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納戸の奥に眠っている箱を久しぶりに出してみると…
買い集めていた45年前の週刊ベースボールを読み返しています

# 584 10大ニュース ➍

2019年05月22日 | 1985 年 



草魂から魂が抜ける時・・・
それにしてもこんなにアッケラカンとした引退でいいのかな、鈴木さん

「ワシに記念のボールがいるとしたら、それは最後の登板の時のボールだけでええ」と常々口にしていた鈴木啓志氏。通算300勝の記念ボールもあっさりとスタンドへ投げ込んでいた鈴木氏。その " 鈴木投手 " が7月3日のボールは誰にも気づかれないようにグローブに隠してロッカールームへと持ち帰った。つまりそれは引退を決意した事を意味していた。後楽園球場での対日ハム11回戦は実に3週間ぶりの登板だった。万全の調整をして云わば満を持して、いや背水の陣での登板だったが結果は惨めなKOだった。実際はその3週間前に既に気持ちは切れていたのを本人も感じていたが、なんとか修復しようと努力したが無駄だった。

その一週間後、大阪・上本町の近鉄本社で佐伯オーナーに引退の決意を報告、そのまま記者会見に臨んだ。投げたらアカンって言うてたのは誰や!もっと投げて欲しい・・全国からファンの声が殺到した。また目前に迫ったオールスター戦には全パ・上田監督の粋な計らいで監督推薦で出場が決まっていて、多くのファンが球宴での登板を花道に、と願ったが本人は「草魂から魂が抜けたらただの草。戦いの場に魂の抜けた人間は相応しくない」と球宴出場を辞退した。ストイックなまでの厳しさ、己に対する厳しさがあっての現役20年、通算317勝だったのかもしれない。結局、近鉄球団初の引退試合までも断り、自分の美学を最後まで貫き通した。

あれから5ヶ月余り、鈴木氏は講演・評論活動に全国を飛び回り目が回るような忙しい毎日を送っている。「引退して体を動かさなくなったら食欲が落ちて体重が減ってしまった。お腹まわりも引っ込んでズボンが緩くなってしまったよ」という笑顔にも屈託がない。「未練?全くないよ。やり残した事はないと思ったから引退したんや。現役の選手を見る度にようあんな怖いことをしとったな、と体が震えるくらいや(笑)」と。未練があるのはむしろ鈴木氏の周囲を取り巻く人たちの方かもしれない。看板選手を失って観客動員がガタ減りの近鉄であり、記事になるスターの穴を埋めるべく四苦八苦するマスコミであり・・・。しかし近い将来、鈴木氏の近鉄監督就任のニュースが世の中を駆け巡るのも間違いはなさそうでる。




あぁ、コミッショナー不在・・・
野球協約も知らない一部オーナーの専横がプロ野球をダメにする

下田武三前コミッショナーは職を辞す意向を明らかにしてもなお精力的に仕事を続けた。非公式に来日した大リーグの新コミッショナーのピーター・ユべロス氏とも会談し、今後も日米野球界は強力な連携を取ることを確認し合った。その会談の中で下田氏はメジャーリーグ選手組合の幹部とユべロス氏が食事を共にしていることを知り驚いた。「かつてのようなお互いを敵視することなく話し合いの場を設けているユべロス氏はさすがだ。考え方が若い(下田)」と感心した。それを聞いたユべロス氏は「日本の野球は正直言ってまだメジャーリーグに追いついてはいない。しかしアメリカが日本に学ばなければならないこともある。それはチームに対する忠誠心だ。自分が所属するチームへの熱い思いこそ日本球界の財産だ」と。

日米間の緊密な関係維持の約束を取りつけて下田氏はコミッショナー職を辞した。「プロ野球界は独特な縦割り社会。もっと横の連絡を密にして視野を世界に向けなくてはならない。第三者の意見を聞く耳を持って欲しい」この発言はプロ野球創立50周年記念式典で、今日の繁栄を築いた先人の苦労を称えた後に呈した苦言である。プロ野球界の閉鎖性を危惧して任期満了で下田氏が辞してから1年、プロ野球界は未だに新たなコミッショナーを選定していない。この間、「コミッショナーなんて必要ない。いなくたって日本のプロ野球機構は問題なく機能してるじゃないか」という何とも無責任な発言をする " 妖怪たち " の声がプロ野球界を支配してきた。

そんな妖怪について某球団代表が「コミッショナーの座を空白にしておくのはおかしい、との意見は正論ですよ。でも現実問題として『俺たちに意見するようなコミッショナーなんて必要ない』と発言するオーナーが1人や2人じゃないんですよ」とこっそり教えてくれた。お金は我々が出している。何をやるにも自分たちが出した資金がなければ動けない。なのに我々の言動を縛るとは何事だ。コミッショナーは事務的な処理をする番頭役でいいんだ、これが一部オーナーの言い分だ。しかし時代は動いている。オーナーたちには寝耳の水の選手会による労働組合への動きに対応できず、代わりに川島・福島両セ・パ会長が仕切る。それを良い事に一部オーナーは「コミッショナー不在でも問題ない」とうそぶく。もはや末期状態だ。

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