては危険ですので許されない事ですし、ピンポールなどの僅かな穴や異物混入箇所などの僅かな脆弱部分でも、これらの箇所から引火物質が漏れて、大爆発による大惨事を招く可能性があるのです。従って、こういった鉄鋼製品の多くは、真っ赤に溶けた鉄を固めただけの単純な製品ではなく、実は非常に緻密で、デリケートな設計によって作り出されるハイテク製品なのです。こういった高温や低温に耐えられる鋼管を作れるハイテク技術は、当時世界でも日本とドイツしか無かったのでした。それほどの難しい技術の集約によってのみはじめて製造が可能な製品だったのでした。
さて、私が着任した当時は、工場での基礎的な技術の習得が既に完了しており、実践での製造現場に於けるノウハウ指導が始まったばかりの頃でした。そして実際の受注製造が始まったばかりの頃、ある工程が原因の不良品多発のトラブルが起きたのでした。その問題発生箇所の原因を探すために、日本人技術者が電子、電気、機械のすべての面から原因の追及に入ったのでした。そして、その原因が、ある人為的なミスによるものだと分かったのでした。そして、そのトラブル再発防止のための対策が取られ、同じ事を原因とするトラブルはこれでもう発生させないシステムを構築したのでした。勿論、人的なミスですから、その担当者、管理者の問題点も明確となり、彼らには再発させないようなシムテムも導入させたのでした。この一部始終の経過や顛末は、当然ですがレポートとして詳細が文書化され、今後人員が入れ替わっても誰でも分かるようにメンテナンス記録として残されたのでした。当然、M国側の技術スタッフも同じようなレポートを作成して、上司に提出していたのでしたが・・・。
このトラブルの数日後、M国人の工場長との定例ミーティングで、この件が議題にあがり、M国サイドが作成したレポートを見せて貰ってビックリしたのでした。それは、そのトラブルの原因についての弁明とその後の対策(抽象的な説明し終始していた)によって、このような事態は今後は起こりえないというまったくの言い訳のような内容だったのです。そして、勿論そのトラブルがどうゆう経緯で発生したのか、或いは、どうゆう因果関係にあったのか、そして今後の具体的な諸対策などは一切書かれていないのです。要するに、単なる美辞麗句を並び立てた記事のような報告書だったのです。これには、日本人技術者達が皆驚きました。そして、こういったレポートがその後も続いたのでした。どうして、こういった誤魔化しのような報告書しか書かないのか?どうして、こういった貴重なトラブル処理方法を記録として残して会社のノウハウとして蓄積できないのか?日本人だけのミーティングで何度も議論されましたが、結論としてその理由は単純明快でした。
それは、1:彼らはミスをすると責任を取らなければならない為に、特に人為的なミスが絡む内容については敢えて上司に詳しい報告はしない習性があること。2:彼らは現地の作業員から部門長まで、基本的には会社対個人として契約している感覚があり、ミスは失職に繋がるという意識が強いこと。3:技術指導によってそれぞれ担当者が覚えた事柄は会社として残すという感覚ではなく、覚えた個人が習得した技術や知識として思っている事。4:会社は、ミスを起こした者に対して、即刻解雇する傾向があること。5:習得技術を後進の者へ伝えても、会社としては何らかの評価をするどころか、逆に教えた者自らの地位を危うくしてしてしまう可能性が高いこと。6:習得技術を持った者は、他社から条件の良いオファーがあれば当然転職するものと思っていること。
つまり、彼らM国の技術者や技術作業員達には、従業員個人が習得した実務経験や実務知識などを会社資産として蓄積して伝承して行くシステムがほとんど無かったのでした。つまり、品質管理でいうところの現場でのQC運動やカイゼン運動が全くなかったのでした。これを、従業員の意識の低さと言い捨てる専門家や評論家は、おそらく現場をまったく知らないお馬鹿な人々としか言いようがありません。会社として、こういったカイゼン活動やQC活動を評価し、昇級やら昇進の対象にしなければ、誰もそんな事を自ら進んで行う者はいません。むしろ、当時のM国で、自らの習得知識を会社にきちんと残し、後進の者達に継承して行く者がいたとしたならば、それで会社からポイ捨てになる訳ですから、単なる馬鹿者として扱われて終わるしかなかったのが当時の現実だったのでした。
日本人技術者のNさんなどは、「俺だってさぁ、会社が定年まで面倒みてくれるから、若い奴らにも今までの経験とか覚えた事などを教えてやったりするけれどさぁ、M国のここの会社みたいなところに勤めていたら、きっと誰にも教えたりしねぇなぁ。覚えたりした事は、転職する為の武器として誰にも教えないでいるなぁ。きっと!」 更に別の日本人技術者に至っては、「彼等にはさぁ、いくら教えたって、転職しちまうしさぁ、会社として何も残らないから、俺達何回でもここに来てさぁ、同じ事を教えに来られるんでねぇの?」
1970年代、「金曜日に作られた自動車を買ってはいけない」という言い伝えがあったのをご存じでしょうか?つまり、アメリカでもこのM国と同じで、カイゼン活動やQC運動とは上からマニュアルとして指示される事であり、自分たちで見つけたり提案したりすることではなかったのでした。そんな、工場での週末休み前の金曜日の製造作業などでは、日頃より余計に気が散ってミスが多かったに違いありません。冗談のような話で、金曜日に作られた車のドアーの中の空間にコーラの瓶が入っていたなんて話があったくらいなのですから。
次回は、日本の製造メーカーと外国の製造メーカーとの違いを、更に具体的に比較して行きたいと思います。
私個人としては、決して日本人が優秀だとは思いません。しかし、優秀で責任感のある使用人が多く育つ会社環境があったからだと私は思っています。それが、数多くの優秀な技術者を生む土壌となったのでしょう。
また、チームでの共同作業は日本人の最も得意とする分野です。これは西洋人でも日本人以外の東洋人でも真似できない日本人独特のお家芸でした。つまり、層が諸外国と比して異常に厚いのです。
燃料電池ですが、コスト的にまだまだ問題があるようです。これがクリアーにならない限り、加速度的な普及や開発は進まないという開発者が多いようです。但し、ハイブリッド車の例(日産は誤った経営判断でハイブリッド車の開発を中止した苦い経験があります。)もありますから、今後のエネルギーやエコロジーに対する世情次第ですね。
ズレがあるようですね。
技術員として海洋掘削の現場で働いていた
家族は一番に現場のいい加減さに呆れたようです。
日本人は直してでも使う・・という感覚が
現地の人にはないようです。そのまま
直さずに使ったりしてるそうです。
車の話は聞いたことがあります。
買うなら火曜日か水曜日に作られた物に
したほうがいいとか・・。
海外で仕事をすると
文化や習慣の違いを思い知らされるようで
それを楽しめるくらいの余裕があればいいのですけれどね。
そういえば電気自動車が1年先には販売される
ようですね。
電池の小型化に苦労したようですが
お値段も高くて・・。
初期型は避けて数年は様子を見た方がよさそう
です。