HIBARIピアノ教室レッスン日記♪

ピアノのレッスン日記、その他ヒバリ先生が見聞きした音楽関係・芸術関係etcの日記。

チェルニーで 複数パートを弾き分ける。

2017年03月05日 | 音符・楽譜・テクニック
Tさん(大人):
テクニック練習のため「チェルニー30番」をやっていて、本日は7番です。
右手は弾むようなスタッカートのメロディ、そして左手は いわゆる「アルベルディ・バス(ドソミソ ドソミソという音型)」の速いテンポで 同時に「フィンガーペダル」併用、というスタイルの伴奏です。
「フィンガーペダル」は、ドソミソの最初の音を保持する弾き方ですが、このことによってバスの音に旋律が生まれ、結果 1.右手のメロディー 2.左手上部の小刻みな伴奏3.左手低音によるバス の3つのパートが成立します。
この3つのパートをそれぞれ独立したものとして聞き分け かつ弾き分けると、曲が奥行のあるものになります。

Tさんは熱心によく練習していて、右手・左手それぞれの役割や音量の配分、タッチなども理解しているのですが、右手と左手を別々に弾くとできることでも、両手を合わせると難しくなってしまいます。
Tさんによると「右手と左手が真逆のことをやらないといけないので、全部のパートに気を配って弾くのが困難です。右手と左手を別々に操れない」ということのようです。

克服する方法としては、まずはそれぞれのパートを別々に、ゆっくりのテンポで納得いくまで練習します。
そして、自分で「これなら」というぐらいに弾けている それぞれのパートを録音して聞いてみましょう。
次には、2つまたは3つ(全部ですね)のパートを組み合わせて同時に弾いてみます。
これも録音してみましょう。
1パートごとに単独で弾いたときと、同じに弾けているでしょうか?
どこかのパートだけ、音が必要以上に強く出ているかもしれません。
どこかのパートのフレージングや アタック・リリースが 単独で弾いた時のようにできずおざなりになっているかもしれません。
目の前の楽譜を間違えないように弾くことに夢中になってしまうと、自分の弾いている音が聞こえなくなってしまうものですが、今は 簡単に録音や録画する方法があるのですから、それらをうまく利用しましょう。
また、曲の全部 あるいは半分まで とか弾くのは大変なら、1フレーズずつ、丁寧に練習してみましょう。
そして、出来たフレーズ、出来たフレーズをひとつひとつ、つないでいくのです。
いろんな工夫、いろんな方法を組み合わせて、納得のいく音が弾けるように練習しましょう。

Tさんのお好みは、オーケストラ音楽のようなスケールの大きい、奥行きのあるハーモニーを持った曲だそうです。時代で言えば ロマン派とか近代音楽でしょうか。
そういう音楽を弾くためには、2本の手・10本の指だけで複数のパートを弾き分けるテクニックが必須です。
オーケストラなんて20パートとかあるんだから、まずはチェルニーの3パート、なんとかマスターしようよね!

題名のない音楽会・「楽譜にあるものだけを演奏しないでください」

2017年03月05日 | TV・映画・ステージなど
上記タイトルは、実は番組の最後に表示された「今日の格言」なんです。
本日の番組タイトルは「歴代の指揮者を語る音楽家たち」で、今、日本で活躍中の三人の指揮者の方の出演により、指揮者としての苦労や 歴代の有名指揮者について語ってもらうという内容でした。
いろいろ興味深いお話を聞けましたが、その中で私が特に興味を引かれたのは、本題ではなくほぼ雑談と言える中での一コマでした。
出演者の一人・指揮者の藤岡幸夫さんがたまたま言っていたこと・・・
それはベートーヴェンの「第九」の楽譜のことです。
「第九」のオーケストラスコア(オーケストラ全体の楽譜)、第1楽章の中で、どうしても腑に落ちない部分がある、というのです。
トランペットとティンパニのリズムが揃っていない。
前後の他の小節は、すべてトランペットとティンパニが同じリズムで演奏するようになっているのに、この1小節だけが違う。どうにも納得がいかないので、楽譜を無視してティンパニにそろえて演奏しているが、たまにトランペットのリズムを楽譜通りに演奏しているのも聴いたりするので、どうするのが正しいのか・・・といったようなお話です。
私はさっそく、手持ちの「第九」スコアを出して来て、問題の箇所を見てみました。
ココです。

なるほど、トランペット(上段)とティンパニ(下段)のリズムが違っています。

ベートーヴェンの「第九」スコアに関しては、以前に岩城宏之氏(日本の指揮者・1932~2006)の著書でも同じような「?」の指摘があったのを思い出し、同じ箇所のことだったかな!と思って 岩城氏の著書「楽譜の風景」を調べてみました。
すると、同じ「第九」ですが、岩城氏の指摘箇所は別のところでした。
「第4楽章の330小節、オーケストラ全員がフォルティシモで盛り上げているときに、ティンパニだけがディミニュエンド→ ピアノになっている謎」。
スコアを見てみると、確かに。

岩城氏の著書では、どうにも腑に落ちないので東ベルリンの国立図書館に行き、ベートーヴェンの手書き原稿の写真版を出してもらい、よーく調べたところ、問題の箇所にディミニュエンドやピアノは書き込まれていなかった。次に、初めて発行された楽譜を見たところ、そこにはディミニュエンド・ピアノが印刷されていた、というのです。
岩城氏の推察では、写真で見てもベートーヴェンの手書き原稿は記号などがなかなか判読できないくらい乱暴なナグり書きなので、最初に楽譜を発行した出版社が間違って写譜し印刷したのだろう、そしてそれが200年以上たった現代でもそのまま引き継がれているのだろう、ということでした。
岩城氏は、それ以前にもシューベルトの「未完成交響曲」のスコアで アクセント記号>とディミニュエンド記号の写譜間違いを解明しています。

岩城氏の指摘、私も多分そうに違いないと思うのです。
昔は、楽譜の伝達はすべて写譜屋による手書きがすべてだったので、見間違いや写し間違いが、そのまま伝えられていったというのは大いにあり得ることです。
それに何しろ、ベートーヴェンの手書きがキタナいというのは定評のあることです。
有名な「エリーゼのために」のエリーゼだって、ベートーヴェンのキタナい文字から判読して「多分こうだろう」と思われてるだけで、実はエリーゼじゃなくテレーゼだった、とか、エリザベートというソプラノ歌手だった、とかいろんな説があるんですから。
「エリーゼ」も「第九」も、ベートーヴェンさんさえきちんときれいに書いておいてくれたら、今になって私たちが混乱しないですんだのに。

だから、本日の日記のタイトルは、本日番組の「タイトル」じゃなく「格言」の「楽譜にあるものだけを演奏しないでください」としました。
前出の岩城氏も 著書の中でこう言っています。
「将来自分が大作曲家になるという確信を持つ人は、後世の人間を悩ませないために、誤解のないよう、きちっときれいに書いて欲しいものだ」って。