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納戸の奥に眠っている箱を久しぶりに出してみると…
買い集めていた45年前の週刊ベースボールを読み返しています

# 708 頼もしきホープたち ③

2021年10月06日 | 1977 年 



ナインの信頼買う強運を持つ男
藤田投手の安定した投球内容は優勝へひた走る南海投手陣の軸になった感がある。チームは快調なスタートを切ったものの、昨季20勝をマークした山内投手の調子は今一つ。また左ヒジに不安がある江夏投手に多くを望むのは難しい。更に先発ローテーションの一角の中山投手も右肩痛で出遅れている。そんな満身創痍の投手陣の中で藤田は開幕から全て完投で無傷の4連勝と大車輪の活躍。今や勝ち星を計算できる投手として野村監督の信頼感も高まる一方だ。昨季は古賀投手(クラウン)と激しい新人王争いを演じ、10票差でタイトルを手にした。活躍した翌年は " 2年目のジンクス " に陥ることが多いが藤田はタイトル獲得で自信がつき今季の活躍に結びついているようだ。

タイトルは狙ったところで獲得するのは難しいが藤田の新人王の場合は野村監督が緻密に計算・計画して獲得したタイトルだった。愛媛県・南宇和高から南海入りしたのは昭和49年であの作新学院・江川投手が注目された年だ。甲子園出場経験がない藤田の知名度は低かったが各球団のスカウトには一定の評価をされていた逸材だった。南海は藤田を将来のエースに育てるべく、二軍で英才教育を施した。高卒1年目に二軍で5勝、2年目は16勝したが野村監督は一軍に上げず徹底的に鍛えた。「牽制球や守りを含めたマウンドさばきは勿論、投手としての精神面の教育も万全にして一軍に上げた」と松田投手コーチが言うように現場とフロントが一丸となって藤田を育てた。

満を持して一軍に上がり昨季は11勝3敗・防御率 1.98 の好成績で見事新人王に輝いた。南海では佐藤道投手以来、6年ぶりの快挙である。もちろん本人の努力もあるが「僕は本当に恵まれている。首脳陣やチームメイトに感謝しています(藤田)」と常に周囲への感謝を忘れない。このあたりがナインから好感を持たれている要因だ。先輩の藤原選手は「マナブ(藤田)が投げる時は皆で盛り上げて勝たしてやりたくなる気にさせるヤツなんだ」と話す。松田投手コーチは藤田を評して強運の持ち主という。古賀投手(クラウン)と僅かの差で新人王に選ばれたのをはじめ、シーズン中もここ一番と野村監督が鼓舞した試合で結果を残した。決まって打撃陣の援護があるのも特徴だ。

大投手になるための体作りが課題

藤田はまだガキ大将の面影をちょっぴり残した21歳。だが若さに似合わずなかなかシッカリしている。「大好きな野球を1年でも長くやっていきたい。ウチの監督さんや、投手なら阪急の足立さん、近鉄の米田さんのように長持ちする投手になりたいです(藤田)」と話す。続けて「稼げるうちにガッポリ稼ぐんです」と事もなげに口にするあたりはなかなかのプロ魂だ。その藤田の課題は一層の体作りに励み逞しさを増すことだろう。プロ入り当初よりは逞しくなったが意外と弱さを露呈することがある。昨季も開幕直後に原因不明の右手人差し指の痛みで前期は1勝のみ。痛みが消えた後期だけで10勝したのだから潜在能力は高いのだが。

今年のキャンプ中も肩や腰の痛みを訴えて首脳陣を心配させている。「まだまだ子供の体なんだよ。ちょっとキツイ練習をさせるとここが痛い、あそこが痛いと言う。シーズン中でも今はどんどん足腰を鍛えて強い体を作らなければ。なんといっても素材はピカイチなんだから将来の南海を背負う投手になれる男であるのは間違いない」と松田投手コーチ。なにはともあれ目下のところ体調はベストをキープしている。成績もチーム No,1で選手には手厳しい野村監督からも「今のウチで一番安定している」とお褒めの言葉を頂戴している。このまま突っ走れば目標としている15勝も難しくない。そればかりか投手部門の幾つかのタイトル獲得も視野に入っている。

藤田はリーグもポジションも違う阪神の掛布選手を意識している。実は2人の誕生日が昭和30年5月9日と一緒なのだ。プロ野球選手としては新人王になった藤田が一歩リードしたと言えるが、掛布は同じ関西地区では圧倒的人気チームである阪神の選手でマスコミの注目度では敵わないだけに「掛布には負けたくないですね」とハッキリと公言するくらいライバル意識がメラメラと燃え上がっている。加えて今年の秋には更なるライバル選手がプロ入りするであろう。4年前にプロ入りを拒否して法政大学に進学した江川投手だ。江川は同学年のライバルだが藤田は意外と冷静だ。怪物と騒がれても所詮はアマチュア、プロとしての実績は自分の方が上であると自信を持っているのだ。

ヤジ馬的な興味から言わせてもらえれば叩き上げの藤田と高校時代からマスコミに注目された江川の投げ合いを見たいものだ。なにはともあれ、やはり今の藤田にはチームの優勝が一番の大きな目標であるのは間違いない。また藤田が活躍しないことにはとても厳しいペナントレースを勝ち残ることは難しいであろう。チームにおける自分の立場をちゃんと分かっているようで、「今年は昨年のように戦列を離れないようフルシーズン頑張ります。今はチーム内の雰囲気もすごく良くて選手が一丸となって優勝できそうな気がしています」と話す。今年は若さのみなぎるダイナミックな藤田の投球が日本シリーズの大舞台で披露されるかもしれない。

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