一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

コソボ独立宣言についての国際司法裁判所の勧告的意見

2010-07-24 | 法律・裁判・弁護士

国際司法裁判所の勧告的意見は「独立宣言自体は国際法規や国連決議に反してはいない」なのですが、どうしても見出しになるとこうなってしまいがちです。

コソボ:「独立は合法」 国際司法裁が勧告的意見
(2010年7月23日 毎日新聞)

オランダ・ハーグの国際司法裁判所(ICJ)は22日、旧ユーゴスラビアのコソボが08年2月にセルビアからの独立を一方的に宣言したことについて、国際法違反にはあたらないとして合法との判断を下した。法的拘束力はないが、ICJが独立を追認する解釈を示したことで、コソボ承認の動きが国際社会で広がる見通しだ。   

国際法廷がコソボ独立の合法性について判断を下すのは初。セルビアは独立宣言が主権と領土の一体性の侵害であり、国際法に違反していると主張。セルビアの要請を受け、国連総会がICJに法的解釈である「勧告的意見」を求めていた。  

意見の中身を見ればあくまでもコソボの独立宣言が国際法上違法かどうかを判断しているだけ(「コソボ独立の合法性」を判断しているわけではない)なのですが、報道では上のように書きたくなるのでしょう。(マスコミ名誉のために言えば「独立宣言は適法」とした報道のほうが多いですが。)

「ドキュメント 戦争広告代理店」を読んだ身としては、セルビアの国際社会での立ち回り方の不器用さにも少し同情してしまいます。

そこで、国際司法裁判所のサイトを見ると、意見の内容が即日公開されていました(日本の最高裁ももうひとがんばり)。
http://www.icj-cij.org/docket/files/141/15987.pdfPHPSESSID=0cfe3e6f8cb41066025fc1b86d2cdf88  
冒頭の要約のところを読むと  

General international law contains no applicable prohibition of declarations of independence -- Declaration of independence of 17 February 2008 did not violate general international law.  
一般国際法においては独立宣言を禁止しているものはない--2008年2月17日の独立宣言は一般国際法に反してはいない。  

Whether or not the authors of the declaration of independence acted in violation of Security Council resolution 1244 (1999) -- Resolution 1244 (1999) addressed to United Nations Member States and organs of the United Nations -- No specific obligations addressed to other actors --The resolution did not contain any provision dealing with the final status of Kosovo -- Security Council did not reserve for itself the final determination of the situation in Kosovo -- Security Council resolution 1244 (1999) did not bar the authors of the declaration of 17 February 2008 from issuing a declaration of independence -- Declaration of independence did not violate Security Council resolution 1244 (1999).  
(「超訳」ですが)安全保障理事会決議1244号(1999年)は加盟国に特段の義務を課すものではなく、コソボの最終的な状態を決定するものでもなく、その決定を安全保障理事会の権限として留保してもおらず、独立宣言を発することを禁じてもいないので、独立宣言は安保理事会決議に違反するものではない。  

となっていて、 さらに  

Issues relating to the extent of the right of self-determination and the existence of any right of “remedial secession” are beyond the scope of the question posed by the General Assembly.  
自己決定の権利の範疇に関する判断や「救済的分離」の権利の存在するか否かの判断は、国連総会から求められている質問の範疇外である。 

とコソボの独立宣言の根拠付けをすることは避けています。 
(※英語がろくにできない上に国際法についての知識は皆無なので誤解・誤訳があったらご指摘ください。)  

つまり「独立宣言をしたこと自体は違法でない」としか言っておらず、「独立(宣言)をする正当な権利がある」とまで言及はしていないわけです。(詳しくはP31の82項で慎重な言い回しで回避しているあたりをご参照)  

(本来そういうものなのかもしれませんけど)政治的に中立的にかつ純粋な法解釈の範囲にとどめようという国際司法裁判所の意識が感じられます。  


ただ、結果的にはコソボ共和国(自称)の独立自体の正当性が認められたかのように取り上げられることになってしまったわけで、そうなると「独立宣言は国際法違反か」という問題の立て方で国際司法裁判所に持ち込むことを求めたセルビアの戦術が果たしてよかったのかという疑問もわきます。 
たとえ「違法だ」という結論が出たとしても、コソボ暫定政府の事実上の支配を排除するためには安保理事会が動いて・・・と相当迂遠な手続きが必要になるわけですし。

実際問題としては、この手の問題への対処としては、国際法的な是非はさておき、事実上の力を行使して独立を阻止してしまうという某安保理常任理事国が標高の高いところでやっている方式が一番実効性があるわけですが、ボスニア紛争で一度「悪者」になってしまったセルビアだけにそうもいかなかったのでしょうか。  

その辺を読んでいて「独立宣言」をぶちあげたコソボ暫定政府の政治センスが上回っているということなのかもしれません。


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