本書はオランダの政治体制の歴史から説き起こしており、事例紹介だけでなく、社会福祉制度は往々にして「○○モデル」同志の優劣が論じられるが、どこの国にも社会福祉の「理想形」というものはなく、それぞれの国の歴史と政治過程の中で築きあげられてきたもので、それだけ形だけ導入することは難しいという当たり前のことを改めて理解することができる。
たとえば
・オランダの雇用保障
オランダの制度は解雇制限や生活保護などが手厚い半面、保障受給者に対する就労義務は厳しく、受給者は原則として(「切迫した事情」を立証しない限り)全員求職義務を課せられ、あっせんされた仕事が「一般に受け入れられている労働」(売春などの違法な労働や最低賃金を下回る労働以外)である限りこれを拒むことができない。
言われてみれば日本の雇用保険制度やハローワークの業務は失業保険の給付に重点を置かれ、職業紹介も「紹介」(=マッチング)にとどまっているように思う(伝聞だが)。
「紹介する以上働け」というくらいのものがあってもいいし、その方が失業保険の財政も健全化されるように思う。
同時に「ブラック」な、労働法制を守らない企業を厳しく取り締まらないといけないが。
・パートタイム労働
パートタイム労働者の権利はフルタイム労働者と完全に一緒で、いわば「短時間労働正社員」といえる。
一方オランダは従来女性は家事労働に従事するのが当然という風潮があった。1960年代からは社会意識の変化や労働需要によりパートタイムは増えたが、現在でも女性はパートタイム労働、男性はフルタイム労働が多いという傾向がある。これは保育支援が北欧諸国に比べて整備が遅れている(1990年代から取り組み始めた)というのも一つの理由。
欧米は女性の社会参加が進んでいるかというと、それはお国柄によるようだ。
日本で「正規」「非正規」の区別が問題になっていて、有期雇用・雇止めの可否の違いが問題になっているが、まずは年金や社会保険などの権利を同一にすること(そして退職金優遇税制などの長期勤続者への優遇制度がなければ)が先のような気がする。
そうすれば解雇規制以前に雇用の流動化が促進されるのではないか。
・移民
2000年代から移民の制限(「オランダ化」の試験の義務付けなど)が行われ、かつての移民大国は政策を大きく転換した。また、難民の受け入れもハードルを高くしている。
2010年で滞在許可者は56,000人(これは日本とほぼ同じ)ちなみにそのうち「知識移民」(いわゆる高度人材、これは積極的に受け入れている)は一割強の5900人
最近移民の制限はオランダやデンマークの様な福祉国家で生じているこれらの国家では女性や高齢者・失業者などへの保護を手厚くする一方で移民や難民を外部者として排除するという動きが進んでいる。
これは権利の前提として社会への「参加」が求められる福祉社会においては「参加」という責任を果たすものにのみその構成員となることが許される、という制度の性格の変質があるのではないか、と著者は分析している。
日本でも国際競争力の強化を目標に高度人材の流入を促進しようとしていますが、少子化対策としては「高度人材中心の移民」というのは現実的ではないこと、また逆に10万人単位の移民は社会的影響が大きいことが推察される。
そして、移民を大量に呼び込むには、日本人が移民をともに社会に参加して制度を支える存在としてとらえることが必要になる。
これは今の生活保護受給者への批判の在り様などを見ても相当ハードルが高そうである。
人をうらましがったり目標を見つけるための本ではなく、「人のふり見て我がふり直せ」の本といえよう。