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小泉元首相の「脱原発発言」をどう読むか

2013-10-06 22:02:05 | 原発問題/一般
その記事が出るまで、私は、小泉元首相が脱原発を発信している事実さえ知らなかった。他の多くの市民もそうではないか。しかし、8月26日、山田孝男・毎日新聞編集委員が担当するコラム「風知草」でそのことが報じられて以降、潮目が変わりつつあるように思う。

世界で唯一の高レベル放射性廃棄物処理場と言われるフィンランドのオンカロ。その視察を終えて帰国した小泉元首相が、このような発言を繰り返している、というのだ。

 「いま、オレが現役に戻って、態度未定の国会議員を説得するとしてね、『原発は必要』という線でまとめる自信はない。今回いろいろ見て、『原発ゼロ』という方向なら説得できると思ったな」

 「10万年だよ。300年後に考える(見直す)っていうんだけど、みんな死んでるよ。日本の場合、そもそも捨て場所がない。原発ゼロしかないよ」「今ゼロという方針を打ち出さないと将来ゼロにするのは難しいんだよ。野党はみんな原発ゼロに賛成だ。総理が決断すりゃできる」

小泉政権下での格差社会の拡大や郵政民営化に恨みを持つ人は今も多い。私ももちろんそのひとりだ。貧困で年が越せなくなった派遣労働者を市民団体が炊き出しで救済した2008年暮れの「年越し派遣村」の衝撃は今も脳裏に焼き付いている。小泉政権下での規制緩和(派遣労働の原則自由化など)がこうした事態を招いたことを私は忘れていないし、許しもしない。しかし、だからといって、小泉元首相の一連の発言を「格差社会を招いた戦犯の戯言だから放っておけばよい」と見過ごしていいのだろうか。

小泉元首相は正直だ。メディアの取材に答えながら「3.11まで私は原発を推進していた。3.11で考えを変えたのだ」と語っている。首相在任中も「米百俵で痛みに耐え、構造改革を」と、小泉改革に痛みが伴うことを否定しなかった(だからこそ当時、自民党に投票し、後から「騙された」などと言っている人に当ブログは全く同情しない。この場合、騙される有権者にも問題があるからだ)。

みずからの原発推進の過去を問われ、あれこれと言い訳を繰り返す人々に比べれば、自分が過去、原発を推進していたことを認めた上で、考えを変えた、と表明する小泉元首相の姿勢には、ある種の潔さすら感じる。昔からいうではないか。過ちては改むるに憚ることなかれ、と。

政治的評価とは全く別だが、性格的には表裏のない小泉氏だけに、発言は本気だと当ブログは考える。しかも、原発推進から反対へ、考えを変える過程がいかにもこの人らしい。反原発運動がしきりに問題にしている放射能汚染や、被曝の危険や、健康被害などではなく、「廃棄物処理にいくらコストがかかるかわからないし、できない」が反対理由になっているからだ。費用対効果から検証していく新自由主義者らしい発想。このあたりは「みんなの党」の脱原発に考えが近いかもしれない。

ただ、小泉氏の名誉のために言っておくと、高レベル放射性廃棄物の最終処分に、日本で全くめどが立っていないことは事実である。六ヶ所村の再処理施設は当初の計画が10回以上延期され、いまだ見通しは全くない。日本の原発はどこも使用済み核燃料でいっぱいになりつつあり、3.11がなかったとしても、あと5~10年で原発が全停止に追い込まれるのは確実の情勢だったのだ。

政治闘争に勝つために、敵の最も弱いアキレス腱を集中して、徹底的に攻める。小泉氏らしいやり方だ。原子力ムラは平静を装ってはいるが、かつては権力の中枢に位置し、引退してなお政治的影響力の大きな人物が最大の弱点を攻め立ててくるのだから、穏やかでないだろう。

小泉政権時代、イラク戦争に反対し、外交官を追われた天木直人・元駐レバノン大使が「正しい政策の決定は権力者の内部からそれを主張する者が出て来てはじめて国民的支持を得た政策になる」と主張している(参考記事)が、これはある程度正しいと思う。実際、原発誘致の話が持ち上がりながら阻止できた地域は、例外なく保守系の地域有力者を巻き込んだ闘いがあった。地方議会でも、市民の脱原発の請願や陳情が可決・採択されるところではほとんど保守系議員の賛成を得ている。日本では保守系が多数派なのだから、彼らの支持を得なければ結果を得ることはできない。

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福島に住んでいた今年3月まで、当ブログ管理人は「福島の現状を話して欲しい」などと言われ、市民団体の招きで各地に講演(というほど大げさなものではないが)に行くことがあった。今年3月、関西での講演だっただろうか。一通りの話を終えた後、質疑応答の時間になり、私は、会場の人とのあいだでこんなやりとりをした。

質問者「今年夏に参院選があると思いますが、脱原発派を国会で多数にするためにはどうしたらいいと思いますか」

私「市民運動のやり方とかであればアドバイスできるのですが、政治だけはつける薬がないですね。というより、そんな方法があるならこっちが聞きたいですよ」

質問者「答えにくかったようなので質問の仕方を変えます。…野党を結集して多数派を作り脱原発を実現するのと、原発推進政党の自民党を変えることにより脱原発を実現するのでは、どちらが可能性が高いと思いますか」

いくぶん答えやすくなった。私はとっさにこう答えた。

「どちらも大変困難と思いますが、あえてどちらか選べ、といわれれば、自民党を変えることにより脱原発を実現するほうが、日本では可能性が高いと考えます。目指す方向は同じなのに、細かな違いにばかりこだわり、分裂に分裂を重ねてきた日本の野党の歴史を見ると、彼らが結集できる可能性は限りなく低いので、自民党を変える以外に方法がないのです。脱原発から最も遠い位置にあると思われていた保守政党が、実利的判断から脱原発を決断する、いわばドイツのメルケル政権型とでもいうのでしょうか。唯一の可能性があるのはそこだと思います」

そのときの私に勝算があったわけではない。ただ何となく、野党に賭ける気にならなかったからそう答えたに過ぎない。自民党は(最近は怪しくなったが)きわめて統治能力に優れた政党で、結党以来、半世紀以上にわたって政権を維持してきた。少なくとも戦後では最も有能であり、優れた「政党制の類型化」に成功したイタリアの政治学者、ジョヴァンニ・サルトーリが「一党優位政党制」の代表例に、インドの国民会議派政権と並んで日本の自民党政権を挙げたほどだ。世界的にも類例のない長期政権を築いた自民党は、その時々の政治情勢に応じて、プラグマティックに政策を修正したり、変更したりする大胆な決断を、戦後政治の中で何度か下してきた。そうしたダイナミズムが、この危機的局面で発揮される可能性は大きくないものの、決してゼロではないように思われるからである。

一党優位政党制が続き、実質的に野党不在の日本で、自民党の中に脱原発勢力を育て、大きくしていくことがいかに大切かは言うまでもないだろう。その際、小泉元首相のような影響力のある人物が決定的役割を果たすことがある。政治的に成長した市民が声を上げ行動しながら、歴史の中で知恵を蓄えた保守政党との共同の中で脱原発を選択していく。そんな未来があってもいいし、実質的に野党不在の日本では、それ以外の道はあり得ないように思われる。

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