「あの日が最後になると、知っていたら・・・。おばあちゃん、何も急いで船の中へ入っていったりしなかったよ。あれが自分の母親の姿を見る最後の日になるなんて・・・」
おばあちゃんは、多弁ながら、この場面を語るときは、決まってテンポを落とし、涙ぐんだ。汽笛を鳴らしながら去って行く船を見送るおばあちゃんのお母さんの姿がおぼろげに、私の目にも見えるような気がしてくる。
私が二十歳にして初めて海外へ、しかもアメリカ大陸へ旅立った日、母は飛行場まで見送りにきてくれた。
私は飛行機の中から、姿なんて見える筈も無い母の姿をどうにかして見ようと試みた。でも、駄目だった。窓から見えるのは、飛行機の翼と滑走路と旗を振って安全確認をする整備員のお兄さんくらいだった。
「あっけなかった。飛行機で旅立つ人の見送りほど、あっけないものはないね」
一ヵ月後に米国から無事に帰国した私に母は言った。一緒に出迎えてくれた祖母は、はしゃいでいた。
「あんたは私に似たんかね~。独りで海外へ行きたがって。私も十代で一人で海を渡ったからねえ」
自慢げな祖母に負けじと母も言った。
「私に似たんよ、きっと。私も高校卒業と同時に東京へ十何時間もかけて行ったからね。当時は食いぶちを減らす目的と過干渉のおばあちゃんから自立するためやったよ~。昔の東京は今の海外よ! 九州から海を渡って本州へ行ったことには違いないよ」
はあ。そうですね。外へ行きたがる好奇心旺盛なところは、二人に似たのかもしれません、はい。当時は、そんな風に返答した私だった。
南朝鮮は、当時は日本の開拓地だったのだから、日本語は通じるし、日本の領土だった訳で。おばあちゃんの場合は、姉家族を頼って海を渡ったから、不安は無かったね。子守から開放される嬉しさが大きかった、というおばあちゃん。
おばあちゃんの姉は、私の祖母に当たる人だ。その夫は、私の父方のおじいちゃんとなる。
このとき生まれた2番目の男の子こそ・・・私の母と結婚した、私の父だからだ。私の父と母は、従妹同士で結婚した。これも不思議な縁と言えば、縁である。
南朝鮮での おばあちゃんの日常は、甥っ子の世話をすることだった。しばらく甥っ子の子育てに専念したのち、姉婿(実は私の父方の祖父、体格が良いので、「大きいおじいちゃん♪、と私は呼んでいた)の紹介で、郵便局にタイピストとして勤めることになる。 ハイカラなおばあちゃんは お年頃だからと、即結婚はせず、資格を習得し、郵便局でタイピストとは・・・・なかなか、しゃれていると思う。
実は孫の私も・・・お産直後の妹に日本へ呼び戻され、生後2ヶ月から4歳まで甥っ子ゆうちゃんの子育てに没頭し、その後、「とあるスーパー」で働き始めた。自分自身の道のりと、何故か共通するところがある。一人で海外へ出向いた所も含めて。 かくいう母も、おばあちゃんに電報で呼ばれ、東京から引き上げ、父との見合い結婚をした経緯あり。
祖母、母、そして娘の私。
三代揃って似たような人生の道のりを何故か歩いてきたことになる。
戦争! という時代の流れでその後の人生も大きな影響を受けざるを得なかった祖母たちの時代と 個人的な家族の都合という 大きな違いはあるとはいえ・・・。
当時は珍しいタイピストとして 働く女性だった祖母。
「お給料が出ると、甥っ子(私の父)に絵本や おもちゃを買ってあげたもんよ」
その気持ちも分かる。自分のものは後回しにして、可愛い甥っ子に洋服やおもちゃや絵本を買い与える気持ち。私と一緒だ。
そんな祖母にお見合いの話が出た。
「みつちゃん、そろそろお見合いでもしない? 写真があるんだけど・・・」
祖母23歳。
十代で嫁ぐ女性も多かった戦前。もう、そろそろ・・・という話が いつ来ても不思議ではない。
朝鮮へ渡ってから6年を迎えようとしていた。
続く・・・・。
以下は、編集長の今日の日記から 転写
「夏も近づく八十八夜、野にも山にも若葉が茂る…」
立春から数えて八十八日目、つまり今日五月二日が八十八夜になります。
このころのお茶はとても美味しいとあって各地でお茶摘みが盛んに行われます。私も、生まれて初めてのお茶摘みを本日体験致します。結果は後ほど日記に書く予定です。
いつも仕事をしながら煙草はスパスパ、コーヒーはガブガブと、とりとめのない時間を過ごしているのですが、採れたばかりの新茶は、何となく心が癒されるものです。里帰りが多くなると、テーブルの上には各地のお菓子が並びます。老舗の有名なお菓子は流石にどれも甲乙つけがいのですが、名も知れないお菓子の中にも唸るものがあります。きっと、職人さんが気持ちを込めて作られたのでしょう、食べていてそう感じるのです。それは本も同じです。新人の中にも何れ輝きだす人が出てくるはずです。ただ、味を真似ても、其処までどまりです。あなたの魂を込めて書いてみては如何ですか?
上手く書こうとか、見かけ良くまとめようなんて気にしていたら、伸びるものも伸びないのです。
ここは一つ奮発して、お茶さんに出向き、本物のお茶を購入して、心の贅沢をしてみるのも一つの手かも知れません。唸る原稿とは、あなた自身の心で書くものかも知れませんね。
編集長へ~
私の質問にホームページのネット上でお答えして下さってありがとうございます。(自分の都合の良いように解釈する すず)
おじいちゃん&おばあちゃん史は、昔(年明け、少し落ち着いてから)一度、勢いで書いたものを今回改めて見直したため、技術てきなものに注目?しちゃいましたぁ。
いつも、突発的に書きたいことが現れ、勢いで一気に書いてしまうことの方が圧倒的多数・・・そうでないこともありますが。。。例えば不倫をしている人がいたとして、「やめなさい不幸にするのは相手の子供!」と言っても聞く耳 持たないだろう、と思ったら、そのメッセージが先にあって、それが伝わる短編を書くとか・・・あ、あれ、入選しました。他で。
偶然ですが、母が新茶を買ってきました!! 今から味わいます。
これからも、宜しくお願いします。
すず