さて、帯広シリーズが終わり、ようやく札幌への旅について書ける。
ギャラリーまわりで歩く機会が転居とともにめっきり減ったせいか、体力の衰えが著しく、1日をフルに活用できていないのがどうにもくやしい。
ともあれ、最初の目的地は、澄川の紅桜庭園で開かれている「澁谷俊彦 茶室DEアート」展。澁谷さんがこの会場で展覧会を開くのは一昨年につづいて2度目だ。
日本の琴が並ぶようすをイメージして作品を配置したという澁谷さん。
しかも、いわゆるインスタレーションにとどまらず「ひとつひとつでも作品として成り立つ」というのがミソとのこと。
「空間との相性を考えた配色です」
粗い白砂の上に、白く細長い、さまざまな形状をした板が載せられている。
この1、2年ほど集中的に取り組んでいる、板の裏側に蛍光色を塗って、下にある床などにその色を反射させて見せる作品のシリーズだ。
展示する環境によって床は、雪原になったり、今回のような白砂になったりする。
光を用いた現代美術というと、ダン・フレンヴィンやジェイムス・タレルを直ちに想起するところだが、澁谷さんの作品は、フレンヴィンのように光源があるわけではなく、色の反射だけで光の存在を鑑賞者に感知させるところがユニークだ。
上の画像では、板の裏側が緑やピンクに塗られているのが、白砂や、別の板に淡くうつる色でわかるし、下の画像でも、板の裏の色がわかると思う。
さて、廊下の赤い毛氈の上にまっすぐ並んでいるのが、今回初登場の「箱庭」シリーズ。
キノコや盆栽風の作品など、これまで具象的な表現をすることがほとんどなかった澁谷さんとしては、非常にめずらしい系譜の作。
おそらく今回限りになりそうとのこと。
全体を白く塗ることで、描写的になりすぎることを巧妙に回避している。
もっとも、芸術の世界では「盆栽的」とか「盤景みたいだ」というのはたぶん悪口なんだろうけど(盆栽や盤景を造ってる人、ごめんなさい。でも絵画の世界では「デザイン的」「工芸的」というのは悪口ですから)、個人的には、どうして盆栽的とか盤景的なのがダメなんだろうと、そもそものところから考えたくなってくる。「フィギュア的」だっていまや悪口であることが自明ではまったくないわけだし。
それはさておき、プラスティック板を花びらのように切って水に浮かべたこの作品は、ある種、この会場(紅桜庭園)にささげられたオマージュの表明のようにも感じられた。
単純に美しい作品だ。
反射光のシリーズ以前に取り組んでいた半球型の作品が棚に置かれていた。
澁谷さんは、この作品を陶器のように、鑑賞者に手にしてもらい、作品と鑑賞者の距離を縮めたいという考えのようだ。
たしかに陶芸だと「触っちゃだめ」という機制がなくなって、作品が身近に感じられるようになるのかもしれない。
なお、作者のメッセージなどは、この展覧会の予告記事(【予告】澁谷俊彦 茶室DEアート)にも書いてあるので、そちらもぜひごらんください。
というか、筆者が訪れた日は、レクチャーも開催されていてたいへん盛況だったらしいが、澁谷さんによると
「ぼくが昔平面をやっていたことを知らない人もいるんですよ」
とのこと。
せっかくこの10年の歩みを、下にどーっとリンクを貼っているのだから、古いところもクリックしてご覧になってください。澁谷さんだけじゃなくて、ほかの人のときも、よろしくです。
2011年7月16日(土)~18日(月)10~5時
紅桜公園内茶室 寿光庵(札幌市南区澄川)
□澁谷俊彦オフィシャルサイト http://toshihikoshibuya.com/
□Toshihiko Shibuya blog http://blog.toshihikoshibuya.com/
【予告】澁谷俊彦展 -トノサマガエルの雨宿り (2011年5月)
■Snow Scape Moere 6 澁谷俊彦「SNOW PALLET」(2011年2月)
■PLUS ONE THIS PLACE(2010年9月)
■PLUS 1 +柴橋伴夫企画 空間の触知へ-連鎖の試み 藤本和彦 澁谷俊彦(2009年8月)
■澁谷俊彦展-森の雫09- 茶室DEアート (2009年7月)
■澁谷俊彦個展-青い雫09-
■澁谷俊彦展 森の雫(2008年3月) ■つづき
■渋谷俊彦個展(07年11月)
■絵画の場合展(07年1月)
■渋谷俊彦展-瞑想の森-(06年9-10月)
■絵画の場合2005
■絵画の場合2004
■渋谷俊彦展-大地の記憶(04年)
■渋谷俊彦展-森の鼓動(03年)
■渋谷俊彦展(02年)
■二人展「交差する座標軸」(02年、画像なし)
レクチャー、46人ですか。すごいですね。でも、考えてみたら、自分も1996年以前の澁谷さんについてはあんまり知らないわけで、やっぱりレクチャーに潜り込めばよかったかもとも思います。たぶん、モエレがその日の朝からオープンしていれば、参加したんでしょうけど…。
ギャラリー回りにおいても、ブログ執筆・更新においても、昔のようにガンガンというわけにはいかず、ひしひしと老化を感じます。
わが身をいたわりつつがんばります。