4月2日の開幕戦で鈴木啓示投手(近鉄)はロッテを完封し開幕戦通算6勝目となり、別所毅彦氏(南海・巨人)の日本記録に肩を並べた。この勝利で通算198勝となり待望の200勝が目前となった。
スピード第1号スタルヒンの快挙
ひと口に200勝といっても20勝を10年積み重ねて達成できる記録。30勝、40勝が出現した一昔前ならいざ知らず、時には20勝投手がいないシーズンも珍しくない現代では200勝への道はますます遠くなってきた。プロ野球へやって来た投手の数は約2000人と推定される。そのうち100勝に到達したのは昨年現在68人。200勝となると14人というから約150人に1人しか実現できない記録だ。200勝投手の第1号はビクトル・スタルヒン投手。1㍍90㌢の長身から投げ下ろす直球は威力満点で昭和12年は春夏合計28勝、翌13年は33勝。これだけでも驚くべき記録だが14年は42勝だ。15年も38勝したので僅か4年間で141勝した不世出の大投手だった。
その後は胸を病んだりしてペースは落ちたが戦時中最後のシーズンとなった昭和19年は7試合に登板し、オール完投の6勝1分けで通算199勝。戦後の昭和22年10月20日、この年唯一の勝利で200勝を達成した。ただし今ほど記録に関心がなく球界初の200勝投手誕生に世間の反応は薄かった。加えて200勝達成までに要した試合数「313」は未だに破られないスピード記録である。稲尾投手(西鉄)は3年連続30勝やスタルヒン投手に並ぶシーズン42勝を昭和36年に記録するなど入団7年目に200勝を達成したが試合数は「436」でスタルヒン投手には及ばなかった。ちなみに200勝達成に要した試合数最多は「671」の皆川睦夫投手(南海)である。
完投勝利が多い価値ある200勝
昭和41年5月4日の東京対近鉄戦(東京球場)で東京が初回裏に2点、2回裏に1点を得点すると近鉄は早くも投手交代しルーキー鈴木啓投手を起用した。鈴木啓投手は3回・4回は無難に抑えたが5回裏走者2人を置いて森選手に左中間本塁打を打たれKOされると二軍に落とされたが5月8日のウエスタンリーグトーナメント大会の阪急戦に先発した鈴木啓投手は3安打完封。翌9日の中日との決勝戦で8回から登板し無安打・3奪三振と好投し最優秀選手に選ばれると早々に一軍復帰を果たし、5月17日の東映戦で3回二死から山本重投手を救援し9回まで1失点で投げ切った。
5月24日の東映戦(後楽園球場)で近鉄は4回まで0対5と劣勢だったが5回表に一挙6点をあげて逆転するとその裏から鈴木啓投手が登板し、東映打線を西園寺選手に許した左前安打1本に封じて最後まで投げてプロ三度目の登板で初勝利を記録した。「ブルペンでは球の走りが悪く本当は不安だった。勝てたのは全てリードしてくれた吉沢さんのお陰です(鈴木)」というのがプロ初勝利の弁。6試合目の登板となった6月3日の南海戦で先発し完封勝利で2勝目。こうして7月13日までに5勝した鈴木啓投手は高卒新人ながら監督推薦でオールスター戦出場の快挙を達成した。
結局、1年目は10勝12敗と負け越し。しかし2年目の昭和42年から5年連続で20勝投手に。だが昭和47年に14勝に終わると翌年から11勝・12勝と低迷が続き、直球主体の力勝負の投球スタイルに限界が見え始めた。これを契機に技巧派への転向に成功し昭和50年に22勝6敗と4年ぶりに20勝投手に復活した。また鈴木啓投手は完投勝利が多いのも特徴である。198勝のうち完投勝利が159勝。先発して他の投手の助けを借りて勝利したのは11勝しかない(あとの28勝は救援勝利)。それも最低でも6イニングは投げており、責任投球回数の5イニングで降板して勝利投手になったことは1回もない。
同期堀内とのレースにも完勝
鈴木啓投手は昭和40年11月17日に実施された第1回ドラフト会議で近鉄に指名され兵庫の育英高からプロ入りした。同期入団で投手は28人。そのうち今もプロのマウンドで投げ続けているのは鈴木啓投手を含めて白石静生投手(広島➡阪急)、堀内恒夫投手(巨人)の僅か3人(水谷実雄選手はプロ入り後に打者に転向した)だけ。1年目は堀内投手が開幕6試合目の4月14日の中日戦に先発し勝利するなど13連勝を含む16勝2敗で文句なしの新人王に輝いた。一方のパ・リーグは鈴木啓投手は10勝したものの新人王は該当者なしと見送られるなど1年目のライバル対決は堀内投手に軍配が上がった。
しかし翌年に21勝した鈴木啓投手に対し堀内投手は12勝で立場は逆転し、そのまま鈴木啓投手が5年連続で20勝投手になった。堀内投手が20勝投手になったのはプロ7年目で両者の差は広がり、通算勝利数も鈴木啓投手の方が25勝リードしている。堀内投手が200勝に到達するのは来年以降に持ち越されそうだ。この両者に続く200勝候補は成田投手(ロッテ)166勝、江夏投手(南海)165勝、平松投手(大洋)134勝あたりである。しかしこの3人は今季ともに開幕前から故障がちで安定感を欠いている。彼らが栄光の記録に到達するのはだいぶ先のことになりそうだ。
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