「みっちゃん、武夫さんってかなりお酒が好きみたいね」
ミツコの姉、長女は初顔合わせのとき、隣に座っていたミツコに耳打ちした。
「私、見たのよ! 武夫さんの杯が、傾いてお酒がこぼれそうになったときにね・・・。
『お~っとと!』 と言いながら、武夫さんの すぼめた口ったら、杯に吸い付かれるように・・・・・!」
ここまで話し、姉は笑いながらも、ちょっと心配そうにミツコを見た。
「まさか、大酒飲みってことは・・・ないとは思うけど。お酒好きってことは、間違いないわねえ」
ミツコは多少、不安になった。
というのも、ミツコたちの父。私にとっては、会った事もない「ひいじいちゃん」になるのだが、大酒飲みで、夜中でも小学生のミツコに酒を買いにやらせたらしい。
「一升瓶で買って来い!」
「はい」
昔は道という道は、あぜ道で、しかも雨が降ると、水たまりが出来る。
たとえ晴れていたとしても、小さな子供が一升瓶を抱えて帰るのは至難のわざだ。
ちょっと休憩、のつもりで力を抜くと、一升瓶の底が小石にたまたま当たった! なんてことに、なりかねない。
せっかく買ったお酒も、みるみる内に砂埃がする道に飲ませてしまう羽目になるのだった。
「絶対に、お酒飲みとは結婚しない!」
将来の夫選びにおいて、幼いミツコが天に誓ったことだった。
「姉さん。まさか、よっぱらったら理性もぶっとぶような人じゃ・・・ないわよね。たしなむ程度っていうのが、一番厄介だっていうけれど、武夫さんはたしなむこともないと聞いて、安心していたけれど・・・」
例え飲めても、好きでも飲まない人もいる。
選択として。
おばあちゃんの孫の私が、まさしくそういうタイプだ。
そしてー。
結婚後に分かったことだが、若い頃のおじいちゃんは、まさしくミツコが望んだ通りの夫だった。
「お酒は好きだが、子供達の養育が何より優先じゃ。お酒は飲まない」
ミツコと姉の心配は、取り越し苦労に終わったとな。^^
続く・・・