アメリカ、ミネアポリスで発生した白人警官による黒人男性の殺害事件ー膝で首を圧迫して窒息死させたーに関連して、イギリス、野党労働党の有力議員で影の内閣の教育相レベッカ・ロング=ベイリーがイギリス人女優のインタビュー記事を称賛(後で、釈明している)しリツイートして大きな波紋を呼び、影の内閣から25日、罷免されるという事件が起きた。
イギリスの有名女優で筋金入りの左翼活動家(若い頃は共産主義組織で、今はフェミニスト、社会主義者として)でもあるマキシン・ピーク(Maxine Peake)がイギリスの新聞インデペンデントのインタビューの中で、白人警官の行った膝による首の押さえつけは、イスラエルの秘密警察のセミナーで教授されたやり方だ、と発言した(インデペンデント紙は、首を膝で押さえつけるというのがイスラエル秘密警察から教授されたというのは根拠がない、と注記している。また、ピーク自身も後でこれが不正確だった、と認めている)。その記事を先の労働党議員がリツイートし、この女優を「ダイヤモンド!」とまで絶賛した。
これに対し、SNSやユダヤ系の団体からは、ピークの発言が「antisemitism 反ユダヤ主義」者による陰謀論だと非難の声が上がった。事態を重く見た労働党党首キア・スターマーは、本人の弁明を聞くまでもなく影の内閣から罷免した。ピークが何故、反ユダヤ主義者のよく使うような陰謀論を安易にインタビューで口走ったのかはわからない。彼女の日頃からの反資本主義、反グローバリズム、反保守党政権の延長線から不用意に出てきたものかもしれないし、あるいは、実は・・・。また、同じくコロナ対策をはじめとして与党保守党攻撃に躍起になっている労働党議員レベッカ・ロング=ベイリーがなぜ内容を確認しないままリツイートしたのだろうか、政治家としてそんな軽はずみな失敗は許されない。実際、労働党内でも、この行動は不適切と言う意見が大勢で、党内左派で普段は彼女を擁護する議員でも、保守党攻撃での勇み足だ、あるいは罷免は過剰反応だ、という程度の同情の声が聞こえるくらいだ。ただ、本人自身もこれからも現在の党首を支えてゆくと言っているから、事態は収束してゆくのだろう。
この、反ユダヤ主義の取り扱いの問題は労働党にとって長年の宿痾だった。特に、前党首だった、ジェレミー・コービンは党内の左派として反資本主義や反グローバリズムをかかげ、そのせいなのか、反ユダヤ主義に対しても曖昧ともいえる言動をくりかえしてきた。そのような下地があったからこそ、ピークの発言も飛び出してきたのだろうし、ロング=ベイリーのリツイートも生まれた。たしかに、反資本主義を強調するあまり、そこに付け込まれるというのも事実である。
イギリスの女優の政治活動は、厳しく非難されることも覚悟したうえでの一貫した信条に裏打ちされたものだ。同時に、反ユダヤ主義に対してあいまいな立場をとることはヨーロッパの政治家には許されない、ということを改めて示すものだと言える。コービン前党首はその点、社会主義的政策をさけぶあまり曖昧になり、それが党内分裂と支持者離れを招いた。これに対して、現在の党首であるキア・スターマーは今回、反ユダヤ主義に毅然とした態度をとったということ、それにピーク自身もこれからもスターマーを支持すると言っていることからも、妥当な判断と迅速な行動をとったことは評価されるだろう。いかに保守党政権の政策を批判しようとも、ナチスによるユダヤ人大虐殺をもたらした反ユダヤ主義には、一切付け入る余地のないことをはっきりと宣言しなければならないという、イギリス政治の現実を見る気がする。
なお、イギリスではコロナウイルスの死者が5万人を超え、世界第三位という悲惨な状況だが、どうしてこういうことになったのか、政府の対応の遅れも含め原因と責任の追及がそろそろ始まりそうだ。
少し靄のかかったイギリス国会議事堂を下に見て
harborsideさんは、英国に特に関心をお持ちなのでしょうか。 それとも、世界政治全般について興味がおありなのでしょうか・・・
シャガールやルノワールを語る記事との落差に単純に驚いております。 愚問お許しください。 無視して下さっても結構です・・・
コメントありがとうございます。
とんでもありません。自分ではどのテーマでも同じようになっているのでは、と思っているのですが・・・
英国には長く住んでいたのでやはり他より関心があるのかもしれません。
そんなブログですが、よろしかったらこれからもお立ち寄りください。