◆井上祐二(南海)…ニックネームは「クマ」、南国宮崎出身だが風貌や動きが北の白熊のような雄大さを感じさせる。8月4日現在、25試合に登板して6勝7敗2Sと特筆すべき成績ではないが底知れぬ可能性を秘めた20歳の若者は必ずや近い将来の南海のエースになる逸材だ。それは首脳陣の起用法にも表れている。投手分業制が確立した現在では珍しく井上は先発完投は勿論、中継ぎや抑えもやっている。南海投手陣が人材不足なのは確かだがそれが井上に一人三役を任せている理由ではない。エースになるであろう男に様々な役割を経験させるべく長期的プランに立った起用である。前半戦は西武キラーを前面に押し出してパ・リーグに旋風を巻き起こした南海だったが徐々に力不足を露呈し、今ではBクラスに低迷している。優勝は無理としてもチーム再建の第一歩として何としてもAクラス入りを果たしたい所。そこで井上にかかる期待は大きい。
「今の勝ち星(6勝)には満足していません。最低でも10勝はしたいです」と文字にすると僅かだが実際は言葉を選んで朴訥と話す様子は今時の若者らしくない。しかし逆にそれがスケールの大きさを感じさせる。高校(都城)を出て3年目だから先ずは順調と言える。しかし人知れぬ悩みに苦しんだ時期もあった。それは今年の呉キャンプでの事、井上は河村投手コーチに徹底的に鍛えられた。先ず手始めにスムーズな体重移動が出来るように投球フォーム改造が敢行され、27日間で合計4千球を超える投げ込みにも耐えた。「うん、よく耐えた。コチラの厳しい注文にも歯をくいしばった」と河村コーチは振り返る。ただ井上も一度だけ反抗した。否、正確に言うと反抗しているように見える場面があった。首脳陣が見守る前でネットに向けて大声を叫びながら球を投げつけたのだ。
「はい。あれは全然上達しない自分が情けなくて…自分でも突然あんな行動に出たのが不思議で。それ程マイっていたんでしょうね」と振り返る。エース帝王学を着々と学んでいる井上。「投手陣の頭数が足りない事もあって今のような使い方をしているけど決して無理はさせていないし、彼の将来の為にも大きな肥しになると断言できるよ」と語る河村コーチの言葉を借りるまでもなく " 真のエース " は先発完投は勿論、大事な所では抑え役もこなさなければならない。そんな投手の理想像に井上は邁進している。井上本人も「そりゃあ最初は戸惑いましたよ。調整の仕方とか難しい面もありましたから。でも今は慣れましたし試合展開を読んで自分なりに出番が分かるようになりました」「僕は完投しても2日あれば投げられます。肩の回復が早いんです」とすっかり自信をつけた。「勉強です。勿論、全て成功するに越したことはないですが失敗しても勉強になります」後半戦も当然フル回転するつもりでいる。
◆篠塚利夫(巨人)…王助監督をして「彼の打撃は完成の域に達しつつある」とまで言わしめた篠塚だったが今季前半は不調に苦しみ続けた。「レギュラーになって4年目だけど調子が悪くなった事は当然だけどある。でも打席の中で構えを変えたり工夫をするうちに自然と元に戻った。それが今年は何をやってもダメだった…こんな長いスランプは初めて」 スランプの原因は技術的な事だけではなかった。7月中旬に一部スポーツ紙に政美夫人との別居が報じられた。思えば6月に入って極度のスランプに陥ったのも私生活の不和が原因だったと想像出来る。篠塚本人はこの問題について多くを語りたがらないが「皆さんは僕のスランプを私生活と結びつけて考えているようですが違います。これだけはハッキリさせておきたいんです。家庭内の不和で調子を落としたなんて書かれていますが関係ないです」と普段は温厚な男が語気を強めた。
では安打製造機とも言われる打撃に狂いが生じた原因は何だったのか?篠塚曰く「視力が急に落ちちゃってね。元々近眼で両目とも 0.7くらいだったのが6月に入ると右目が 0.1、左目が 0.3になった。原因?分からないです」 いくら打撃の職人と言えどもこれだけ急激に視力が落ちたらプロの投手が投げる速球や変化球に対応する事は難しいだろう。だが逆に言えばそのような状況下でも打率3割を維持していたのは流石である。そして後半戦、篠塚は8月を勝負の月と考えている。「正直、首位打者のタイトルは難しいが取り敢えず3割2分か3分に上げる事が出来たらまだチャンスはある」と諦めてはいない。3割そこそこの現状を篠塚本人もファンも納得していない。シーズンが終わってみれば3割2分以上は打っていると誰もが信じて疑わない。だが野球人生最悪のスランプは意外な副産物をもたらした。「スランプになってから長打が出るようになってね。理由は分からないけど余分な力が入っていたんでしょうね。悲しいかな柵越え程の力は無かったから勘違いしないで済んだけど」
ただ肝心の視力低下の原因は今も分かっていない。「少しは良くなってはいるけど…(篠塚)」と不安は残る。その為に首脳陣の中には眼鏡やコンタクト着用を勧める者もいるが本人は「眼鏡をかけるくらいなら野球を辞める」と言い切り頑として受け付けない。そこには天才にしか分からない何かがあるのだろう。一昨年、藤田(阪神)と熾烈な首位打者争いを繰り広げた時も視力は 1.0に満たなかった。プロ入り前から守っていても捕手のサインは見えていなかったと言う。そんなハンデを負いながらも安打製造機とまで言われるまでになっただけに「今さら眼鏡なんて」という心境なのだろう。現在は篠塚本人の意志を尊重している藤田監督や王助監督も仮に今季の成績が3割を切るような事になったら意見が変わるかもしれない。「色々と言われるけど僕には野球しかない」と力強く言い切る篠塚の表情が明るいのが救いだ。
◆バンプ・ウィルス(阪急)…目立たないが隠れた所でキチッと自分の役割を果たす・・まさにバンプの事である。去る対近鉄16回戦の8回、4対1とリードした一死満塁の場面で打席に入ったバンプは左犠飛を放ちダメ押し点をあげた。この試合の主役は先制の20号本塁打を放った水谷であり中押しとなる2ランを放ったブーマーであるがサヨナラ負けが続いた阪急にとってダメを押したバンプの犠飛は大きかった。「日本に来たガイジンの多くは本塁打を求められるが僕は大きいのを打つタイプではないし阪急にはブーマーもいる。僕にしか出来ないプレーをするように心掛けている。自分の仕事をするだけだ」とバンプは静かに語る。これこそバンプ・ウィルスだ。多くのファンを欣喜雀躍させる事はないかもしれないが玄人受けのするバイプレーヤーなのだ。
しかし前半戦の印象は今ひとつ。年俸1億円の4年契約、現役大リーガーとして華々しく来日したが怠慢プレーが目立つと酷評された。いわば悪評プンプンの「害人」に成り下がってしまったバンプ。確かに本人が認めているように長打力は期待出来ないし、打率.280 前後を打ってもチャンスに弱く勝利への貢献度も低い。また守備面でも堅実ではあるが美技は少なくチーム内外から「あの程度なら若手と大差ない」の声も聞かれる。こうした技術面以外では凡打やエラーをしてもシラーッとした姿に「無気力」「怠慢」と失望するファンも多く、前評判が高かっただけにその反動もまた大きい。これで本当に後半戦に期待出来るのか?
そもそも酷評の殆どは誤解によるものと言える。先ず大リーガーの内野手に長距離打者は少なくシュアなタイプが多く、バンプのような盗塁王に長打を望む事自体が間違っている。チャンスに弱い事に弁解の余地はないが敢えて庇うならストライクゾーンの違いや変化球が多い日本の投手に慣れるのには時間が必要なのではないか。周知の通り大リーグのストライクゾーンは日本と比べると総じて低く必然的に大リーグの打者の多くがアッパースイングになる。これでは決め球に低目のボールになる球を多用する日本では打てない。前半戦のバンプは3割には届いていないが健闘しているとも言える。守備面でも同じで美技がないのは美技を普通のプレーに見せているとも言える。そして「無気力」は感情に左右されない「冷静さ」の裏返しではないのか。感情を表に出さない姿勢こそ大リーガーらしさである。
日本式ストライクゾーンへの対応はどうなっているのか?決め球の変化球同様に高目のボール球への対処が鍵となる。大リーグ式アッパースイングでは高目のボール球を打つ事は出来ない。キャンプから住友打撃コーチがレベルスイングへの矯正を指導しているがバンプ本人は直す気はなく「日本の変化球にも慣れてきた。高目?大丈夫、まぁ見ててくれよ」と自分のスイングに自信を持っている。残り50試合を切って、些か呑気過ぎる気もするが後半戦に入り打ち始めた事もあり周囲は見守るしかない。ただバンプに4年契約による安心感がある事は否定出来ないが決して「害人」ではない事だけは確かである。
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