自分から練習嫌いを公言して大リーグキャンプに乗り込んだ江夏は、やる事なす事が王様キャンプ。キャンプ地のサンシティに来た日本のマスコミはテレビが3局、新聞・雑誌を含めると総勢30人。「こんなに多くのメディアがウチのキャンプに来たのは初めて」とブリュワーズの広報・ジーノ氏は驚きを隠さなかった。しかもこれら大挙して押しかけた取材陣と江夏は冷戦状態で練習後に形ばかりの共同会見をする以外は完全シャットアウト。この感情的な対立は江夏がロス入りした直後から始まっている。ヤクルトのユマキャンプを取材している記者が空路ロスへ来て江夏を取材しようと接触しても「あなた達には関係ない(江夏)」とノーコメントを貫いた。自然と江夏に対する記者の感情は悪化し、江夏に批判的な記事が多くなった。
あくまでもマイペースなキャンプ生活。初日の捕手を務めてくれたテッド・シモンズについて「テッドってどんな選手や?」と。かつて大リーグを代表する捕手だったと聞かされても「あ、そう」とどちらがテスト生かと錯覚するかのような言動は、さながら王様である。投手26人のうち、大リーガーとして開幕ベンチに入れるのは10人。既に7人が当確で残り3枠を19人が争っている。大リーグ昇格を目指す若手投手達がブルペンで必死に投げ込みをしている横で江夏は悠々と肩を作っている。「俺は俺のやり方でやっていく」と18年間日本で培った独自の調整方法を曲げない。3月2日にフリーバッティングに登板した江夏を自分の眼で見たバンバーガー監督は3月7日の紅白戦で投げさせ、11日の対アスレチックのオープン戦で実戦テストを行うプランを明かした。
そして3月15日からいよいよ選手のカットが始まる。そこには過去の実績など関係ない。力不足と判断されれば容赦なく切られる。大リーグのキャンプには江夏が嫌う管理という名の制約は何もないが、日本での名声が通用しない実力が全ての生き残りの世界でもある。江夏はそんな状況もどこ吹く風で何と大リーガーとしての登録名を早くも考えている。「ビック・エナツ」である。ビクトリーの頭3文字「VIC」から取ったのだそうだ。3月30日のロースター(選手登録)に向けて江夏にはテスト、テストの日々が続く。キャンプ初日からガンガン投げる大リーグの常識を破って王様然としている江夏。その態度とは裏腹に不安にかられているのも事実。江夏がフッと漏らした「思えば遠くに来たもんだ…」は偽らざる正直な心境だろう。
【 ポイテ・ビント育成部長に独占インタビュー 】
聞き手…奥様が日本人で日本球界に精通していて、そこで目に止まったのが江夏だったと聞きました
ビント…この10年で私が気に入った選手が江夏と角(巨人)です。江夏が先発投手だった頃から知っています
聞き手…先発していた頃の全盛期は過ぎていますが
ビント…先発投手だった頃より投球術が格段に上手くなっています。その能力とリリーフとしての経験を高く評価し契約しました
聞き手…その契約はどのようなものですか?
ビント…江夏との契約時は既に40人のロースター(選手登録)が決まっていたので3Aでの契約です
聞き手…3Aチームとの契約を江夏は納得したのですか?
ビント…勿論です。彼の年齢で大リーグ入りを目指す困難さなど5~6時間じっくりと話し合い、彼も納得してサインしました
聞き手…江夏の持病(心臓病)や喫煙などについても承知しているのですか?
ビント…ロスの病院で検査し、大丈夫と診断されました。タバコは感心しないがお酒は飲まないし許容範囲です
聞き手…江夏からの要求は有りましたか?
ポイデ…背番号を変えて欲しいと。彼にとってアンラッキーな番号だったそうだ
聞き手…キャンプでの江夏を見ての感想は?
ビント…36歳なりの調整じゃないかな。アメリカでもベテラン選手はあんなものだよ
聞き手…育成部長としての見通しを教えて下さい
ビント…ウチは左腕不足だからチャンスはある。大リーグ入りの可能性は70%と言いたい所だが50%くらいかな
聞き手…楽観できる数字ではないですね
ビント…彼に先発は期待しない。1イニングでもワンポイントでもいいんだ。ウチは頼れる左腕を求めている
聞き手…合否はいつ頃に決まりそうですか?
ビント…ロースターを決定する3月30日迄にはハッキリします
聞き手…決定権は誰が持っているのですか?
ビント…ジョージ・バンバーガー監督、ハリー・ダルトンGM、そして私の3人で決めます
聞き手…江夏も日本のファンも吉報を待っています
ビント…感情に流されずビジネスライクに判断します。あくまでもチームの勝利に貢献できる選手を選びます
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