安全問題研究会(旧・人生チャレンジ20000km)~鉄道を中心とした公共交通を通じて社会を考える~

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国は今こそ貨物列車迂回対策を!

「放射能不感症」の医師に危険性を分からせるには~東京でヘレン・カルディコット医師講演会

2012-11-19 22:12:04 | 原発問題/一般
(この記事は、当ブログ管理人が「子どもたちを放射能から守る福島ネットワーク」会報「たんがら」向けに執筆した原稿をそのまま掲載しています。なお、「たんがら」とは福島の方言で「野菜を入れて背負う大きなかご」の意味です。)

 11月18日、東京都内でヘレン・カルディコット医師講演会(主催・みんなのカルテ/共催・放射能防御プロジェクト)が開かれ、約200人収容できる会場は満員の参加者で埋まった。

 ヘレン医師はオーストラリア出身。ノーベル平和賞を受賞したIPPNW(核戦争防止医師会議)の上部組織、PSR(社会的責任を果たす医師団)の創立会長。「狂気の核武装大国アメリカ」「原子力は温暖化への回答ではない」などの著書がある。

 ヘレン医師は、「英国でも汚染のため閉鎖される農場が出た。ドイツではイノシシの汚染が深刻になった」とチェルノブイリ原発事故当時のヨーロッパの汚染状況を報告。「チェルノブイリには脳の小さな子どもたちが多い」と、放射能が子どもたちに与える影響を具体的に指摘した。

日本でこれから市民を被曝から守るために何をすべきか、との会場からの問いに対しては、(1)土壌・水・食品の十分な測定(特に飲料水は毎日測定し、太平洋側で捕れた魚もすべて測定すること)、(2)汚染食品の流通禁止、(3)ゴミ・がれき焼却の禁止、(4)汚染地からの避難――が重要、とした。

 講演会の後半は、放射能問題に向き合おうとしない医師やメディアとどう対抗すべきかをヘレン医師と参加者が議論した。首都圏の開業医は「日本の専門家はよく訓練されているが同時によく組織化されている。組織化されすぎてひとりひとりが自由に考え発言・行動できないことが問題だ」と、医師会が医療従事者に対する抑圧機構となっている現状を報告。埼玉県の別の開業医は、フェイスブックに放射能による健康被害の可能性がある症例を書き込んだところ「世間の不安を煽るな」と福島県いわき市の医師から猛烈な抗議を受けたという。

 福島県内の医療従事者のこうした「隠ぺい、もみ消し加担」の動きに対し、ヘレン医師は「大変憂慮すべき事態。私に日本医師会で講演する機会を与えてください」と応じた。

 メディアが放射能問題を一切取り上げない現状に対しては、「医療従事者が数十人単位でまとまって行動し、社会の注目を集めることが必要だ。金曜日の官邸前行動で医療従事者が「白衣デモ」をしてはどうか。白衣で官邸前を占拠すればいい」といった具体的な行動提案が行われた。

 ヘレン医師は、みずからが身を投じてきた反核運動の経験から「レーガン米大統領に会って反核を訴えたら、その後、レーガンとゴルバチョフ・ソ連共産党書記長との会談で核軍縮が実現した。1人の医師にもできることがある」と参加者に行動するよう訴えた。

 ヘレン医師の夫はカメラマンとして、旧ソ連(現カザフスタン)にあるセミパラチンスク核実験場の取材を重ねてきた。そこで彼が聞いた話は衝撃的だ。「私の国では、子どもが生まれてもおめでとうといえない。なぜなら、赤ん坊が人間の形で生まれてきたことがないからだ」。

 究極の大量殺戮兵器である核。原発はその「転用」として生まれてきた。こうした原発の生い立ちを知れば、「平和利用」など絵空事に過ぎないと理解できる。反核運動に身を投じてきたヘレン医師の発言には重みがある。反核運動と反原発運動を今まで以上に結びつけていく必要性を改めて強く感じた。

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わたしたちはなぜ告訴をしたのか~法と正義を取り戻す

2012-11-19 19:16:53 | 原発問題/福島原発事故刑事訴訟
(当エントリは、当ブログ管理人が季刊誌「消費者法ニュース」第93号(2012年10月号)に発表した原稿をそのまま掲載しています。)

 7人の死者を出したツアーバス会社「陸援隊」の社長は逮捕、強制捜査を受けた。粉飾決算をしていたオリンパスでも会長、社長らが逮捕され、粉飾に手を染めていた経営者らは追放された。しかし、あれだけのおびただしい被害を出しながら、原発事故では誰ひとり処罰どころか捜査すら始まる気配がない。東京電力経営陣は誰も責任を問われず、役員ポストをたらい回しにしながらふんぞり返っている。

 こんなあからさまな不正義、不条理が目の前で起こっていながらなんの手も打たれない日本は本当に法治国家なのか。この状態をそのままにしていては日本社会は崩壊する。当たり前の正義が通る社会にしたい――そんな思いから、2012年3月、福島原発告訴団は産声を上げた。

 告訴団の目的は、原発事故による被曝を傷害罪と捉え、原発事故の直接的原因を作った加害者33人(東京電力15人、原子力安全委員会など政府関係者15人、御用学者3人)を業務上過失致傷罪などに問うことである。告訴団は、わずか3ヶ月で1324人もの告訴人を集めた。みずからも被曝しながら業務に当たらざるを得ない福島の捜査機関ならこの告訴を黙殺はできないだろうとの思いから、告訴先に福島地検を選び、6月11日に告訴状を提出していた。

 ●受理は運動の力

 8月1日、告訴を正式に受理するとの連絡が検察からあった。折しも、将来のエネルギー比率に関し、政府が福島で開催している公聴会の最中だった。ジャーナリスト・広瀬隆さんらが東京地検に対して行った告訴、金沢市の市民団体が金沢地検に行っていた告訴もこの日に合わせて正式受理された。

 告訴受理を受けて記者会見した福島原発告訴団の武藤類子団長は「告訴した人々の声が届いた。多くの県民は怒っているし、無責任さに憤っていることが受理につながったのではないか」と述べ、受理を評価しながらも、これは闘いの第一歩に過ぎないとの認識を示した。

 検察は「政府や国会の事故調査委員会が報告を終えるまで待って告訴を受理した」と説明しているが、2005年のJR尼崎脱線事故のように、捜査当局が事故調と無関係に先行捜査した例もあるのだからこうした説明は説得力を持たない。告訴をたなざらしにして嵐の過ぎ去るのを待つつもりだった検察が、高まる世論の前に受理せざるを得なくなったというのが実情だ。

 広瀬さんらによる告訴はすでに1年以上も放置されており、福島原発告訴団の運動がなければ受理はあり得なかった。福島県民の怒りをひとつにとりまとめ、わずか半年足らずで告訴から受理まで動かしたのは告訴団運動の成果である。

 ●法治国家を取り戻す

 今後は東京・福島の両地検を中心に捜査が行われる予定だが、その行方は予断を許さない。

大手メディアは「立件には困難が予想される」(8/1付け読売)、「起訴は極めて厳しいとの意見が大勢」(8/1付け毎日)などと、原子力ムラに「被害」が及ばないよう必死で予防線を張っている。確かにそういう面があるのは事実だが、告訴団は初めからそれも理解した上で告訴に踏み切った。その背景には、電力会社が一切、法の支配に服さず、事実上の無法状態となっていることに対する深い怒りと悲しみがある。

 「この国に生きるひとりひとりが大切にされず、だれかの犠牲を強いる社会を問うこと」(告訴宣言)とあるように、告訴団の闘いは、彼らの行為のどこに現行のどんな法律が適用できるかを追求するための単なるパズルではない。その先には、電力会社を縛る一切の法律を作ってこなかった日本政府の立法不作為を含め、政治的・道義的に彼らのあらゆる責任を問おうという積極的な問題意識も含んでいる。

 最近、インターネットを中心に私刑制裁容認の世論が高まりつつある。いじめを隠ぺいしようとした大津市教育委員会などへの「ネット制裁」は危険な兆候の現れだ。その背景には、原発事故などの企業犯罪で、処罰されるべき者が処罰されないのはおかしいという素朴な市民感情がある。政府が犯罪者を罰しないなら自分が罰してやる、といういわば「報復」である。

 近代以降の法治国家は、政府が私人から制裁権を取り上げる代わりに、罪を犯した者への処罰を公的機関が一元的に行うことで成立してきた。福島原発事故のように東電・政府らが全国民の前で明らかな犯罪を実行したにもかかわらず、その法的責任が問われず野放しにされれば、法治主義の土台は根底から崩れ去る。告訴団運動は、本来あるべき法治国家の原則を市民の運動の力で取り戻す闘いでもある。

 ●世論の力で

 告訴団運動は、原子力ムラに脅威を与えるとともに市民に大きな反響を呼んでいる。カンパは毎日途切れることなく続き、東電退職者からも寄せられた。カンパの振り込み用紙には、福島への連帯や東電への怒りのメッセージがびっしりと書き込まれている。現在、告訴人を福島県民から全国に広げた第二次告訴に向け準備が進められているが、1日も早く告訴したいとの声が全国各地から寄せられている。

 政府・原子力ムラは、検察に圧力をかけ、証拠を隠ぺいし、不起訴に持ち込もうとあらゆる画策をするだろう。しかし、国策企業による犯罪という意味で原発事故に酷似しているJR尼崎脱線事故では、被害者の粘り強い闘いと世論の力が検察審査会による2度の起訴議決(強制起訴)という画期的成果を引き出した。今年7月から始まった公判には、「天皇」とまで呼ばれた井手正敬・JR西日本元社長らが被告人として出廷している。尼崎脱線事故被害者のように闘えば、彼らを法廷に引きずり出すことができる。

 尼崎脱線事故をめぐる山崎正夫・元JR西日本社長の裁判では、被害者参加制度を利用して、被害者が直接JR関係者への尋問を行った。原発事故を巡る裁判でも被害者の尋問によって真相究明が期待できるが、そのためにはまず起訴が必要だ。

 告訴団を前進させるにはいっそうの世論の盛り上がりが必要だ。適切な捜査、起訴を求める声が集まれば、検察はそれを無視できなくなる。全国各地から検察に対して声を上げ、起訴を実現させることが今後の課題である。

●求められる法人犯罪処罰の特別法

 2012年1月、JR西日本・山崎元社長に無罪判決が出され、検察が控訴を断念し無罪が確定した。山崎元社長の裁判を傍聴した被害者のうち8割以上が法人にも刑事罰を科せるような法改正を望んでいる(2012/1/8付け「毎日」)にもかかわらず、個人には権限がなく、法人は責任主体になれない現代社会では、企業犯罪が起きても結局、誰も罪に問われない。

 イギリスでは、英国産業連盟(経営者団体。イギリス版経団連)の強い抵抗を退け、2007年、労働党政権が「法人故殺法」を成立させた。法人による犯罪で人が死亡した場合、裁判所が加害法人に被害者救済を命じ、従わなかった場合には「上限のない罰金」が課せられる。

 イギリス法人故殺法は制定から5年しか経っておらず、めざましい効果を上げている事例はまだないものの、イギリス政府によれば、企業犯罪による損失は「社会全体で200~318億ポンド(約4兆7930億~7兆6208億円)に及ぶ」とされる。法人故殺法制定でこれらの事故を0.1%削減するだけでその社会的損失を埋めることができるとの試算もある。日本でもイギリス法人故殺法のような、法人犯罪処罰のための特別法制定を真剣に考える時期に来たと思う。

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