褒めまくる映画伝道師のブログ

映画の記事がメイン。自己基準で良かった映画ばかり紹介します。とにかく褒めることがコンセプトです。

映画 地上(ここ)より永遠に(1953) 軍隊の内部批判

2025年01月31日 | 映画(か行)
 『シン・レッド・ライン』も映画化されている小説家ジェームズ・ジョーンズによる原作の映画化作品が今回紹介する地上(ここ)より永遠に。腐敗した軍隊の内部を徹底的に批判した映画だが、今ではそのような映画は多く見られるが、本作はそのような映画の走りである。上官に逆らったために苛めや猛烈なシゴキに遭ったりで、強烈なパワハラが描かれている。しかし、本作はパワハラを描きながらも、恋愛、友情も描かれており、感傷に浸れる作品でもあるのだ。

 早速だが、ストーリーの紹介を。
 1941年、ハワイのオアフ島において。兵営にラッパ手であるプルーイット(モンゴメリー・クリフト)が転属してくる。彼はボクシングの腕を見込まれて上官のホール(フィリップ・オーバー)からボクシング部に入れと誘われる。しかし、ブルーイットにはボクシングの練習の最中に相手を失明させてしまった過去があり、頑なにホールの要請を拒否。しかし、そのことにより彼は理不尽な苛めに遭ってしまうことになる。しかし、そんなブルーイットを優しく見守るのがホールの部下でありブルーイットの上司にあたるウォーデン(バート・ランカスター)であり、唯一の友人であるイタリア系アメリカ人のマジオ(フランク・シナトラ)。そして酒場で働いていたロリーン(ドナ・リード)という恋人もできる。
 そんな安らぎも少しはあるのだが、ある日の事、友人のマジオが勤務をサボった罪で営倉に入れられ、そこで担当のジャドソン(アーネスト・ボーグナイン)から警棒で打ちのめされ死んでしまい・・・

 軍隊の内部の腐敗ぶりが凄い。ホール(フィリップ・オーバー)という上官が逆らう部下には陰湿な苛めをするし、しかも仕事をウォーデン(バート・ランカスター)に放り投げて、女遊びにうつつを抜かす。ブルーイット(モンゴメリー・クリフト)は、ボクシングをすることを拒み苛めを受けるのを、優しく見守るのがウォーデンなのだが、彼もボールの美人妻のカレン(デボラ・カー)と不倫をしている始末。それ故なのかウォーデンはホールに対して、気兼ねしているのか彼を批判することをしない。軍隊内部における出世欲に取り付かれた上官と、その犠牲になる部下たちという図式が描かれている。
 そんな陰惨なストーリー展開の中でも熱い友情のシーンがある。ブルーイットが亡き友マジオ(フランク・シナトラ)のためにラッパを吹いてやるシーン。これは胸が熱くなる。他にもカレンとロリーン(ドナ・リード)の女性達が幸せになれない様子も色々と想像させる。
 しかし、アメリカ人のやる時はやるんだ、という精神を後半で見せてくれるのには笑ってしまった、じゃなくて流石だと感じさせられた。日本軍による真珠湾攻撃が始まった時の一瞬にして団結する様子は流石はアメリカ。飛行機を一基だけ撃ち落としたぐらいで大喜びするシーンは何だか微笑ましく感じてしまった。
 本作は第二次世界大戦が終わった時期に制作されているが、時代的に朝鮮戦争の最中に制作されていたことがわかる。そのような時に、本作のような軍部を批判した映画を撮ることの難しさがあったはず。ちょっと首を捻るようなシーンもあったりするが、色々と規制がある中でこれだけの映画を撮ってしまうハリウッドの底力を感じさせる映画である。
 上司が優秀な部下を苛めるなんて世界は何も軍隊だけではなく、一般の社会にもあり、現在においても続いている。古い映画ではあるが、何かと現代社会にも通じる名作として今回は地上(ここ)より永遠にをお勧めに挙げておこう

 監督は名監督フレッド・ジンネマン。信念を持つ人間を主人公にした映画には感動作が多い。西部劇の傑作真昼の決闘、オードリー・ヘプバーン主演の尼僧物語、歴史映画わが命つきるともジュリア等お勧め多数です

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映画 ブローニュの森の貴婦人たち(1945) 女の復讐を描く

2025年01月30日 | 映画(は行)
 フランスの観光スポットであるブローニュの森だが昼間は安全らしいが、夜はいかがわしい街に変身してしまう治安の悪い場所。フランスへ観光する際は気をつけてください。まあ、夜はドコモ治安が悪いので出歩かないことに越したことはない。とりあえずは俺がアドバイスをしておこう。そんな俺のアドバイスとは関係なく前から観たいと思って観たのが今回紹介するロベール・ブレッソン監督の映画ブローニュの森の貴婦人たち。古い映画であり、内容も古さを感じさせるが、何度も原作が映画化されているピエール・ショデルロ・ド・ラクロの『危険な関係』を思い出させるような恋愛を利用して、自分を裏切った相手を滅ぼそうとするストーリーが描かれている。

 マリア・カザレス演じる女主人公の遠大な復讐を描いたストーリーを紹介しよう。
 上流階級で暮らすエレーヌ(マリア・カザレス)は恋人のジャン(ポール・ベルナール)のことを愛していたのだが、彼が少し最近は冷たくなってきたように思えていた。ある日のこと、エレーヌはジャンに冗談半分で別れ話を切りだす。すると、ジャンはあっさりと『実は俺も別れたかったんだ』と予想もしない答えが返ってきた上に彼はさっさと出ていく。すっかりプライドを傷つけられたエレーヌはジャンの人生を破滅させるために復讐を開始する・・・

 さてエレーヌはどのような復讐の方法をするのか。エレーヌは3年間会わなかったが、今ではボロボロの生活苦に陥っているアニエス(エリナ・ラブルデット)とその母に会いに行く。アニエスは生活を支えるために、見せ商売の踊り子をしており、男性相手の仕事をして生活費を稼いでいる。そこへエレーヌはつけ込み、母娘の面倒を見る代わりに自らの計略に乗せようとするのだ。何気なくジャンとアニエスを会わせるるのだが、これが大成功。すっかりジャンはアニエスに熱を上げてしまう。しかしながら、アニエスは自分の恥ずかしい経歴からなかなかジャンの気持ちに応えられないでいた。
 どんな復讐方法なのかと思いながら見ていたのだが、ジャンを報われない恋に苦しめることが目的かと途中まで思っていた。しかし、ジャンの強引なアプローチは、苦難の末にアニエスの心をゆれ動かし2人は結ばれる。これじゃ、エレーヌの復讐が失敗してるんじゃね~なんて思ったが、まだ続きがあった。最後までエレーヌの狙いに気づかない俺がアホなのか、個人的には衝撃を受けた。
 しかし、エレーヌを演じたマリア・カザレスだが面長で、切れ目なのだが、ずっと不気味な雰囲気を漂わせていた。まあ、見た目で女性を判断するわけではないが、顔付もふっくらした女性の方が俺は好みだ、なんてどうでも良いっか。
 ちなみに本作は台詞の監修を才人ジャン・コクトーが担当している。その点にも興味が惹かれたのだが、コクトーがその役割を担ったからといって、どれだけ効果があるのかは俺には理解できなかった。
 ちょっとした冗談っぽい行動が恐ろしいことを引き起こすことなんかは現実でもありそうだ。俺なんかは何でも冗談で済ましてしまうことが多いのだが、本作を観て反省させられた。そんな俺と同じく冗談好きな人、女性の罠に嵌りたくない人等に今回はブローニュの森の貴婦人たちをお勧めに挙げておこう

 監督はロベール・ブレッソン。実はこの監督はあえて題名は言わないが1本だけ観たことがあるのだが、面白くなかった。この監督のお勧めがあれば逆に教えた欲しいです

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映画 ダラス・バイヤーズクラブ(2013) エイズへの偏見

2025年01月29日 | 映画(た行)
 笑える話だが、かつてはエイズっていうのは同性愛者がなるものだと信じられていた。俺も本作が舞台となる1980年代はそのように信じていたし、海外の有名人がエイズに感染したと聞くと、この人は同性愛者だったんだと勝手に決めていた。または少し接触しただけで感染するとも思われていた。そんな偏見を描きつつ、エイズに罹ってしまった患者が余命30日と宣告されながらも生き延びるための戦いを描いた映画が今回紹介するダラス・バイヤーズクラブ。頭が固くて、癒着まみれの政治家たちが作った法律によって不幸を被っている人々がこの世の中に存在しているが、そのような人にも心が響く内容だ。

 エイズによる偏見に晒されながらも自ら運命を切り拓く男の実話のストーリー紹介を。
 1985年アメリカ南部のテキサス州ダラスにおいて。電気技師でありロデオのカウボーイであるロン(マシュー・マコノヒー)は体調を悪くして病院に運ばれるが、エイズに感染しており余命30日と宣告される。同性愛者がなると思っていた病気に自分が罹ったことに信じられないロンは、必死でエイズについて調べると性行為によっても罹ることを知ってしまう。
 しかし、アメリカではエイズに対する治療薬については後進国であり、ロンは病院を抜け出し治療薬を求めてメキシコへ行く。メキシコで治療薬を試してみると効果が抜群。しかしながら、その薬はアメリカでは残念なことに使用が許可されていない。だが彼は同性愛者でありエイズに感染しているレイヨン(ジャレッド・レト)の協力を得て、月400ドルの会員制であり、会員になるとエイズの治療薬を無料で引き換えることができるダラスバイヤーズ・クラブを立ち上げて、カネを儲けようと企むのだが・・・

 アメリカの病院と製薬会社が癒着して毒性の強い薬にこだわり続け、海外で副毒性も弱くて効果抜群の薬の使用を認めない態度に驚くし、人命を軽んじる態度に腹が立った。しかし、本作の主人公であるマシュー・マコノヒー演じるロンが、そのことを利用して金儲けを企むバイタリティーに感心した。それにしても、薬をかき集めるために世界を飛び回るとは、元気すぎるエイズ感染者だ。
 しかし、この男が凄いのは単に金儲けに走ることだけではない。命を縮めるような薬を病院とFDA(アメリカ食品医薬品局)が結託してエイズ感染者に推し進めることに対して、反旗を翻すこと。彼の心の中にもアメリカ中でエイズ感染者が報われないことに怒りを持ち続けていたのだ。
 考えてみれば、このような事象はアメリカだけでなく我が国ニッポンでもあるのではないだろうか。物価高騰の影響をモロに受けて生活に困っている国民が大半なのに、この国の偉いさん連中はそんなことはお構いなし。自分の利益ばかり考えて、見て見ぬ振りをしているかのような態度に腹が立つ。俺も本作の主人公を見習って、この世の中を狂わせている理不尽な構図について調べようと思わさせられた。
 そして、マシュー・マコノヒーの役作りにも触れておこう。エイズ感染者を演じるために大幅の体重減を敢行して、ガリガリの体形で本作に臨んでいる。俺みたいな2カ月で5キロも体重が増えてしまう人間には信じられないような役作りを行っている。そして、同性愛者でエイズに感染している役をジャレッド・レトが演じるが、これも大幅に減量しているし、難しい役を演じている。本作は俳優の凄さも感じられる作品だ。
 よって何かと偏見に晒されて生きにくく感じている人、ロクでもない法律によって苦しめられている人、病院に通っているが毎回ロクでもない薬ばかり処方されている人等には少しぐらいは慰められる映画ダラス・バイヤーズクラブをお勧めに挙げておこう

 監督はジャン=マルク・ヴァレ。最近映画を撮らないなあと思っていたら亡くなっていたんですね。ジェイク・ギレンホール、ナオミ・ワッツ共演の映画雨の日は会えない、晴れた日は君を想うがお勧め

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映画 アメリカの友人(1977) 危うい友情に感動

2025年01月28日 | 映画(あ行)
 パトリシア・ハイスミス女史の小説を原作とする太陽がいっぱい。アラン・ドロン演じるトム・リプリーを主演にした名作だが、その原作を読んでいない俺は実はその後にもトム・リプリーのシリーズが作られていることを知らなかった。太陽がいっぱいがシリーズ1作目で今回紹介するアメリカの友人は、その第3作目にあたる。今回トム・リプリーを演じるのは怪優デニス・ホッパー。アラン・ドロンとデニス・ホッパーが同じ役を演じているのだが、全くイメージが異なるし、キャラも違う。まあ、映画的には続編でもなく、もちろん太陽がいっぱいを観ていなくても本作から見ていてもオッケー。
 本作はもちろんサスペンス映画であり、スリルを感じさせる場面もある。しかし、俺はスリルを味わいと言うよりも、男同士の危うさと脆さを抱えた友情に共感を覚えた。ちなみにパトリシア・ハイスミスの作品は太陽がいっぱい以外にも映画化されており、アルフレッド・ヒッチコック監督の見知らぬ乗客も彼女の作品の映画化。本作を観れば、なるほどと思わせるシーンがたくさん出てくる。

 ちょっとばかり捻ったアイデアに惹きつけられるストーリーの紹介を。
 アメリカ人であるトム・リプリー(デニス・ホッパー)はドイツのハンブルクに数年前に亡くなったとされる画家のデルワット(ニコラス・レイ)を訪ねる。デルワットは今はボガッシュと名乗り、彼自身の晩年の作品を書き続けており、それをトムが売りさばいていたのだ。
 トムは競売の場で額縁職人ヨナタン(ブルーノ・ガンツ)と出会い握手を求めるが、ヨナタンから握手を断られた上に皮肉を言われてしまう。しかし、トムはその場で友人からヨナタンは実は血液の病気に罹っており、命が幾ばくもないことを知らされる。
 トムの元にフランスから友人でありマフィアのミノ(ジェラール・ブラン)が訪ねてくる。ミノがトムに相談を持ち掛けた内容が、『殺してしまいたい奴がいるのだが、素人で殺害に協力してくれる奴はいないかな』という素っ頓狂な相談。その時にトムの頭の中に閃いたのがヨナタン。
 ミノはヨナタンに近づき、病状で不安を煽り、その引き換えに大金をちらつかせて、人殺しを願い出るのだが・・・

 妻と息子2人を抱えるヨナタンだが、自分が亡くなった後に家族はどうなるのだろうか。そんな心配につけ込む悪い奴が近づいてくる。殺害の素人に人殺しの依頼をするというアイデアが個人的に気に入った。ヨナタンは殺害を無事に実行するのだが、これが素人丸出し。しかし、これでも完全犯罪が成立してしまう展開にマジかよと思った。
 この一度の成功に味をしめて、またミノがヨナタンに人殺しの依頼を掛けてくる。さすがに断るだろうとおもってたら、人の良いヨナタンは悩みながらも大金に目がくらんで受けてしまう。このまさかの展開に驚きと後悔の念が湧きだしたのがトム・リプリー。自分がヨナタンを暗殺者に推薦しておきながらも、殺人を実行するとは思っておらず、しかも2回目の殺人を依頼されて、それも引き受けるとはトム・リプリーにとってもまさかの展開。ここから、トム・リプリーは最初に出会った時の印象の悪さが吹っ飛び、ヨナタンに親しみを覚えることになる。
 意外なことを切っ掛けに、トム・リプリーとヨナタンが友情に結ばれるのだが、これが非常に熱いものを感じさせる。暗殺のプロではなくて素人が人殺しを実行することのハラハラドキドキ感も楽しめるが、それよりも、この2人の関係の描き方が良い。トム・リプリーの責任感と迷惑をかけてしまったことに対する恩返しの気持ちに不覚にも俺の心に熱いものが込み上げてきた。しかし、この友情も予想通りとはいえ、長くは続かない。ヨナタンにすれば生涯続けば色々と迷惑な友情だから予想外の行動に出るのだが、終わりは余韻を残す。
 色々なことがメタファーに使われていたり、何だかモヤモヤするような結末であったり、トム・リプリー演じるデニス・ホッパーの独り言が気になったりで、すっきりした気分で観終われなかったのは不満。しかし、本作で述べた以外にも、トムとヨナタンの間で渡し合いをされるオモチャみたいな小道具は個人的にはツボだったし、ハンブルクの鬱蒼とした雰囲気はストーリーに活かされていた。結構退屈な映画も撮ってしまうヴィム・ヴェンダース監督だが、本作は成功した部類の作品に当たるだろう。こうしてブログを書いている時に気付いたのだが、当時の有名映画監督を登場させていることも彼の映画愛を感じさせる。そんなことでヴィム・ヴェンダース監督作品と聞いて心が躍る人、男の友情を描いた内容が好きな人、あり得ない展開にもしらける気分にならな人に今回は映画アメリカの友人をお勧めに挙げておこう

 監督は前述したドイツの名匠ヴィム・ヴェンダース。彼の得意のロード・ムービーの傑作パリ、テキサスベルリン天使の詩アメリカ、家族のいる風景がお勧め

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映画 近松物語(1954) 男女の逃避行

2025年01月27日 | 映画(た行)
 今年は外国映画ばかり紹介してないで、日本の映画も当ブログで紹介しようかと思っている。1950年代の日本の映画の面白さに気付いたことがその理由。今まで日本の映画と言えば黒澤明監督作品ばかり見ていたが、他にも素晴らしい映画監督が日本にも居ることを気づかせてくれたのが、自分にとっては良い経験になった。今回紹介するのがフランスのヌーヴェルバーグの映画人にも評価が高い溝口健二監督の映画近松物語。タイトル通り近松門左衛門の人形浄瑠璃を下敷きにして、色々と脚色されているらしい。
 本作は江戸時代の主に京都を舞台にしているが、昔風の商人が話している関西弁が個人的にはツボ。極道の妻たちにおける関西弁は力が入り過ぎて違和感があるが、本作における少しばかり間の抜けたトーンは心地良い。

 台詞回しは楽しいが、男女の一途な想いを感じ取れるストーリーの紹介を。
 江戸時代の京都。大名からも一目置かれている商家において、使用人の茂吉(長谷川一夫)が奥方のおさん(香川京子)からカネの工面を何とかならないかとの相談を受ける。茂吉はおさんのためにひと肌脱ごうと店の金を着服しようとするが、思いなおし主人の以春(進藤英太郎)に頼み込むことにする。しかし、以春は金を貸すことは許さず、茂吉と妻のおさんの仲を疑うようになる。どうしようもなくなった茂吉とおさんは2人で逃げることになってしまい・・・

 この時代の習わしとして説明しておくと、男女の不義密通は京都の町を引きずり回されて死刑になってしまう。そして、この場合だとおさんと茂吉の不義密通がバレたら、おさんの旦那の以春の商家にまで影響を受けて取り壊しになってしまう時代。現代社会とは異なる背景が本作を面白くさせている。
 商人の以春は勢力が大きく威張り散らし、しかも女中には手を出しており、大名たちにもカネの影響を与えており、カネの事に関してはドケチ。おさんは使用人の茂吉ではなくて主人の以春にカネの工面を頼めば良いのだが、彼のドケチさは嫁に対しても変わらない。それが何事にも真面目で面倒見の良い茂吉に頼んでしまったから事件?が起きてしまったわけだ。そして、茂吉とおさんが不倫をしているのかと勘違いさせる場面がコントを見ているようで、俺は大爆笑した。本来はシリアスドラマなので笑ってしまうシーンではないのだが、まるでコントの王道を行くようなパターンだったので笑わざるを得なかった。
 そして、茂吉とおさんが2人きりになって心中しようとする場面が中盤で訪れる。その時に茂吉は『実は私は前々から、おさん様のことをお慕いしておりました』と告白してから、おさんが急に心変わりをして、おさんも茂吉のことを好きになって心中を止めるところは感動させると同時に、不謹慎ながらもまた笑けてきた。そこからは2人の愛の逃避行になってしまう。
 しかし、以春の強欲なプライドが凄い。とにかく2人を部下を使って捜索させるのだが、自分のお店が第一主義。おさんと茂吉を別れさせて、おさんだけを何事もなかったように連れてくるように命じるのだが、これは俺も噴き出した。極めて悲惨な状況に陥っているストーリー展開なのに笑いながら見ているのは俺ぐらいしか居ないのではないだろうか。だいたい、前述した社会背景からしてあまりにも現代と違い過ぎて笑えてしまう。これを今の時代に当てはめると、本当に毎日のように死刑が行われてしまうではないか。
 しかし、本作が凄いのが商家のセット。奉公人がたくさん居るのだが、それだけの人数を収容するだけのセット組は凄いと感じさせるし、またそれを映し出す流暢なカメラワークも凄い。昔の映画は本当にスタッフの真剣さが伝わってくる。これぞプロの仕事だと画面から伝わってくるのが本当に何度も言うが凄い。
 それにしても茂吉とおさんの恋愛は本物だ。しかしながら、そんな2人の関係を当時の社会が許さない。元はと言えばコントのような勘違いの騒動がとんでもない事件に発展してしまうのだが。しかし、ラストは意外にも幸せを感じさせるのだ。
 昔の封建社会による恋愛の不自由さ、男女の逃避行、カネに強欲な人間、人を陥れる人間、親子の情け、もう少し音声が良ければと思うのだが聞き心地の良い関西弁、巧みなセットなど見所が満載のコメディ、ではなくてシリアスな人間ドラマとして今回は名作近松物語をお勧めに挙げておこう

 監督は世界の溝口健二。先日投稿した西鶴一代女、そして人間の業の深さを感じさせられた雨月物語がお勧め、他にも面白い映画がたくさんあると思います

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映画 エヴァの告白(2013) 移民の歴史がわかる?

2025年01月26日 | 映画(あ行)
 アメリカという国は、ヨーロッパ各国で戦争など悲惨な経験をして、夢や希望を求めて渡ってきた人の集まり。しかしながら、彼らの中には新天地アメリカにおいても挫折を味わう人が多い。先にアメリカに渡ってきた者にとって、後から次々にやってくる移民たちは恐れの対象になっていた現状がある。そんなことを理解させてくれる映画が今回紹介する映画エヴァの告白。ヨーロッパからの移民にとっての玄関口に見える自由の女神が、彼らを笑顔で迎えることは無い。ちなみに本作の原題はThe Immigrant。タイトルの意味するところは『移民』。本作では夢や希望を求めてやって来た移民が、過酷な現実を突きつけられる様子が描かれている。

 今でもアメリカンドリームなんて言葉に惹きつけられる人が多いが、少しは現実を見せてくれるストーリーの紹介を。
 1921年のニューヨーク。悲惨な目に遭ったポーランドからアメリカへ夢と希望を求めて姉のエヴァ(マリオン・コティヤール)と妹のマグダ(アンジェラ・サラフィアン)がやってくる。彼女たちは先にアメリカで移住している叔母さん夫婦を当てにしてやってきたのだ。しかし、マグダは病気の疑いで収容所へ送られ、エヴァの方は色々と理不尽な難癖をつけられて強制送還にあいそうになる。
 そんなエヴァを助けたのが、ブルーノ(ホアキン・フェニックス)。しかし、ブルーノは移民の女性を集めてのストリップもどきの興行師であり、裏の顔は売春の斡旋人だった・・・

 ポーランドというのは滅亡したり復活したりして常に戦争の悲劇に遭ってきた国。ポーランドからアメリカに渡ってきた移民は多い。そして本作のエヴァとマグダの姉妹の両親だが、ポーランドで首を刎ねられている。エヴァにとって強制送還されることは、死をも意味するだけにポーランドに帰れない。そして、ポーランドというのはカトリックの国。エヴァのカトリックに対する敬虔さは篤いものがある。そして、妹との絆は固い。
 エヴァは一度はブルーノの元を抜け出し叔母さんの住所を探し出すのだが、なぜか血の繋がっていない叔父さんの方から嫌われ追い出されてしまい、彼女も収容所へ送られ再び強制送還されそうになるピンチが訪れる。そこへまた助け舟を出すかのようにブルーノが現れて強制送還されないで済む。ハッキリ言ってブルーノはエヴァから希望も夢を奪って娼婦に叩き落した極悪人。しかし、エヴァはけっこうしたたかで絶望的な状況に追い込まれても、妹と再会するためにあらゆる生きる術を尽くす。人のカネを盗もうとするし、ブルーノを逆に利用する。罪を犯さないと生きていけない状況を告解するシーンがあるのだが、それが邦題になっている訳だ。
 そして、ブルーノの従兄弟でオーランド(ジェレミー・レナ)が出てくる。エヴァはオーランドと恋に落ちそうになる。一瞬、エヴァにも希望が見えそうになる。しかし、本作はちょっと希望を見せておいて、またどん底に突き落とすの繰り返し。美人だからと言って幸せになるとは限らない展開が妙に響く。むしろ美人であるがために試練が次々にやってくるような印象さえある。
 さて、そんなエヴァに対して聖母マリア様はどんな結末を用意しているのか。それは本作を見てのお楽しみ。大谷さんみたいにでかい夢をアメリカで掴みたいと執着している人、妙にアメリカに憧れている人、私は美人だと思っている人、思ってない人、そして罪の意識に苛まれている人に今回はエヴァの告白をお勧めに挙げておこう

 監督はジェームズ・グレイ。ティム・ロス主演のリトル・オデッサ、ブラッド・ピット主演のアド・アトラスがお勧め

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映画 ニューオーリンズ・トライアル(2003) 陪審コンサルタントという職業があります

2025年01月25日 | 映画(な行)
 先日12人の陪審員たちが密室で議論を繰り広げる十二人の怒れる男を紹介したが、あの映画を観ている時に思い出したのが今回紹介するニューオーリンズ・トライアル。『ザ・ファーム 法律事務所』『ペリカン文書』等が映画化されているジョン・グリシャムによる原作小説の映画化作品だ。
 ちなみに本作は法廷劇であり、だいたいそのような映画は弁護士対検事、あるいは弁護士対敵側の弁護士という構図で熱いバトルが繰り広げられる展開が多い。本作もそのような面も少しは見られるが、陪審コンサルタントという者が出てくる。少しばかり陪審コンサルタントの仕事を説明すると、無作為に選ばれた陪審員候補の中から自分の陣営に有利になるように十二人の陪審員を選ぶように陰から弁護士にアドバイスする役割の者。本作においても凄腕の陪審コンサルタントが出てきて、すべての陪審員候補の思想、性格、職業等を調べ挙げて、ふるいにかける様子がテンポよく描かれている。陪審員がハガキ一枚で無作為に選ばれると思っている人は、実は弁護士が選んでいたことに驚くはずだ。

 それでは少しばかり珍しいタイプの法廷劇のストーリーの紹介を。
 ニューオーリンズにおいて11人の被害者がでる銃乱射事件が起きる。被害者の妻であるセレステ(ジョアンナ・ゴーイング)は優秀な弁護士ローア(ダスティン・ホフマン)を雇って、犯行に使われた銃の製造会社を訴える。
 訴えられた銃の製造元及び銃業界も自らの利益を守るために、伝説の凄腕陪審コンサルタントであるフィッチ(ジーン・ハックマン)を呼び寄せ、万全を期する。フィッチは慎重に陪審員を選別していくが、その中に謎の男であるニック(ジョン・キューザック)がフィッチの目をかいくぐって陪審員に選ばれる。ニックはこれまた謎の女マーリー(レイチェル・ワイズ)と手を組んで、両陣営をかく乱していくのだが・・・

 ジーン・ハックマン演じる陪審コンサルタントだが、弁護士よりも権力を持っており、それでいて陪審員候補たちを調べる手口がえげつない。自らのスタッフを抱えて、盗聴、盗撮、尾行を繰り返し、彼らのことを片っ端から調べ上げる。裁判が始まってからも、自分に不利になりそうな陪審員に対しては脅迫も厭わない。明らかに不法行為を行っている。
 そんな凄腕コンサルタントを相手にするのが、陪審員に選ばれたジョン・キューザック。この男が身の危険を顧みずに、凄腕コンサルタントや相手方の弁護士を翻弄するような行動にでるのだが、その目的がなかなか明かされないので惹きつけられる。そして、この男も他の陪審員たちを自分の思う方へコントロールしようと苦闘する様子も楽しい。
 陪審コンサルタント対陪審員が主になっている珍しいタイプの法廷映画。この手のタイプにありがちな難しい専門用語は必要ないし、スリリングな展開は非常に楽しめて、大物実力派俳優の共演が興味深い映画として今回はニューオリンズ・トライアルをお勧めに挙げておこう

 監督はゲイリー・フレダー。アンディ・ガルシア主演のデンバーに死す時がお勧め

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映画 野菊の如き君なりき(1955) 純愛ストーリー

2025年01月24日 | 映画(な行)
 明治の歌人であり小説家である伊藤佐千夫の『野菊の墓』を原作として映画化したのが今回紹介する野菊の如き君なりき。俺は原作を読んでいないのだが、あの文豪夏目漱石が絶賛。明治時代が背景ながら昭和生まれの自分でも感動できる純愛ストーリー。ちょっとばかり凝った映像技術と話法を駆使した作品としても知られている。
 
 古き因習によって引き裂かれる恋愛を描いたストーリーの紹介を。
 何十年ぶりかで故郷へ帰ろうとしている75歳の老人(笠 智衆)が60年前のことを回想する。
 十五歳の政夫(田中晋二)の母(杉村春子)が病気がちのために、母の姪っ子で17歳の民子(有田紀子)が家の手伝いに来ていた。正夫と民子は小さい頃から仲が良いいのだが、そのことは周囲からは好奇の目でみられることになる。
 祭りを明日に控えた日のこと。正夫と民子は母の言いつけで、山の畑へ綿を取に行かされる。2人っきりになった正夫と民子はお互いを意識し始めるようになってしまうのだが・・・

 殆どのシーンを占める回想シーンにおいて、周りをぼやけさせた楕円形の中で映像が流れるという形式がとられている。しかしながら、画面の幅が狭くなっただけで逆効果になっているように思う。そして、場面が変わるごとに短歌が流れるのを、笠 智衆があの訥々とした調子で読み上げる。これも良いのか悪いのか判断に迷うところだ。
 しかし、正夫と民子の2人が素人俳優っぽいやりとりを見せるのだが、これはかえって新鮮な感動を呼ぶ。この2人が周囲にからかわれる理由が、女の民子の方が2歳年上だから。このことが2人の関係の障害になるのだが、明治時代の恋愛観に少々驚いた。従姉弟の関係だというのも恋愛の障害になっていると思われるが。
 そして、恋愛のエピソードとして効果を発揮するのがタイトル名にもあるように、正夫が民子を野菊に例えること。女性を花に例えるとはダサいと思ったが、どうやら俺の勘違い。これはナンパのテクニックに活かせそうだし、実際にこのことが2人の関係を恋愛に発展させた名場面でもある。
 2人のお祖母さん役にあたる浦辺 粂子の民子を思いやる気持ちも優しさにあふれていて感動させる。しかも民子に訪れる悲劇的運命をより劇的にしている。そして何よりも良いなあ~と感じさせるのが、60年を経てもあの時の事が忘れられない老人の心境。これは胸が熱くなる。
 古き日本の風景の良さがモノクロの画面を通して活かされているし、ずっと響いている音楽も禁じられた遊びを思い出させるようにストーリーに役立っている。なかなかの感動物として今回は映画野菊の如き君なりきをお勧めに挙げておこう

 監督は木下恵介。彼の代表作と呼べる二十四の瞳は流石は名作だと思わせます

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映画 十二人の怒れる男(1957) 法廷映画の傑作

2025年01月23日 | 映画(さ行)
 ハリウッドには法廷を舞台にした映画はたくさんあるが、その中でも名作として燦燦と輝くのが今回紹介する映画十二人の怒れる男。ご存知の通りアメリカの裁判は陪審制。本作においては、国民の中からほぼ無作為で選ばれた12人の陪審員たちが、裁判で出された証拠品を基に全員一致の原理で有罪か無罪かを決定する仕組み。国民が有罪か無罪かを決めるとは、まさにザ・民主主義。当時の冷戦時代を考えれば、アメリカのプロパガンダ的な作品といえなくもないが、アメリカの底力を感じさせる映画になっている。

 殆どの時間が密室で繰り広げられるストーリーの紹介を。
 陪審室において12人の陪審員たちが集まる。その日は異常に暑い日だった。18歳の少年が父親殺しの疑いを掛けられており、あらゆる証拠からこの少年が父親を殺害したのは明白のように思われた。しかし、12人の中で1人だけ無罪に手を挙げたことから事態は意外な方向へ動き出し・・・

 一瞬で有罪になりそうなところを、陪審員の1人であるヘンリー・フォンダだけが無罪を主張する。他の11人から変人扱いされるかのように罵声を浴びたり、好奇な目で見られる。ヘンリー・フォンダが無罪を主張する理由がこうだ。『自分も無罪だとは言い切れない。しかし、1人の命がこんな簡単に決められて良いものか、どうか。議論しようではないか』。全員が有罪だと判断してしまうと、罪の重さから少年は死刑になってしまう。そこへ、ヘンリー・フォンダが一石を投じたわけだ。そして、今まで出された証拠を基に粘り強く、論理的に時には感情的になりながら、もう一度推理し直していくのだが、その過程が非常に興味が惹かれる展開になっている。
 そして、この12人がそれぞれ個性的なキャラクター設定になっている。さっさと終わらせて野球の試合を観に行きたがっている者、子供が嫌いな者、育った環境が悪いから人を殺してしまうんだなんて言い出す者、多数に流される者等。12人の主義や主張、そして偏見がぶつかり合っていく様子を見せられる。
 本作を見ると必ずしも多数が正解だとはわからないし、偏見が正しい見解の邪魔をすることの危険性を感じさせる。少数意見の大切さ、議論をすることの大切さが身に染みる。
 殆どのシーンが暑い密室で繰り広げられ重苦しさを感じる。それ故にラストシーンは爽快な気持ちで観終えることができる。しかし、ここで繰り広げられている推理が本当に正しいのかどうかわからない。よってこの少年は無罪なのかわからないし、本当は有罪なのかもしれない。とりあえずは1人の命が助かった。
 最近の日本においても紀州のドンファンの事件などで裁判について考えさせられることが多い。人間が人間を裁くことの難しさを痛感するし、民主主義国家の良さを少しぐらいは理解できる映画として今回は十二人の怒れる男をお勧めに挙げておこう

 監督はシドニー・ルメット。社会派監督らしい良心的な作品が多い。核戦争の恐怖を描いた未知への飛行、テレビ業界の狂乱を描いたネットワーク、ナチスのトラウマから解き放たれない男を描いた質屋、警察の腐敗と戦う男を描いたセルピコ、犯罪映画の狼たちの午後、ポール・ニューマン主演の本作と同じく法廷映画の評決、リバー・フェニックス主演の旅立ちの時、ショーン・コネリー主演の反戦映画である、監督の遺作にあたるその土曜日、7時58分などお勧め多数

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映画 浮雲(1955) 時代を感じさせる男女が描かれています

2025年01月22日 | 映画(あ行)
 今年は外国映画ばかりに目を向けていないで日本の映画も観るようにしているのだが、1950年代が日本映画の黄金期とは聞いていたが本当にその通りだと思わせられた作品が今回紹介する映画浮雲。本作が制作されたのが、戦後10年しか経っていない時期。戦後の日本の様子が描かれ、男女の時代の価値観を感じさせる作品でもある。大して働きもせずにカネも持っていない男がなぜかモテモテの映画。そんなダメ男を一途に愛する女性を二十四の瞳で主役を演じた高峰秀子さんが演じる。

 理屈では理解できない男女の恋愛を描いたストーリーの紹介を。
 第二次世界大戦中のベトナムにおいて、農林省の技師として働いていた富岡(森雅之)だったが、そこへ農林省から派遣されたのが幸田ゆき子(高峰秀子)。富岡には日本に残してきている妻がいるのだが、2人は恋に落ちてしまう。そして、富岡は日本に戻ったら妻と離婚してゆき子と結婚することを約束する。
 戦争が終わり、ゆき子は先に日本に戻っていた富岡の家へ行く。富岡が離婚していると思っていたゆき子だったが彼は離婚していなかったのだ。彼が離婚する気が無いことを知ったゆき子は米兵の情婦になるのだが、既に富岡とゆき子は離れられない運命になっていた・・・

 くっ付いては離れてを繰り返す富岡とゆき子。富岡という男が日本に戻ってから、新しい仕事に就いては辞めてを繰り返す。カネもなくてゆき子に何食わぬ顔でカネを借りに行ったりする。それなのにゆき子以外の女性からも言い寄られて、ふらふらとその女性と良い仲になってしまうモテモテの男。時代的な背景もあるだろうが、このような男を放っておけない女性の心理がよくわからない。しかし、男女の愛には理屈が入る余地がないことがよくわかる。
 そんな富岡をとことん愛するのがゆき子。戦後を生き抜こうとする女性の大変さが本作からよく理解できる。富岡から『もう俺たちは合わないでおこう』なんて言ってくれているのだが、俺からみたらラッキーな申し出かと思えたのだが、ゆき子は決して富岡から離れない。もっと別の男性と一緒になれる余地があるはずなのに、彼女はとことん富岡と一緒になりたがる。ゆき子がどんどんダメ男の富岡にのめり込んでいく展開がスリルを感じさせ惹きつけられる。
 さて、色々な障害があり過ぎてこの2人は一緒になっても上手くやっていけるわけないだろうと思っていたのだが、どのような結末を迎えるのか。そこには女の執念の凄さを感じさせられた。
 最近、二十四の瞳高峰秀子さんを観たばかりだが、その演技の幅の広さにびっくり。二十四の瞳が1954年の公開で本作はその1年後の公開である。この短い期間に、がらりと違う役を演じてしまう演技力に感嘆した。そして彼女の作品を2作品しか観ていないのに、その演技力を見極めることが出来た自分の眼力も流石だと我ながら思う。
 戦後の焼け野原の状況や暮らしが本作から垣間見る事ができて、男女の行方に惹きつけられる浮雲を今回のお勧めに挙げておこう

 監督は世界的にも評価が高い成瀬巳喜男。愿節子さんが主役を演じているめしがお勧め

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 これが林芙美子さんの原作です







 
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映画 ノスタルジア(1984) これぞ映像の詩人タルコフスキーの傑作

2025年01月21日 | 映画(な行)
 映像の詩人と呼ばれるソ連の映画監督であるアンドレイ・タルコフスキー。よく彼の作品は難解だと言われるが、今回紹介する映画ノスタルジアは、その中でも難解レベルの作品。俺も最初観たときは、この監督の映像表現や独特のリズムや意味不明の会話のシーンに惑わさせられたのかよく理解できなかった。しかし、彼の他の作品を観たり、監督の経歴、そして繰り返して観ると意外にストーリーは単純で言いたいことはわかってきた。しかし、この監督の凄さは映像の詩人と呼ばれるだけあり、ストーリー展開よりも映像表現に目を奪われる。水や火をモチーフに用いたり、犬や馬といった動物が唐突に表れたりする。家の中なのに雨が降っていたりするので、何で?と思ったりする人もいるはずだが、こういう作風だとしか答えようがない。
 そんな彼の映像表現が完成の高みに達しているのが本作であり、俺が観たアンドレイ・タルコフスキー監督作品の中では最も好きな映画である。

 それではストーリーの紹介を簡単に。
 ロシア人の作家であるアンドレイ(オレーグ・ヤンコフスキー)は美人な助手であるエウジュニア(ドミツィアナ・ジョルダーノ)を連れて、モスクワからイタリアを旅していた。目的は昔ロシアの作曲家であり、イタリアを訪れていたがロシアに戻って自殺したサスノフスキーの人生を取材するためであった。
 そんな旅行中のこと、彼らは皆から変人扱いされている老人の男ドメニコ(エルランド・ヨセフソン)と出会う。彼のことに興味を持った、アンドレイはドメニコにインタビューを試みるが・・・

 ところどころでセピア調の映像が挟まれたりして、過去と現在を行ったり来たりするが、これが何の説明もないために最初観たときは、ややこしく感じる。しかし、このセピア調の映像が美しいのがこの監督ならでは。まさに過去の事を思い出してしまっているかのシーンが本作の題名であるノスタルジア(郷愁)を感じさせる。
 そして、ドメニコが変人と呼ばれる理由だが、かつて家族を7日間も幽閉したことにある。その理由がやがて世界に終末が訪れるから。そりゃ、家族も逃げ出すし、変人扱いされて当然だろう。しかし、そんな妄想が激しいドメニコに興味を持ったのがアンドレイ。そして、アンドレイは逆にドメニコから世界を平和にするために、あるミッションを授かってしまう。ミッションと言っても大したことを行うのではないが、そのシーンを見ていて手が火傷しそうで演じている役者さんが大変だっただろうな、と違う意味で可哀想だと思ってしまった。
 そして、俺が感動したのはドメニコの演説シーン。半ば本当に気が狂ってしまいローマの広場で演説をするのだが平和に対する熱い想いを感じた。色々な映画で演説シーンなんかは出てくるが、本作の演説シーンはその中でも上位を争うぐらいの感動物。本作のテーマとして平和に対する想いが挙げられる。
 映像的にはドメニコの家の壁に『1+1=1』なんて間違った足し算の数式が書かれていたり、家の中なのに雨が降っていたり、唐突に小さな子供が現れたりなど不思議なシーンが多く見られる。そして、映像テクニックだがアンドレイが鏡をみたらドメニコが写っていたり、アンドレイを写しているカメラを左に振るとまたアンドレイが写っていたりなど、何だかSF映画を見せられているようなシーンがあるのも楽しいところ。ラストシーンに至っても、最後は広々とした田舎を撮っているのか思ったら意外な場所だったりと、流石は映像の詩人だと思わさせられた。
 本作はアンドレイ・タルコフスキー監督自身が、検閲だらけで自由に映画を撮らさせてくれないソ連に絶望してイタリアで撮影している。そのことを知って本作を観れば主人公の姿に監督自身の想いが投影されていることに気付くだろう。
 アンドレイ・タルコフスキー監督作品と聞いて心が躍る人、彼の映画は好きなのに未だ本作を観ていない人、何だかいつも悩んでいる人等に今回はノスタルジアをお勧めに挙げておこう

 監督は前述したアンドレイ・タルコフスキー監督。比較的ストーリーがわかりやすく作られている僕の村は戦場だった、SF映画の金字塔である惑星ソラリス、みんなが思っている意味とは違うストーカー、そして核戦争の終末を恐れる本作とよく似たテーマのサクリファイスがお勧め

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映画 アバウト・シュミット(2002) 定年退職後の人生を迎える

2025年01月20日 | 映画(あ行)
 俺なんかは年金がもらえたら直ぐにでも退職して年金生活をしたいと思っているが、今回紹介する映画アバウト・シュミットは本作のジャック・ニコルソン演じる主人公は定年退職をしてから、何をしたら良いのかわからずおどおどしてしまう。しかし、我が国日本でも仕事一筋で生きてきた人にとっては、主人公と同じような悩みに直面している人がいるのではないだろうか。家庭のことはできない、趣味は一切ない、子供とコミュニケーションができない等、家に居ても何をしたら良いのかわからない。まるで死人同然のような生き方に陥ることの恐ろしさを痛感している人が多いかもしれない。

 仕事に一途だった男が、第二の人生をどのように生きていくのか。簡単にストーリーの紹介を。
 ネブラスカ州のオマハで、生命保険会社を無事に勤め上げて定年退職を迎えた66歳になるウォーレン・シュミット(ジャック・ニコルソン)。今は妻ヘレン(ジューン・スキッブ)と2人暮らしで、娘のジーニー(ホープ・デイヴィス)はコロラド州のデンバーにおり、もうすく結婚を控えている。
 しかしウォーレンは妻と第二の人生を楽しく生きることを考えて、トレーラーハウスを購入する。しかし今まで仕事一途で趣味も持たず、家事もできないために家に居ても居心地が悪いだけ。しかも、ある日の事、ヘレンが急死してしまう。しかも、彼女の衣服を見ていたら、昔自分の親友と浮気をしていたことを知ってしまい怒り爆発。ウォーレンは娘の結婚式までの数日間、トレーラーハウスで自分を見つめ直す旅に出るのだが・・・

 ウォーレンだが定年退職してから、たまたま見ていたテレビでアフリカの貧困にあえいでいる子供たちを助けるプロジェクトを知り、妻に内緒で6歳の少年の養父になる。そして、時間がある時に少年に手紙を書いてやる。その手紙には定年退職してからの自分の境遇を書くのだが、その時に自分が社会の役に立たない人間になってしまったことや、色々なことに不満が込みあがってきて、怒りが増してしまう。
 そこへ急に訪れる妻の死によって、自分が家庭をかえりみなかったことに気付かされる。更に娘の結婚相手が、どうしようもないアホだと知らされ怒りや悩みが増していく。そんな仕事に一途すぎた末路の悲哀をジャック・ニコルソンが見事に演じる。
 さて、そんな平凡ながら真面目に暮らしてきた男は旅に出て、もう一度生きる実感を取り戻せるのか、と言うのが本作の大きなテーマ。しかしながら、旅に出たぐらいでは生きる実感は取り戻せないし、人の役には立たない。実は意外なところから涙が出るほどの感動を得られるのが巧みな映画だ。
 コンピューター処理なんかに頼らないヒューマンドラマは好感が持てるし、しっかり笑いのツボも押さえている。しかし、本作の減点材料は名女優キャシー・ベイツが張り切り過ぎて、交通事故レベルのシーンを見せてしまうこと。あのシーンはジャック・ニコルソンだけでなく、観ている我々も引いてしまう。
 今では続けようと思えば仕事を続けることが出来る世の中になってきたが、それでも定年退職に追い込まれる人が多い。そんな人たちにも第二の人生を楽しんでもらうために、特にお勧めできる映画として今回はアバウト・シュミットをお勧めに挙げておこう

 監督はアレクサンダー・ペイン。ワインと人生の共通点を見出せるサイドウェイ、ロードムービーのネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅がお勧め

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映画 ブルーベルベット(1986) デヴィッド・リンチ監督のお勧め

2025年01月19日 | 映画(は行)
 先日亡くなられたデヴィッド・リンチ監督。彼の作品を全部観ているわけではないが、個人的には理解不能な映画を撮るイメージがある。もしかしたらワザとわからない映画を撮っているんじゃねぇ。そんな監督作品の中でも個人的に最も好きな作品が今回紹介するブルーベルベット。変態っぽいアクの強いキャラクターが出てくるし、陰と陽の部分を感じさせる二面性が楽しいサスペンス映画。この監督らしい映像センスを感じさせるが、難解な印象は本作にはない。ちなみにタイトルの意味は『青い布の生地』。主題歌にもなっているが非常に聴き心地の良い曲である。

 どす黒い部分がありながらも、オールディーズな音楽が素敵なストーリーの紹介を。
 父親が倒れたことを切っ掛けに大学を休学して、地元に戻ってきたジェフリー(カイル・マクラクラン)。父親の見舞いからの帰る途中に、切り離された人間の耳を見つける。彼はすぐに知り合いの刑事ジョンを訪ねてそれを渡す。そのことを切っ掛けにジョンの娘であるサンディ(ローラ・ダーン)と知り合いになるのだが、サンディから耳についての話を聞かされる。どうやら現場の近くのアパートに住む歌手であるドロシー(イザベラ・ロッセリーニ)が事件に関係があるらしいことを。すっかり今回の事件に興味を持ってしまったジェフリーはドロシーの部屋に忍び込むのだが、そこでとんでもない光景が繰り広げられるのを見てしまい・・・

 最初は非常に長閑な雰囲気でスタートするのだが、カイル・マクラクラン演じる主人公の青年が事件に首を突っ込んでから恐ろしい世界が繰り広げられる。場所はけっこうな田舎なのだが、意外にもそこは暴力、麻薬、倒錯した性に支配されている町だった。
 ローラ・ダーン演じる女の子も、もっとジェフリーの行動を止めるように努力しろよと思っていたら、どうやら好奇心旺盛な男性が好みだったらしく、彼女も面白がってジェフリーから事件の行方を興味深く聞きたがる始末。お父さんが刑事なんだから、さっさとお父さんと相談しろ。
 案の定、ジェフリーは事件に首を突っ込み過ぎて、いかがわしい所へ連れまわされ、暴行を喰らってしまうし、二股をしているのをバレたりで踏んだり蹴ったりの状況に陥る。勝手に人の家に入るから、その報いを受けてしまったかのような展開が非常に教訓めいたものを感じさせる。
 ドロシーを演じるイザベラ・ロッセリーニ(母親のイングリッド・バーグマンの面影があります。)がとんでもない姿を見せるし、デニス・ホッパーがラリッた勢いで演じているかのような快演を見せるし、ディーン・ストックウェルはオカマの役で出ているなど、脇役が面白い映画でもある。
 途中はメンタルがやられそうなボロボロの展開だが、やっぱり平和な日常が良いよねと思わせる結末が待っているのが良い。デヴィッド・リンチ監督の作品を観たことがない人は本作から観れば良いし、他の作品は観ているけれど本作を観ていない人にはお勧めできる。子供には見せたくないシーンが出てくるが、大人であればブルーベルベットはお勧めと言うことにしておこう

 デヴィッド・リンチだが意外に監督した映画の本数は少ない。とりあえず俺が観た映画を好きな順で並べておこう。ブルー・ベルベットワイルド・アット・ハートストレイト・ストーリーエレファントマンマルホランド・ドライブイレイザーヘッドロスト・ハイウェイ。正直なところロスト・ハイウェイは頭の中が?だらけでした

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映画 サブウェイ123 激突(2009) 現代風にリメイクされています

2025年01月18日 | 映画(さ行)
 昨日紹介したばかりのニューヨーク市の地下鉄ハイジャックというアイデアが秀逸の1974年製作のサブウェイ・パニックのリメイク作品が今回紹介するサブウェイ123 激突だ。単純に面白さだけなら本作の方が上をいくか。
 サブウェイ・パニックにおける地下鉄公安部長と地下鉄ハイジャック犯のリーダーとの心理戦が非常に楽しい映画だったが、本作品においても息詰まるような心理戦は健在だ。そして現代風にリメイクされているだけに金融危機、インターネットといった極めて現代的なツールが活かされている。
 色々とリメイク基からの変更点はあるが、その内のいくつかを例に挙げると、全くの役立たずだったニューヨーク市長が本作品ではそれなりに頑張っていたり、帽子、目がね等で同じような格好で変装していた犯行グループが本作品においては変装などせずに堂々と素顔を晒していたり、犯行グループとの交渉役が地下鉄公安局警部補から地下鉄運行司令塔の職員に変更している。そして、物価が上がっている影響で身代金が100万ドルから1000万ドルに上がっている。その他にリメイク基は女性蔑視発言が多かったが本作ではそのようなことはない。
 更に大きな変更点と言えば犯行グループのリーダーがリメイク基では落ち着いた口調で冷静沈着だったのが、本作のジョン・トラヴォルタ演じるリーダー格の男は怒鳴り声をあげていて、容赦なく発砲してしまうように怖い奴に描かれている。そして、トラヴォルタと対峙することになってしまうデンゼル・ワシントン演じる交渉人のキャラクターに深みが出ている

 さて、地下鉄の職員と地下鉄ハイジャック犯が繰り広げる息詰まるバトルが繰り広げられるストーリーとは?
 ニューヨークにおいて、地下鉄がライダー(ジョン・トラボルタ)と名乗る男をリーダーとする犯行グループによってハイジャックされる。運行司令室で働くガーバー(デンゼル・ワシントン)は異変に気付く。信号が青なのに運行をストップしている電車があったからだ。しかも驚いたことにその電車は車両が切り離される。
 ようやくガーバーはライダーとの交渉に成功するが、ライダーの要求は『今から1時間以内に1000万ドルを現金で持ってくること。時間内に届かない場合は1分経過する毎に人質を1人ずつ殺す。』
 トンデモな要求にガーバーは驚き、明らかに自分の手に負える範囲の問題ではないために、ニューヨーク市警のカモネッティ警部補(ジョン・タトゥーロ)に交渉役をバトンタッチして自宅に帰ろうとするのだが、なぜかライダーは交渉役にガーバー以外は受付けない。思わぬ相手から勝手に気に入られてしまったガーバーは結局自宅へ帰ることが出来ずに、ライダーの交渉役兼お話相手になってしまう。
 ガーバーは人質の命を助けるため、そして犯行グループの正体及び目的は何かを探るために知力をフル活動させてライダーと対決する・・・

 ジョン・トラボルタ演じる犯行グループのリーダーの切れっぷりが強烈で、ハイジャックされた電車内では非常に緊迫感が漂っている。地下鉄の電車内という閉じられた空間の中で、銃声が鳴り響く様子は怖い。
 しかし、ガーバーとライダーの腹の探りあいによる会話はウィットに富んでおり笑えるし、地下鉄の線路を人間が渡り歩いているシーンもなかなかの見せ場。地下鉄の線路を歩く人など滅多に居ないと思うが、本当に危険だから絶対に真似をしてはいけないことがよくわかる。
 そして、デンゼル・ワシントンが流石だ。いつも強い人間を演じているが、前半はその個性を押し殺して普通の人間を演じている。そして、後半はそれまでの鬱憤を晴らすかのように犯人を猛然と追い詰める。この切り替えが見事だ。
 デンゼル・ワシントンジョン・トラボルタの二大スターの対決が楽しめ、スタイリッシュな映像が冴えているサブウェイ123 激突はお勧めであり、ぜひリメイク基のサブウェイ・パニックと見比べて欲しい

 監督は派手な映像表現が好きなトニー・スコット。本作と同じくデンゼル・ワシントン主演のカーチェイスシーンが斬新的なデジャヴ、ウィル・スミス主演の典型的な巻き込まれサスペンス映画エネミー・オブ・アメリカ等がお勧め。他にトム・クルーズ主演の大ヒット映画トップ・ガンが有名

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映画 サブウェイ・パニック(1974) 地下鉄ハイジャック

2025年01月17日 | 映画(さ行)
 飛行機のハイジャック事件なら聞いたことがあるが、地下鉄をハイジャックするというアイデアが楽しいサスペンス映画が今回紹介するサブウェイ・パニック。地下鉄の電車をハイジャックして強盗犯たちはどうやって逃げるのかと思わさせる。ハリウッドらしい強盗犯の描き方だが、なかなか頭の良いリーダーがいるのだが、やっぱり気の短い奴も仲間に入っているという典型的なパターンを本作でも踏襲している。また、こういう短気な奴がスリルを盛り上げるのに一役買っているから、このキャラクターは外せないということがハリウッドのサスペンス映画を観ていたらよくわかる。

 地下鉄公安局警部補と強盗犯との駆け引きが楽しいストーリーの紹介を。
 ニューヨーク市において地下鉄が4人組の男にハイジャックされるという前代未聞の事件が発生。17人の乗客と1人の車掌が人質に取られてしまう。犯行グループの声明は今から1時間以内に100万ドルを用意すること。1分遅れるごとに人質を1人殺すという内容だった。地下鉄公安局警部補ガーバー(ウォルター・マッソー)と強盗犯のリーダー格である男(ロバート・ショウ)との息詰まる交渉が始まってしまうのだ・・・

 強盗犯の4人組だが、よく似たような恰好をして、ブルー、グリーン、グレイ、ブラウンというように色で呼び合っている。クエンティン・タランティーノ監督の傑作レザボア・ドッグスのアイデアは本作から活かされていることが興味深い。そして、時間が1分毎に遅れると人質を1人殺していくというタイムリミット型サスペンスを盛り込むことによって緊迫した展開が繰り広げられる。また、犯人グループも単に100万ドルを用意させるだけでなく、色々と条件を重ねてくるだけに面倒な奴らだ。
 しかし、犯人グループは地下鉄の電車で100万ドルを受け取った後に、どうやって逃走するのか。単なる計画性のない頭の悪い犯人グループなのか。これがガーバーと同じく見ている我々も考えさせられる。ここでネタバレをしてしまうと、これと同じ手口を使った犯罪が増えるといけないので控えておこう。
 そして交渉の駆け引きも楽しいが、ニューヨーク市長や地下鉄の職員の描き方も興味深い。人の命が掛かっている時に頼りなかったり、自己中の奴が出てくるような、人間の醜さも同時に描かれていることも褒めたいところだろう。
 音楽もサスペンスを盛り上げるし、ラストのウォルター・マッソーの名演技も見もの、そして何より普段から風邪をひかないように気をつけようと思える。何はともあれスリルを求める人に今回はサブウェイ・パニックをお勧めに挙げておこう

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