大阪南地・法善寺西門前。
その昔、法善寺横丁に金沢亭や紅梅亭がある時分、
この山門前には朱色に塗られた人力車が停められた。初代春団治のものだった。
その派手ないでたちに南地の大阪人は、「粋(すい)なもんやなぁ」と、感心しきりやったという。
喫茶アラビアのとなり。 私の行きつけ・・・いや、行きつけなんてもんぢゃない。
めったにいけないが、法善寺界隈に行ったら、フラリと寄りたくなる立ち回り先。
それがバー238である。
学生時代、先生に連れてきてもらった。
勉強熱心ぢゃなかったので、その先生は酒場だけ教えてくれた。
何処から攻めてもスルリと身をかわされる達人のような師匠であった。
今になれば、もっと訊いておけばよかったと思うことばかり。
師匠とは思うに、そういうものかもしれない。だし殻のようには搾り尽くせない。
ここのハイボールは角のダブル、氷入り、ウイルキンソンソーダ。
シュワシュワとさわやかであり、またほろ苦くもある。
我が青春の味であり、師匠にとっちゃ晩年の味でもあり。
ボクには伝えるべき弟子もいない。
もちろん来るのは自由だが、バーテンダーとの楽しい会話などない。
マルセ太郎似のご主人にギロッと一瞥される。
先人が作ってきたこの空気感を、三下が乱してはいけない。
連れと来たとしても、小声で話すべきだろう。
一人で入ると、新聞などをスッと出してくれる。
昔の床屋のようだ。
師匠と来た昔、玉子だかキャベツだかを焼いてもらい、酒の肴にした。
それ以来、料理名も知らないが、やっぱりキャベツ焼いてなどと頼む。
ご主人はカウンター内の低い位置にある、火にフライパンをかけた。
これが注文した「玉子」。 実際の名前は知らない。
たぶんメニューなどないし、知らなくても不自由はない。
師匠、しょうもない生徒ですいません。 なのに、ボクの芝居を新聞で書いてもらった。
何にも返してねえや。
と、ここまで来て手帳を見ると、師の命日だった。 うわ、驚いた。
あの世の師匠に乾杯だあ~~!
バー238 大阪市中央区難波 法善寺の西山門界隈
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