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# 695 大物?デービス

2021年07月07日 | 1977 年 



大物中の大物、ホンモノの大リーガー、と言われた中日のデービス外野手のプレーが今、話題を集めている。さすがに魅せるプレーヤーだが一方で何か変なムードもあるというのである。さてその実像はどうか、密着取材をしてみると…

「中日の優勝はオレ次第だ」という自負心
中前にポトリと落ちた安打を猛然と走って二塁打にしてしまうスピード。浅い犠飛で三塁から生還した時は大またで僅か9歩。そして物凄いスライディングの迫力など本場のプレーを目の当たりにしたファンは驚いた。その反面、ハッスルし過ぎたのか何でもない平凡な飛球にフェンス際までバックし、慌てて前進するも捕球できず安打にしてしまうチョンボにも逆の意味でファンは驚かされた。出塁すると何やら野太い声で相手投手に怒鳴り続けながらリードを取る。その姿が派手でファンの目にはコミックダンスを踊っているように映った。とにかくデービスは色々な意味で魅せる選手なのだ。

オープン戦の頃は中途半端な打撃で自ら交代を申し出たりして、これが大リーガーなのかと失望させられていたから余計にシーズン開幕後の姿がダイナミックに映るのであろう。大金(推定年俸五千万円以上)を払った中日も胸を撫で下ろしたに違いない。だが当のデービスは「皆が心配していたのは知っていたけどチームメイトにもオレという選手を知ってもらいたかったんだ。オレは中日を優勝させる為に日本に来たんだ」と涼しい顔。活躍度が増すにつれて周囲の評価も「打率3割、20本塁打は確実」と開幕前とは一変。与那嶺監督も「大リーグ時代と比べると足は多少衰えたのは事実だが打率・本塁打は期待に応えてくれるだろう」と目を細める。


ワイフなしでも寂しくない理由
プレー以外の私生活でもユニークというか風変わりなところがある。デービスは現在、名古屋市内南区戸部町にある三菱戸部マンションに一人で暮らしている。愛妻のエミー夫人(27歳)と2人の子供はハワイに残したままだ。「傍から見たら我々夫婦はノーマルな形ではないだろう。でもオレはビジネスで日本に来ているから仕方ない。エミーは日本が嫌いで来ないのではない。異国の地で見知らぬ人たちとコミュニケーションが取れるか不安で来日に踏み切れないだけなんだ」とデービスは言う。「ワイフがいないのは寂しいかと聞かれるけどそうでもない。何故?それはね、ウフフ」と意味ありげな表情をして浮気でもしているのかと勘違いされそうだが、実は…

デービスは熱烈な創価学会の信者で名古屋の自室にはアメリカ本国から持参した日蓮聖人の額を掲げた祭壇をこしらえ、2本のローソクまで立ててある。毎朝6時半に起床して祭壇の前に正座してチャンティング(お題目を唱える)をするのが日課になっている。日蓮聖人と共に充実した生活をしているので寂しくないというわけなのだ。試合を終えて帰宅すると再びチャンティングをたっぷり1時間。デービスの思考や生活の根底には宗教哲学が基礎となっている。例えば「水は自然界にあって命の泉なんだ。青々とした樹木を見てくれ。木は水を得てこそ成長していく。人間も同じ。だから水は欠かせない」と食事の際には必ず4~5杯の水を摂取する。

名古屋での夕食はナゴヤキャッスルホテルのレストランでと決まっている。理由を聞くと「あのレストランから外を眺めると目の前に美しい名古屋城がそびえているのが見える。ホテルの名前もキャッスル。キャッスルとキャッスル、そこで食事をするのが自然なんだよ」とよく分からない自説を強調する。だが何度も繰り返し言われると僧侶の説法のように体に染み入る感じになるから不思議だ。またデービスは1日にタバコを20本ほど吸う。運動選手にタバコは有害ではと問うと「あれは吸っていない。ただふかしているだけ。だから大丈夫なんだ」と。随分と都合のいい説だが、これもデービス式自然流とでも言えるのかもしれない。


丸裸で報道陣と語る開けっ広げ
こうしたはみ出した奇行っぷりは日本人だけが感じるものではない。大リーグ在籍中も手に負えない、ワガママといった評判があった。静かにしているかと思えば突如として奇声を上げて周囲の人間を面喰わせたりしていた。こうしたクレイジーな一面は持って生まれた天性の性格が成すものだろうが、宗教的な発言もあって周囲からは変人扱いされる。それでも6年前に前妻だったジーナ夫人の勧めでアメリカの創価学会に入信してからはアウトロー的な言動は少なくなったという。何か注意されると「アイムソーリー。これから気をつける」と素直に謝る。現在の風変わりな言動は熱心な信教と陽気なヤンキー気質が起因しているのであろう。

初めてナゴヤ球場で試合をした時の事、途中交代したデービスは一人風呂に入ったはいいがアメリカ式のバスと勘違いをして浴槽の湯を全て流してしまった。かと思えば別の日には風呂上りに一糸まとわぬ姿で報道陣の前に現れるというハプニングも。そんなデービスが今一番気にかけているのがチームメイトとコミュニケーションを取ることだそうだ。なかなか殊勝な心掛けだが中日ナインにデービスの印象を尋ねたところ「まぁ陽気で張り切っていていいんじゃないの。少し行動が変わっているけど生活感覚が日本人とは違うから、こちらで理解してやらないと(谷沢)」「俺にはよく分からん(井上)」などまだ掴みかねているようだ。

デービスが大物なのは間違いないが球団は特別待遇をしていないという。「ウチが最初の外人(ドビー、ニューカム)を入団させて以来、毎年のように来日しているけど彼らと比較しても決してデービスが優遇されているとは思っていない。住居もこれまでの外人が入居していた3LDKの部屋で新たに用意したわけではない」と足木広報部長は言う。ただし調整法は全てデービスに任せていて、例えば全体練習に参加する義務はない。「彼には大リーグで17年間の経験があるし年齢的にも(4月15日で37歳)日本式の練習は向かないと思う。それを特別待遇だと言えばそうだが、ベテランの日本人選手も練習免除することもあるしその批判は当たらない(足木)」だそうだ。


王はオレと話せばもっとよくなる
さてデービスは日本の野球にどんな印象を持ったのであろうか?王選手について聞いてみた。「王?いい打者だよ。でもアメリカではオレの方が人気が出るだろうな。何故かって?そりゃオレがアメリカ人だからだよ。日本じゃオレが逆立ちしたって王の方が人気者だろ。アメリカはアメリカ、日本は日本。比較すること自体が間違っているんだよ。ただ言いたいのは王はオレと話せばもっと良い選手になるよ。何を話すかって?それは秘密」と王が聞いたら目を丸くするような事を話す。

中日OBの地元評論家は「足や肩が一級品なのは分かったが問題はあのバッティング。球をとらえるタイミングはオープン戦当初より良くなっているが、パワーの衰えは隠せない。デービスに長打を期待するのは無理でしょう」と年齢による衰えを指摘するが、一方で山田トレーナーは「デービスの筋肉は疲労が残らないタイプだから年齢の割に動けるのではないか」と話す。中日とは1年契約だが球団は今季の活躍次第で契約延長も考えている。「契約に関してはオレの口からは何とも言えない。とにかく今年1年は中日でベストを尽くすだけだよ」と話す。愛する家族と離れて異国の地で頑張る覚悟だ。常人には理解し難い " 変な大物 " というのがデービスについての結論のようである。

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