〈日本鬼子(日本人の蔑称)!〉
〈バカ!〉
〈カク、メイワクだ〉
福島県内の飲食店などには、中国の国番号「86」で始まる抗議電話が殺到している。東京電力の複数の店舗にも6000件以上の電話が。8月24日に福島第一原発で始まった、処理水海洋放出に反対する内容だという。
中国国内のSNSにも、〈汚染水は日本人が飲み干せ〉〈人類の宝である海を汚すつもりか〉などと日本政府や東電の対応を批判する多数の書き込みが。一方で米国系『ラジオ・フリー・アジア』は、〈(処理水放出は)安全だ〉とする専門家の投稿はスグに削除されたと報じている。
「中国の反発は抗議電話やネット投稿だけではありません。東部・山東省青島の日本人学校では石が、同じく東部・江蘇省蘇州の日本人学校には卵が投げ込まれたそうです。日本政府は注意喚起を促していますが、バッシングは止みそうにない。中国政府は、日本からの水産物輸入を全面的に停止するなど反発を強めているんです」(全国紙北京駐在記者)
飲料水基準の7分の1
処理水放出は、国際原子力機関(IAEA)の協力のもと行われた。日本政府や東電の説明によると、原発敷地内のタンクに溜まった処理水は安全なレベルだという。
「事故を起こした原子炉建屋内の核燃料に、かけ続けられた水が汚染水です。そこから多核種除去設備などにより、多くの放射性物質の濃度を国の基準値以下にまで下げたのが処理水になります。
現在、その量は約134万トンでタンク1000基分ほどになる。しかし放射性物質トリチウムは、設備の除去性能などから取り除けません。そのため処理水を海水で薄め、海洋に放出しようという考えのもとに行われたのが今回の決定です」(全国紙経済部記者)
政府によると、年間処分量に含まれるトリチウムは事故前の目標値と同じ22兆ベクレル未満とされる。これが実現できるなら、世界保健機関(WHO)の飲料水基準の7分の1まで濃度を薄めることになる。だが中国の多くの人々は納得しないようだ。
「処理水を海洋放出しているのは、日本だけではありません。抗議を続ける中国も実行しています。しかも放出量のトリチウム濃度は日本よりずっと高いんです」(同前)
経済産業省の資料などによると、中国の原発の年間汚染度は次のようになる。単純比較はできないものの、福島第一原発よりはるかに高い数値であることがわかるだろう。
・泰山第三原発:143兆ベクレル(日本の6.5倍、’20年)
・陽江原発:112兆ベクレル(同5倍超、’21年)
・紅沿河原発:90兆ベクレル(同4倍超、’21年)……etc.
日本への批判を強める人々は、こうした現実を知っているのか知らされていないのか。日本産海産物の汚染を心配する前に、国内問題にも関心を持つべきかもしれない。