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■木田金次郎ストーリーズ (2024年7月5日~11月4日、岩内)

2024年09月11日 19時19分11秒 | 展覧会の紹介-絵画、版画、イラスト
 道内の個人美術館のはしりである、後志管内岩内町の木田金次郎美術館が、ことしで開館30周年を迎えたそうです。
 個人美術館というと、いつ行っても展示物は同じではないかと思っている人がいるかもしれませんが、木田金次郎美術館は違います。企画展では毎回斬新なテーマと切り口で、画業に新たな角度から光を当てています。
 さらに、開館後も、作品の寄贈や寄託が相次いでいます。筆者もはじめて知ったのですが、開館当初90点だった油彩作品は、現在175点になっているそうです。

 木田は1962年亡くなっていますが、よく知られているように、その8年前の54年の「岩内大火」で所蔵作の大半を焼失しています。
 その後、失意に陥ることなく猛然と絵筆を執りました。ただし、同館も道立近代美術館も、代表作といわれる所蔵作の大半が、大火後の作でした。
 ところが、寄贈や寄託をうけた絵には大火の前のものがたくさんあります。今回、木田の画業をエピソードとともに紹介する展覧会は、前編・後編の2期にわかれていますが、その区切りは岩内大火です。
 正直言って、岩内大火の以前の絵画だけで展覧会をつくれたということだけで、うたた感慨深いです。作品の発見がずいぶんとあったのでしょう。歿後66年。木田の絵も美術館も、まだ生きている。そう言えるような気がします。

 「前編」のエピソードはつぎのとおりでした。

1 有島武郎との出会いと別れ

2 橋浦泰雄との作品交換

3 唯一の“外遊” 満州・朝鮮旅行

4 海への視線

5 帰ってきた1940年代

6 二千六百年の足跡

7 ホリカップ 作品の主舞台

8 縁を結んだ十勝岳

9 木田が描いた肖像画

10 冬の静物たち

11 板に描かれた作品

12 テレビニュースになった新発見

13 点から線へ 1950年代の変化

14 「第一回個展」の成功

15 島本融と北海道銀行カレンダー

 寄贈者の名をみると、たまに「佐野力」氏といった有名人もいますが(日本オラクルの創業者、元CEO)、ほとんどは無名の町民や岩内ゆかりの人のようで、木田と地元とのつながりが見えてくるような気がします。

 「6」の「二千六百年」は、1940年(昭和15年)のこと。
 神武天皇の即位から2600年という触れ込みで盛大な式典が行われました。
 もちろん神武天皇は神話上の存在で、「日本書紀」などに書いてあるとおりに生きていたはずがないのですが、対英米戦争を前に日本が超国家主義の色合いを強めてきた表れなのでしょう。
 もっとも、木田はサインのところに「二千六百年」と記してはいませんが、画題は風景画です。キャプションには「時局におもねることなくこの地で描き続けていったのである」と、誇らしく書いています。
 確かに木田には、戦意高揚の絵は一枚もありません。これは立派なことだと思います。
 どうやって画材を確保していたのでしょうか。

 「10」は、風景画が現地で制作できない冬場は室内で果物などを描いていたという話。
 道展会員だった坪谷六郎は1950~52年、岩内協会病院の耳鼻科医だったそうで、当時は同病院には木田にならって絵を描く人が多くいたそうです。

 「12」は、NHK のローカルニュースに絵の発見が取り上げられた話。
 個人的には、開かずの間が夫人の歿後に開かれて大量の絵が見つかったという北海道新聞の1面記事のほうがすごいと思うのですが(だいたい、絵の発見で新聞の1面に載ることじたいが異例)、道新は同館の冬季間閉館を先んじて報じて、結局、通年開催になったといういきさつがあり、なんとなく取り上げにくいのかもしれません。考えすぎかな。

 ところで、1923年の「ポプラ」などは印象派的な筆致ですが、30年代初めに画業の大きな変化があるのではと感じました。
 35年の波の絵などあたりから、直線が姿を消し、奔放な筆跡が画面を自在に走るようになっているとはいえないでしょうか。木田らしい画風の登場です。


【前編】2024年7月5日(金)~9月4日(水) 【後編】9月7日(土)~11月4日(月)午前10時~午後6時(入館5時半まで)、月曜休み(祝日の場合は開館し翌火曜休み)
木田金次郎美術館(岩内町万代51-3)

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