◆ 仲田幸司(阪神) 阪神の話題を独り占め!ダメ虎のイメージを払拭してくれたキャンプの功労者は10勝と新人王を狙う
安芸キャンプはちょっとした " 仲田パニック " に陥っている。今や阪神のスターは掛布でも岡田でもなく、未だ一度も一軍で投げた事のない左腕投手である。「仲田はどこだ?」がキャンプを訪れた評論家の合言葉である。村山実、藤田平、田淵幸一といった球団OBばかりか球界の重鎮でもある川上哲治氏や鶴岡一人氏までもが仲田を見に安芸まで足を運んだ。当然のように在阪スポーツ紙の一面は「仲田」のオンパレードである。「話題がない時は仲田を書いておけば売れる」とはトラ番記者。一体、仲田の何がそこまでスポーツマスコミを興奮させているのだろうか?
ドラフト3位で沖縄・興南高から入団して2年目。その素質は周囲から高く評価され、球団はそれこそ金の卵の扱いで1年目はじっくり二軍で寝かせていた。成績は2勝6敗と特筆すべき程ではないが自慢の速球は滅法速く、58回 1/3 で 54奪三振。新任の米田投手コーチが放っておく筈はなく就任早々に「こいつは間違いなく使える。一軍で二桁勝利も可能」とブチ上げた。そして安芸キャンプ。フリー打撃で登板しただけで大騒ぎ。大きなモーションから140㌔の速球を投げられたら調整の遅れたベテラン選手は手も足も出ない。岡田が空振りし掛布がドン詰まりの打球を放つと " 仲田、主軸を完封 " と大見出しがスポーツ紙の一面を飾った。シート打撃で抑えられた真弓は「聞かれるのは仲田の事ばかり。たまには俺の事も聞いてよ」とぼやく。
2月20日の紅白戦に先発して3回を1安打に抑え、課題の制球も無四球と合格点。それでも本人は「三振が1個しか取れなかったのが不満」と言ってのけた。それを聞いた米田コーチは「その通り。俺も不満だ」と仲田に対する要求も高くなる。とにかく仲田は練習好きで研究熱心で対戦した打者に「僕の球はどうですか?」と意見を聞いて回る。先輩達も「もっと内角を攻めろ」「あそこは直球勝負」などアドバイスを送る。投手陣の間でも「礼儀正しい子で我々にも気を遣ってくれる。聞かれた事は何でも答えてやってるよ(山本和)」と可愛いがられている。特に山本和とは宿舎も同室で何度も食事に出かけるなどすっかり師弟コンビだ。
しかしプロの世界は甘くない。二度目の登板となった24日の紅白戦で長崎、掛布に連続本塁打を浴びた。掛布に対しては第一打席はフォークボールで三振を奪い思わずガッツポーズを見せたが、二打席目ボールカウント 0-3 からストライクを取りにいって一発を喰らった。ベンチに戻ると「チクショウ!」と大声をあげた。米田コーチは「チクショウと言ったって後戻りは出来ないよ。安易にストライクを取りにいった自分の未熟さを反省しなくちゃ」と苦言を呈した。オープン戦での登板も決まっている。開幕一軍は余程のアクシデントがない限り間違いない。「全て勉強です。これからもどんどん経験を積みたい」と意欲的だ。
◆ 藤王康晴(中日) " ポスト田尾 " の急造主役に仕立てられた怪物くん。慌てず騒がず「何とかなるでしょう」とは流石!
後逸しようがポロリと落球しようが中日の藤王売り出し作戦は日ごとに熱くなっている。串間キャンプの山内監督からは「藤王、藤王」連呼が絶える事はない。1安打に終わった2月23・24日の広島とのオープン戦後にも「1安打?そんな小さい事より藤王は何をやっても絵になる男だ。守りでチョンボするのも飛球を追ってフラフラするのも御愛嬌だ」と。藤王一色なのは監督だけではない。現場にはノータッチの筈の鈴木球団代表までもが「今年の藤王はいいでしょう?光ってるねぇ」とご満悦。中日には珍しい一選手を前面に押し出す手法の裏には、藤王には何が何でも活躍してもらわなくては困る背景があるのだ。
電撃トレードの田尾放出後の騒動が未だに鎮静化しない。チームにとって良かれと判断して実行した田尾のトレード。だが激しいファンの抗議行動が波紋を広げた。抗議の電話や投書は球団にとどまらず親会社である中日新聞の重役の家にまで及んだ。驚いた重役たちは球団フロントに対して「善後策はどうなっているんだ!」と迫った。例年、キャンプ前には中日スポーツの売り上げ部数は増える。しかし今年は減っている異常事態。事は急を要した。慌てた球団フロントの善後策が前述の藤王売り出し作戦なのだ。山内監督が数多い右翼手候補の中から藤王を抜擢し、現場・フロント挙げて " 藤王!、フジオー !! " とポスト田尾の急造主役に仕立て上げた。
もっとも藤王本人はそんな周囲の騒ぎも意に介さず「サードはモッカさんと併用でしょ?ライトなら一人ですからイイっすね」とすっかりその気になっている。そもそも球団は当初は藤王を大型三塁手に育てる方針だった。山内監督も「打撃は一軍レベルだが三塁の守りは素人。息の長い選手にする為にもじっくり育てたい」と言っていた。それが田尾放出後は降って湧いたように藤王を使わざるを得なくなった。打つ方は問題はない。キャンプを訪れた川上氏などは「王の再来じゃ」と唸り非凡な打撃センスにぞっこんだ。確かにオープン戦は1安打に終わったが安打にこそならなかったが、バットの芯で捉えていた。
だが強弱難しい打球が頻繁に飛んで来て、サインプレーも要求される三塁手にはとても使えない。試合に出場するには外野しかなかったのだ。オープン戦初戦は二度の捕球機会を無難にこなしたが、次戦では早くも不安を露呈した。小早川が高々と放った飛球をグラブで触れる事なく二塁打に。また長嶋が放った右前打の処理を誤り二塁進塁を許した。どう贔屓目に見てもプロのレベルではない。それでも本人は「誰だって最初から上手かった選手はいない。開幕まで1ヶ月以上あるし、何とかなるんじゃないっスかね」と平然と言ってのけた。思えば昨年の藤王も何度となく二軍落ちの危機があったが、その度に代打で安打を放ち生き残った強運の持ち主。ひょっとしたら今度もシーズンを終わってみたら正々堂々のレギュラーだった、となっているかもしれない。
◆ 秋山幸二 (西武) 脅威の打ち込み量の陰にあった雑音の悩み。今は打って打って打ちまくるしかない
秋山の打ち込み量は驚くべきものである。キャンプ終盤に腰の違和感によって量こそ減ったが毎日、全体練習が始まる1時間前に球場入りして早朝特打。練習が始まり他の選手がグラウンドで打撃練習をしている間はブルペン脇のテントの中でマシン相手に特打。夜間は大広間で素振り。更に休日返上で特打。とにかくチームプレー、紅白戦以外はひたすら特打に明け暮れたキャンプだった。しかも秋山の練習はキャンプ中の事だけではなく昨年の秋季キャンプ、冬季練習、年明けの自主トレと打ちに打ちまくった。口の悪い記者達は「秋山はちょっとしたワークホリック(仕事中毒)だ」と軽口を叩いた。
だが昨オフに打撃コーチに就任し秋山の養育係に任命された長池コーチは「そういう時期にあるという事です。ひたすら打ち続ける時期があって当然。秋山は打線の中心になるべき選手なのです」と敢然と話す。田淵の衰えが顕著になり始めた3年前に秋山は二軍で本塁打王になった。秋山にポスト田淵の白羽の矢が立ったのは自然な流れだった。だがそこから秋山の苦悩が始まる。米国の野球留学から帰国した秋山に英才教育がスタートする。しかし指導者が入れ替わり立ち代わりした。佐藤孝夫打撃コーチ(現・阪神スカウト)、与那嶺要(現・日ハムコーチ)、近藤昭仁、黒江秀修ら。時には広岡監督自ら指導にあたった。また球団外の青田昇、荒川博、豊田泰光、張本勲などもアドバイスを送るなど、まさに " 船頭多くして… " である。「次は長嶋さんですかね(秋山)」のジョークにも悲哀が帯びる。
悩み苦悩する秋山に広岡監督は「意見は意見。それらを参考にして自分のものにしなくちゃならんのですよ」と。その為にひたすら打ち込む。それが秋山の日課となったのだ。しかし残されている時間は決して多くない。秋山を追いかけてくる選手の足音が背中に迫っている。ドラフト1位で入団した大久保博元の評価が高いのだ。打つだけならレギュラーと言われる18歳の怪童が秋山のポジションである三塁の練習を始めた。「人の事まで考えている暇なんてありませんよ」と大久保の話題になるとそれまでの笑顔が凍りついた。打ち疲れて夜はひたすら眠るだけだが「眠い。寝た気がしない」・・最近は悲壮感が漂う。今の秋山は夜明け前の一番暗く、寒い時機の真っ只中で苦しんでいるが明けない夜はないのが自然の理である。
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