帽子が似合う・・・
背が高い・・・
賢そうな・・・
兵隊さん。
トヨタタケオ、28歳。
ミツコに5歳年上の一見、堅物そうな風貌ではあるが、まじめそうで、写真を見た限りでは、気に入ったという。
この写真の人物に実際に会う日がやって来た。
お見合いとは、結婚を決めた後に会うものだったらしい。
写真交換のみで、結婚することを決め、次に会うときは結婚式の打ち合わせのようなものだ。
実際に会ったタケオさんは・・・というと・・・。
写真と比べると・・・・特に背が高いわけではなかった・・・・。
帽子は似合っていた。
でも、その帽子を取った瞬間・・・・・!
ミツコ・・・おばあちゃんは、目の前に古いアルバムを広げ、中学生の私に言った。
「おばあちゃんは、お見合い写真に騙されたんよ~! 兵隊さんの服を着ていたから、かっこよく見えたしね。背も高いんだろうと、勘違いしとったわ。
それに・・・。
帽子をとった写真が無かったから、髪が薄いことに結婚してから気付いたんよ。今は見事に禿げてるけどねぇ。当時から、薄かったわ。禿の前兆があったよ・・・とほほ」
「そ・・・そう」
私は白黒写真を見ながら、若かった頃の祖父母が出会った頃を想像し、ちょっと笑った。
私が知っているおじいちゃんは、常に10個以上の帽子を持ち、毎回出かけるたびに、私の意見を求めたものだ。
何のファッション感覚も、おしゃれっ気も無い私なのに。
おじいちゃんに意見を求められることは、ちょっと大人として認められたようで気恥ずかしいながらも、ちょっぴり嬉しかった。
「まゆみちゃん。この服に合う帽子は、どれかね? 明日の旅行は、これにしようかね?」
「うん。いいんじゃない? シャツの色と合ってると思うよ」
靴ならフィリピンのイメルダ婦人。
帽子なら、おじいちゃん、というくらい、帽子が好きだった。
戦前から帽子にこだわっていたんだね、おじいちゃん。
棺の中で静かに眠っているおじいちゃんの頭には、お気に入りの帽子が乗せられていた。
九州新幹線が開通したとき、身体障害者のお世話をするボランテア活動をしていたおじいちゃんは、付き添いで初乗車に招待された。
その記念に九州新幹線のバッチを貰ったそうだ。
棺の帽子には、ちゃんとバッチも付けられていた。
おじいちゃんが入院する日、最後のお出かけに選んだ帽子。
「わしは、この帽子が気にいっとる。これを病院へはかぶっていく!」
そう、断言したらしい。
まさか、これが最後の選択となるとは本人も家族も思わなかっただろう。
あの日が おじいちゃんにとって最後の入院となり、
自分の住み慣れた家に生きて帰宅することがなかった。
棺に入れられた帽子とバッチ。
おばあちゃんと おじいちゃんの出会いも又、
帽子なしでは語れないのであった・・・・。
そして最後は、やはりおじいちゃん本人が最後のお出かけに選んだお気に入りの帽子を棺に入れ持たせてあげることを選択したのは、連れ添いのおばあちゃんだった。
続く・・・