Haa - tschi  本家 『週べ』 同様 毎週水曜日 更新

納戸の奥に眠っている箱を久しぶりに出してみると…
買い集めていた45年前の週刊ベースボールを読み返しています

# 709 評論家をドッキリさせた異変 ①

2021年10月13日 | 1977 年 



勝負には異変がつきものだが、今年のプロ野球ほど当たらぬ八卦が多いのも珍しい。その一つが評論家諸氏が太鼓判を押した " 最下位・大洋 " の獅子奮迅。どうやらここはオバQこと田代選手の大暴れが評論家たちを青ざめさせているらしい。

インチ野球なんて面白くない!
「プロ野球というものは選手と観客が一緒になって夢の追求をしていくもの。別当新監督の下、大洋ホエールズは心新たに突き進みます」これは4月26日、川崎日航ホテルにおいてエキサイティング野球を標榜するアドバイザリー組織の発会式で中部新次郎オーナーがブチ上げた言葉である。ちなみにこの会は大洋をより良い球団にしようと一般の方々から意見を募る為に組織されたもので、60名で構成されている。「ウチはノンプロからスタートしたので今までファンの皆様に目を向けることが多くなかった。これは大変な誤りで深く反省しています。これからはスター選手を育ててファンの声に応えたい」と中部新次郎オーナーは決意する。

これまでの大洋はチームカラーが地味で長打力はあるのに迫力に乏しかった。そんな大洋を多くの野球評論家は最下位に予想していた。それに反発するように別当監督は「今はどこのチームもインチ野球やらで守り中心の野球になっている。大洋はそんな風潮を打破して打撃中心の破壊力のあるチームにしたい」と目標を掲げた。その別当監督の決意の表れが田代選手である。5月2日現在、ホームランダービートップの11本で他を圧倒している。好調の原因を問われた田代は「別当監督のアドバイスのお蔭」と。「田代の成長はむしろ田代本人にある。あれだけしつこくいじられたら普通は逃げてしまう。よく辛抱してついてきてくれた」と別当監督は感心する。


黄金週間に現れる第二のオバQパワー
開幕戦の広島には勝ったが次の巨人戦は連敗し、やっぱり今年の大洋も昨年から一向に変わっていないとのネット裏の評判に別当監督は「いいや明らかに今年のウチは違う。去年までなら巨人戦の連敗後はシュンとしていただろうがそれがない。チームの雰囲気は明るいんだよ」と話す。確かに巨人戦は連敗したが、オバQ・田代選手の本塁打も飛び出し10対12、4対7と一方的な敗戦ではなかった。チームの活気は失われず、巨人戦後の連勝で一時は2位に浮上している。こうしたチーム力の向上に別当監督は「巨人の相手は阪神じゃない、ウチだよ。それを5月3日からの巨人戦で立証してみせる。楽しみにしてくれ」と言い切った。

その発言の根拠が平松投手の復帰と新助っ人・ブレット投手の存在だ。故障で出遅れた平松は現在二軍で調整中だが次の巨人戦には登板できる見込み。また5月1日から一軍登録されるブレットを巨人戦に先発させると別当監督は公言している。ブレットが田代に次ぐ " 投手版オバQ " になれたら大洋を最下位に予想した評論家諸氏は丸坊主を覚悟せねばなるまい。こうした状況に中部新次郎オーナーは「今は君たちマスコミが弱い弱いと煽るから選手も反発しているだけだよ。私もその気になっているかって?いやいや私は騙されませんよ。そのうち勢いも落ちて、指定席(最下位)に落ち着くよ」とニヤニヤしながら記者たちを皮肉る。


前オーナーの弔い合戦宣言の効果
船出した新生・別当丸の快進撃の要因の一つが別当監督と中部新次郎オーナーの堅い絆であろう。中部謙吉前オーナーの急死で寵愛を受けていた別当監督の立場が弱まると危惧されていたが杞憂だった。春季キャンプの初日に中部新次郎オーナーはナインに対して「君たちはプロだ。甘えは許さない。ウチは魅力あるチームだと思うがファンが納得できない試合が多すぎる。今年は前オーナーの弔い合戦だと思って、少なくともAクラス入りを果たして欲しい」と檄を飛ばした。" 恩情オーナー " といわれた前オーナーとは違い、新オーナーの挨拶は厳しいもので選手間に緊張感が漂った。

「技術的な事は現場に任す。私はお金の用意をするだけ。どこからお金を集めるか、そのお金の使い道を考えるのが私の仕事。私としては監督が働きやすい環境にしてやりたい」と新オーナーは『金は出すが口は出さない』と宣言した。その言葉が別当監督をどれだけ感激させたか。「大洋を良いチームにする最大の責任は自分にある。その責任は重大で結果の責任は全て私にある。とにかくベストを尽くすのみだ」と別当監督。そして厳しいキャンプが始まった。昨年までと一番の違いは練習内容より生活面だった。 " 外出しての飲酒は一切禁止 " とされ、飲酒は宿舎での食事の時だけ許された。酒豪で鳴る奥江投手も「別に飲まなくても死にはしない」と開き直るほどだった。

厳しさを全面に押し出したキャンプに別当監督は満足気だったが、オープン戦の成績は4勝14敗と大きく負け越してしまい成果は見て取れなかった。それが評論家諸氏の低評価となって現れたのだ。だが詳しく内容を吟味していれば敗戦中でも若手の成長は明らかであった。あるコーチはニヤリと笑って言っていた。「評論家の皆さんは選手の名前だけで予想しているんじゃないの。王や張本、堀内の名前を聞けば強く感じるものさ。ウチの高木や長崎あたりじゃインパクトが弱いのは確か。でもちゃんとキャンプやオープン戦の内容を見れば今年のウチは強くなってると感じる筈。まぁ見ていなさいよ、開幕したら世間をアッと言わせてみせますよ」と。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« # 708 頼もしきホープたち ③ | トップ | # 710 評論家をドッキリさせ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

1977 年 」カテゴリの最新記事