一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

『放射線のひみつ』

2014-12-28 | 乱読日記
本書は放射線科の専門医である著者が、1F事故直後の6月に放射線の基礎知識についてわかりやすくふれたもの。

当時ななめ読みして放っておいたのだが、『知ろうとすること』をきっかけに今回改めて通読。

放射線のかいせつだけでなく、甲状腺がん自体のリスク(甲状腺がんに罹患することでなく)などについてもきちんと触れていることに改めて気が付いた。

『知ろうとすること』で早野氏は、「放射線のことを知っているとか知らないとか、そういう知識の有無とはまったく別の次元」で「混乱した状態から、より真実に近い状態と思える方に向かって、手続きを踏んでいく」ことの難しさを語っていた。
そうはいうものの、放射線についての一定の知識があれば情報の理解力は進むわけで、本書のように「放射線について知ろうよ」とわかりやすく語る本がこのタイミングで出版されていたことは記憶にとどめておきたい。





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『知ろうとすること』

2014-12-28 | 乱読日記

TL上を飛び交っていたので読んだつもりになっていたのだが、文庫になってから購入。
科学的知識に限らず「伝えること」「理解すること」それぞれに技法があることについて、「伝えること」のプロと「理解すること」のプロが対談しているところが一番の魅力。

本書は、福島第一原発の事故後、情報を科学的に分析し発信しつづけ、さらには学校給食の陰膳調査やベビースキャン(赤ん坊の内部被ばく測定装置)を開発するなど積極的に行動している早野龍五氏と、ツイッターで早野氏を知って以降自らの行動の指針としてきた糸井重里氏の対談。

CERNを拠点にした原子核物理学者の早野氏はこう語る

物理学者というものは、やっぱり普通じゃない考え方をします。だから、一般の方々に向けて説明するときには、なるべく数式を使わないように、気を付けているんですけどね。ぼくらはグラフを見て、グラフになる元のデータを見て、それから数式を書き、数式を計算した結果を見て、そういうものと、それから自然界のものを見比べるということをやっている、非常に特殊な人たちなわけです。

・・・ですからやはり科学的には必要なくても、ベビースキャンは必要なんです。実際、稼働させてみてわかったのは、この機械はものすごいコミュニケーションツールなんだということです。
・・・ベビースキャンがあることによって、今までぼくらが話すことができなかったような、「放射線の影響をとても心配しているお母さんたち」がお子さんを連れて来てくれるわけです。それで話してみると、お母さんたちが何を心配しているのか、ということが具体的にわかります。ひとつひとつうかがっていくと、驚くようなこともありますよ。僕たちが想像できないようなことを心配したりして。やっぱり、お互い話さないと、理解できないし、心配は消えないわけです。

・・・震災以降の日々は、ぼくにとっては、あらゆるものが新鮮でした。最初は、コミュニケーションにしても非常に下手でした。四苦八苦しながら、だんだん、社会に対して語るというのがどういうことなのかが、わかってきました。その過程で、ぼくは、科学と社会の間に絶対的な断絶がある、ということを気づかざるを得ませんでした。放射線のことを知っているとか知らないとか、そういう知識の有無とはまったく別の次元です。「混乱した状態から、より真実に近い状態と思える方に向かって、手続きを踏んでいく」というサイエンスとしての考え方を、一般の人に理解してもらうのはとても難しいと知ったのです。

たぶんこれは科学と社会でだけでなく、専門分化した世の中でのコミュニケーション全般に言えることでもある。

事故などの際に業界・同業での常識や用語を前提とした説明は、それが客観的には顧客などの安全に配慮したものであったとしても、問題を大きくすることはよくある。
(身近なところでは合コンでの自己紹介が自慢にしか聞こえない、なんてのもありますな)

経済学者の議論などはそもそも同業なのに前提がすりあっていないことはしょっちゅうで、剣道の流派と違って他流試合自体が成立しないように見えるのは不思議ですらある。

政府の出す「○○戦略」もそうで、いろんな利害関係者に配慮した玉虫色にならざるを得ない部分はわからなくもないが、そういう複雑な状態から「より真実に近い状態と思える方に向かって、手続きを踏んでいく」意思を読むほうにわかるように見せているかが問われるが、今回のはどうであろうか。


話は脱線してしまったが、糸井重里は2011年のツイートを引用してこう言っている。

<ぼくは、じぶんが参考にする意見としては、
 「よりスキャンダラスでないほう」を選びます。
 「より脅かしてないほう」を選びます。
 「より正義を語らないほう」を選びます。
 そして、「よりユーモアのあるほう」を選びます。>

そう。温度の高い言葉は、語り手が熱を持つことを伝えはするが、必ずしも相手にその熱自体を伝えることにはならない。



 

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予告

2014-12-28 | 乱読日記

読んだ本のレビューがたまっているので、これから年末大掃除を兼ねて一気に書こうと思います。

(どこまでできるかは自信ないけど)

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駒ケ根

2014-12-12 | うろうろ歩き

先週の週末、長野県の駒ヶ根に行ってきました。

名古屋からの高速バスは道中吹雪で先が思いやられたのですが




現地に着くころには青空が見えていました。

12月に入って急に雪が降り出したそうで、畑には金曜に降った雪が残っていました。

中央アルプスも「ハーフ雪景色」という感じ。



訪れたのは信州マルス蒸留所





きっかけはこのTweetでした。



こう言われたら、見学に行くしかないでしょう。

蒸留所と竹鶴政孝(マッサン)の関係はウェブサイトのマルスウイスキーの歴史で詳しく書かれていますが、見学コースにも説明があります。




簡単に言うと、竹鶴が入社した摂津酒造の常務で醸造の責任者岩井喜一郎は竹鶴を英国研修に送り出し、竹鶴は帰国後報告書「竹鶴ノート」をまとめた。
摂津酒造はウイスキー製造を断念し竹鶴退社(このへんからの竹鶴は朝ドラ参照)
一方で岩井喜一郎は大阪帝國大学の醸造学の講師になる。
そこに本坊酒造の(○代目?)本坊蔵吉が師事。
戦後岩井は摂津酒造を退社し本坊酒造の顧問となり、ウイスキー部門の計画を任され、「竹鶴ノート」をもとに蒸留所を設計した。
ちなみに本坊蔵吉は後に岩井喜一郎の娘と結婚しています。


こちらが入れ替え終わった新品の蒸留釜









新酒の仕込みは来年1月からで、今は水を入れて試験運転をしています。

本来蒸留釜はもう少しもつらしいのですが、生産量を増やす計画があり、一方で点検したところ厚さが2mmくらいしかなくなっているところがあったので交換することにしたそうです。


貯蔵庫も見学できます。



ウイスキーの香りが充満しています。
ここもコンパクトなので、増設するのでしょうか。


試飲コーナーもあります。




ウイスキーだけでなく、地ビール、ワイン(山梨の醸造所製)、梅酒も試飲できます。


シングルモルト駒ヶ岳 シェリー&アメリカンホワイトオーク2011
優しい香りと3年ものとは思えないまろやかさがあります。いまは閉鎖されてしまったメルシャン軽井沢蒸留所で作られていた「軽井沢シングルモルト12年」(絶版になって残念)に似た雰囲気があると言ったら、試飲所の女性が軽井沢蒸留所に行ったことがあり、「なんで閉鎖しちゃったんでしょうね、もったいない」とひとしきり盛り上がりました。

岩井トラディション
ブレンデッドならではの厚みと広がりがある。某社のシングルモルトより好きかもしれない。
コストパフォーマンス的には抜群。

竜峡梅酒
地元の竜峡小梅をブランデーで仕込んだ梅酒。甘みと香りのバランスがとてもよい。

Apple Hop
地元のリンゴを使ったヴァイツェンタイプの地ビール(発泡酒扱い)甘みと香りがうまく調和している。

以上を購入。別便で宅送。


つぎは駒ケ根といえば「駒ケ根ソースかつ丼」

タクシーの運転手さんに駅の近くでおすすめも店を聞き、行ったのは「きよし」





駒ケ根ソースかつ丼はキャベツとカツだけ。
地元では「卵でとじて」と言わないと普通のカツ丼は出ないそうです。
ボリューム満点






駒ケ根ソースかつ丼公式サイトによると、名乗るには基準を満たさなければいけないようです。

駒ヶ根市では平成5年に市内飲食店有志により「駒ヶ根ソースかつ丼会」が発足、以来「ソースかつ丼による街おこし」に取り組んでいます。
どのお店に入っても一定の基準が保たれるよう、会ではお客様のためのソースかつ丼規定を設けています。

<お客様のための駒ヶ根ソースかつ丼規定>
其の一 器は丼に限定する。
其の二 ソースかつ丼の肉は豚肉のロースを基本とし、120グラム以上とする。
其の三 かつはパン粉を付けて揚げたものでなければならない。
其の四 キャベツは細かく切って水に浸してから水分を切って丼の飯の上に載せる。
其の五 かつを揚げる油については油脂は自由としても良いが、
  揚げかすは必ず取り、汚れた油では揚げない
其の六 ソースはソースかつ丼会で作ったものを最低基準とし、
  これに工夫することが望ましい。
其の七 かつを揚げてソースを潜らせる時、ソースも温めておき、
  揚げたてのかつをそのままソースに潜らせて切って飯に載せても、
  切ってからソースに潜らせて飯の上に載せても自由とする。
其の八 海苔等はソースかつ丼に載せない。
  また、キャベツ以外の野菜は載せない。
其の九 蓋は自由とする。

店のレジに置いてあった「信州・駒ヶ根ソースかつ丼物語―ご当地グルメに託したまちおこし」という本の中に、上の基準の意味や町おこしの軌跡が詳しく書かれています。

本を読み進むと、実は「きよし」の店主は、「駒ヶ根ソースかつ丼会」の現会長(三代目)だったそうです。

なんだか得した気分になりました。



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「Fury」余談

2014-12-10 | キネマ

「Fury」を見た、という話を、知り合いのドイツ生まれの豪州人にしたらこんな話が出た。

昔ドイツにいた頃、国防軍の戦車隊にいた大叔父の話をよく聞いた。
(さすが、豪州人も戦車を"tank"でなく"panzer"と言っていた)

大叔父はロシア戦線にいて、冬将軍の前に敗退をした。 モスクワまで行ける準備はできていたけど想定以上に遅れたのが致命傷だった。
冬になると、戦車の中で凍えているしかなかった。

敗走時には燃料もなくなったため、今のソ連・ポーランドの国境あたりからドイツまで歩いて帰った。

途中でナチスドイツは降伏したため、ドイツ国内に入ると米軍の検問所に出くわした。

検問はナチスの親衛隊を捕まえるものだったが、戦車兵の徽章は親衛隊と同じドクロを模したものだったので、親衛隊と間違われて逮捕されそうになった。
自分は戦車兵だと必死で説明していたところ、奥の部屋に呼ばれて名前と部隊・出身地を聞かれた。
それにこたえると、持っていた大きなリストと照合して確認をし、無事解放されることができた。
どうやって入手したのかわからないが、米軍はドイツ軍兵士の一覧表を持っていたらしい。

日本に対しても同様だが、ナチスドイツが降伏したあと占領政策をどうするか、を考えながら戦争をしていた時点で勝負あり、だったようだ。

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「電子居住」の意味するもの

2014-12-07 | あきなひ

これはけっこう重要な試みかもしれない。

突っ走るエストニア、「電子居住」が可能に!

この国では、世界ではじめて「イー・レジデンシー(電子居住)」をできるようになった。選挙での投票や居住IDカードの取得はできないが、どこからでもエストニアの全ての電子サービスにアクセスできるようになる。これには銀行口座の開設や企業経営も含まれる。

移動・物理的な居住というハードルをなくすことで、その国の魅力、何が国際競争力があって何がないかが明らかになり、今まで議論されてきた「国際競争力強化のための方策」について有効な補助線を引くことができる。

外国人が他国に企業を設立しようとする際に、物理的な居住が不要であれば、魅力的な国内マーケット、安くて優秀な労働力、法人税の安さ、資金調達の容易さが選択の中心になる。

その一次選抜を通過したうえで、さらに居住を選択してもらうための魅力が問われる。

それは居住者への税金の安さ、治安の良さ、物価の安さ、子供の教育などだろう。


前者については最近法務省、外資系の登記規制を年内に廃止-日本居住の代表者がいなくても法人登記可能に などの取り組みが見られるが、「(東京の)国際競争力の強化」として取り上げられている項目はたいてい後者に属するものである。

たとえば以下をご参照
「『東京国際金融センター』構想に向けた取組」について
【課題①】海外の企業・人材が東京でビジネスをしやすい 環境づくり

BEPSの議論のように既に企業の所在と所得の発生場所はすでにバーチャルなものになっており、個人についても富裕層は税効果を考えて居住地を決めている人も多いなかで、今さらちょっとナイーブな議論のような気がする。

いたずらな減税競争では意味がないが、政策的な税優遇や制度優遇などをする代わりに日本国内で資金を回して雇用を生む「損して得とれ」という作戦を議論すべきではなかろうか。

電子居住はエストニアという小回りのきく国だからできる、という意見もあるかもしれないが、企業の盛衰においては小回りのきく方が強いということを忘れてはいけない。

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