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納戸の奥に眠っている箱を久しぶりに出してみると…
買い集めていた45年前の週刊ベースボールを読み返しています

# 649 週間リポート ④

2020年08月19日 | 1976 年 



ヤクルトスワローズ:ハッハ張本か若松か?
" 一日天下 " ではあったが若松選手が張本選手を抜いて打率トップに躍り出た。今シーズン最後の対巨人4連戦初戦の第3打席で右前打して、無安打に終わった張本を1厘上回ったのだ。「最後に笑えれば最高だけど、こういう競い合いではとにかくトップになっておくことが重要なんだ」と若松は取り囲む報道陣を前に笑顔を見せた。本格的な打率争いが始まって4ヶ月、ホプキンス選手や王選手らが次々と脱落する中で、7月からトップの座を2ヶ月以上守ってきた張本を引きずり落しただけにこの日の若松は饒舌だった。

もっとも翌日の試合で2安打した張本に対して若松は1安打に終わり再び1厘差の2位に落ちてしまった。厘どころか毛の争いとなるとグラウンドでの戦いだけでなく、心理戦・舌戦の舞台裏の戦いも熾烈になる。「若松?なかなかやるねぇ。でもだいぶプレッシャーを感じているみたいだな。それは俺も同じ。打率1位は若松、首位打者は俺」と凡人には理解不能な話をする張本。対する若松も「ハリさん?とにかくヒットを打つのが上手い。でもハリさんにはない若さが僕にはある」と負けていない。

直接対決で1試合毎に1厘ずつトップ張本と2位若松の差が広がり5厘3毛差となったが若松はまだ諦めていない。2安打、3安打と固め打ちする張本に対して若松は4タコ(4打数無安打)となる寸前の最終打席で安打を放って何とか踏みとどまってきた。今までの若松なら4タコで終わるところを最後に安打するあたりはストップ・ザ・張本に並々ならぬ執念を感じる。いずれにせよ昭和29年の与那嶺選手(打率.361)、同36年の長嶋選手(.353)、同48年の王選手(.355) 以来の3割5分を超える高打率で決着しそうな首位打者争いである。


大洋ホエールズ: " 大洋ホエールズ " が消える?
巨人と首位争いを繰り広げる阪神を迎えての3連戦。1勝1敗の後の3戦目は先発の根本投手が打たれて3回表終了時点で5点のビハインドとなった。ところが5回裏に高木、中塚選手の長短打で2点を返すと6回裏には先発の上田投手から代わった安仁屋投手を攻めて松原選手が3試合連続の33号ソロで2点差まで詰め寄り、7回裏に高木選手の6号ソロ、8回裏に米田選手の3号ソロとシピン選手の30号ソロで勝ち越して阪神に逆転勝ちし3連戦を勝ち越した。

阪神だけに勝っては片手落ちだと言わんばかりに「来週の巨人戦も一泡吹かせてやろうぜ」と気勢を上げ、練習にも熱が入った巨人戦2日前に一部スポーツ紙に『大洋が身売り』と派手な見出しが躍った。「エッ、本当かよ。冗談じゃないよ、嫌なこと言うなぁ」と選手たちは練習どころではなくなった。「やっぱりチームが弱いといかんなぁ。好き勝手なことを書かれる。それにしても今回の記事は酷い。身売りとなるとホエールズだけでなく親会社の大洋漁業本社のイメージダウンにもなる。道義的にも許せない記事だ」と秋山監督もカンカン。

事の重大性を鑑みて看過できないと判断した横田球団社長は練習前に選手を集めてシーズン中としては異例となる訓示をした。「10年、15年先のことは分からないが今現在、報道された話は絶対にないので心配しないように」と球団の経営内容まで詳しく説明して選手らの動揺を抑えた。それにしても今回のような騒動は15年ぶりに最下位になったことも影響しているのかもしれない。「やっぱり勝負事は勝たなくてはダメ。チームが最下位になんかなるから、有る事、無い事好き勝手に書かれる」と某ベテラン選手が言った言葉が今シーズンの大洋の悲哀をしみじみと感じさせた。


読売ジャイアンツ:コージ! コージ! コージ!
8月24日のミーティングで黒江コーチが「ワンちゃんが試合に出られない。今こそ全員一丸となって頑張ろう」と発言し巨人ナインに緊張が走った。「昨日の練習中に土井と駆けっこになって、負けないぞとダッシュをしたら腰がキーンと痛くなった。情けないやら恥ずかしいやら(王)」と反省しきり。この王の欠場に目の色を変えたのが若手選手たち。「代わりに俺が指名されると思った(柳田)」「俺も一塁なら守れる(原田)」「本職は外野だけど俺が(淡口)」など代役を志願する選手が多い中で指名されたのがルーキーの山本功選手。

王に代わって一塁手としてプロ入り初めてスタメン出場すると打つわ打つわの3安打の猛打賞。全得点に絡む大活躍だった。ところがである、この活躍にベンチの反応は「おいコージ、ヒットくらいで喜ぶな。王さんの代役なんだから一発を打たなアカンぞ」と巨人ナインから手厳しい祝福が。これには山本も「そんなにプレッシャーをかけないで下さいよ。ヒットを打っても1本じゃダメ、全打席ヒットでも王さんの代わりは務まりませんよ」と大きな身体を小さくして反論する姿にベンチは大爆笑。王欠場の沈滞ムードは一掃された。

そんな山本功と同期入団のドラフト1位指名の篠塚選手も二軍戦ではあるが頭角を現し始めてきている。8月18日の対日ハム戦(千葉)で二番で先発出場するや第1打席でいきなり川原投手から右翼席へプロ入り第1号本塁打を放った。「打った瞬間、手ごたえは十分でダイヤモンドを回りながら " やったぞ " と心の中で叫びました(篠塚)」と嬉しさを隠し切れない様子。21日の試合でも宇田投手から第2号を放つ大当たり。関根二軍監督は「今年1年は体力作りに専念させようと考えていたが、やはりバットコントロールなど野球センスは抜群で試合で使いたくなる」と絶賛する。山本功に負けず一軍デビューは意外と近いかもしれない。

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