一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

大前研一「TPPは『国論を二分する』ほどの問題ではない」

2011-11-09 | よしなしごと

ひきつづきTPPについて。
nikkei bp netの大前研一氏のTPPは「国論を二分する」ほどの問題ではない

大前氏らしい冷静(冷ややかな)言い回しですが、今のところいちばんまともな意見のように思えます。
長めの引用ですが備忘録代わりに。

・・・他の参加国には少なからず自国に有利な戦略的なねらいがあることだ。それに対して日本は、「交渉参加が自分たちにとって損か、得か」のレベルでもめているように見える。何とも「滑稽」な話ではないか。少なくとも日本がTPPに参加する以上は「何を達成したいのか」を明確にする必要がある。


・・・日本の財界はおしなべて賛成意見を持っているようだ。私は今まで40年にもわたって経営コンサルタントとして企業のグローバル化を手伝ってきたが、貿易障壁があって経営戦略に支障を来した国はTPP交渉参加9カ国では一度もなかった。だから、これらの国とどんな障害をどのように取り除いていこうとしているのか、政府あるいは財界には明確に説明してもらいたい、と思っている。

「新たな開国」というフレーズはなんとなくかっこいいですが何を意味しているのかわからないし、議論を曖昧にしているように思います。
また、少なくとも経団連に加盟しているような企業がTPP参加国に対して参入障壁があって困っているということもないように思うのですが。
ひょっとすると民主党と経団連の仲直りのための握手代わりのような感じも。

一方の反対派の多くは「情緒に流されているだけ」のように見える。

・・・交渉を始めたら最後、「奈落の底まで突き落とされるぞ!」という恐怖の物語はあまりにも主体性のない脅し、と映る。

これは同感だけど、上の政府の主体性のなさとあわせると漠然と不安も持っている、という人も僕も含めて多いのではないでしょうか。


で、大前氏らしさが出るのがこのあと。

「滑稽」と言えば、TPP交渉参加国である米国もそうだ。米国がTPPでねらうのは「対アジア輸出の拡大」「自由貿易圏の拡大」だ。もちろん「その心は?」と問えば、米国内での雇用拡大である。

しかし過去30年間、米国はこの手の貿易交渉の結果、貿易を拡大させたことがあったろうか? 雇用を増大させたことがあっただろうか? 私の記憶では一度もない。

(米国は)日本との交渉は政治的にうまみがある(雇用につながるかもしれないという期待がある)のでしっかりやるが、次の国が台頭してくる頃には米国側の当該産業界に強いロビー勢力が消えており、政治的に興味を失ってしまっている。こういうパターンはこの40年間、いっこうに変わっていない。

もう一つ面白い現象がある。米国が門戸開放をした市場に当初の予定通り、米国企業が「進軍してきた」ケースはほとんどない、ということである。

米国は軍・宇宙などの半導体が主力であるため、またインテル社やテキサス・インスツルメンツ社のように強いメーカーはすでに日本で生産していたため、日本が必要としている民生用の半導体を輸入することはできなかった。日本企業はやむを得ず韓国にノウハウを与えて無理に20%分の生産を委託し、「輸入実績」を作ろうとした。当時はこれが名案のように思われていたのだろうが、結局これが命取りとなって、世界最強を誇っていた日本の民生用半導体の主導権を韓国に奪われる悲惨な結果に終わっている。

つまり米国は過去40年間、「輸入自由化を相手国に飲ませます。輸出の拡大によって米国の景気や雇用は改善します」と米国民に対して言い続けてきたが、結局のところは景気も雇用も改善したわけではなかった。

米国は貿易相手国に門戸を開かせるまでは熱心だが、その後は続かない。いつも「漁夫の利」を得るのは他の国なのだ。これを「滑稽」と言わずして、何と言おう。

・・・仮に日本がTPPに参加して環太平洋で自由貿易圏が確立したとしても、米国の雇用も経済もほとんど改善することはないだろうと私は見ている。肝心の米国企業にその気がないからである。つまり、米国の強い企業は世界の最適地で生産し、魅力ある市場で勝負している。「米国国内に雇用を創出しよう」などと考えている殊勝なグローバル企業はない。だからこそ、この期に及んでも米国企業は好決算、米国の景気や雇用は停滞という対照的な状況になっているのである。

そう言われてみれば確かにそうだよな、という話。
カーター政権のときのピーナッツ問題で千葉の落花生農家が崩壊したわけではないとか、日米繊維交渉が長引いた結果日米共に東南アジア諸国に負けてしまったなどの実例をあげています。
こういう話があるのにけっこう忘れっぽいんだよなぁと自省。

米国が欲しいのは雇用であって「市場開放」ではない。ましてやEU並みの国家資格の相互認証など米国はまったく考えてもいないだろう。米国が考えてもいないことを想定して煙幕を張り、日本が世界に誇り、世界がまた日本をうらやむ「国民皆保険」を人質にとって「それが崩壊してもいいのか!」と脅す医師会も、もう少し冷静になってもいいのではないか?

日本に対して市場開放を迫る米国の農業も、オーストラリアと一本勝負すれば負ける。補助金のないオーストラリア農業は、補助金で支えられた米国農業よりも圧倒的に強いのだ。

今回の9カ国メンバーにオーストラリアが入っているということは、「例外」を設けるに違いないというヒントでもある。

これは僕も思っていて、「例外はまったくない」というのを鵜呑みにするのはナイーブ過ぎるし、国民の安全のための規制はなんと言われようと非関税障壁ではない、と断固として言い返すのが政府の仕事だと思う。

そして、相前後しますが気になるフレーズ

・・・対外交渉の下手な政府は米国の言いなりとなるが、その被害者には税金で応分の負担をしましょう、というやり方を用いるのである。今回も野田首相は早速このお家芸を持ち出し、万一農家などに被害が及べば補償はしっかりやります、などと交渉の始まる前から「鎮静剤の散布」を提案している。

結局「焼け太り」狙いかよ、と思われるのは、農業の発展を目指す人々にとってもプラスではないように思います。

コメント (2)
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