一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

『ワルの外交』

2014-12-29 | 乱読日記

著者はロシア大使館公使、ウズベキスタン・タジキスタン大使を歴任した外交官。
一度講演を聞いたことがあるのだが、澄ましたところがなく歯に衣着せぬトークが面白かったので本書を購入。

最近題名は編集者が営業を考えてつけることが多いが、「ワルの外交」というタイトルは著者がつけたらしい。

そのココロはまえがきに書いてある。

・・・この本は二つのことを提案する。一つは、日本人はもっと「ワル」になって、巧妙・老獪な広報・宣伝合戦を展開していこう、ということ。そしてもう一つは、この世界を動かすものは高邁な理念とか理想より赤裸々な利益であることを肝に銘じて、高邁な理念のウラに隠れた真実の動きを見極めてから行動しよう、ということである。
 これは、日本の政府に提言したものではない。普通の人たちに提言したものである。というのは、韓国や中国と歴史問題で口論するにしても、慰安婦は強制連行されたかどうか、あるいは南京で虐殺されたのは30万人なのか1万人なのかというような議論は、日本国内ではよくしておく必要があるけれど、これをアメリカとか西欧とかの第三国でやると、「慰安婦」「虐殺」という言葉が先に立って、日本のイメージをかえって下げる。第三国で広報をやるのだったら、もっと別のやり方がある、それはどんなやり方か、というのが一つ。
 そしてもう一つは、国際情勢の中で日本が置かれた真の状況を見極めるノウハウを持っていないと、戦前、満州事変をきっかけに過度の国家主義に傾き、壊滅的な戦争を招いた過ちをまた犯す、国際情勢の真相、歩留まりを見極めるには何に気をつけたらいいか、ということである。ワルの外交、ワルの視点とでも言おうか。

本文にはいろいろなエピソードがちりばめられていて非常に面白い。

外交というのは首脳対首脳(または外交官対外交官)というような1対1の交渉ではなく、それぞれの当事者が本国の期待や周辺国の思惑を意識しながら行うもので、しかもそれぞれの国や状況によって交渉当事者と政治家・官僚・国民との関係や国内の利害対立の状況も異なるし、関係国の利害も異なる。
そのような状況で、建前を主張しつつ実利を得て、しかも将来に禍根を残さないためには、著者が言う「ワル」-現実的で冷静に考え実利を取る-姿勢が重要ということなのだと思う。

一方で日本人は「一騎打ち」が好きなのか、報道や我々の関心も「交渉に勝ったか負けたか」「どこで譲歩したか」というところが中心になりがちのような気がする。
TPP交渉でも「フロマンUSTR代表vs甘利大臣」という構図がクローズアップされたり、それが進展しなければ「オバマvs安倍」という話に持っていきたがる。しかし条約は国会での批准が必要であり、当事者もそこの落としどころを見ながらの交渉になる。その交渉の途中で「勝った負けた」といちいち騒ぎ立てられたり、経済界から念仏のように「TPP早期成立」が唱えられる状況があると、それらも交渉の1要素として「形を整える」ことを実利より優先する方向に動いてしまうかもしれない。
なので、国民も外交に対しては単純に熱くなってはだめだよ、と本書は言っているように思う。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『ニッポン景観論』

2014-12-29 | 乱読日記
続けて「ガイジン本」

古美術品や書そして古民家再生や景観コンサルティングなど幅広く行っている「日本文化研究家」アレックス・カー氏(Websiteはこちら)が日本の都市・観光地・公共工事が景観をいかに藝術的なまでに損なっているかを豊富な写真を交えながら訴えた本。

数年前に同氏の講演を聞いたがその内容を発展させた感じ。

観光地の無遠慮な看板や禁止サイン、景観をあえて破壊するような無骨な土木工事、どこも同じな地方中核都市の駅前(特に新幹線停車駅のペデストリアンデッキとか)などはまったく同感。


観光地についてはインバウンド観光客が今年は1300万人に達しようという勢いの割には現地が追い付いてきていないところも多い。

本書でも取り上げられている白川郷は、世界遺産効果もあり年間約140万人にものぼるが、平均滞在時間は40分に過ぎない。これは大型観光バスによる観光ツアーに特化してしまった弊害だと著者は指摘する。


実際白川郷は高速道路のインターチェンジが近いため、高山から富山・能登半島に抜ける「ドラゴンルート」の通過点になってしまっている。

これが一般の白川郷のイメージだと思うが



車で来ると村の入り口に巨大な駐車場ができていて、バスが頻繁に出入りしている。



しかも、なぜか駐車場の外側のアプローチ道路沿いに1件だけ合掌造りの家が残っていて、そこが蕎麦屋を営業している。そして、駐車場に行く車をいちいち止めては「食事をしたら駐車料金無料にするよ」と個別に客引きをしている。
日本人の自家用車客対象だろうが出だしから気持ちがくじかれる。

世界遺産になると難しいのかもしれないが、駐車場を作るときに移設などは出来なかったのだろうか?

さらに、集落の中も土産物屋はどこも同じようなものを売っていて商品も個性がないし、重要文化財の建物は個別に入場料を取っていて煩雑。
どうも住民同士が共同して盛り上げようというよりは世界遺産に指定されたのがゴールになってしまっている感じがした。

リピーターはあまり期待できないのではないか。


対照的に近く高山市は観光地として歴史があるにもかかわらず、「昭和の観光地」にとどまらず真っ当である。

言ってしまえばもともと高山市は古い町並みと祭りくらいしかコンテンツがないのだが、そこをきっちりと磨き上げている。




町並みは非常にきれいで整備されているだけでなく、商店もそれぞれ個性のある品物を扱っている。
もともと江戸時代は材木の産地で天領として産業・文化が栄えたこともあるのであろうが、スイーツもオリジナルの店も多く、数ある酒蔵ではそれぞれ試飲コーナーが用意されている。




日本の観光地だってやればできるのであり、また、きっちり魅力を磨いているところも増えている。
著者も四国の山奥の古民家再生などでそれを実証しているし、観光業は21世紀の基幹産業になると唱えている。

本書は日本の観光業や街づくりへのエールととらえたい。
(ウエブサイトを見ると、カー氏の活動拠点が最近タイに移っているのが気になりますがw)



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『ニッポン社会入門』

2014-12-29 | 乱読日記
この手の「ガイジンの見た日本」本の中ではかなり面白い。

今までの多くの本は、「ガイジン目線」で「日本はここが特殊だ」という切り口で日本社会を評論しているものが多かったのに対し、日本に留学しその後英国メディアの日本特派員として仕事をしていた著者が、「日本に適応しようとする自分」「日本を知らない友人に日本を教える自分」「日本に初めてくる友人の反応を楽しむ自分」「日本に適応して英国人に/から違和感を持つ/持たれるようになった自分」という視点から日本社会(と自分)を描くという本書のスタンスによるところが大きいと思う。

たぶんこの視点は日本人が外国に適用しようとするときにも有効だと思う。

読み比べるのも面白いと英語版も購入したのだが、読む暇がないのが残念。



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする