札幌圏の大学写真部が、年を追うごとに、デジタルへと移行を進めていく中、モノクロフィルムに一貫してこだわり続ける藤女子大写真部。同写真部には、他の大学が1~3月に卒業展を開く中、春の展覧会には卒業していく部員たちが出品しないというもうひとつの独特の伝統がある。
それならと、まもなく卒業する2人が、小さなギャラリーで展覧会を開いた。
もちろん全点、銀塩モノクロだ。
この2人による展示は、2013年の「霜月展」と題した展覧会以来という。
藤女子大写真部は、おそろしいくらい昔から変わっていない。筆者が見ているのはこの20年ほどにすぎないが。
その中では、カラーでたくみに人物を撮る部員もいた。しかし、全体としては、札幌や旅先や帰省先の風景をたんたんとスナップする人が、圧倒的に多い。いわゆる「女の子写真」の隆盛とはまったく無関係なところで、どこかさびしげで、アノニマスな風景をとらえてきたのだ。
現像、焼きは昔からうまかった。筆者は10年ほど前、某大学写真部員に助言を求められて、モノクロは藤女子を参考にするといいよ、と答えたことがある。
藤女子大の水準は変わっていないが、ことモノクロフィルムの焼きに関しては他の大学がどんどん落ちる一方なので、藤が抜群にうまく見える結果となっている。
竹中さんは、向かって右側の壁。
この、吸い殻が、いかにも藤女子大らしい。理由はうまく言えないけど、ふつうなら見落としがちなささやかな光景に、黙ってレンズを向ける、そのたたずまいが「らしい」と感じられるのかもしれない。
写真部には少し遅れて入部し、「2年次からは学内にいる時間の9割方を部室で過ごした」というから、その没入ぶりはすごい。
冬の古い公営住宅。線路と、それに平行して走る踏み分け道。引き込み線のディーゼルカー。
どれも、カメラで切り取らなければ、つぎの瞬間には忘れられてしまいそうな、そんな光景。
こちらは、橋本さん。
冬の港。雪の上に集まるカラス、雨の街路、倉庫の壁など、彼女もどこかさびしげな写真が多い。
竹中さんと違うのは人物の写真が何枚かあることだが、被写体になっているのは竹中さんだという。
パーフォレーションなども焼き込んで、フィルムの物質感や存在感を強調している。
そして、筆者が最も胸をつかれたのが、この、シャッターをおろしたカメラ店にレンズを向けた写真だった。
こちらの勝手な思い込みだが、まるでフィルム写真へのレクイエムのように感じられたのだ。
学生がモノクロフィルムを愛用してきたのは、自分で現像やプリントを通して好みの作品に仕上げやすいという面もむろんあったが、何よりもカラーより割安だからであった。
その特質はもはや存在しない。
関連製品は次々と販売が打ち切られ、残った商品もどんどん値上がりしている。いまや、モノクロフィルムで写真を撮って現像、プリントすることは、デジタルカメラに比べてはるかに高くつく行為になってしまったのだ。
最後までモノクロフィルムのとりでを守り続けた藤女子大写真部が、フィルムにさよならを告げている、そんな1枚というのは、勘ぐりすぎだろうか。
卒業した彼女たちが、モノクロフィルムを捨ててデジタルで撮るようになったとしても、筆者は異を唱えるつもりは全くない。札幌では、暗室を借りるのさえ容易ではないのだから、そんなところで銀塩原理主義を振りかざしても意味がないと思うからだ。
ただ、フィルムでつちかった「何か」を、今後の写真生活に生かしていくのだろう。そう、信じている。
2015年2月17日(火)~3月2日(月)午前11時~午後8時(日曜、最終日~5時)、火休み
gallery new star(札幌市中央区南3西7 kamiya-net.com )
藤女子大写真部関連の過去記事へのリンク。2003年以外、画像なし。
■藤女子大学写真部写真展 閃光少女 切り取った一瞬の光 (2014)
【告知】藤女子大学3月展 (2012)
■藤女子大学写真部新人展「写(ショット)☆お嬢さん」(2009年)
■EX 8th From inside to outside (2009年4月)
■藤女子大学写真部写真展 (2009年3月)
■藤女子大写真部 平成不劣酒展(ヘイセイフレッシュテン)=2008年7月
■7th EX Photo Exhibition(2008年4月)
■藤女子大学写真部写真展(2008年3月)
■07年3月の写真展
■06年の写真展
■04年の新人展
■04年の写真展
■03年の写真展